医療改革

リハビリテーション総合実施計画書(2002.4.10up)
 リハビリテーション総合実施計画書1
 リハビリテーション総合実施計画書2
リハビリテーション総合実施計画書を,最終的に医師が患者さんまたはご家族に説明してサインをもらう,という制度は,リハビリを専門としない医師の『おまかせリハビリ』をなくすためには,良い方法であると思います.ただし,これは回復期リハビリテーション病棟における計画書をそのまま流用している点で,急性期病院での早期リハビリテーションの患者さんや整形外科疾患の患者さんに全く不向きな内容を含んでいるのが実状です.様式を削ることはできませんので,これをベースに,さらに必要な項目を追加することで,より良い計画書にするようにしたいものです.このファイルはそのためのひな形にして頂ければ幸いです.
現状を申し上げますと,全ての患者さんにこれを記入し説明しサインを頂く,という業務によって,依頼のみで200例近い大学病院の業務は倍近くに膨らんでおります.計画書を書いた患者さんが数ヶ月入院するのではなく,平均10日弱でどんどん入れ替わるためです.多い日は1日に10通くらい記入し,説明することもあります.しかし,これは総合リハビリ施設での義務ですから,省略することはできません.リハビリ医がこれまでやってきた無形の行為を具体化したものとして,前向きにとらえるようにしています.


診療報酬改定の印象3(2002.3.30up)
リハビリテーションに限らず,診療報酬全体が,病院の機能分化を促しているように見えます.医療システム全体にメリハリをもたせることが,全体として質を落とさずに医療費を削減することにつながる,という意図だと思われます.ただ,短期的には,各科とも相当のマイナスになることや,個別の医療機関からみると死活問題であることから,4月を前に議論が各所で沸騰しているようです.リハビリでも,はっきりと「勝ち組」と「負け組」に分化していくでしょう.大切なことは,個々の療法で診療報酬がいくら上昇したとか,減少したということではなく,良心的で高度なリハビリが介入することによって,その医療機関の医療全体が効率的に回転し,患者さんが最高の機能に達すること,そして,患者さんのQOLが向上して,満足度が増すことです.リハビリという付加価値があってはじめて,患者さんに選ばれる医療機関となることができるのです.今回の改訂では,以前から不採算部門とされてきた言語療法において,言語聴覚士を3人以上雇用して,失語症や嚥下障害の患者さんの治療を真面目にやってきた病院には,施設基準で差別化する「報酬」が与えられました.高い施設基準をとれるだけの人員を揃えた病院が,今後のリハビリ医療における主流になり,病院経営上の牽引役になれるでしょう.逆に,最小限の人員で,リハビリに水揚げだけを求めてきた医療機関は,最も厳しい時期に投資するか否かの難しい選択を迫られることになります.医療経済的にリハビリを分析する場合,リハビリにより早期に退院できる効果や,リハビリつき専門医療を求めて患者さんに選ばれるメリットなどを総合的に判断しなければなりません.


診療報酬改定の印象2(2002.3.26up)
療養型での集団治療が,いわゆる「まるめ」になってしまったため,療養型でリハビリを行ってきた施設では対応に苦慮しているようです.個別治療は認められますので,回復期リハビリ病棟に近い発症から早期の対象者が多い療養型では,入院初期のリハビリは算定されるものと思われます.いずれにしても,発症後1年以上もたっているのに,療養型に長期入院してリハビリを行ってはいけない,ということのようです.「リハは慢性期」という誤解を解き,どんどん急性期や回復期にシフトするのは悪くはありませんが,維持期での外来リハビリも間歇的には有効ですので,完全に切り捨ててしまうことはできないと思います.
STの改訂では,施設基準1はSTが3人以上なので,現実的に基準をとれる施設は少ないと思っていましたが,民間病院も含めて,非採算の時代から3人以上のSTで良心的なリハビリを行っている施設は相当数あるようです.そういう病院では,今回のSTの報酬改定は最大のご褒美ということになります.STは大病院でも1人という時代は去ったということでしょう.嚥下リハビリの重要性とその肺炎予防効果の医療経済的意義を考えれば,当然のことと思われます.急性期病院でも,10人近い言語聴覚士がを走り回り,嚥下障害にアプローチする時代がすぐにやってくることでしょう.大病院でも包括払いが導入されますと,肺炎などの合併症を予防しないと苦しくなってくるからです.STの改訂で判断できないで困っていることは,専任の医師1名,の解釈です.情報収集したところでは,都道府県によって,兼任でもいい,完全に専任でなければ不可,など対応が異なるようです.


