脳外傷のリハビリテーション (JAMA日本語版) 道免和久


解 説
脳外傷のリハビリテーションは、近年、我が国でもその重要性と社会的な必要性から、脚光をあびつつある分野である。
脳外傷は、脳卒中と同様に扱われることが多かったが、年齢、病態、症状、回復過程など多くの点で、脳卒中のリハビリテーションとは異なる治療手段が必要である。一般的には、生存した場合、運動障害は一定の回復を示すが、最終的には、記憶障害、前頭葉障害である遂行機能障害、注意力障害などの高次脳機能障害が問題となることが多い。とくに、就労や就学が必要な年代に受傷した場合、大きなハンディを背負って生きていなければならないことや、麻痺がない場合には、身体障害者手帳の対象外になるため、福祉制度からも見放されてしまうといった大きな問題にぶつかる。さらに、高次脳機能障害に有効と考えられている「認知リハビリテーション」が現状では保険診療の対象外であることなどから、医療と福祉の狭間で苦しむ患者の姿や革新的な認知リハビリテーションの方法が、マスコミなどでも盛んにとりあげられるようになってきた。
米国では、脳外傷法が制定され、年間10億円が基礎研究やリハビリテーションを含む治療のために投じられ、全米17か所の脳外傷リハビリテーションモデルセンターで研究が推進されている。
我が国でも、ようやく、脳外傷のリハビリテーションについて、米国のモデルシステムを翻訳し、共通データベースを作成して検討が開始されたところである。しかし、米国の規模や予算を考えると、寂しい限りの現状である。
本論文は、脳外傷のリハビリテーションについて、米国立衛生研究所のコンセンサス会議で行われた議論をまとめ、効果的なリハビリテーションに関する情報と今後の方向性についての勧告をまとめたものである。米国の現状と先進性をうかがい知ることができ、興味深い。我が国でも、早急に研究体制の整備と対策を開始する必要性を痛感させられる論文である。

(道免和久)

参考文献 道免和久:脳外傷のリハビリテーション 予後予測の手段. 総合リハ 28:129〜139, 2000


脳外傷患者のリハビリテーション

目 的  
生物医学研究者および臨床家に、脳外傷を負った患者の効果的なリハビリテーションの方法についての情報と勧告を提供する。

参加者
委員会は、政府職員や利益代表を含まない16人のメンバーから構成され、その代表する分野は、神経心理学、神経学、精神医学、行動医学、家族医学、小児科学、リハビリテーション医学、言語聴覚療法、作業療法、看護、疫学、生物統計学、および一般であった。さらに、それぞれ同じ分野からの専門家31名が、委員会と会議の一般聴衆883名にデータを発表した。
会議は以下のように構成された。(1)2日間の一般セッションの期間中、コンセンサスの議題に関連する分野で仕事をしている研究者による発表、(2)一般セッションに含まれる公開討論での会議参加者からの質問と発言、(3)2日目の残りと3日目の一部をつかって、委員会による非公開の審議で構成された。
会議の主な後援は、全米児童保健・人間性開発協会と全米保健協会のOffice of Medical Applications of Researchであった。

根 拠 (evidence)
文献検索はMEDLINEを使って行われ、1988年1月〜1998年8月の論文が検討された。また、2563の参考文献を含む、膨大な参考書目が委員会および会議の聴衆に提供された。専門家が発表のための要約を作成し、文献からの関連する引用も添付した。委員会は、患者負担と連邦政府機関の報告書を含んだ根拠(evidence)の概要を作成した。裏づけの乏しい臨床経験よりも、科学的根拠を優先させた。

合意への過程
委員会はあらかじめ定めた質問に答える形で、その結論を明らかにしたが、これは1998年10月26日〜28日の公開フォーラムで発表された科学的根拠や科学文献中の根拠に基づくものである。委員会は勧告書の草案を作成したが、草案はそのままの形で読まれ、専門家や聴衆の意見を求めるために配付された。その後、委員会は勧告案の矛盾点を解決し、会議の終りに修正を加えた声明を発表した。会議の数週間後に委員会が修正版を完成させた。勧告の草案は、会議で発表されたのに続き、即座にインターネットで公開され、委員会の最終的な修正を加えて更新された。

結 論  
脳外傷は主に車両事故、転落、暴力行為、スポーツ外傷によっておこり、男性には女性の2倍の割合で発生する傾向がある。罹患率は推定で10万人に100人で、年間5万2千人が死亡している。罹患率が最も高いのは15歳〜24歳の若者と、75歳以上の高齢者で、5歳以下の子供には小さなピークがある。脳外傷は一生にわたる身体的、認知的、心理社会的機能の障害をまねくことが多く、有病率は250万〜650万人と見積もられていることから、公衆衛生的に重要な意義をもった疾患であると言える。軽度脳外傷は、明らかに過小に診断されており、そのために社会の負担はいっそう大きなものになるだろう。脳外傷の犠牲者が多く、治療法もないことを考えると、その予防は非常に重要である。しかし、この会議では、脳外傷の認知と行動のリハビリテーション治療法の評価に焦点を合わせた。脳外傷の患者にある種の認知・行動リハビリテーション治療法を用いることについては、根拠によって支持されている。このような研究は、もっと大規模に、さらに信頼できる臨床試験の中で繰り返す必要があるので、脳外傷の研究費をさらに増額する必要がある。
JAMA.1999;282:974-983

