リハビリテーションについてのご質問にお答えします

----- どちらかというと専門家や医療関係者からのご質問です ----

Q1.リハビリテーションは療法士だけがやるものですか? リハビリ医は何をするの?
療法士だけで行うリハビリも,医師だけで独断で進めるリハビリも誤りです.現代の医療はすべてがチーム医療です.内科でも外科でも,医師一人ですべてを行うことはありません.看護婦,検査技師,薬剤師,事務職など多くの専門職の人達の協力があってはじめて,医療が遂行されます.リハビリ医療も同様に,チーム医療の一つを実践しているだけです.ただ,リハビリ医療の難しい点は,多くの職種が同時に,しかも,障害という難しい問題をかかえた患者さんを長期に渡って治療することです.とくに,障害とともに生きる患者さんの将来を考えながら,全人的な医療をすることが求められますから,強力な司令塔(リハビリ医)が必要になるわけです.司令塔というと恐いイメージですが,そうではなくて,一つの目標を示して,そこに向かってチームとして最大限のアウトカムを出す,つまり最も患者さんが高いゴールに到達するようにするマネージャーがリハビリ医と考えると良いかと思います.私が,療法士への「おまかせ処方」や「よろしく処方」を戒めているのはこのためです.リハビリ医が上に立ち,療法士が下,ということは絶対になく,すべてが専門職として専門性を尊重されながら,それをうまくリードしていく役割をもつと思います.例えて言えば,野球の選手が揃えば一応試合だけはできますが,良い監督がいなければ決して強くならないのと同様かもしれません.野球でも選手が偉いとか,監督が偉い,とかもめているチームは弱いですよね.それぞれの役割とその遂行が最もチームにとって重要なことです.別の例で言えば,オーケストラの指揮者の役割と言ってもいいかもしれません(もっと実務的ですが).指揮者がいなくてもレベルの低いばらばらの演奏はできますが,指揮者がいてはじめてより高いレベルの結果が得られるからです.

   

Q2."Neuro-reha"というホームページのタイトルを見ると,Neurologist神経内科医によるリハビリみたいですが・・・
今のリハビリの中で欠けている点を強調しただけで,神経内科医の先生には神経内科医の大切な仕事が,整形外科医の先生にも同様に大切な仕事がありますので,「かけもち」を勧めているわけではありません.リハビリテーション医はあくまでもリハビリテーション医ですから,神経や脳だけが興味の中心であっては駄目で,あくまでも患者さんの運動を観察し,生活,人生を支える方法を考える医者でなければなりません.もう少し詳しく言いますと,"Neuro-"というタイトルは,私の研究分野である計算論的神経科学ということを意識してつけています.計算論的神経科学は,脳細胞や遺伝子などの素子から脳機能を解明しようとするボトムアップアプローチとは異なり,脳が行っている計算論から,脳機能を解明するトップダウンアプローチと言われています.計算論的神経科学は,患者さんの動作や行動から脳損傷に迫り,その治療を行うリハビリテーション医療と表裏一体の学問だと思います.遺伝子や細胞レベルから,病気を治療する専門の素晴らしい先生方や研究業績がありますので,私たちは,逆に患者さんの生活や行動を科学的に分析して,脳の計算論などに基づきながら,その治療方法を考える別のアプローチで貢献しようとしています.

バイオメカニズム学会誌特集『運動学習とリハビリテーション医学』(道免和久)より

Q3.遺伝子治療の時代になるとリハビリテーションは要らなくなりますか?
全く逆です.今,麻痺になってなおらない病気が,遺伝子治療などによって治療ができたとします.しかし,どんな治療を行った後でも,神経筋運動器にかかわる疾患の場合,絶対に避けることができないことがあります.それは,『学習』です.私が運動学習にこだわっているのはそのためです.そして,リハビリテーションの運動療法とは,患者さんの『運動学習』を促進することにほかなりません.すべての病気が,先端医療によって治療できる時代になっても,最後まで必要な医療として残るのがリハビリテーション医学だと思います.

Q4.先日(2002.2.23)のNHKスペシャルで紹介されていた公立八鹿病院のリハビリについてどう思いますか?
種々の意見が聞こえています.また,専門家として問い合わせも頂いております.大川弥生氏と同じリハビリテーション専門医の立場から申し上げますと,リハビリテーション医療自体が国民的な関心事になっていることは,その責務の重大さを感じさせ,一層の研究をしていかねばならないと勇気づけてくれる事実です.テレビ放映を見る限りでは,あの治療法の本質は,多数の療法士を配置して病棟で集中的に歩行訓練を行うことで歩行能力が獲得できる,と要約できると思います.ただ,あのような体制(病棟専属の理学療法士8人)が作れる病院はなかなかないと思います.また,集中リハビリの問題以前に,適切なゴール設定に基づいたチームアプローチをしているリハビリ病棟が少ない現状では,まずそこを改善することだけでもかなりの部分,治療効果が出せると思います.現実的に,早期に裝具療法を行わない「リハビリ」病院は少なくなく,適切な運動療法が行われているかどうかをチェックする体制がない病院も数多くあります.リハビリ医とチームアプローチを確立させた上で,いかに高いアウトカムをめざすか,という方法の一つとして,病棟だけで行う集中リハビリは選択枝の一つでしょうし,現状のチームを十分に生かしながら土日プログラムで高いアウトカムを得る方法(藤田保健衛生大学のFITプログラム)も一つの選択枝でしょう.昨今の医療情勢の中,コストの面も無視できないでしょう.また,「歩く」だけがリハビリでないことは専門家は皆考えていますし,退院時に歩けることだけに執着してしまうことなどの心配があります.1年後,5年後,10年後にどのような生活をできているか,という長期のアウトカムを念頭に置いたリハビリテーションの視点も重要かと思います.また,お問い合わせが来ましたら,このページにも追加します.

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