診療報酬改定の印象1(2002.3.24up)
いくつかの病院の対応を聞いた印象では,やはり,療養型でリハビリの出来高をあてにしていた病院に危機感が強いようです.一方で,リハビリに先駆的に取り組んできた病院では,言語療法の部屋の基準(16m^2以上)の対応に困っている他は,やや厳しいという程度の反応です.回復期病棟を含めて専門的リハを行っている病院は,さらに発展して行くと思われますが,逆に,「過剰病床」をなくす目的で改訂され続けている制度の後追いをして,リハビリで収支のつじつま合わせをしてきた病院は,いよいよ正念場を迎えようとしているようです.また,地域的にも,前者の医療機関を多く有する地域では,患者さんが必要な時期に必要なリハビリ医療を受ける機会がさらに増えるでしょうが,後者の医療機関が多い地域では,患者さんは,ますますリハビリ医療を受ける機会を失い,「寝かせられたきり」になってしまう可能性が高まるでしょう.制度は全国一律で改訂されますが,制度についていける地域とそうでない地域で,制度のめざす姿が実現できたり,全く理念と逆に動いてしまうことになるようです.もちろん,そんなことにならないように,リハビリ医療の重要性を啓発する努力をしなければなりません.


診療報酬改定に関する緊急情報(2002.3.16up)
リハビリテーション関連の診療報酬改定に関する緊急情報が,東京都理学療法士会のページに掲載されています(関係者のご努力に感謝します.).やはり,療養型病床の介護施設への転換を強く推進する方針が具体化されたものと言えます.しかし,人的資源を投資しながら,早期からリハビリテーションを行う施設にとっては,療養型ほどの大きな影響は出ないと思われます(まだシミュレーションはしていません).また,早期リハビリテーションの加算が拡大された(脳血管疾患、脊髄損傷等の中枢神経外傷、大腿骨頸部骨折、下肢骨盤等の骨折、上肢骨折又は開腹・開胸手術後の患者)ことで,急性期病院での廃用予防が徹底されるものと思われます.回復期リハビリテーション病棟も,引き下げ率は最小にとどまっているようです.すでに,「診療報酬改定のポイント」という記事でも指摘されている通り,「医療行政の方向性をいち早く捉え、それに見合う経営を実践してきた医療機関では、相応の「ご褒美」が与えられることになるはずだ。ただ、そのご褒美の原資となるのは、その他の医療機関のマイナス分である。」という点を理解し,各医療機関は早急に適切な対策を考える必要があります.早期リハビリテーションの充実,回復期リハビリテーションの推進,療養型病棟の介護施設転換,という基本姿勢に変化はないようです.

リハビリテーション関連診療報酬改定情報(厚労省情報リンク集)(2002.3.9up)

概要
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/02/tp0222-1a.html


改正案目次
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/02/tp0222-1d.html


うち点数表2章4部−7部(画像−リハ)
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/02/dl/tp0222-1d13.pdf


基本診療料
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/02/dl/tp0222-1d8a.pdf
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/02/dl/tp0222-1d8b.pdf
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/02/dl/tp0222-1d9.pdf

指導管理
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/02/dl/tp0222-1d10.pdf

在宅 検査
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/02/dl/tp0222-1d11.pdf
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/02/dl/tp0222-1d12a.pdf
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/02/dl/tp0222-1d12b.pdf



*追加コメント:厚生労働省の医療制度改革試案が発表されました。下記の文章に近い内容(あと15年後には、急性期病床は半減という試算)が公式に発表されたことになります。リハビリについては、『医療ニーズの高い回復期のリハビリテーションを専門に行う病床(回復期リハビリテーション病床)』と明確に記載されています。(2001.9.26up)

病床過剰・医師過剰時代の選択   2001.7.7up

 第4次医療法改正が行われ、医療改革の波は今後も速度を増すものと思われます。構造改革の時代の中では、医療も例外ではありません。(国民が必要とする医療がGDP比でどの程度か、などの議論はここでは致しません。時代の流れをそのまま記述することにします。)

