リハビリテーション医学とは?

『リハビリテーション科』
1996年8月12日付・医療法施行令一部改正により,「運動機能障害及び精神障害等の障害者を対象として医学的リハビリテーションを実施する診療科」として,『リハビリテーション科』を標榜科とすることができるようになりました.従来の「理学診療科」を標榜する必要はなくなり,専門的医学的リハビリテーションが医療の中でも認知されたことを示しています.

 あなたの所属する、あるいは知っている医学部に、リハビリテーション科の教室はありますか?

 ほとんどの場合はないと思います。医療改革真っ直中の医療における極めて高いニーズの割に、大学医学部でのリハビリテーション医学の占める位置はお寒い限りなのが実状なのです。(全国の大学で独立したリハビリテーション科は数えるほどしかありません。)

 リハビリテーションといえば、慢性期になっても治らない後遺症に対してだけ「あとはリハビリをやっておいて」いうような、古いイメージをもっている人も多いでしょう。また、福祉の中の医学のような錯覚をしておられる方もいるかもしれません。さらに、整形外科の先生方が多かったことから、整形外科の「おまけ」とか片手間の仕事のような言われ方をしたりすることもあります。(リハビリテーションを作ってこられた整形外科の先生方は、決して片手間にやっていたわけではないと信じています。)

さて、リハビリテーション科のイメージをわかりにくくしている理由として、対象疾患が広すぎてわからない、リハビリテーション医の仕事内容がわからない、などがあげられます。以下にそれを「わかりやすく」説明致します。

以下の図を見て下さい。

 リハビリテーション医学とは、原因のいかんにかかわらず、dysmobility動きの障害を治療する医学です。脳卒中をはじめとして、神経筋疾患、整形外科疾患、脳外傷、心疾患など、さまざまな原因で、人間は「動けなく」なります。その状態をリハビリテーション医療のチームアプローチによって改善させよう、というのが治療の中心です。

 専門各科の先生方が急性期治療からリハビリテーションと在宅へのアプローチまで一貫して治療を行うことができればいいのですが、専門各科は疾患の診断、検査、手術、急性期治療などのために大忙しです。患者さんの生活の目線になって、ADL(日常生活動作)を詳細に検討してリハビリテーション処方を行ったり、裝具やブロック治療などで運動障害にアプローチしたり、家屋を訪問して患者さんの退院後の介護の方法を検討したりする治療は、リハビリテーション医を含むリハビリテーションチームが専門的に行うのが最も効率的です。また、疾患の種類は多くても、その治療としての運動療法には、共通点が多く、まとめて一つの科で治療する方がうまくいきます。

 以下の図のように、疾患毎に縦割りになっていた診療科目を、dysmobilityというキーワードで横割りに診る新しい医学がリハビリテーション医学と言えます。とくに、dysmobilityが重要なのは、図にありますように、それがADLの低下を来たし、QOLの低下につながるからです。疾患とか臓器にではなく、一人の人間に対して全人的に医学的なアプローチをする、それがリハビリテーション医療であり、それを学問として体系づけるのがリハビリテーション医学なのです。

 

 このような医療において、リハビリテーション医はその治療内容をコントロールし、理学療法士、作業療法士、言語療法士、看護婦、義肢裝具士など各専門職とともに、患者さんのQOLの向上のための医療を進めていきます。リハビリテーション医は、米国ではPhysiatristと呼ばれ5000人以上が活躍しています。日本にはリハビリテーション専門医はまだ780人しかいません。(2002年で810名.県別リストあり.)

 具体的なリハビリテーション医の仕事は何でしょう?以前、筆者がいた東京都リハビリテーション病院の例で具体的にお話します。通常、リハビリテーション科の医師として勤務しますと、25人くらいの入院患者を受け持ち、外来でも週に1〜2回数十人規模の外来を担当します。25人くらの入院患者さんのうち、18人くらいは脳卒中の患者さんです。2人くらいが脳外傷や低酸素脳症などの脳障害、残りが脊髄損傷や整形外科疾患というのが平均的な姿でした。入院時にリハビリテーション医学的な診察を行い、予後を予測した上で、リハビリテーション処方を書きます。そこから、リハビリテーション医療が開始されます。入院時におおまかなゴールと入院期間を患者さんとご家族に説明し、納得を得ます。担当の各専門職とカンファレンスを開き、治療方針をチーム内で統一します。経過をみながら、裝具処方を行い、裝具を作成、ブロック治療、ビデオ嚥下造影検査、筋電図検査、神経因性膀胱の評価などを行います。治療期間をにらみながら、介護の状況を念頭に、家屋評価、家屋改造を指導し、病棟で介護指導を行ったり、栄養指導などを行ってから、退院して頂きます。全経過を通して、高血圧の管理、感染症の治療、糖尿病等の生活習慣病の管理、神経因性膀胱の治療、急変時の対応など全てをこなします。そして、退院後も外来でのリハビリテーションと診察が継続します・・・。

 ですから、整形外科というよりも、内科医のイメージの方が近いことがおわかりになると思います。リハビリテーション医の役割をまとめますと、

(1)dysmobilityの原因診断(なぜ動けないか?の診断。疾病診断も含む)
(2)障害診断(麻痺や嚥下障害などの機能障害だけでなく、ADLの障害の診断、社会的不利の診断)
(3)リハビリテーション処方(内容だけでなく、内容に対する「責任」をもつ)
(4)リハビリテーション治療のQuality Control
(5)リハビリテーションチームのリーダー
(6)機能予後予測(「見通し」を立てる。歩けるのか、自立できるのか、退院後の介護のイメージを早期に明確化する。)
(7)ゴール設定と入院期間の決定
(8)リハビリテーションに必要な検査の実施(採血・心電図などの一般検査の他、ビデオ嚥下造影、筋電図、歩行分析など)
(9)ブロック治療、薬物療法、裝具療法などリハビリテーションに必要な治療の実施

 これだけのことをきっちりやると、患者さんが適切な時期に、最大限の機能の状態で家に帰ることができます。逆に、内科管理をやっているだけでは、患者さんが歩けるものも歩けなかったり、家に帰れなかったりします。最近は、リハビリテーションは慢性期にやるものではなくて、早期からやることが常識になってきていますので、入院中の合併症や急変も多く、どこのリハビリテーションの先生も忙しく走り回っています。とても充実していますし、何より患者さん、ご家族、地域から「必要とされている」という実感が湧く仕事だと思います。(Domen)


兵庫医科大学リハビリテーション医学
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