盗作? 創作?

ポップスの世界で盗作問題が注目を集めている。裁判を起こした小林亜星氏(66歳)によると、自作のCMソング『どこまでも行こう』('67年)と、服部克久氏(61歳)の『記念樹』('93年)がそっくりだというのである。

両方の曲を《タンパク質の音楽》の観点から分析すると、面白い側面が見えてくる。

下に掲載した楽譜からわかるように、前者にはα2プラスミン・インヒビター(α2PI)のメロディが、後者にはカルシウム・チャネルα2bのメロディが、それぞれ移調されて含まれている。特に、前者に含まれる部分は、ちょうどα2PIの主題になっている。

α2PIは、できた血栓の溶解を阻止する働きを持つタンパク質である。不足すると止血栓がすぐに壊れてしまうので出血しやすくなる。

このタンパク質の合成促進で出血しにくくなること以外の効果は、機能が知られた他のタンパク質のメロディとの類似性から推測できる。そんな効果の例として、ウォーミングアップしたように暖かくなること、歩きたくなること、痛みに対する感覚が鈍ることが挙げられる。これは、ステルンナイメール博士自身がこのタンパク質を解読してメロディいした直後に実感したことでもある。『どこまでも行こう』という題名のなんと示唆的なことか。歌詞もピッタリの位置にある。主題の一致といい、このタンパク質を血中に増やす必要を無意識のうちに強く感じたからこそ、それがインスピレーションとなってこのメロディが生まれたのであろう。

カルシウム・チャネルα2bのほうは、ニューロン中の信号伝達に関わるタンパク質である。合成促進で神経伝達がスムーズになり、頭も体も滑らかに働くようになる。だが、『記念樹』との一致は、このタンパク質の主題部分ではないし、その部分の情報量もα2PIより少ない。そういった意味で、『どこまでも行こう』よりはインスピレーションの程度が弱い。

このように、問題の二つの曲は、無意識のうちにそれぞれ異なるタンパク質の影響を受けて作曲されたと考えられる。はたして裁判所は、著作権侵害について、どんな基準でどんな判断をくだすことになるのだろうか。

もうひとつ面白い話がある。博士は、二つの曲の別の部分も比べて、「『記念樹』の作曲者のほうがきっと年上に違いない」と述べている。つまり、作曲時の年令を比較すると、服部氏のほうが小林氏より上のはずだというのである。事実はその通りで、二十歳ほどの差がある。だが紙幅も尽きたので、なぜそんなことが推測できるのか、種明かしはまた別の機会に。