運動制御 Motor Control

運動制御 Motor Controlの研究ほど、さまざまな角度から研究されている、あるいは研究が必要な分野はないかもしれません。種々の方法論による神経科学、筋電図などの電気生理学、動作分析学、体育学、スポーツ医学、心理学、生体工学、ロボット工学、そして最近の計算論的神経科学、さらに運動障害を研究し治療するリハビリテーション医学などがそれにあたります。

運動制御の研究が一筋縄にはいかない最大の理由として、不良設定性の問題があげられます。不良設定性は、冗長自由度、ベルンシュタイン問題など様々な呼ばれ方をしていますが、以下に少し説明しましょう。


テーブルの上のりんごをとる運動を考えてみましょう。そのとき手先の通る軌道は、左の図のように無数に考えられます。
それでは、軌道が一つに決まったとします。ところが、各関節角度の組み合わせは、真ん中の図のように、また無数に考えられます。
それでは、関節角度も一通りに決まったとします。ところが、関節に働く筋肉の張力の組み合わせは、右の図のように、またまた無数に考えられます。
このように無数に解が存在するような問題のことを、不良設定問題ill-posed problemといいます。これは、筋骨格系の自由度が多すぎること( 冗長性)から生じるものです。ロシアのベルンシュタインは50年以上前に同様な問題を指摘しましたので、ベルンシュタイン問題ともいいます。
驚くべきことに、中枢神経はこのような問題を解いているのです!つまり、無限に存在する解の中から、一つのものを選択しているのです。Latashは、「ベルンシュタイン問題とは、つまり選択の問題である。」と言っていますが、その意味がよくおわかり頂けるかと思います。
それでは、中枢神経はどのような法則に基づいて、この選択を行っているのでしょうか?
ベルンシュタインは、いくつかの筋群の間にシナジーsynergyが存在することで、自由度を減らして問題を解決していると言っています。最近研究が盛んな計算論的神経科学では、何らかの評価関数を最小にする(最適化)するような制御理論が次々に出されています。

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