トップへ

脳卒中後片麻痺上肢の集中訓練
Constraint induced movement therapyについて
『麻痺側上肢集中訓練プログラム』CI療法

  兵庫医科大学リハビリテーション医学教室 道免和久
 (元)兵庫医科大学リハビリテーション部作業療法士 佐野恭子

2005年6月13日読売新聞(東京本社版)<最新医療>で紹介されました。読売新聞→医療と介護→最新医療から入って下さい。


CI療法をご希望の方へ

新聞報道後、お問い合わせが殺到しております。現在、兵庫医大および兵庫医大篠山病院におけるCI療法の適応は以下のようになっておりますので、まず以下の必要基準を満たしているかどうかをご確認下さい。
(1)麻痺している側の手首が、手の甲の側に20度以上動かせること、
   なおかつ、親指を含めた3本指が10度以上伸ばせること

必ず<適応基準の説明図>をご覧ください。

(2)日常生活は片手動作(麻痺していない方の手)で自立していること。

(3)基本的なリハビリが終了し、すでに一人で歩いていること。

(4)ご自宅で暮らしていること。(病院入院中や施設入所中でないこと)

(5)患者さん自らが、CI療法について理解した上で、希望されていること。

(6)長時間の集中訓練のストレスに耐えられること。

(7)血圧やその他の病気が安定していること。

* かなり厳しい基準のようですが、他の施設ではさらに(1)の麻痺の基準が厳しくなっているようです。麻痺していない方の手を三角巾で固定し、長時間の集中 訓練をしますので、上記の基準を満たさない場合には、転倒、ストレス、胃潰瘍、再発などのリスクが高まることも予想されます。どうぞご理解のほどお願い致 します。
*通常の「早期リハビリ」とは異なり、手のCI療法は慢性期のどの時期でも可能です。まずは、基本的なリハビリが終了してからで遅くありませんので、現在、基本的なリハビリを受けておられる方は、そちらを優先させて下さい。
*決して「奇跡の治療法」ではありません。麻痺が完全に治るわけでもありません。また、途中で中断される方、最後まで治療しても改善しない方もおられます。


*専門的な背景については、総合リハビリテーションに執筆した総 説を御覧下さい。

*国内で多数の患者さんに実施しているのは当院の他にごく少数ですので、研究段階の治療として御紹介しています。しかし実は、脳卒中治療ガイドライン(暫定版改訂版)にも載っている、欧米ではスタンダードな治療法(強く推奨される実施しなければならない治療法)です。

  脳卒中でみられる症状として多いのが片麻痺、つまり、片方の上肢と下肢の麻痺です。下肢の麻痺が残る場合、歩くために装具をつける治療がスタンダードに なっています。しかし、上肢の麻痺については、大変難しい問題があります。それは、ごく軽い麻痺が残っているだけでも「実用的に」手を使えるようになるこ とが少ない、ということです。
 この問題に対して、リハビリ医療では2つの側面からアプローチしてきました。1つは、できるだけ麻痺した上肢を訓練すること、もう1つは、麻痺していな い方の上肢(健側上肢といいます)で代償することです。2つのアプローチはうまくバランスがとれていれば良いのですが、結局「実用的に」ならないなら、最 初から健側を使う訓練をした方が早い、と考える医師や療法士も少なくありません。その方が早く着替えや食事などの日常生活動作が改善するからです。普通、 リハビリ医療では治療効果を判定するために、日常生活動作を点数化しています。ですから、健側上肢による片手動作ばかり訓練した方が、より点数が上がりや すく、「効果的な」治療ということになります。

