【開講科目名】臨床医学判断学入門(Medical Decision Analysis)
〜なぜ治療方針が異なるのか?

【担当者】リハビリテーション医学 道免和久


(1)履修学生の心構え

 本科目では,少人数のゼミナール方式で医学判断学(Medical Decision Making)について学ぶ.授業というより,各仮想症例を担当するグループ毎に考察と議論を深めるようなグループワークと考えて良い.臨床における治療方針の意志決定(Decision Making)の分かれ目になっている因子が何かを知ることが科目の目標である.学年相応の基礎知識があれば,履修可能なように柔軟に内容を組み立てるが,講義時間以外にインターネットや図書館での文献検索を行うため,自主的に学ぶ姿勢が必要である.考察を通して,全人的医療を行うために必要な,多因子を考慮して意志決定する姿勢を身に付けていく.したがって,自ら問題意識をもって,患者の治療方針を真剣に考える心構えで望んでもらいたい.

(2)授業概要

 医学は不確実性の科学("science of uncertainty")であり,確率の技術("art of probability" )と呼ばれている.臨床場面では,100%確実に結果が決まっている治療法はない.特に治療結果が患者のQOL(人生の質)にかかわる場合,その判断には多くの因子が複雑に絡んでいるため,一つの方針に決定することは容易ではない.このような不確実性の条件下において治療方針を決定するためには,できるだけ合理的かつ論理的に考える必要がある.その方法が,EBM(Evidence Based Medicine)の根幹の方法論と言われる医学判断学である.医学判断学では,治療方針の決定に必須の因子(治療結果の価値の評価,治療結果の確率的データなど)を集め,感受性分析などによって,治療方針決定についての考察を行う.
 5回の授業のうち,初回は医学判断学の概要の説明と仮想の症例呈示(数名で1例).症例としては,臨床上も治療方針が分かれやすい(主にリハビリテーション医療にかかわる)症例を準備する.2回目に各症例の治療方針についての議論を行う.議論をもとに,インターネットや図書館での文献検索を行い,得られた資料をもとに3回目と4回目でEBMのためのデータとして利用する方法をグループワークの中で学ぶ.5回目に治療方針について,グループ毎に発表してまとめる.方法論そのものよりも,臨床上の問題を自分で考える能力を養うことに重点を置きたい.参考書はあらかじめ指定しないが,理解を深めるために期間中に講義あるいはホームページ(www.neuro-reha.org)の中で紹介する場合もある.

(3)リハビリテーション医学と医学判断学

 医学判断学による症例検討を行うとき,最終的に問題となるのが,治療結果の質であり,具体的には,ある治療を受けたらどんな生き方ができるのか?という患者側からみたQOLである.QOLを考えるにあたって重要な要因は,機能予後と生命予後である.つまり,治療の結果,どんな状態で,どのくらい生きられるか,という両面の情報が患者にとって必要である.たとえば,在宅介護で1か月の命と入院して3か月の命を比較するような,単なるlife yearではないQuality adjusted life year の考え方が必要になることは珍しくない.生命予後については,多くの文献的データがあるが,機能予後,つまり,ADL(日常生活動作)予後については必ずしも十分でなく,患者にとってイメージしやすいデータとは言えない.リハビリ医療は,ADLそのものに対しても治療的アプローチを行う医療であり,常に患者の生活と人生をみながら治療方針を考える.リハビリ医学として医学判断学にかかわる理由はここにある.
 本科目を通じて『病気をみるのではなく、病をかかえた人をみる』姿勢ができ,全人的医療を実践する基礎ができることを望んでいる.


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