 下の図を見るとわかる通り、日本は諸外国に比較して、入院期間が突出して長いことがわかります。これが日本の医療が非効率的であることの現れと断言するわけではありませんが、少なくとも平均在院日数を減らして諸外国並に近づけることにより、医療費を節約できることは明らかです。すでに医療法改正の中、この取り組みが全国の病院で実施されて、大きな変革の波となっていることはご存じの通りです。

 さて、平均在院日数が減ることは何を意味するのでしょう?200床の病院が平均40日の在院日数でベッドを回転させていたとします。同じ病院が平均20日でベッドを回転させれば、単純計算でベッドが400床になったのと同じ効果が生まれることになります。これを全ての病院が同じように実施した場合、日本中の病床数が、2倍にふくらんだのと同じことになってしまいます。入院すべき患者さんの数が一定としますと、日本中で病床の半分が『過剰』ということになるわけです。もちろん、ここまで極端な試算はありませんが、日本国内の126万床の病床数のうち、7万5千床は『過剰病床』であると、公式に言われています。医療改革が進み、平均在院日数が20日台になった場合、30万床くらいは『過剰』であるという試算もあります。つまり、4分の1の病床が『過剰』というわけです。

 皮肉なことは、個々の病院が基準通りに、ベッドを回転させて経営努力をすればするほど、全体としてさらに『過剰病床』数が増加する仕組みになっていることです。そして、その基準を満たせなくなったとき(患者数が確保できない、基準を満たす看護婦が確保できない・・・など)、その病床は国に返上する、つまり、削減される、ということになります。これも善し悪しは別にして、巧妙にできた仕組みと思われます。

 過剰病床の次にくるものは、当然のことながら『医師過剰』です。現在、医師数は25万人を越え、毎年6千人増加しているそうですが、そのうち、4万人以上が今後過剰になると言われています。6〜7人に1人の医師が『過剰』ということになります。

 このような厳しい状況の中、『必要とされる医師』はどんな医師か、ということをよく考えて進路を決めなければなりません。超高齢化社会、在宅介護、医療改革、介護保険・・・これらの流れは、いずれもリハビリテーション医療の推進と同じ方向に向いています。救急から長期療養まで中小の地域病院が全部やって採算がとれるような従来型の医療は困難な時代になってきました。

下の図は、専門医数の日米比較(人口10万人あたりの医師数を算出して比をとったもの)を示しています。専門医でなくても、リハビリテーションマインドをもった素晴らしい医師は沢山いらっしゃいますが、比較のために専門医数で検討しました。

疾病構造、医療制度、人口構成などの違いにより、比がそのまま医師の充足度を示しているとは限りませんが、リハビリテーション専門医が極端に少ないことがわかります。現在日本全国に780人しかいません。高齢者の比率が日本の方が高いことを考え合わせ、米国並み以上に専門医を充足させるためには、少なくとも3000人くらいは必要なのではないか、と個人的には考えています。(毎年30人程度が専門医試験に合格していますので、充足するまでに、あと100年はかかる計算です。)

 この数字が面白いのは、最近話題になっている『回復期リハビリテーション病棟』との関連です。回復期リハビリテーション病棟は、発症後3か月以内で集中的なリハビリテーションにより効果がある患者を中心に、50床程度の病棟を単位に構成されるもので、各病棟には、リハビリテーション科の医師が必ず(少なくとも)1名はいなくてはならない、という基準になっています。入院費の基本が包括払いですが、リハビリテーション治療については出来高のため、フルに稼働すれば病院経営改善の切り札になるほどの制度になっています。『寝たきり』を防ぎ、『介護予防』を実現するリハビリテーション医療を、国が本気になって推進しようとしていることの現れでしょう。詳細は省きますが、将来の日本の病院の病床は、急性期が60万床、回復期リハビリテーション病床が15万床に集約されるという説があります。15万床が50床の病床からなるとして、3000床の回復期リハビリテーション病棟が必要になります。最低線ですが、ここに1名のリハビリテーション専門医が配置されると、ちょうど上述の数字3000人、と一致します。専門医だけでは、これだけのニーズを満たすことができないことは明らかですので、『リハビリマインド』をもった認定臨床医あるいは若い医師も一致協力して、重要性が益々増大するリハビリテーション医療を支えていかなければなりません。

