<BoutReview編集日記>
12月30日午前中の経済番組でやっと年内の本業のスケジュールは終了。
北浜の中華料理屋で打ち上げ。証券各社とスポンサー回りを終えた記者達も三々五々集まってくる。ニュース番組は昨日で通常のプログラムが休止となるので、午後からは何もなし。久しぶりに昼間からビールである。この番組に関わりが無かったホンの三四年前までは、徹夜で飲んで酒場から出勤とか、昼飯がわりに早番のアルバイトと焼き肉でビールなどという日常を過ごしていたのだが。
キャスターの姉御達は、コースに無い坦々麺を御所望。一口すすっただけで「からーい」とおしゃって、下々に下しおかれる。天真爛漫というか、傍若無人というか・・・・。取りあえず御相伴に預かってみるが、確かに人間の味覚を遥に上回って辛い。意地になって麺を口一杯にほお張ってはみたものの、そこから先嚥下する勇気が出ない。どんぶりを手にしたまま、途方に暮れていると、諸悪の根源・姉御Aと目があってしまう。
「美味しい? 井田君?」
サディスティックに微笑みかけてくださる笑顔が余りにまぶしかったので、返事替わりに麺を歯茎の間から覗かしてにっこり笑い返してみる。その後、一切口を聞いて戴けなくなったのは遺憾である。
以後、口内は完全に麻痺状態。最後に食べたのが杏仁豆腐だったのか、ただの冷や奴だったのかは不明である。
午後、一端事務所兼自宅に取って返し、正月用の酒を買い出しに出かける。
最初は江戸堀の篁酒店に行ったのだが、31日ということで早じまいしてしまっている。仕方なく心斎橋に回ってマルシェの本店へ。ここは篁に比べて品揃いは薄いが、安さではいい勝負なのだ。
毎年正月は小鼓の冷やおろしを一本空けるのが楽しみだったのだが、近年はすっかり肝臓も弱くなってきたせいか、日本酒に食指が動かない。結局、キリンの「ビール職人」をワンケースと、格安で放出になっていたコート・デュ・ローヌを三本仕入れる。
日が暮れて、帰宅。ようやくコンピュータに向かう。
しかし、即、HPの更新とは行かない。まず年賀状のデザインが最優先事項なのだ。今年はばうれびをはじめたせいで、やたら人と会っているので名刺が溜まって仕方がない。年賀状などここ十年書いたこともなかったのだが、これからはそうも行かなくなってしまうだろう。
この事態を見越して撮っておいた、自分の馬鹿顔のアップを、フォトショップで切り絵のトラ風に加工する。
一通り作業を終えると、八時前。もう今年も残すところ4時間ちょいである。年賀状作成の手を止めて、ファイティング・フォーラムの年間MVPの選出に移る。これは今夜の12時がケツカッチンである。後楽園ホールでの前田の独演会に10点入れるという荒技が使いたくて、今日まで投票を延ばし延ばしにしてきたのだが、他の参加者はどうなのだろう? 主催者という立場を考えてしまうと、なかなかやんちゃになりきれない自分が居る。なんか、ヤな感じ。
途中、さぼってマンション一階のそば屋ヘ。10時過ぎると、流石に人も少ない。それでも、年内一杯は店を開けておくという。いやプロ意識とはたいしたものだ。感心しつつ、ニシン蕎麦をすする。
MVP投票を仕上げ、投稿。
直後に、千国自慢オヤジから電話。ちょっと話すが、年の瀬はさすがに長話もなしだ。来年もよろしくということで、早々に打ちきる。
年越しは、大阪港のウォーターフロントにある水族館・海遊館へ高校時代の友人達と繰りだす。花火でも上がるのかとおもったら、消防船の放水だけだった。人込みでロクに見えなかったし。
ついでに深夜営業していた海遊館にも入るが、ペンギンは立ったまま寝ていた。しかし、中に一匹だけ起きて、落ちつかなげにうろついているのが居る。なんとなく自分を見る思いがする。
魚は寝ないのか、皆昼間どおり泳いでいて面白くない。みんな地べたで寝そべっていてくれたりしたら、入場料が倍でも納得しただろうに。通路さえも真っ暗にすれば、本当の深夜の深海絵図が覗けるのかも知れないが、今日の魚達はなんとなく営業モードの気もする。気のせいかも知れないが。
