リハビリテーション・ワンポイント病態生理

リハビリテーション臨床で遭遇する各種疾患・機能障害等について、その病態生理を短くまとめる勉強会を始めました。兵庫医大リハビリテーション科医局員が自己選択制で調べてまとめたレジメを公開しますので、参考にして下さい。(道免和久)


<肩関節周囲炎>                    2002.11.20  担当:兼松


五十肩、肩関節周囲炎、疼痛性肩関節制動症、凍結肩、Periarthritis scapulohumeralis、 Frozen shoulder , Stiff and painful shoulder、Painful shoulder、Adhesive capsulitis、

定義:肩関節の痛みと運動制限を主徴とする種々の疾患を含んだ一つの症候群

肩関節周囲炎の分類(信原、1979,1987,2001)
烏口突起炎、上腕二頭筋腱鞘炎、肩峰下滑液包炎、変性性腱板炎(外傷性腱板炎・腱板不全断裂)、石灰沈着性腱板炎、臼蓋上腕靱帯障害(不安定肩関節症)、いわゆる「五十肩」(疼痛性肩関節制動症)、肩関節拘縮、(腱板疎部損傷)

五十肩の定義:肩関節の痛みと運動制限をきたす疾患のうち、原因の明らかなものを除外(狭義の肩関節周囲炎/五十肩)

1872年 Duplay 外傷後に生じた肩峰下滑液包の炎症、癒着による肩関節疼痛と挙上障害をscapulohumeral periarthritisと呼んだ
1934年 Codman frozen shoulder 腱炎によって生じる癒着性肩峰下滑液包炎
1921年 Meyer 上腕二頭筋長頭腱のfraying, shedding, fasciculations, tearing
1932年 Pasteur 上腕二頭筋長頭腱腱鞘炎
1945年 Naviaser adhesive capsulitis  関節包の肥厚と癒着
1950年 DePalma 終末像では烏口上腕靱帯の肥厚・短縮が外転・外旋障害を起こす

1.退行変性が起きやすい
棘上筋腱:絶えずtensionがかかる、挙上の際に腱峰・烏口肩峰靱帯と骨頭の間をくぐる、前循環動脈と肩甲下動脈の吻合部で血行が良くない
上腕二頭筋長頭腱:結節間溝内から直角に曲がって、関節内に付着

2.炎症(freezing phase)
変性が起きた腱板は三角筋に対して微妙な筋力低下を生じ、上腕骨頭は三角筋に引っ張られて肩峰にimpingeする。→腱炎→肩峰下滑液包炎
変性した腱板のminor traumaにより腱板滑液包面の損傷→肩峰下滑液包炎
上腕二頭筋長頭腱の滑動障害→上腕二頭筋長頭筋腱腱鞘炎・腱炎

      *****これらの炎症の治癒過程が五十肩にあたる*****

3.炎症による疼痛と運動障害

4.防御的局所安静

5.肩峰下滑液包・上腕二頭筋長頭筋腱腱鞘の癒着、烏口上腕靱帯と腱板疎部の癒着、関節包の癒着・縮小

6.拘縮(frozen phase)

7.軽快(thawing phase)

*その他、関連すると考えられているものとしては、非特異的炎症・感染・糖尿病・免疫機構・線維化異常・神経原性・関節内血腫・心因性など。 
*また、Steinbrockerは、五十肩は、肩手症候群の不全形とみなした。

<痙縮Spasticity>                    2002.12.11  担当:高橋紀代痙縮(spasticity)                               2002/12/11  

「腱反射亢進を伴った緊張性伸展反射(筋緊張)の速度依存性増加が特徴の運動障害。伸展反射の過度の興奮性の結果起こり、上位運動ニューロン症候群の一つの構成要素である」。臨床神経学辞典
・病態:筋伸張反射回路のゲインの増大=伸張反射の興奮亢進により筋トーヌス、腱反射が亢進した状態。
痙縮をもたらす原因疾患の多様性や疾患の進行や緩解に伴う痙縮症状の変化などを考えると、その要因が原因疾患によって異なることや複数の要因が同時に関与している可能性も考えられる。

