リハビリコラム No.1 不足するリハビリ医
             リハビリ病棟を開設したいがリハビリ医がいない!

リハビリテーション医 道免和久


 リハビリテーション医学の系統講義が行われていない大学がいまだに多く存在します。そのため、多くの医師は、リハビリ医学や医療について、ほとんど知識がありません。したがって、リハビリ科の講座がない大学も多く、人材育成も進んでいません。一方、地域医療においては、高齢者、障害者のための医療を実践するリハビリ医のニーズが爆発的に増加している現実があります。私たちはそのような状況を放置しているわけではありません。積極的な啓発活動を行い、人材育成にも力を入れていますが、まだプロジェクトは始まったばかりです。
 ここに、不足するリハビリ医の現状について、私たちのとらえ方を述べます。

■地域医療におけるリハビリ医不足

 私たちは、関西のみならず、中国、四国地方からも、毎週のようにリハビリ医派遣の依頼を頂いております。何としてもリハビリ医を確保しなければリハビリ病棟を運営できない、という病院経営者の皆様の切迫感をひしひしと感じます。まずは、すぐにご要望にお応えできないことに対し、お詫び致します。
 一昔前まで病院のリハビリ科は、他科医師の兼任でも何とか運営されていたようですが、現在は医療保険制度上も、専任のリハビリ医の確保が義務づけられています。総合リハビリ施設の認定のために専任医2名以上(総合Iの場合、兵庫県では3名以上)、回復期リハビリテーション病棟の専任医1名以上が制度上必要であり、実際に主治医として患者さんを受け持つ場合には、およそ20床あたり1名のリハビリ医が必要と私たちは考えています。
 全国的にもリハビリ医が不足している中、これだけの人数のリハビリ医を確保することは、ほとんど不可能です。本業が脳外科や神経内科等の先生方が、やむなく回復期リハビリ病棟を運営している場合は珍しくありません。障害の診断や運動療法、さらに装具療法の専門でない先生方にとって、リハビリ病棟の管理は大変なことです。
 私たちは何とかそのような状況を改善したいと考えております。そのために、大学医局の枠組みとは別に、リハビリ医育成のためのプロジェクトを立ち上げ、近隣の病院を中心に7病院に人材を供給しています。プロジェクトメンバー(いわゆる医局員)も、プロジェクト開始後わずか4年で21名になろうとしています(伸び率でおそらく日本最大のリハビリ診療科グループです。)。もちろんこれでは全く需要を満たすことはできませんが、一人一人を大切に地道に育てるしか方法はありません。リハビリマインドをもつ本物のリハビリ医を育てることが、最終的には地域医療にとって最もプラスになると思います。どうぞ、私たちの人材育成に対する熱意をご理解の上、今しばらく御辛抱下さい。(現状の需要から100名以上の診療科グループに成長することが地域から期待されていると思われます。医師全体のリハビリ専門医指向を考慮しますと、あと5年程度で50名は可能と予測しています。なお、私たちが新たに伺う病院を検討する際のキーワードは、『真摯な医療』『チーム医療を学習する柔軟性』『リハビリ医療への熱意』『人材育成を助ける病院の特色』などです。地域の患者さんのためにも、ご理解のほどお願い申し上げます。

(それでも、専任医を今すぐにでも確保したい、という場合、2つの方法があります。1)リハビリ医療を担当する予定の医師を病院で確保して頂き、定期的にリハビリ医育成のためのプロジェクトの臨床や勉強会で研修して頂く。(この場合、その先生のバックグラウンドは問わずに御指導致します。)2)1〜2年後に病院に戻る条件で、病院固有の医師を医局に研修に出して頂き、かわりに医局の医師がリハビリ医療の立ち上げのために病院に常勤で勤務する。交換留学のような形です。これが可能になるためには、当プロジェクトとしてもさらに多くのリハビリ医の育成が必要ですが、将来的にはリハビリ医療を定着させるためには良い方法かと思います。)

■大学病院におけるリハビリ医不足

 リハビリ医不足は、地域医療に限らず、大学病院でも深刻です。もともと大学病院では、リハビリ医のポストが極めて少なかったことも一因ですが、仮にポストを増やしたとしても、どこを探してもリハビリ医がいないために、ポストを埋めることができないという事情もあります。回復期リハビリ病棟は、市中病院だけでなく多くの大学病院で検討課題になっていますが、最大な難関はリハビリ医の確保です。
 そもそも大学は専門的医師の育成機関でもありますので、全国どの大学でもリハビリ医の育成をすべきところです。しかし、多くの大学で、リハビリ科が独立した診療科となっておらず、独立して医師を育てていても、二桁のオーダーでのリハビリ医の育成をしている大学はごく少数です。また、しっかりした教育を行っているところも、学位取得や研究が主目的で、民間病院を中心とした地域医療に多くの人材を供給するという使命感にあふれている、とは言えない状況です。
 大学には、先端医療の研究を行う使命はもちろんありますが、優れた専門的な臨床家を育てる役割もあるはずです。リハビリ医療を担うより多くの専門医が、地域のリハビリ専門病棟を支えることができていれば、大学でしか経験できない疾患などについて研修を深めるために、活発な人事交流が可能になります。そのような体制を作れば、大学病院におけるリハビリ医不足は一気に解決するはずです。
 リハビリ医療全体から言えば、大学病院は決して主役とは言えませんが、人材育成のための拠点となることはできると思います。また、そのようになることが望まれて*います。

*ある病院の事務長さんが回復期リハビリ病棟の専任医を求めて、近隣の数大学にあたったところ、まったく「リハビリ医」という認識すらない大学もあったと聞きました。もちろん独立したリハビリ科をもつ大学はゼロでした。このような事態を大学は何とかしなければならないと思います。

■リハビリ医を育成できるシステムの不足  

全国には本当に立派な仕事をされているリハビリ医が沢山いらっしゃいます。また、大学等の大病院で、たった一人でリハビリ医療を担っておられる先生もおられ、現在のリハビリ医療界はそのような先生方の御努力の賜物だと思います。
 私たちは、一人だけで大病院の医療を支えるほどの力はまだないかもしれませんが、「リハビリ医の育成」という点にはこだわりがあります。目に見えないリハビリ医療の教育は難しく、特にリハビリマインドが育たなければ、知識だけあっっても患者さんのためになる医療はできません。リハビリ医としての基本を身につけるためのノウハウ自体を追求し、共有することによって、一人一人が地域医療を担えるリハビリ医に育っています。また、臨床に役立つ研究を行うことによって、より深く患者さんを理解するための目を養っています。そしてここを卒業したリハビリ医が、別の地域でより多くのリハビリ医を育成できるほどになって頂くように努力しています。
 私たちはこのようなノウハウを独占するつもりは全くなく、将来的には全国に同様のシステムが出来上がることを願っています。それが最終的には、地域医療のためであるからです。そのための出版活動にも力を入れています。これまで同様に私たちの活動に御支援を頂ければ幸いです。


先端リハビリテーション医学研究会


リブレースクリニック(装具外来)での検討風景

 

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