  その結果、患者さんからは「麻痺している方をリハビリしてもらいたいのに、いつも麻痺していない方の使い方ばかりを訓練されてしまう」という御不満がしば しば聞かれました。当然のことと思います。麻痺している手を動かしたいと思うのは、人間の自然な感情であり、いくら「理論的に」治らない、と言われてもす ぐに納得できることではありません。ところがこのような場合に、「いつまでも障害の回復に『固執』している」とか「『障害受容』ができていない」などとい う言葉で片付けられていることが少なからずありました。人の心を理解しない医療者の言葉に、大変傷つけられる患者さんも多かったことでしょう。
 米国では10数年前から、麻痺している方の上肢をもっと集中的に訓練しよう、という動きが出てきました。これはやみくもに頑張る、といった類のものでは なく、脳の可塑性(やわらかさ)を利用するれっきとした先端医療です。簡単に方法をご説明しますと、健側上肢を三角巾などで使えないようにした上で、麻痺 した方の上肢だけを使う訓練を集中的に行う治療法です。日中動いている時間の8割以上、麻痺した方の上肢だけを使い、それを2週間くらい続けます。麻痺側 の上肢で行う訓練項目は、麻痺の重症度によっていろいろと変化をさせなければなりません。このような訓練は決して楽ではありませんが、効果は実証されてい ます。脳卒中になって何年も経過し、どの病院でももう治りませんよ、と言われた患者さんの多くが、この治療を受けることで(程度の差はありますが)改善し ます。もちろん魔法のように完全に治るわけではありませんが、少なくとも良い方向に変化することは確かです。ただし、基準である

麻痺している側の手首が、手の甲の側に20度以上動かせること、
なおかつ、親指を含めた3本指が10度以上伸ばせること
<適応基準の説明図>

に 該当しない場合は治療はできません。私達の病院では、この基準を利用しながら、ご希望がある患者さんに『麻痺側上肢集中訓練プログラム』を実施していま す。日本の他施設での実績はほとんどありませんでしたので、開発者の一人であるSteven Wolf先生に連絡をとりながら実施しました。欧米の方法を日本の実情に合わせて修正した点は、(1)健側に指の間を縫った軍手を使用したこと、(2)1 日5時間の訓練(午前2時間、午後3時間)としたこと、(3)病棟では健側上肢を使えるようにしたこと、などです。

  これまで10人以上の患者さんで実施した結果、麻痺が回復する時期(発症後3〜6か月まで)を過ぎた方でも、麻痺側上肢機能に改善がみられました。何より もうれしかったのは、私達が検査をして改善したと自己満足しているのではなく、患者さん自身から「良く動くようになった」「初めて麻痺した手を治療した気 になった」などという感想をいただいたことでした。この治療法の改善は、2週間の訓練後も続くと言われていますが、現在、本当に長期間効果が持続するのか どうかを研究中です。
 脳には私達がこれまでに考えていた以上に可塑性があることがわかっています。これまでは、1年後も2年後もCTには同じ大きさの病巣が映し出されること や、「実用的に」なるほどには改善しないことなどから、治療者の方が早々とあきらめていたのです。また、麻痺した手を直接治療するよりも、健側ですぐに代 償した方が日常生活動作の点数が上がるために、いわゆる点取り虫になっていたのかもしれません。この治療法を行ってもなお、麻痺側の上肢には麻痺が残って いますが、それでも、少しでも動きやすく、少しでも使える場面が増えた上に、麻痺していても積極的に使うようになった、という心理面での改善もみられまし た。「今までは握手を求められても、健側の左手をすぐに出す癖がついていましたが、最近は麻痺している方の手をすぐに出すような積極性が出てきました」と いう患者さんの言葉は、正直のところ疑心暗鬼だった私達にも勇気を与えてくれました。
 なお、この『麻痺側上肢集中訓練プログラム』の考え方自体は先端医療ですが、作業療法室で実施できますので、通常の作業療法として実施しています。特に 高額の医療負担があるわけでもありません。まさにコロンブスの卵のような治療法といえます。今後、改善しやすい人と改善しにくい人の見分け方や外来や自宅 での訓練の可能性などの研究、さらに実際に脳で何が起こっているかの解明などを考えています。ご期待下さい。

追加コメント:CI療法は、紹介されているロボットリハビリと相補的な治療法に位置づけられると考えています。CI療法は、どちらかというと手指の動きの改善が主で、ロボットリハビリは肩肘の動きの改善が主ではないかと予想しています。いずれにしても先端医療ですので、今後検証をしていく予定です。


道免和久
兵庫医科大学リハビリテーション医学教室
〒663-8501 兵庫県西宮市武庫川町1−1
脳卒
トップへ