 リハビリテーション専門医不足の最大の原因は、人材を育てる大学が極めて少ないことです。国立大学で講座がある大学がごく少数しかなく、全国の私立大学も十分に専門医の育成を行っている大学は多いとは言えません。当教室は、このような状況を少しでも改善すべく、しっかりとした研修医教育から教育関連病院での研鑽、さらにEBMをめざした研究指導を行って、地域のリハビリテーション医療を支えられるリハビリテーション専門医の育成に取り組みはじめたところです。

 一人でも多くの人に入局して頂き、親身の指導で立派なリハビリテーション専門医になって欲しいと切望しております。

『リハビリテーションは慢性期』は時代遅れ   2001.8.3up

 リハビリテーションのイメージは、この10年で大きく変わりました。私が研修医の頃(15年前)、リハビリ病院の多くは温泉地にあり、一般病院の入院期間もさほど短くなかったため、数ヶ月経過しても麻痺が治らないから、そろそろ温泉病院でリハビリをやろうか、というのが一般的だったと思います。温泉リハビリ病院には、入院判定会議なるものがあり、それで認められてからもしばらく入院待ちの状態。1か月ほど待ってやっと『リハビリ』が始まる、というペースでした。
 発症後、数ヶ月してから入院するなんて、最も麻痺が回復する時期の大切なリハビリの時期を過ぎてしまっています。私は、当時から、リハビリは急性期病院でこそ行うべきだと思っていました。廃用症候群を起こさないように、発症当日から、可能なリハビリは全部行う。それでもなお、麻痺が残存する場合は、一般病院内のリハビリ科で、リハビリを継続する。さらに、高度のリハビリが必要な場合だけ、遠隔地のリハビリ専門病院でリハビリを継続する、というのが理想だと思っていました。
 医療改革の中、今、まさに当時理想と考えてきたシステムになろうとしています。超早期リハビリは、発症後1週間までのリハビリですが、高齢者ではあっという間に廃用症候群となり、疾患がなおっても廃用が命取りになることを、医療システムの中で警鐘をならす素晴らしい制度だと思います。さらに、発症後1か月までを早期リハビリとして、医療保険制度でも推進する流れになっています。そして、上述した『回復期リハビリテーション病棟』は、真にリハビリが必要な人に対して、十分なリハビリをしっかりしたスタッフを揃えて、一般病院の中でも推進していこう、それに必要な診療報酬上の措置をきちんとしよう、という制度です。

 このように医療保険制度の中でも『発症後半年たったからそろそろリハビリテーション』というのは全く古い考え方となっています。ところが、急性期病院の先生方で、このことを全く理解していない先生が少なくないことに驚いています。回復期リハビリテーション病棟に多くの病院が参入してきていますが、ある程度充足されてきたとき、この流れに乗り遅れる病院の多くが淘汰されてしまうのではないかと心配します。
 医療改革で、慢性期病床がどんどん削減されていく中、早くから回復期リハビリ病棟の導入の重要性に気づいた病院は、生き残れると思います。
 ここでも、結論は前節と同じなのですが、回復期リハビリテーション病棟の担い手、つまり、リハビリテーション専門医(あるいは、専門とする医者)が不足しているのです。1病棟50床としたとき、リハビリ医療に真面目に取り組めば、最低でも4人のリハビリ医が必要だと思います。制度上は、最低1名の専従リハビリ科医師、となっていますが、これは1名いれば十分という意味ではありません。在宅への道筋をつけるために主治医としてリハビリ医が行うべきことは、極めて多いのです。回復期リハビリテーション病棟により、昔のような『リハビリテーションは不採算部門』という時代は過ぎ去り、『リハビリテーションは先進の高額医療』となってきました。経済誘導によってしか、現場の医療が動かなかったことは残念ですが、いずれにしても、時代の流れとして望ましい方向になっています。この流れに乗って、リハビリ医療が浸透し、患者さん、ご家族が少しでも幸せになるために、今、最も必要なことは、『リハビリテーション医を育てる』ということだと思います。これは急務の課題です。
 現在、多くのリハビリテーション医を育てている大学は、数えるほどしかありません。大学では、臨床も教育も研究も全て重要ですが、医療と解離して医学部は存在し得ないわけですから、『人材育成』を最大限努力しなければなりません。
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