脳外傷患者のリハビリテーション
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脳外傷患者のリハビリテーションについての米国国立衛生研究所コンセンサス開発委員会
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脳外傷は「外力によって脳が損傷を受けること」と広く定義されているが、その結果として、身体的、認知的、心理社会的機能の重大な障害に至る。合衆国では、概算で毎年150万〜200万人が脳外傷を受傷しており、その主な原因は交通事故、転落、暴力行為、スポーツ外傷である。脳外傷を受けても生命はとりとめ、障害を残す人々の数は、近年著しい増加をたどっているが、これは、救急医療がより早く効果的に行われるようになったこと、専門医療施設に早く安全に移送されるようになったこと、救急医学的管理が進歩したことによる。脳外傷を受傷する人は、年齢を問わないが、子供、青年で長期にわたる障害を及ぼす最大の原因となっている。
毎年、およそ7万から9万の人が脳外傷を受け、長期にわたる深刻な機能の喪失に陥っている。脳外傷の結果、大幅な人生設計の変更、深刻な家族崩壊、収入と所得能力の大幅な減少と生涯支出の増大ということになってしまう。毎年、軽度または中等度脳外傷で入院する患者数は、およそ30万人で、これに脳外傷と診断はされないが、長期におよぶ障害を残す可能性のあるものを含めると、その数はさらに増加する。
脳外傷はその結果として、身体的障害をもたらすが、これ以上に問題となるのは、認知、感情機能の障害、行動の障害で、個人的な対人関係や学校、職場での人間関係に影響を及ぼす。認知行動療法、薬物管理、介助技術、環境操作、教育、カウンセリングがこれら後遺症に対する治療法として近年試みられている。このような治療が受けられる場所は、独立したリハビリテーション病院や総合病院のリハビリテーション科、さまざまなデイケアや住宅プログラム、熟練看護施設、学校、地域社会、自宅である。

合意への過程
1996年に制定された脳外傷法を受け、保健福祉長官は、全米児童保健・人間性開発協会の中のリハビリテーション医学研究の全国センターの部長を通して、脳外傷のマネージメントとそれに関連したリハビリテーション上の問題についての全米コンセンサス会議を開催した。国立衛生研究所は、脳外傷患者のリハビリテーションの実際に関する科学的データを評価するための2日半の会議を開催した。特に重点が置かれたのは、軽度、中等度および重度の脳外傷にともなう認知・行動、心理社会的障害のリハビリテーションであった。会議には、国内外の生物医学研究者、臨床医に加え、脳外傷患者とその家族も集まった。
会議の2日目には、この会議の論点に関心がある組織の代表者や、個人的見解の発表を希望する人達による短い口頭のプレゼンテーションに1時間半があてられた。
プレゼンテーションと聴衆の討論が1日半程行われたところで、Mount Sinai医科大学のリハビリテーション医学科教授のKristjan T Ragnarssonが座長となった無党派の非政府コンセンサス委員により、科学的根拠に考察が加えられた。また、勧告の草案が書かれ、3日目にはこれが聴衆に発表された。委員会は以下の分野の代表者から構成された。すなわち、神経心理学、神経学、精神医学、行動医学、家庭医学、小児科学、リハビリテーション医学、言語聴覚療法、作業療法、看護学、疫学、生物統計学、および一般である。さらに、これと同じ分野から専門家31名が、データを紹介、委員会と会議の一般聴衆883名に発表した。委員の候補者と発表者は計画委員会によって指名された。委員会メンバーの研究は、会議の論点に近接したものであったが、会議の質問に答えるために使われることはできなかった。演者は、会議の論点に関係する専門領域を研究している人が選ばれた。
 文献は、MEDLINEを使って1988年1月から1998年8月の論文を検索し、2563の参考文献を含む膨大な関係書目が委員会および会議聴衆に提供された。専門家は、文献からの関連する引用をつけて、会議発表の要約を作成した。委員会は根拠の一覧を作り、それには患者寄稿1件と、連邦政府機関からのレポートが含まれた。裏付けの乏しい臨床経験よりも、科学的根拠を優先させた。
委員会は、あらかじめ定めた質問に答える形で、結論を明らかにしたが、これは、1998年10月26日から28日の公開フォーラムで発表された科学的根拠や科学文献中の根拠に基づくものである。委員会は勧告書の草案を作成したが、草案はそのままの形で読まれ、専門家や聴衆の意見を求めるために配付された。その後、委員会は勧告案の矛盾点を解決し、会議の終りに修正を加えた声明を発表した。会議の数週間後に委員会が修正版を完成させた。以下のコンセンサス勧告には、7つの重要な問題点とコンセンサス委員会の結論、そしてこれを支持する参考文献が盛り込まれている。

