ミクロの国から“シャル・ウイ・ワルツ?”

─ タンパク質の連携プレイが生んだ『美しく青きドナウ』 ─

 時は1866年。日本では江戸時代が終わりに近づき、明治維新も目前という時期。この年、中部ヨーロッパでは、プロイセン=オーストリア戦争が起こり、オーストリア帝国が負けました。首都のウィーンには負傷兵が溢れ、意気消沈するオーストリア国民。
 ちょうどそのころ、ヨハン・シュトラウス2世は、合唱用のワルツを作るよう頼まれていたのです。愛国心が強い彼は、敗戦に打ちひしがれている国民を慰め、そして元気づける曲を作ろうと考えたに違いありません。国破れて山河あり。年が明け、『美しく青きドナウ』の誕生です。

身体が自然に踊り出す、これぞ究極のワルツ!

 さて、この有名なワルツのメロディをタンパク質の音楽の観点から分析したステルンナイメール博士は、次のように語っています。「ワルツを踊るには、体の滑らかな動きが重要だ。つまり、筋肉のリラックスと緊張がうまくできなくてはならない。
 筋肉を動かすにはカルシウムが不可欠だが、面白いことに、第1ワルツの主題には、そのカルシウムに関係した4つのタンパク質のメロディの断片が現れている。そのタンパク質というのは、ラクトグロブリン、イノシトールトリスリン酸受容体、電位依存性カルシウムチャネル、アセチルコリン受容体である。楽譜からわかるように、各タンパク質のメロディは、少しずつずれて次々と重なり合い、ハーモニーを生み出している。
 タンパク質の機能を考慮すると、この複合メロディーが体にどのような影響を与えるかがわかる。実はこのメロディは、聞いた人に、まずリラックスして、準備を整え、さあ実際にダンス開始、というふうに働きかけるのである。
 つまり『美しく青きドナウ』の第1ワルツは、体を動かして踊り出すよう自然に導いてくれる曲で、“舞踏への勧誘”の代表曲にふさわしいといえよう。」
 タンパク質のメロディーのこのような重なりは、偶然とは思えません。確かにそのとおりで、博士は、「これこそが、“スケーリング波動”が関与している証拠である」と言います。スケーリング波動というのは、博士が発見したミクロの波動で、特にタンパク質の合成中に発生し、共鳴現象を通じてその合成に影響を与えます。その波動を耳に聞こえるメロディーにしたものにも、同様の効果があります。ですからスケーリング波動によって、音楽が異なるタンパク質同士の調節だけでなく、体のスムーズな動きに役立つことも、説明できる可能性があります。

『美しく青きドナウ』が、時代を超えた名曲となった理由。

 『美しく青きドナウ』について、シュトラウス2世の友人であるブラームスが、ある婦人の扇にこのワルツの出だしの部分の楽譜を書き付けたあと、「残念ながら、ブラームスの作品にあらず」と記しています。ステルンナイメール博士は、このエピソードについて、「人は誰も、このワルツの開始部のメロディを体内に潜在的に持っている。それにしても、これほど短いメロディーの中に、よくぞ運動調節の本質的な要素を詰め込んだものだ。そこがこの曲のポイントであり、確かに“歴史を通じて最も有名なワルツ”と呼ばれるだけのことはある。ブラームスもこのメロディーの意味、重要さを心の底で感じ取っていたから、上のように記したのだろう」とコメントしています。
 優雅なワルツで世界中の人を踊らせた“ワルツ王”シュトラウス2世ですが、最大の皮肉は、彼自身踊れなかったことでしょう。「私はダンサーだったことはないからね。どんなに魅力的な『舞踏への勧誘』があっても、絶対にノーと言うしかないんだ」と友人に打ち明けています。
 このように彼は踊れなかったのですが、『美しく青きドナウ』でもって、私たちをワルツの動きへとスムーズに引き込んでくれるのです。それに加え、彼は学者でなかったにもかかわらず、イノシトールトリスリン酸受容体と電位依存性カルシウムチャネルの関係を解明するためのヒントを、無意識のうちにこのメロディーに組み込んでくれていました。何とこの問題は、このワルツができてから100年以上も経った今になって生化学者たちを悩ませているホットなテーマなのです!