・伸張反射とは
筋が引き伸ばされると筋の中にある感覚受容器の筋紡錘がそれを感知して、引き伸ばされた筋が反射性に収縮する反射

・伸張反射の亢進をもたらす要因

入力側
@ γ運動ニューロン活動の亢進                
A 歛線維終末に対するシナプス前抑制の減少
B 歛シナプス伝達効率の変化
C 筋の形態学的変化による筋紡錘の感受性上昇

出力側
D 発芽現象
E シナプス後膜感受性の過敏化
F α運動ニューロンへの興奮性入力の増大・抑制性入力の減少


痙縮は錐体路が障害され、α運動ニューロンが伝達物質に対して過敏になる上、α運動ニューロン接合部においても、歛線維終末に対するシナプス前抑制の減少、歛相反抑制の不均衡、氓w}制の低下、レンショウ抑制の低下、歛シナプス伝達効率の変化、新しい発芽現象によるシナプスの再構築などさまざまな原因によって入力に対する反応が高まると考えられている。つまり、受傷後時間が経つにつれ、α運動ニューロンとシナプスにおこる適応変化が痙縮の原因となっている。
痙縮は大脳皮質運動野から脊髄運動細胞に至る錐体路だけでなく、大脳基底核・脳幹など筋のトーヌスに関与する神経核や下行路いわゆる錐体外路などさまざまな神経機構が関与する病態であるといえる。(動物実験の結果、大脳皮質運動野切除・錐体路切断単独では痙縮は起こらないことが判明している。) 

・脊髄病変による痙縮
伸張反射の興奮は徐々に亢進し、刺激により四肢には屈曲あるいは屈曲反射と伸展反射の両者が起こる。興奮が緩やかに立ち上がり徐々に亢進するのは脊髄病変により筋紡錘からのインパルスが髄節内の多シナプス神経回路を連鎖的に伝達され運動髄内のニューロンに働くため、髄節性の多シナプス伝導路が抑制されたのと類似の結果になるからである。

・脳の病変による痙縮
伸張反射の興奮亢進は急激に完成して抗重力筋パターンになり、痙性片麻痺では上肢が屈曲し下肢では伸展する。錐体路、錐体外路の複雑な機序が関与しているため、後根の切断だけでは痙縮は減弱しない。  2002 鴨下博


<注意attentionのメカニズム>     2003 1.15 高橋紀代
注意とは
競合する感覚刺激のうち一つに集中する、あるいは外的刺激に惑わされずに特定の刺激を記録する用意を持続する複合能力。見当識、探求心、集中力、動機づけ、覚醒状態がこの能力に必要である。また一方、注意それ自体が知性的で、思慮深く意味のある行動のために主要な条件である。                    臨床神経学辞典
注意のサブシステム
1. 感覚事象に定位すること(orientating)
2. 局所的な情報処理のシグナルを検出すること(detecting)
3. 覚醒状態を維持すること(alerting)

視覚注意のサブシステム
1. 視覚対象を網膜の中心かにもってくること(foveation)とそのための眼球運動をさす。さらに、眼は正面の中心を固視したままで、周辺視野のある方向に注意を向ける、いわゆる潜在的注意(covert attention)も含まれる。
後部頭頂葉、視床、上丘:後部システム
2. 視覚対象の検出・同定  前頭葉と前帯状回:前部システム
3. 覚醒維持システム=意識水準の維持の中枢 脳幹、中脳、右側の後部頭頂葉

視覚注意の定位のメカニズム
2種類の注意反応
1. 顕在的(overt)反応:目や手の運動表出を伴う反応。
2. 潜在的(covert)反応:体験などに基づいた内的過程を選択したり、外部からの刺激に対する準備状態を作る目に見えない反応。