1 合衆国における脳外傷の疫学とリハビリテーションに対する意味はどのようなものか。
脳外傷の疫学には、罹患率、有病率、病因と自然経過が含まれるが、これをみることにより、求められる脳外傷のリハビリテーションサービスの需要と範囲の推定が容易になる。政府のサーベイランスプロジェクトを主催した、アメリカ疾病予防対策センター(Centers for Disease Control and Prevention:以下CDCと略す)のデータによると、脳外傷は毎年10万人に100人の割合で発生し、年間5万2千人の死者を出している。有病率はおよそ250万人から650万人の間で、脳外傷の後遺症を負って生活している。しかしながら、こうした概算は、その算出の根拠としている情報が、もっぱら入院した患者と、入院前に死亡した患者に限られている為、偏りの生ずる傾向がある。
脳外傷について述べるときは、軽度、中東度、重度に分けることが肝要である。また、この疾病について余すことなく全体にわたって理解、研究するためには、入院患者に基づくデータだけでは不十分といえる。最近の政府によるサーベイランスシステムは、(その一部をCDC も監督しているが)共通のデータの収集と、レポート方式を取り入れ、入院または、死亡に至った脳外傷患者の疫学上のデータが十分に得られるようになっている。しかし、入院に至らなかった軽度脳外傷の疫学を評価するための新しい方式を開発し、その罹患率と有病率を、厳密に研究する必要がある。
既成のデータからわかることは、脳外傷の予防に役立つ領域や、リハビリテーションプログラムのデザインである。男性は女性に比べ、2倍以上脳外傷になる率が高い。また、最も罹患率が高いのは、15歳から24歳と、75歳以上の年齢層で、これに次いで5歳以下の子供に小さなピークがある。また、全ての脳外傷のうち、半数でアルコールが関わっており、それは脳外傷をおこした人、脳外傷を受けた人、あるいはその両方という場合がある。
脳外傷のおよそ50%が、自動車、自転車、または歩行者と車の事故である。今まで、シートベルトやエアバッグ、チャイルドシート、またはスピード制限の強化、道路標識の改善、交通規制などを行うことにより、交通事故による死亡や脳外傷を減らしてきている。今後はこれに加えて、アルコールの関連した車両衝突事故により生じる脳外傷を減らすための、予防方法が開発され、評価される必要がある。
転落は、高齢者や幼い子供といった弱者の間で、脳外傷を引きおこす2番目の原因としてあげられる。高齢者の転落の危険因子には、アルコール、投薬、骨粗鬆症などが含まれる。今のところ、これらの高齢者、幼い子ども達に対する予防的な措置は取られていない。しかし、幼い子どもを転落から守るための歩行器、ベビーカー、ショッピングカートのデザインにはかなり改善が見られるようになった。
暴力が関連した罹患率は、全脳外傷のおよそ20%とみられている。この罹患率は小火器による襲撃と、小火器を使わない暴行によるものがおよそ半数の割合である。小火器による脳外傷の罹患率が最も高いのは、15歳から24歳の若者で、これは小火器によらない暴行においても同様の傾向である。この予防のためには、ストリートバイオレンスを防ぐプログラムを強化する必要があり、特に、銃規制とその安全性の向上を立法化することが必要とされる。
暴行はごく幼い子どもの脳外傷の主要な原因でもある。この年齢のグループの脳外傷の75%は不慮の損傷であるが、幼児虐待もまた、問題になっている。中でも、揺さ振りベビー症候群は、脳外傷や脊髄損傷につながる。家庭内暴力は、子どもにも、成人にも、また男女を問わずにおきている。
スポーツやレクレーション関連の外傷は、脳外傷で入院した人の3%ほどに過ぎないが、スポーツの関係した脳外傷の約90%が軽度で、報告されないこともあることから、スポーツ関係の脳外傷の罹患率は過小に見積もられているといえる。スポーツによる脳外傷が最も起きやすいのは、5歳から24歳の若年層であり、まだ、人生の先が長い人達である。危険因子はほとんど説明されていない。スポーツ関連の脳外傷の予防については、まだ推進の余地があるといえる。
これら脳外傷の原因の危険因子がほとんど研究されていないために、適切な予防法の知識が、危険因子を病因や帰結と関連づけた結果として得られるにはほど遠い。さらに、病因と危険因子は、リハビリテーション治療法を選択する際にも影響を与える。例えば、幼児虐待やストリートバイオレンスにより、脳外傷を負った子どもは、地域社会でのリハビリテーションには制限が加えられるかもしれない。また、アルコールや麻薬の乱用による外傷であれば、リハビリテーションの過程の中に薬物依存症の治療が必要になるであろう。
これら疫学上のプロフィールを見ると、脳外傷はたいへん多様な疾病であることがわかる。このことは、脳外傷の分類が年齢、性別、民族、程度、原因といった項目に及ぶことからも明らかである。これらの複雑性を加味した、複合的なリハビリテーション治療法が必要なのである。

