音楽と《音薬》

「ウシにモーツァルトを聞かせると乳がよく出る」。音楽の効果を示すのによく取り上げられる話である。ところがその理由となると、「ウシも音楽でいい気持ちになり、乳の出もよくなったのだろう」くらいにしか考えられていない。

だがステルンナイメール博士の提案した《タンパク質の音楽》理論によれば、この現象も十分に説明ができるのだ。

乳腺の発達や乳汁の分泌を促すタンパク質として、プロラクチンが知られている。その機能から、乳腺刺激ホルモンとも呼ばれる。そこでステルンナイメール博士は、このタンパク質をメロディに置き換えることを思いついた。果たして予想に違わず、モーツァルト的としか言いようのない部分が含まれていたのだ。

そうなれば今度は、タンパク質の音楽の効果を実際に確認する番である。音楽を聞かせながら乳を絞る実験が、二週間にわたって行なわれた。用いたのは、プロラクチンに加え、ラクトグロブリンとラクトアルブミンのメロディ。一日に二回、一回当たり十分間である。

得られた乳は、これら三種類のタンパク質の量が増加したため、乳清が平均で三〜四分の一になった。まさに予想通りの結果である。

この乳をもとにっしてチーズが作られたのだが、試食した人は格別の味だったことを保証している。そこでこのチーズをパリで販売したところ、実験中の二週間というもの、普段の六倍の早さで売り切れてしまったという。

このようにタンパク質の音楽は、生物の体に分子レベルで作用して、望む効果を確実にもたらすことができる。それこそが、タンパク質の音楽と人間が作曲した音楽の本質的な違いである。それだけに、プラス面だけでなく、副作用にも十分な注意を払う必要がある。例えばウシの場合、プロラクチンを聞かせ過ぎると乳腺炎を起こしやすくなるのだ。影響を受けるという点で人間も例外ではない。

人間にとってのプロラクチンは、身体的な疲労や精神的なストレスで生産が促進されるストレスホルモンの一種でもある。このホルモンを作り出すことで、ストレスから体を護ろうとするのだ。だからプロラクチンの合成を促進するメロディは、ストレス性潰瘍の治療に効果をもたらすことがある。

ある女性は次のように語っている。

「典型的な胃潰瘍でした。床に伏せっており、すぐ手術をするというので入院することになっていました。そこでプロラクチンのカセットを聴いたのです。すると、その晩のうちに本当によくなった感覚がありました。一週間というもの、それを何回も聴きました。すると潰瘍が消えて、バストの大きさが倍になったのです。それ以来、なんともありません」。

ただしプロラクチンが過剰になると、女性なら乳汁漏出、男性なら勃起障害や女性化乳房といった症状が現われる可能性がある。プロラクチンのメロディをただ聴けばよいというわけではないのだ。

タンパク質の音楽は、その人にとって本当に必要であれば、体全体がそのメロディと共鳴している感じがする。「まさにこれが私n音楽」と。その感覚の有無こそが、そのメロディを使い続けてよいかどうかの唯一の判断基準になる。

要するにタンパク質の音楽は、薬と同様、遊びで用いてはならず、個別の対応が必要であるという意味で、《音薬》と言うことができよう。