コラム『理学療法士・作業療法士のプロフェッショナリズムに関する私見』

リハビリテーション科医 道免和久   


リハビリテーションのチーム医療を運営するリハビリ科医として、関連職種の動向について私見を申し述べます。

 この数年、非常に多くの療法士養成校が設立されたために、地域医療における理学療法士、作業療法士の不足は一気に解決しそうな勢いです。これは医療全体や患者さんにとって朗報ですが、当事者である療法士の方々にとっては、手放しに喜べないのではないかと危惧しています。端的に言えば就職先の問題です。医療界が現状通りの認識でリハビリ医療を継続した場合、数年後には、療法士のポストは飽和状態になると思われます。せっかく熱意ある若者が、療法士の資格をとって地域に来られるわけですから、医療界全体も、以前のように療法士の人材が確保できないという理由でリハビリ医療に消極的になるのではなく、彼らの新たな活躍の場を提供すべきだと思います。結局のところ、それが患者さんのために最も質の高いリハビリ医療を提供できるだけでなく、介護保険を有効に活用することによってきめの細かい介護予防につながるでしょう。21世紀は高齢化とリハビリ医療の時代にほかなりません。

 まず、回復期リハビリテーション病棟では、リハビリ目的に入院した患者さんが十分なリハビリを受けられるような人員配置が必要です。基準ぎりぎりの人数でまともなリハビリができるはずはありません。例えば、50床の回復期リハビリテーション病棟の場合、理学療法士1人あたりの個別治療の上限単位数18単位から計算しますと、その病棟だけで7〜8人の理学療法士、5〜6人の作業療法士、言語聴覚士2人は必要です。また、地域医療においては、もっと多くの療法士が訪問ステーション等に配属されるべきでしょう。現在、しかるべきポジションにおられる先輩の療法士の方々は、是非後進への道を切り開いて欲しいと思います。その仕事は自分の仕事ではない、と断ることは簡単ですが、あまり限定的に仕事を考えると、結局その職種の職域を狭める結果にもなりかねません。創意工夫次第では、患者さんのためにもっといろいろなことができると思います。療法士の開業権には反対ではありませんが、開業以外にもMedical Rehabilitationをしっかり見直すと、やるべきことが沢山あるはずです。

 もう一つ、危惧していることがあります。多くの療法士が回復期リハビリ病棟に配属され、病棟訓練を一生懸命行うことは良いのですが、病院によっては動作の介助が業務になっているのではないか、という心配と、そんな中でどこにプロフェッショナリズムを求めるか、という問題です。療法士が病棟ADLの中で結果として介助をしても悪くはありませんが、あくまでも「療法」の一環として動作の獲得に結びつくようなアプローチでなければプロとしてのやり甲斐をなくしてしまうと思います。各療法士のThrapeutic exerciseのプロとしての経験、生き甲斐、臨床能力 や科学的視点を重視するのが私の考え方です。リハビリ病棟を管理する医師や経営者もそこを理解してシステムを作って頂きたいところです。
リハビリ室で行う「できるADL」と病棟で行う「しているADL」の乖離を小さくするために、最初から病棟で集中的にリハビリを行えば良い、という考えがあるようですが、これは正しいでしょうか?もともと訓練室よりも低下してしまいがちな病棟ADLを重視することによって、本当は「できる」はずの能力を見逃していないでしょうか?なぜ、わざわざ訓練しにくい病棟で行うリハビリばかりを重視するのでしょうか?平行棒を使う治療、マットを使う治療、機器を使った治療等々、リハビリ室での訓練は貴重な時間であり、治療効果も高いはずです。病棟での「しているADL」を伸ばすためにも、リハビリ室での「できるADL」をもっともっと伸ばし、通説とは逆に、乖離を大きくするようなアプローチという考え方は間違いでしょうか?その上で、学習した動作が病棟でも家でも転移(transfer)するような方法を検討して、その結果「しているADL」を最大限にするように努力するわけです。

 今後も理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が確固たる専門職として、誇りをもってリハビリテーション医療の担うために、いろいろと検討すべきことが多いと思います。時流に流され過ぎた行き先がバラ色とは限りません。真実はあくまでも地道な努力の中にあり、真摯に患者さんから学ぶ態度が重要であり、冷静な分析によって到達できるものです。

 なお、当ホームページのテーマでもあるリハビリ科医が責任をもって運営するリハビリ医療と専門職のかかわりですが、何も矛盾するものではないことを付け加えておきます。リハビリ科医が存在することによって、これまで本来業務とは別に行っていた患者さんやご家族への説明がリハビリ科主治医から適切になされるようになり、責任の所在が明らかになります。したがって、本来の仕事である各療法に専念することができ、より専門性を高めることができます。さらに、チーム医療が確立するとともに、その医療機関におけるリハビリ医療が急成長することが目の当たりになるはずです。リハビリ科医と一緒に仕事をしたことがない療法士の皆さんには、何か制限されるのではないかという誤解があるようですが、そのようなことは全くありません。また、私達のグループに関しては、運動療法の研究なども一緒に進めていますので、やる気のある療法士の皆さんはいつの日か一緒に仕事ができる日をお待ち下さい。



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