2.病態生理学、機能障害、機能的制約、能力低下、社会的制約、経済への影響の点からみると、脳外傷が及ぼす結果はどんなものか。
脳外傷の後遺症が一つの症状、つまり、機能障害や能力低下に限られ、患者の生活の一部分だけに影響するということはまずない。そうではなく、脳外傷の後遺症がしばしば人間の機能に影響するのは、まず、細胞の生理学的な機能を変えることから始まる。これに引き続き、神経や精神心理的な障害が起こり、次に、内科的な問題や能力低下が生じる。また、その影響は、脳外傷を負った本人のみならず、その家族や友人、地域社会、社会全体へと及んでいく。他のもっと緊急の医学上の問題が顕著に起きている場合は、機能障害を生じているにもかかわらず、軽度脳外傷がその下に隠れてしまうこともある。脳外傷の結果は、発生した時の形で、または形を変えて生涯に渡って続くことが多い。そして、何か新しいことをしようとしたときや、加齢によって、あらたな問題が発生する。
脳外傷の神経学的な後遺症は、数多く、複雑で、神経系の軸に沿って発生する。感覚系、運動系、自律神経機能、いずれも障害され得る。ほとんどの合併症状は受傷後、数日から数カ月以内には明らかになるが、その時期は最初の外傷の重症度によって異なる。長期にわたる後遺症として、運動障害、痙攣、頭痛、周辺視野障害、睡眠障害が含まれる。非神経学的な内科的合併症として、肺、代謝、栄養、胃腸、筋骨格、皮膚の問題が含まれるが、これらに以外にも起こり得る。
脳外傷による認知面の後遺症は同様に広範囲にわたる。これらの後遺症はどれも単独に出現することもあれば、合併することもあり、個人への影響という点では多様である。さらに、後遺症の重症度とその症状の表れ方は時間とともに変化する。そして、それらが組み合わさることによって、無数の機能上の問題を引き起こす。なかでも、いつまでも残る問題として、記憶障害と注意力、集中力の障害があげられる。言語使用と視覚受容の障害はよくみられるが、見のがされがちである。前頭葉の機能、つまり問題解決の遂行能力、抽象的な推理力、洞察、判断、計画、情報処理、組織化といった能力は脳外傷で障害されやすい。
共通に見られる行動異常には、反応の開始の障害、攻撃的言動、興奮、学習障害、浅薄な自己認識、性機能の変化、衝動性、社会的な脱抑制が含まれる。感情障害、人格変化、情緒コントロールの変化、抑欝、不安もも脳外傷の後によく見られる。
軽度、中等度、重度脳外傷の社会的な結末は数多く深刻で、自殺、離婚、長期にわたる失業、経済的負担、中毒物質濫用などの増加があげられる。これらの結末は、本人家族にとって悲劇であり、社会福祉機関や法の執行機関、裁判所にかかる負担を増加させることになる。脳外傷患者が自分のいつもの生活に戻ろうと努力すると、患者をとりまく環境から患者に向けられる要求は増加し、さらなる心理社会的結末が明らかになる。例えば、遂行機能障害が初めて明らかになるのは、職場においてであるし、人間関係に影響を与える行動の変化が現われるのは入院治療が終了した後である。連鎖的に変動する悪影響は、脳外傷患者本人にとどまらず、その最愛の人にまでおよぶ。脳外傷の家族は、抑うつ、社会的孤立、そして怒りに襲われることを報告している。家族としてのはたらきと人間関係の全て壊れてしまう。このような結末はいつまでも続き、年齢とともにさらに悪化することもある。
小児の脳外傷にはまた、別の結末がある。身体、認知、行動上の後遺症の相互作用は新たな学習を妨げる。早期の脳外傷の影響がはっきりと現われるのは、後の小児の発達においてであるかもしれないが、幼児の脳外傷の発達に与える結果については、はっきりと述べられた論文がほとんどない。したがって、脳外傷の小児が必要とするものと、学校で一般になされる教育プログラムの間には、かみ合う部分が乏しいという現状が考えられる。
また、脳外傷の子供は、認知プロセスや行動上の問題、社会生活上の暗黙の了解を理解できないことから、同年代の子供とうまくやっていけない。親は、育児上の大変な課題に直面し、教育上の希望も、家族の目標も変更を迫られることになる。
青年期の脳外傷については、ほとんど研究がなされていない。したがって、彼らが直面している結果が、脳外傷の成人や子供に関する論文の中で十分に述べられているかどうかということも、明らかではない。
 脳外傷の経済的影響は莫大である。合衆国で1年に脳外傷の新たな患者にかかる急性期治療とリハビリテーションの費用は、およそ90億から100億ドルといわれている。重度の脳外傷患者が生涯に治療で使う平均的な費用は、1人およそ60万から187万5千ドルである。しかもこれらの数字は、脳外傷の家族と社会の経済的負担を非常に過小に見積もっている可能性がある。なぜなら、この数字には、失われた収入や、社会福祉システムの費用、脳外傷患者の世話をすることになった家族の時間の価値やそれまでの収入は含まれていないからである。
脳外傷患者が初期の治療とそれに続くリハビリテーションをどの程度受けられるかは、保険の保障範囲、へルスケアの人員、家族、地域社会、住んでいる場所、入手可能な資料の知識、医療やリハビリテーションシステムを有効に活用できる能力にかかっている。