そんなこっちの心境を知ってか知らずか、ジンベイザメの遊ちゃんは相変わらず巨大なままで遊弋していた。しばし、立ちすくんでその巨大さ、存在感に見惚れてしまう。イワシの素早さをジンベイザメに求めるのは、遠近感を理解できない格闘技の世界の人間だけなのかもしれない、などとも思う。
いつもどおりキーホルダーを投げて、食い付こうとするアシカをからかって帰る。もう何回もやってるんだから、いい加減憶えろよ。馬鹿。
「ありゃ、こないだの娘さんとはまた他の方ですかい? おたっしゃですなあ、旦那」などと言われても困るが(^_^;)。
1月1日
早朝初もうでから帰り、ファイルメーカープロで年賀状の宛名打ち込み作業に時間を費やす。
初もうでで引いたおみくじは1番の大吉。しかし新年早々、午前五時からキーボードを叩いている自分はとてもそんな運勢の人とは思えない。
手許にあったVer.2はどうしても言うことを聞かず、プリントしようとすると勝手に終了してしまう。しょうがなくて年末のマックエキスポでもらったVer.4を急きょインストールして、乗り換える。一時間近い試行錯誤の末、データの打ち込みが終わり、プリンタが動きだしたのを確認して眠りに付く。
もう初日の出はとっくに過ぎていたようだが。
目覚めると、既に夕刻。
床に散乱していた年賀状に手書きのコメントを入れて、投函しに行く。
さすがに店店も閉店していて、市内はちょっとしたゴーストタウン風であった。
夜は必死に更新作業にいそしむ。2カ月ぶりの大幅更新。懸案のアマチュア特集がやっと日の目を見ることになる。
1月2日
終日更新作業。特集完成。上村@USA氏の連載もやっと更新。
1月3日
終日更新作業。団体別アーカイブを整理する。上村@USA氏からインデックスのリンクが出来ていないと指摘される。真っ青になる。以後、真っ赤>真っ白>真っ暗闇へと移行。泣きながら眠る。
1月4日
高校時代のバンド仲間来襲。皆いい親爺になっているが、リスナーとしては現役らしい。こっちの知らないバンド名がぽんぽん飛び交う。
「あ、さっきでたぷろでぃじーってなに???? 曲名? バンド?」
返事がわりに、雑誌で頭をはたかれる。
「お前、最近どないしとんねん? 脳ミソ腐っとるんちゃうか?」
ごもっとも。ここ半年はBoutReviewという化け物にブレインスナッチされております。
そのまま、ギター君の家に拉致され、近年のロック状況について解説までしていただく。
お土産に十数枚のUKロックの要チェック盤をもらって帰るに至っては、さすがになさけない気分になる。
「なあ、ウチに帰ってこのCD開けたら煙が出てきて、白髪のジジイになるんちゃうやろなあ?」
「心配すんな、ハゲるだけや」
帰る道すがら、先程の会話の続きになる。
「あんなあ、お前。これってお前を憐れんどるんちゃうからな・・・恩返しのつもりやねんからな」
「?・・・・」
「俺らが就職して2、3年したころ、お前まだバイトやなんやゆうてぶらぶらしとったやんけ」
そのとおり。それ以後も大して状況は変わっていない。今だって、ぶらぶら会社経営という名のアルバイトをしているに過ぎない。
「あのころ、俺らがカラオケでJウォークとか上田正樹とかやりだしたら、大笑いしてたやんけ。憶えてるか?」
ううむ・・・なんか怒ってるみたいね。確かにJウォークだ上田正樹だはおっさん臭い。しかしまるで覚えていない。
「んで、帰りの車の中で、ストーンズの新作をかけたのよ。でも俺ら、それも出たのも知らんかったんや。来日して東京ドームに来てた事さえ知らんかった。そやのに、お前は仕事休んで女連れで見に行ったゆうて大威張りやったやんけ・・・・屈辱やったぞ」
ふふ、多分”女連れ”という部分が自慢だったのではないかな?
