21世紀の病気治療法:《音薬療法》

 近年、代替医療に注目が集まっている。「代替」とは、何かに代わるもの。つまり、明治以来主役を務めてきた西洋医学に代わる方法である。確かに天然痘の根絶など、感染症を中心に西洋医学は目覚ましい成果を挙げてきた。その一方で、がん、糖尿病、高血圧など、原因を特定しにくい生活習慣病に対しては、なかなか思うような成果を出せないのが現状だからである。

 より効果的な治療法を探究することは大切である。しかし忘れられがちな重要なことがある。最終的に病気が治るのは、自己治癒力によるということ。そこで身体との対話を通じて自己治癒力を引き出そう、というのが《タンパク質の音楽》を利用した病気治療法である。私はこの方法を《音薬療法》と呼んでいる。自分の身体との対話ゆえ、患者自身の能動的な関与がないとこの方法は成り立たない。

 簡単に原理を説明しよう。

 体内でタンパク質が合成されるとき、タンパク質ごとに固有の音楽が奏でられる。この発見から生まれたのが《タンパク質の音楽》である。病気は、多数のタンパク質が織りなす調和の取れた「体内交響曲」の乱れから生じる。《音薬療法》では、一種の「共鳴現象」を利用して正しい演奏に戻すことを試みる。共鳴は、音叉の実験でお馴染みだろう。同じ音叉を2つ並べて一方を鳴らすと、手を触れないのにもう一方も鳴り出す現象である。つまり《タンパク質の音楽》を聴くことで、体内の対応するタンパク質との間に共鳴現象を起こさせ、そのタンパク質の合成を制御する。例えばヘモグロビンの合成を促進する曲で貧血を解決する。がん細胞やカゼのウイルスの増殖を抑制することで、治癒への道筋をつける。

 《タンパク質の音楽》との共鳴が体内で起こると、特別な感覚が生じるのがわかる。

 「この音楽は、『私はあなたに効くのよ。私はあなたに効くのよ』と言っているような感じがしました」

 「ひどく不安になるたびに、床に大の字になってその音楽を聴きました。瞬間的に体中の筋肉が緩むのがわかり、胸の内側とお腹の中に熱い流れのようなものを感じました」

 「抗血液凝固薬を飲むように言われた時刻に抗トロンビンIIIの曲を聴いたところ、天国の調べに聞こえました」

 「すぐに、とても気持ちのよい爽やかな感じがしました。そして、数分後には頭痛が消えました」

 人により、曲により、感想はさまざま。だが、適切な《タンパク質の音楽》に対しては、必ず心地よさが感じられる。そして患部にただちに反応が現われることもある。

 ではどうやって自分に合った《タンパク質の音楽》を見つけたらよいのだろうか。

 その方法が「聴取テスト」である。症状を手がかりに選択した複数の曲を患者に順番に聞かせ、どれがいいかを選んでもらうのである。そのときの判断基準は、「良薬、耳に心地よし」。何も感じなかったり、イヤな感じがしたりするのであれば、その人にとってその時点で不要なメロディ。心地よく感じられるものが、必要なメロディである。例えば診断は同じ乳がんでも、選択される曲は人によって異なることがよくある。

 患者は、聴取テストを通じて自ら選び出した「私の」曲を、身体と対話しながら聴く。そのとき、聴く時間も自分で決めねばならない。必要なメロディでも、聴きすぎると副作用が現われるからである。これぞテイラーメイドの医療である。

 このやり方からわかるように、主役は患者である。医療者はあくまでも患者のサポート役に徹する。逆に言うならば、患者の側に責任が生じることにもなる。どのメロディが心地よいか、そしてどれくらいの時間聴くかは、本人でないとわからないのだから。

 病気へのまったく新しいアプローチである《音薬療法》。さらに研究が進むことで、代替療法ではなく、21世紀の重要な療法として認められる大きな可能性を秘めていると確信している。