3脳外傷の機能回復の基礎となるメカニズムは何か?リハビリテーションにとってその意味は何か?
脳外傷では順次変化していくダイナミックな過程がみられ、相互に関連する多くの生理学的な要素を巻き込んでいく。そして、その一次的および二次的効果は、個々の神経細胞(ニューロン)、それらニューロンの結びついたネットワーク(神経回路網)、人間の思考(認知)のそれぞれのレベルに及ぶ。これまで、ニューロン(軸索)間の結合やニューロンそのものを損傷する変化について、多く報告されている。これらの変化には、代謝の基本的な分子(特にカルシウム)、損傷に対するヒト細胞の反応メカニズム、そして、過剰にあると害をおよぼすようなある種の分子(活性酸素・フリーラジカル、一酸化窒素など)の量に影響する化学的変化が含まれている。
アルツハイマー病にみられる蛋白質(βアミロイド)も、ニューロンの中に沈積することがある。脳内のコミュニケーション分子すなわち神経伝達物質は、興奮性または抑制性の効果をもつが、興奮性の分子のうち最も有力な物質は、グルタミン酸とアスパラギン酸である。これらは、脳外傷に引き続いて多量に放出され、過剰な興奮を起こし、ついにはニューロンを死に至らしめる。認知のレベルでいえば、神経回路網や神経伝達物質システム(特に、アセチルコリン、ドーパミン、セロトニンの伝達物質を含むもの)の変性により、認知や行動が影響を受ける。脳外傷の病態生理は、動物を使って詳しく研究されているところだが、動物実験の結果を応用して、人間の機能回復の神経生物学的メカニズムを理解できるような詳細な記述はまだない。また、脳外傷後の各段階においてそれぞれのメカニズムが回復力にどの程度重要な役割を果たすのかは、まだ明らかではない。
損傷と回復のメカニズムの基礎的な知識のおかげで、動物を使った実験的治療の評価(例えばニューロンを過剰な興奮から保護することや、損傷を与えるような分子の効果等)が進んできた。一方、ニューロンが成長し、別のニューロンとの結合を形成する能力(細胞の可塑性)の基本的な理解が、その他の治療法の評価を進めてきた。損傷を受けた脳が、回復する能力を持っていることは確かである。神経の可塑性という要素は、神経結合を促進する化学物質(成長因子)の増加と、ニューロン構造の変化を通して神経結合の数や性質の変化を促進する化学物質の増加からなる。神経再生のための有望な方法として、神経成長因子、その他の成長のための因子、組織移植などがある。究極的には、遺伝子治療がこれらの成長因子を標的の場所に運ぶ一つの方法となるかもしれない。神経回路網や認知機能を改善させる治療として、(例えば、複雑な環境といった) 特殊なタイプの経験と刺激が含まれているが、神経結合や小血管の生物学、あるいは脳の層状構造ですら論証できる程度の経験依存的変化をともなっている。
回復の時間的経過は相当長く(数ヶ月から数年)、回復率は経過を通して変動する。回復するにつれ、独特の病態生理をもった特殊な回復段階が表れるかもしれない。時間経過の中で、部位や機能の違いが明らかになる可能性もある。たとえば、細胞のレベルでいえば、通常なら脳の発達の早期にだけみられる特殊なタイプの細胞死(アポトーシス)が、異なった場所で、受傷後何ヶ月も後も含めて異なった時期に起こることがある。神経回路網のレベルでは、行動や学習と関連がある経験依存的変化が、脳損傷後の動物実験によって証明されてきた。認知面の回復は何段階かにわたって続き、技能によってはさらに著しい改善が異なった時点で起きている。加えて、脳外傷後は行動の多様性が特徴的である。
脳外傷の大人に適切で適応性のある行動を再構築するために、最近用いられる手法には、学習、支持的な状況の開発、環境の操作などがある。こうした方法は脳外傷を負った本人のみならず、その家族や地域社会とも焦点を合わせて行われている。回復のプロセスが非常に複雑であることから、治療計画は慎重に作る必要があり、病態生理学的に起こりうる事象や可塑性のある時期と合わせて、可能性のある治療的介入を導入できるように、組織的に実施する必要がある。動物でのモデルを使った治療の研究と、人間の臨床との間には、特に大きな隔たりがあるが、こうした隔たりを生じる原因としては、(1)誘発された動物の損傷(例えばfluid percussion injury)と人間の脳外傷の違い、(2)損傷の重症度の違い、(3)特定の機能障害への関与の時間的枠組み、(4)許容できないほどの副作用、があげられる。さらに、動物で実験は脳外傷に続いて起こる人間の認知の複雑な行動的特徴については、取り扱うことが出来ない。脳外傷の後の脳と行動との関係の研究の成功は、認知の領域(例えば、学習、注意力、集中力、記憶など)を生物学的なプロセスと比較検討するという人間でしか研究できないことにかかっているといえる。
以上の再検討から多くの結論が導き出せる。脳外傷の時間的経過は、長期に渡り、症例によっては一生続くものもある。損傷と回復の神経および認知的メカニズムは無数で、複雑、相互に関係している。回復の過程で、時間毎にその背景にあるメカニズムが異なる。
その結果、ある特定の治療法がある時には有益で、別の時には有益ではないということになるかもしれない。おそらく、あるリハビリ的な治療法が即座に開始すべきだとしても、他の治療法は効果を最大にし副作用を最小にするために、遅らせるべきかもしれない。

