ラジオを聞くウシには何が起こる?

─ 好きなモーツァルトで“よいお仕事”ができる理由 ─

 ウシの乳を搾るときにモーツァルトを聞かせると乳がよく出る、と昔から言われています。実際、イギリスの古い風俗画に、ラジオをそばに置いて乳搾りをしている光景が描かれているものがあります。音楽や人の声が乳量を増加させるということが経験的に知られていたからでしょう。とはいえ科学界は、まだそのような関係を正式に認めるには至っていません。

 しかしステルンナイメール博士は、「タンパク質の音楽の観点からすると、モーツァルトの音楽とミルクの品質は関係がある」と言います。モーツァルトの音楽の特徴が、乳を出すのに重要な役割を果たすタンパク質であるプロラクチン(乳腺刺激ホルモン)のメロディに見られるのです。
 ある音楽研究者は、「プロラクチンにはモーツァルトの曲とよく似た部分が何箇所かあるが、例えば掲載した楽譜の最後の8つの音符の部分がまさにその箇所だ」と指摘しています。また、ここに掲載した部分の楽譜に、モーツァルトがザルツブルクにいた最初期の作品に通じる手法を見いだしているピアニストもいます。

プロラクチンで、おいしいミルクを出すのが楽ちんに!

 ステルンナイメール博士は、自分の理論を実証するため、フランス中西部のシャラント県で実験を行いました。雌ウシにタンパク質の音楽を聞かせた場合と聞かせない場合で、ミルクがどう違ってくるかを調べようというのです。
 乳搾りのとき、プロラクチンに加え、ラクトグロブリンとラクトアルブミンの音楽も聞かせました。すると音楽を聞かせる前と比べて乳清がほぼ3分の1になり、したがってタンパク質がより多い高品質のミルクが得られたのです。試食者によると、このミルクで作ったチーズも格別の味だったとか。そこでこのチーズをパリで販売したところ、実験をしていた2週間というもの、売り上げが普段の6倍にもなったそうです。
 “音楽パン”があり、音楽でおいしいチーズができたとなれば、次はいよいよワインの番!
 それはさておき、雌ウシにタンパク質の音楽を聞かせるときには十分な注意が必要です。音楽でプロラクチンを刺激し過ぎると、乳腺炎を起こしやすくなるのです。“音薬”は、必要なときに適量を守って使用するのが肝心であることをお忘れなく。ですから読者の皆さんも、掲載した楽譜はウシのものとはいえ、不用意に演奏なさらないようお願いいたします。

狂牛病は、タンパク質の音楽で救えるかもしれない!

 ウシの病気といえば、最近話題になった狂牛病があります。これは、正式にはウシ海綿状脳症といって、ウシの脳がスポンジ状になってやがて死に至る恐ろしい病気です。1986年、イギリスで最初に発見されました。人間にも似たような病気があり、クロイツフェルト・ヤコブ病と呼ばれています。いずれの病気も、ウイルスでも細菌でもないプリオンというタンパク質が原因となって起こるのではないかと言われています。
 このプリオンは、どんなメロディになっているのでしょうか。ステルンナイメール博士の話に再び耳を傾けてみましょう。「1950年代頃から、乳搾りのときにはモーツァルトの音楽がよいということが新聞などに出るようになった。そのため特にイギリスにおいて、牛小屋でラジオを昼中つけっ放しにするようになった。ラジオからはモーツァルトだけが流れてくるわけではないのだが。
 ところで、数年来よく耳にする音楽の中に、“トランス”と呼ばれてプリオンの繰り返し部分のリズムを含んでいるものがあるが、そのような音楽は、プリオンの合成を盛んにする可能性がある。牛小屋でつけっ放しにされているラジオでウシがそれを聞いて悪い影響を受けた、ということがあっても不思議はない。不快な音楽が聞こえてくれば、われわれ人間ならラジオを切るなり別のところへ消えるなりできるから害を受けることはないが、ウシは不快に感じてもそんなことはできないのだから。」
 そこで博士は、タンパク質の音楽を応用した狂牛病対策として、ラジオを通じてプリオンを抑制する音楽を流し、ウシに聞かせてみる価値があるのではないか、と提案しているのです。