「でもな、あん時気ぃついたのは、あくまで変わったんが俺らの方やって事やったんや。お前は前のまんまやねん。なんの成長もしてへん。ガキのまんまや。楽譜も読めん、楽器も引けん、声が大きいだけが取りえのお前ががんばっとるんや。あれから俺ら変わったかなあゆうて、みんなで話してんで・・・めっちゃ、キッツい話やったよ俺らにとったら」
いやはや、相変わらず気のつかないところで他人を傷つけているようだ。申し訳ない。
「そーゆうんやのうて・・・。あれから、俺らは意識して学生時代通り情報も仕入れるようになったし、ちゃんとレコードもライブもチェックしとんねや。ずっと違和感なかったやろ。あの晩がきっかけやったんや、お前にはその気はなかったかもしれんけど、こっちは感謝しとんのや。・・・・そのお前がなにしとんねん」
はあ。
「あかんで、老け込んだら。ロックせな。止まったら死ぬんやで」
相変わらずギター君のいうことはクサい。しかし、この人は十代からこんなもんだったのである。
正直言って、彼の言うカラオケナイトの話はまるで憶えていない。
しかし、彼がそういうなら、多分そういうことはあったのだろう。言うことは年中メタル小僧だが、嘘はつかないのが取柄の32歳である。会社では主に出入りの生命保険のおばさんに人気爆発中。4つもの保険に入って、その掛け金を払うための残業で死にかけているような奴なのだ。何でもすぐがんばるのはこいつの体質だ。さぼってばかりの僕はいつだって何かしら怒られてばっかり。でもいいやつではある。まちがえなく、いいやつ。だから多分言っている事も大方は正しい。無茶苦茶なときもあるが、間違っているか正しいかといわれれば、必ず正しいのだ。
オッケー、オッケー。皆まで言うな。ハリケーン#1もシーホーセズもいまいちだったが、レディオヘッドはオッケーだ。スマパンとオェイシス(とギター君は発音する)は前から知ってるし、好きだよ。ぷろでじーは最初は「なんだべ」と思ったがだんだんよくなってきた。特にサリーちゃんのパパがアデランス外したみたいなおっさんは笑えるからいいな。あれはいい。見た目が、いや存在がろっくだ。ホント。ロッキンオンなんか半年ぶりで読んだぜ。クロスビートは、リリー・フランケンだけだな。
ま、も少しでリハビリできるからさ、ちょっとだけ待ってね。そしたらまたロック話で盛り上がろう。な。
1月5日
初出勤。眠い。
1月6日
システム8を年末にインストールしなおして以来、8500の調子がおかしい。マックの師匠に聞いてみると、前のシステムに上書き更新するのはバグの元らしい。忠告にしたがって、再インストールに挑戦。PPPの設定などが全部吹き飛ぶ。初期設定を旧システムの初期設定からひっぱって来ようかとも思うが、それでまたバグるのは怖い。一から”接続設定アシスタント”とかいうののいうとおりに答えてあげる。しかし、これってウィンドウズっぽくないか? ”なんとかウィザード”とどーちがうのだ? ジョブス、答えろ! ほら、リスタートだ! ヴォーン
「謹賀新年」
こらこら、もう三が日は明けてるよ(^_^;)(一部フィクションです)
1月7日
毎日放送全社の新年パーティ。料理は豪華極まり無し。偉い人と挨拶ばかりしていたんで、面白くも何ともない。ビール一本で睡魔がどっと襲ってくる。耐えきれず、帰宅してすぐ寝る。12時間睡眠を記録。
1月8日
馬鹿から携帯に電話がかかってくる。
こいつが泣きながら電話をしてくるときはロクな事が無い。今日も最初からいきなり泣いている。余り腹が立ったので、ほとんど話も聞いてやらず、一方的にわめき散らす。「馬鹿野郎! ぐたぐた訳わかんねえ事いってんじゃねぇや、このウジ虫!サル!カエル!おたまじゃくし!ヒル!さかさクラゲ!お前の腐った泣き声なんか聞いてたら、事故起こしちまうわいっ。とっとと揮発して、オゾン層にでもなってろ」
余り必死に悪口を考えていたせいで、前の車の右折に気づかず、本当に追突する所だった。
本来なら、今日は2月からのばうれびの誌面刷新のための編集会議の予定だった。夜、デザイン担当の上村君やライターのいはら君たちと会って、じっくり今後の方針を練り上げるつもりだったのである。しかし、堺でシンナーで脳が溶けてしまった小僧が、三人の罪もない一般人に文化包丁で斬り付けるという悲惨な通り魔事件が引き起こしたので、中継に出なければならなくなってしまった。無念の中止である。これだけでも、決して愉快な気分ではない。
その上、近畿地方は朝から雨で、事件の中継の最中も豆粒をまき散らしたような大雨が降る始末。中継というのは汚れ仕事で、雨が降ろうが犬が吠えようが、事件現場から逃げるわけには行かない。作業をしている最中はストップウォッチを押したり、キューシートを持ったりしているので、傘など持ってもいられない。結局びしょぬれになってしまうのだ。今日も案の定そんな状態で仕事を終わったものだから、下着の下までぐしょぬれになってしまっている。今年に入って最低気温を記録したようなそんな日に、全身ぐしょぬれで、クラッチを切るたびに靴の中ではカエルを踏みつぶしたような感触が、全身にピラミッドの行列を作るようなそんな状態で、自宅までの長い道のりを運転して帰らなければならないその時に、なんで、なんで30過ぎの独身男のすすり泣きなんか聞かされなきゃならんのだ!!!!!!
神様、今更「いったい僕が何か悪いことでもしたんですか」などとカマトトぶるつもりはないぜ。スネには山ほど傷もあるし、大半はまだかさぶたも柔らかいような代物だ。大抵の悪運なら、自業自得だと言われれば、引っ込みもしよう。でも! でもちょっとこれはあんまりじゃないか!