4 脳外傷の認知・行動上の後遺症に対して、通常どんな治療的関与がなされるのか?その科学的根拠は?どの程度の効果があるのか?
認知行動リハビリテーションのゴールは、情報を処理し解釈する能力を高め、家族や地域社会生活のあらゆる場面で、役割を果たすための能力を向上させることである。回復訓練は特定の認知機能の改善に重点がおかれるが、認知障害が存在するということへの適応に重点を置いた代償訓練も行われる。この代償訓練が、ある時点で回復を助ける効果をもつこともある。認知リハビリテーションには、(コンピュータ補助の認知訓練のような)単一の方法だけで行うもののあれば、複数の分野にわたる統合されたアプローチを使うものもある。ひとつの訓練プログラムは、独立した認知機能を標的にもできるし、同時に複数の機能を標的にもできる。特定の方略、プログラム、治療について多くの報告があるのにもかかわらず、認知リハビリテーションの有効性についてのデータが限られているのは、研究対象、治療、帰結が不均質だったからである。帰結の測定は、特殊な問題を提示している。
なぜなら研究の中にはグローバルなマクロレベルの基準(例えば、復職)を使っているもののあれば、中間的な基準(例えば記憶の改善)を使用しているもののあるからである。これらの研究は、サンプルサイズが小さいこと、自然回復がコントロールされていないこと、社会的な接触のもつ効果が特定できないことによっても限界があった。にもかかわらず、多くのプログラムが記述され評価されてきた。
コンピュータ補助による方略を含む認知訓練が、特定の神経心理学的プロセス、主に注意、記憶,遂行機能の改善のために利用されてきた。無作為対照試験と症例報告において、中間的な帰結測定法を使って、これらの治療法で成功したことが報告されている。全体的な帰結測定法を使ったある研究も認知リハビリテーションにおけるコンピュータ補助による訓練の利用を支持している。メモリーブックや電子ページシステムといった代償的な装置は、特定の認知機能を改善し、特定の障害を補うために使われる。これらの装置を使うトレーニングには、構造化された順序だった反復練習が要求される。これらの治療法の有効性はすでに証明されている。
心理療法は、包括的リハビリプログラムの重要な要素であり、認知障害に関連した抑欝や自尊心の欠如を治療するのに使われる。心理療法には脳外傷の本人とその家族、そして親しい人も加わるべきである。心理療法の独特のゴールとして、感情的にサポートすること障害とその結果を説明すること、現実的な自己評価を通して自尊心を獲得すること、否認を減らすこと、家族や社会とかかわり合う能力を高めることなどが強調されている。脳外傷患者に対する心理療法は、系統だった研究がなされていないものの、同様の障害への有効性が、他の母集団において証明されていることから、支持されている。
脳外傷にともなう様々な情緒や行動の障害に対しては、薬物が有効な可能性がある。脳外傷患者における特別な研究はほとんどないが、薬物の直接、間接の薬理学的特性のために、脳外傷患者にも一般に使われている。脳外傷患者は、健康人より薬物の副作用を受けやすいので、心理薬物療法の処方し監視する際には、一層の注意を払うべきである。
行動変容は、脳外傷の人格や行動に対する効果をめざしてきた。また、脳外傷患者が社会的技能の再訓練をするためにも使われてきた。しかし、数多くの記述的研究や単一例の前向き臨床研究によれば、この方法の効果を支持する結果は限られている。
短期、長期の保護雇用や職業指導といった職業リハビリテーション治療法の価値は、観察的研究により認められている。職業リハが特に重要であるのは、復職がリハビリの成功の最も意義深い結果であるからである。
子供達の場合には、リハビリテーションのほとんどが学校内で行われる。脳外傷の子供は特殊教育施設に通うことが多い。脳外傷の子供へのこうしたサービスの効果は、まだよく研究されていない。残念ながら、特に子供の脳外傷に特によく見られる問題というのは、まだ明らかになっていない。
多分野にまたがる包括的リハビリテーション治療は、経験をつんだ専門家からなる様々なチームにより行われるが、これは、脳外傷の患者にも一般に行われている。これらのプログラムは、患者一人一人に応じて作られた治療計画を使用し、回復をめざした治療法と代償的な治療法からなる。目標とするのは、認知機能の中間的目標と、もっと大きなスケールでの(グローバルな)帰結である。このような個人に適応したアプローチは、その効果を科学的に評価するのが非常に困難であるが、それは、脳外傷の対象患者もその包括的な治療計画も極めて不均一であるからである。しかし、それにもかかわらずコントロールされていない研究や無作為化されていない一臨床例の検討により、これらのアプローチの有効性は支持されているといえる。
系統だった成人教育、栄養補助、音楽・絵画療法、治療的レクレーション、針治療、その他の代替的治療法などが、脳外傷患者治療に使われる。これらの方法は、一般的に使われているが、その効果はまだ研究されていない。
脳外傷患者の家族に対する治療法も多く報告されており、これには心理的社会的サポートや教育が含まれる。経験的な研究でこの家族に対する治療法の効果に関するものはないが、その効果はしっかりした臨床経験から支持されるものである。厳密な調査、研究が相対的に不足しており、対象、研究デザイン、帰結が不均一であるにもかかわらず、認知行動のリハビリテーション治療法について詳細に科学的によく検討すると、一貫して繰り返すテーマが浮かび上がってくる。根拠によって支持されるのは、ある特定の状況における、脳外傷患者へのある種の認知行動リハビリテーション治療法の使用である。これらの治療法は、構造化され、組織化された目標への方向性を持ち、個人化されたものであるということにおいて、ある共通の特徴を持ち、学習、練習、社会的接触、関連する文脈を含んでいる。しかし、重要なことは、これらのアプローチの使用を支持している多くの科学的根拠が比較的限られた研究から導き出されたものであるので、もっと大規模で信頼できる臨床上試験のなかで繰り返されるべきだということを認識しておくことである。