顕在的反応の報告 (Mountcastle 1981)
固視点に注意集中している時にサルの後部頭頂葉ニューロンの光反応性が増強される。
潜在的反応の報告 その1(Bushnell 1981)
目標を注視しているとき、別の光刺激を周辺視野に与えたときの反応は弱いが、その光刺激が目の動き(サッケード課題)や手の動き(手の到達課題)の目標となった場合には後部頭頂葉ニューロンの光反応が著明に増大した。固視点を注視させたまま周辺の光刺激が暗くなったことに反応させる周辺注視注意課題でも後部頭頂葉の反応は増大していた。

潜在的反応の報告 その2(Goldberg 1981)
前頭眼野のニューロンではサッケード課題、手の到達課題ではいずれも光反応の増強がみられたが、周辺注意課題では増強は得られなかった。
頭頂葉に比べ、前頭眼野のニューロンは注意そのものよりも眼球運動や手の到達運動の指令に関係している。図14.2

ヒトにおける視覚注意のメカニズム (Corbetta 1993)
PETを用い、サッカード課題では上頭頂葉(ブロードマン7野)、上前頭葉(6野)に活動が増えたのを確認した。
周辺視野の刺激を行っても中心の指標に注意を向け続けるように指示した場合には頭頂葉で賦活像なし。
中心指標を提示せずに、中心固視を義務づけておいて、周辺に刺激を与える受動的課題の場合、上頭頂葉での活動あり。
予想に基づいた随意的、積極的な視覚注意の移動には上頭頂葉、上前頭葉の活動性が増加。 図14.1

頭頂葉は感覚的注意に、前頭葉は運動指令的・意図的注意に機能分化している。


<失語症>         2003.1.22     
右利き失語症例の99%は左半球損傷、左利き失語症例の60%が右半球損傷

分類と責任病巣
1:Broca失語:non-fluent,単語レベルの理解は良好、復唱不良
Broca領域(下前頭回の弁外部と三角部)と中心前回下部を含む全頭葉、島前部、側頭葉前部、頭頂葉の一部の皮質と皮質下および側脳室周囲の白質を含む深部病変でおこる。全失語より回復して、持続性のBroca失語に至る例が多い。BROCA領域のみの損傷では失語は軽度である。

2.Wernicke失語:fluent,中等度以上の理解障害、復唱不良
主に上側頭回の後部を中心としうて部位をさすようだが解剖学定義は一定しない。
典型的ウェルニッケ失語は左側頭葉後上部を中心とし、縁上回・角回にも進展する損傷で起こる。

3.全失語global aphasia :non-fluent, 単語レベルの理解不良、復唱不良
ブローカ失語の病巣とウェルニッケ失語の病巣の両方が損傷されておこると考えられ、やや前方よりの病巣では経過と共にブローカ失語に移行すると言われた。しかし、最近の研究ではウェルニッケ失語の病巣が含まれないか小さい前方病巣、前頭葉損傷が小さい後方病巣、比較的小さな深部白質病巣でも全失語が起こることが示されている。

4.伝導失語conduction aphasia:fluent, 理解障害なしまたは軽度、復唱不良
Wernicke野とBroca野を結ぶ弓状束の障害を含む病巣、縁上回を中心とする下部頭頂葉病巣が多い。

5.健忘失語amnestic aphasia:fluent, 理解障害なしまたは軽度、復唱良好
健忘失語の病巣はさまざま。前頭葉、側頭―頭頂葉に大別。

6.超皮質性失語群
1)超皮質性運動失語
 前頭葉背側、補足運動野を含む前頭葉内側面、白質(左側側脳室前角前外側部)
2)超皮質性感覚失語
 側脳−頭頂−後頭葉接合部、後大脳動脈領域、側頭葉(Wernicke野を含む)、前頭葉
3)混合型超皮質性失語
 「言語野孤立」―――シルビウス溝周囲の言語領域がいわゆる概念中枢から孤立して生じるとされてきた。低酸素脳症、一酸化中毒など
 

トップへ