ここで皆さんに、近来まれに見るイノセントな人物を紹介しよう。
三カ月に一回。ひどい時になると三日に一回、僕の元に泣きながら、人生の不条理と自らの過酷な境遇を訴えてくる三十過ぎの独身男−−−仮の名を”泣き虫慎也”としておこう。(無論ネーミングにはいろんな理由があるが、そんな事はどういでもいい。こんなはた迷惑な人間寄生虫のような存在が、僕の周辺に一匹生存しているという事実が伝わればいいのである。)
慎也は僕が中学生の頃から、僕の回りを徘徊し始め、以来20年ちかく僕にまとわり付いて離れない、不定愁訴の化け物みたいな人物なのである。
依存心と、幼児性、そして怯懦の固まりで、食い意地だけが異常に肥大し、克己心というものをかけらも持っていない此奴が、実は某有名国立一期校の出身者であると聞いたら、心正しい納税者の皆さんは国家転覆を真剣に考えられるかもしれない。加えて、此奴はあえて名を伏せる某一流企業に籍を置いて、僕の倍近い年収を得ているにもかかわらず、いまだに飲み代を半分以上払った事が無い。(そのうえ、信じべからざることに、三回に一回はその割り勘分まで「小銭がない」と言って踏み倒すのだ。その度に私は、領収書を”社長交際費”の名目で接収して、腕の震えを最小限の押さえるようにしているのだが・・・・もしこのまま21世紀に至るまでこの馬鹿者との関係を維持したら、この累積赤字はいずれ僕の会社を倒産させてしまうに違いない。諸君、もしある日BoutReviewにアクセスして、画面一杯に”SEIZED!”の赤文字がブリンクするような事態が訪れたとしたら、その時はこの無垢なる馬鹿者の事を思いだして欲しい。)
先にも書いたが、こいつが泣きながら「おにいじゃぁーあん」(断っておくが血縁関係はない)と言ってくるとロクなことがない。ウチの家が全焼したのはこいつと知りあう前の事だったが、それ以外のぼくの大きな不幸というのは大抵こいつの「おにいじゃぁーあん」が引き金になっている。高校時代、文化祭の前日、夜中、近所の女子校生と遊びに行こうとして塀から転落して大けがを負ったのも、こいつの段取りの悪さのせいだし、生まれて初めて交通事故をやらかしたのも、こいつの指示を真に受けて、ファミレスで車庫入れしている最中だった。結婚しようと心ひそかに誓った女と浮気(一応名ばかりの”本命”がいた)しているところに電話をかけて来て、別れ話の元を作ったのもこいつだし、中学時代、立ち小便している僕を、ドブ川にフリチンで突き落としたのもこいつなのだ。
しかし、ひとつだけこいつには頭の上がらない事件がある。
まだ、高校生の頃の話なのだが、冬のある日、午後の授業をさぼってウチに昼寝をしに帰ったのである。
まだガキだったこの白痴小僧は、校庭で遊んでいる最中に僕が帰るのをたまたま見つけたのだという。
ところがこっち原付でフルフェイスのメットを被り、鼻歌交じりに御帰還の最中である(多分ウォークマンもしていたはずだ)。いくら大声で泣こうがわめこうが知るわけもない。お昼寝へ一直線である。ところがこいつは元が馬鹿なものだから、無視されたと思い込んで、一直線にウチへ飛んできたのである。(此奴が失踪するのはおなじみの事態なので、騒ぎにはならずにすんだらしいが)僕の方はそうとも知らず、ガスストーブを点けてさっさとお昼寝に入ったのだが、実はこのストーブに火が点いていなかったのだ。
この白痴が屋根によじのぼって僕の部屋の雨戸をばかばか叩いてたたき起こしてくれなかったら・・・・今ごろ我が家は二度目の全焼を経験するか、遺書も残さず謎のガス自殺をした長男を出すかのいずれかだっただろう。くわばらくわばら。
だから、というかそれ以来、こいつの大抵の無茶には無条件で応じてやるようにしている。
元々、根が馬鹿だというのもあるが、僕がこいつに寛容すぎるというのもいけないのかもしれない。三十を越えても、人生の難事に一人で立ち向かえない幼児性を抱えたままの男というのは、いかにも気味が悪い。
しかし、こいつが僕の命の恩人であるのは、動かしようの無い事実でもある。そういう位置関係にある人間関係ということで、”折り込み済み”と諦めるしかないのだろう。納得など行くわけもないが、仕方がない。
「アホか、お前は。泣くなちゅーとるやろーが。ええ大人がなんやねん、今度は、あーん?」
結局、猫なで声で自分の心の中のささくれまでもなだめすかしながら、神戸方面にハンドルを切ることになるのであった。
BoutReview編集日記97/11-12