5.脳外傷の包括的で調整され多分野にわたるリハビリテーションの共通モデルとは何か?その科学的根拠は何か?その短期、長期的帰結として何が知られているか?
脳外傷のリハビリテーションには、非常に多くのアプローチがあり、その多くが伝統的な医学的見地を含んでいる。一般的な急性期のアプローチには集中治療室や急性期外傷、神経外科的治療、急性期入院リハビリテーション、亜急性期入院治療、意識障害治療などがある。脳外傷のリハビリテーションの急性期後のアプローチとしては、在宅リハビリテーション、外来リハビリテーションプログラム、地域社会復帰のプログラム、総合的デイケアのプログラム、居住地域再建プログラム、神経行動学的プログラムなどがある。伝統的な医学的アプローチのほかに脳外傷のリハビリテーションには、サポートのある生活プログラム、自立支援生活センター、スポーツクラブプログラム、学校でのリハビリテーション、職業リハビリテーションがある。
脳外傷患者への包括的リハビリプログラムの有効性については、多数の論文を吟味した。
しかし、残念ながらこれらの研究の多くは、方法論的な見地からすると、厳密とはいえず、有効性についての結論を受け入れるには注意が必要である。実際に脳外傷のリハビリテーションを批判的に分析してみると、限られた状況における効果を示す研究が数例みられるのみである。脳外傷リハビリテーションの領域の調査は、非常に実施しにくく、資金を得るのも難しかったということが、配慮の余地がある主因である。十分な症例数と適切な対照群は、臨床的なリハビリテーション環境では、なかなか手に入らない。したがって、現在までの研究のほとんどが厳密でなかったからといって、リハビリテーションプログラムが有効ではない、という解釈はすべきではない。
脳外傷リハビリテーションの分野での主な限界は、今日の医学的回復アプローチの焦点が狭すぎることにある。焦点があわされるのは、脳外傷患者が生活状況に適合するための能力を高めることである。しかし、新しいリハビリテーションのモデルでは、同時に重要なものとして、個人がいろいろなことが出来るような環境を作り出す環境改善をあげている。残念ながら、出来るようにするアプローチはまだ、脳外傷リハビリテーションの分野では、一般的ではない。これは、資金がないためでもある。脳外傷リハビリテーションへの最近のアプローチが、限られているのは、ハイリスク年令グループ(例えば幼児、青少年、高齢者)とその家族のニーズにほとんど注意が向けられていないという現実があるからである。同様に、脳外傷はその多くが一生の障害であり、一生を通じて様々なリハビリテーションニーズがあるということも、ほとんど認識されていない。脳外傷リハビリテーションへの概念的なアプローチの改善が必要である。
もうひとつ、今日の脳外傷リハビリテーションのモデルで難しい点は、リハビリテーションサービスへのアクセスの問題に関係している。特に、利用できる脳外傷リハビリテーションプログラムの大きな地域差がと、地域リハビリテーションを推進することが出来る知識の豊富な専門家の不足である。しばしば、ちょうどよいタイミングでリハビリテーションを受けることができない問題が発生したり、主に経済的な障害のために多くの人が、脳外傷のリハビリテーションサービスを受けることが出来にくくなることがある。
これらの要因のために、脳外傷患者やその家族が、必要な地域援助を受けたり、最善の状
態でリハビリテーションプロセスに参加することができにくくなっている。
さらに、今日の脳外傷リハビリテーションへのアプローチに不十分な点は、脳外傷患者とその家族が意志決定をする機会が限られているということである。伝統的な医学リハビリテーション環境では、患者本人や、その愛する人とのパートナーシップを育てないことが多い。従って、今日のアプローチでは、目的達成やプログラムデザインに参加するということがないために、しばしば公民権を剥奪されたような感覚に陥りがちである。加えて、臨床家から、脳外傷患者やその家族へ提供される情報は不十分であることが多い。しかし、幸いにも、リハビリテーションのいくつかの環境で、研究と治療努力の双方へ参加し行動する戦略が開始されたことから、この問題に対する著しい変化があらわれはじめている。

6.これらの質問に対する回答をもとに、脳外傷患者のリハビリテーションの実際について何が推奨されるか?
・リハビリテーションサービスは、各々の脳外傷患者のニーズや力、能力に合うように、また、そのニーズが時とともに変化するのに応じて修正すべきである。
・中等度、重度の脳外傷のリハビリテーションプログラムは、学際的で包括的なものにすべきである。
・脳外傷のリハビリには、認知と行動の評価と治療法を含むべきである。
・脳外傷患者とその家族は、自分のリハビリテーションプログラムと関連する研究活動の計画とデザインにおいて、不可欠の役割を果たす機会を与えられるべきである。
・脳外傷患者は、受傷後何年も続く可能性のある回復の期間中、いつでもリハビリテーションサービスを受けられるようにすべきである。
・薬物濫用の評価や治療は、リハビリテーション治療プログラムの一部とすべきである。
・行動管理に使われる薬物は、脳外傷患者に著しい副作用を及ぼし、リハビリの進行を妨げるので、やむを得ない状況でのみ使用する。
・認知の向上のための薬物は有効だが、その有効性は注意深く評価し、各個人ごとに詳しく記録すべきである。
・地域の非医療のサービスは、脳外傷患者のケアの延長やリハビリテーションの一部であるべきである。その中には、社会交流の場としてクラブハウスなどもあげられるが、必ずしもクラブハウスに限らず、デイプログラム、社会技能発達プログラム、サポートのある生活支援プログラムや独立生活センター、保護雇用プログラム、あらゆるレベルの学校教育プログラム、実生活の技能開発を支援する公的援助や、医療、リハビリケアシステムにたどり着く手助けとなるためのケースマネージャープログラム、消費者、同僚のサポートプログラムなどが含まれる。
・脳外傷の多くの患者をサポートしているのは、家族や親しい人である。そしてそれを効果的に行うには、彼ら自身がサポートを受けるべきである。これには、家庭での健康の援助者または身の回りの世話をする介助者からの家庭内の援助や、日中、夜間の休息ケア、継続したカウンセリングなどが含まれる。
・リハビリテーションの活動の1つとして、患者があらゆる場により深く参加できるよう、家屋や社交、仕事の場の改造も含めるべきである。
・軽度脳外傷患者をみつけ、治療するためには、特別なプログラムが必要である。
・若年のまたは、学齢期の脳外傷の子供の特殊な医学上、またはリハビリ、社交、家庭、教育上のニーズに取り組むには、特殊な学際的で包括的なプログラムが必要である。
・同様の目的で、同様のプログラムが65歳以上の脳外傷患者にも必要である。
・地域ケアの提供者の、脳外傷患者の経験する問題への認識の程度をより深めるために、教育プログラムが必要となる。

7脳外傷患者のリハビリテーションを導くために、どのような研究が必要か?
・脳外傷の危険因子と発症率に関する疫学的研究が、異なる年齢グループ、性別、人種について必要である。
・薬物濫用と脳外傷の関連について研究されるべきである。
・病院の退院サマリーや、死亡記録に基づいた現在のCDCサーベイランスシステムを拡大し、研究のために現在のデータベースを増やせるように、救急部門の患者も含めるべきである。
・脳外傷患者の適切な行き先についてはっきりさせるために、脳外傷患者をナーシングホームや精神科施設に入所させることについての研究が必要である。
・軽度脳外傷の疫学の研究が必要である。
・軽度、中等度、重度のそれぞれの脳外傷について、その継続期間、自然経過、長期的な症状(神経学的、認知、社会、心理学、経済学的など)が研究されるべきである。
・脳外傷の生存率、重症度のパターン、長期に及ぶ症状の性差について研究されるべきである。
・高齢者における脳外傷のリハビリテーションの結果と効果について研究すべきである。
・脳外傷の少数グループの経験を研究すべきである。
・脳外傷に関連する全ての研究の質をあげるために、外傷疫学と臨床研究の研究トレーニングが必要です。
・脳外傷の時間経過を、外傷の重症度、年令や性の影響、治療効果の観点から動物において研究すべきである。
.脳外傷後の適切な治療的介入のタイミングについての研究が必要である。
.脳外傷による認知、行動、情緒の後遺症に対する薬物療法の効果について研究すべきである。
・人間の脳外傷の神経生物学を、現代の画像技術(たとえば、ポジトロンエミッションCTや機能的MRI)を使って、神経心理学的所見との関連について研究すべきである。
・動物実験から得られた有力な治療法は、人間でも試されるべきである。
・よくデザインされコントロールされたリハビリテーション治療の効果についての研究が必要である。
・費用の主要な決定要因を含めて、脳外傷の経済的分析が必要である。
・革新的な脳外傷のリハビリテーション治療法を開発、研究すべきである。
・脳外傷患者、その家族、親しい人たちの生活の質(QOL)の予測因子を研究すべきである。
・特定の認知障害とグローバルな帰結との関係を評価する研究が必要である。
・包括的な健康関連QOL評価法の妥当性の検討が必要である。同様に、脳外傷固有の評価法の開発と妥当性の検討が必要である。
・外傷のタイプ、重症度、重要な関連因子を記述し、回復期を通して、外傷全体の情報を提供できる統一的標準的な最小のデータセットを開発すべきである。
・脳外傷の病態生理と異なる治療法の効果との関係について研究すべきである。
・様々な重症度の脳外傷の長期的な結果を、脳外傷の年令の結果とあわせて、研究すべきである。
・特種教育の必要性、心の健康、そしてリハビリテーションサービスの観点から小児期の脳外傷の発達への影響について研究すべきである。
・脳外傷の地域リハビリテーションの効果について研究すべきである。
・脳外傷の研究のための、重症度とリスクを補正したモデルを確立すべきである。
・脳外傷患者の同僚、家族、親しい人の支援の効果を研究すべきである。
・脳外傷患者の複雑な治療法の効果を評価する革新的な研究方法論を開発し評価すべきである。

結 論
・脳外傷は公衆衛生上の主要な意義をもつ均質でない障害である。
・脳外傷の結果は一生続く。
・脳外傷の莫大な費用と治療法がないことを考えると、予防がき極めて重要である。
・アルコール濫用と暴力の発見、治療、予防が脳外傷を減少させ、影響を減らす重要な機会を与える。
・脳外傷患者のニードに合ったリハビリテーションサービスと地域の非医療サービスが回復過程を通じて、帰結を最適化する。
・軽度脳外傷は、明らかに診断が見のがされていて、早期の治療がしばしば無視されている。
・脳外傷患者、その家族および親しい人はリハビリテーション過程と研究をデザインし遂行 するのに不可欠である。
・脳外傷のリハビリテーションの公的、私的資金が急性期や長期のニーズを満たすように十分でなければならない。
・必要な長期的リハビリテーションにアクセスできることが私的保険や公的プログラムの支払い方法の変化によって危険にさらされている。
・脳外傷と回復のメカニズムについての理解の増加が新しい治療法の有望性を担保している。
・よくデザインされコントロールされた研究が、異なるリハビリテーション治療法の利点を評価するために必要である。
・脳外傷の治療の評価が、革新的研究方法を必要とするだろう。
・脳外傷の研究費が増加する必要がある。

訳: 道免和久 東京都リハビリテーション病院医長(現 兵庫医大リハビリテーションセンター助教授)

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