大学総合格闘技ムーブメントに関しての報告

田中 幹人<bewater@t3.rim.or.jp>

[1.まえがき]

 この項では、大学におけるアマチュア総合格闘技活動に関して、一大学で総合格闘技サークルを創設し、卒業後の現在までそれに関わっている者として、私の感想を述べさせて頂きます。尚、文中に述べられている事象は私の直接見聞したことに基づいていますが、特定の団体を非難あるいは擁護する意図は一切ありません。

 結論から先に述べましょう。1980年代後半からの総合格闘技ムーブメントの盛り上がりは、各大学に波及して以降、現在は再び衰退の兆候を見せています。これは非常に残念なことですが、アマチュア総合格闘技の普及、ということを考えるに際しては、非常に興味深い問題点を多々含んでいると思われます。まずは私の関わった大学での活動に関して、その歴史を簡単に辿るなかで、それらの問題点を次第に明らかにしていきましょう。

[2.現在までの歴史]

 1993年4月、私は某私立大学に入学しました。以前から立ち技から組み技まで興味の向くままに格闘技を学んでいた私は、その大学には直接加撃制の格闘技サークルが無かったため、入学から間もなく、スパーリングパートナーを集める、という位の軽い気持ちで格闘技サークルを設立しました。しかし、呼びかけに応じて集まったのは、ほとんど初心者ばかりが5名程でした。これは冷静に考えて見れば当然のことです。一般に高校までで本格的に直接加撃制の格闘技を学ぶ機会のある人というのは極端に少なく、格闘技に興味のある場合も、ほとんどの人は柔道やレスリング、あるいは硬式空手を部活でやるのが普通で、高校を卒業後に初めてそれらの格闘技の門を叩くものです。しかし、そのことに思い当たらなかった私は、自分の技術も未熟なままに、皆に指導をする羽目に陥ってしまいました。それはそれで非常にやりがいのあることではありましたが、同時に大変な困難をともなう活動の始まりでした。

 その年の10月には、格闘技通信上に掲載された、東京大学の総合格闘技サークル(当時はリンクス東大、後にリングス東大と改称)の呼びかけにより、当時各大学に自然発生していた総合格闘技サークルの長同士の会合がもたれました。当然、私のサークルもこれに参加させて頂きました。

 非常に活発な論議の後、技術交流を行うことや、11月の東大駒場祭でトーナメントを行うことが決定されました。

 11月23日、かねての予定通り、東大駒場祭において『第1回コマバトルトーナメント』が行われました。当日の観客の入りは上々で、平直行選手に観戦頂くなど、開催者側の非常な努力が伺えました。肝心の試合内容は、と言いますと、これは第1回ゆえの悲しさか、各大学間で試合形式に関して意識の擦れ違いがありました。すなわち、「魅せる」試合をしようと大技(飛び後ろ廻し蹴り等)を何回も試みる選手がいるかと思うと、パンチとローキックだけで着実にダメージを与え、地道に勝ち上がっていこうとする選手がいる、という有様でした。当然、前者の様な戦い方をしたものは後者のような選手に負けていきました。このように、単に実力差、と片付けてしまうには疑問の残る試合が多く、課題を残した大会となりました。

 ここで、コマバトルトーナメント、及び現在のCFN(後述)の試合ルールに関して簡単に述べておかなければならないでしょう。アマチュア・リングス等でご存じかとは思いますが、基本的には一貫して『極真ルール+投げ・関節・絞め技』というルールです。これに加え、判定になった際のポイントをどうするか、という点で度々改良を加えられてきました。また、コマバトル・トーナメントは基本的に無差別で行われました。

 さて、いささか冗長になってきましたので、以降は現在に至るまでの活動を簡単な年表でまとめてみます。

1994年 11月 『第2回コマバトルトーナメント』開催。

この間に、大学総合格闘技サークルの組織会合が前田日明選手を交えてMリングスのオフィスでもたれ、ルールの確認と共に、Campus Fighting Network(CFN)として組織活動を行うことが決定される。尚、これはあくまでアマチュア組織であり、Mリングスからは技術的なバックアップ(リングス所属選手による技術セミナーの開講等)以外の援助を受けない旨が確認された。尚、CFN参加大学は以下の通り(50音順、カッコ内団体名):

 京都大学(K.U.W.F.)、慶応大学(リングス慶応)、国際基督教大学(MartialArts Club泰斗会)、帝京大学、東京大学(リングス東大)、二松学舎大学(リングス二松)、日本大学(ハイブリッド)、福島大学(Bro's)、文教大学(リングス文教)、武蔵工業大学(リングス武蔵工)、室蘭工業大学(リングスM.I.T.)、明治大学、早稲田大学(S-RUSH)

1995年 11月 『第3回コマバトルトーナメント』開催。

 高坂剛選手が観戦。

            『第1回アマチュア・リングストーナメント』開催

 注記:アマチュア・リングス大会はあくまでリングスが主催するものであり、CFNは選手は参加していますが運営には参加していません。

1996年  7月  『第1回CFN体重別トーナメント』開催

      12月 『第2回アマチュア・リングストーナメント』開催

1997年  5月 『第3回アマチュア・リングストーナメント』開催     

      10月 『第2回CFN体重別交流戦』開催  

・・・現在に至る

[3.種々の問題点について]

 さて、取り合えず私の関わってきた活動に関する歴史を振り返ったところで、改めて浮き上がってくる問題点に関して書かねばなりません。上記を見る限り、学生総合格闘技組織として、CFNはコンスタントに活動を続けているように見受けられることでしょう。しかし、その実態は非常に危ういものになってきています。以下では、現在までに明らかな問題点を示していきます。

 3−1.組織上の問題

  組織としてのCFNは、統率する団体(大学)が現在のところ存在しないため、事実上活動停止中であるといえます。1995年まではリングス東大がコマバトルを開催するにあたり中心的役割を示しましたが、代表者が卒業してしまったことによる後継者の不在から、リングス東大は全体の運営には関われなくなりました。それを受けるかたちで国際基督教大学が1996年に『第1回CFN体重別トーナメント』を開催したわけですが、その後は責任者が卒業してしまったことから、やはり後継者不足により、中心機能を果たせなくなってしまっております。このように、事務的な意味での中心となりうる団体がコンスタントに存在し得ないことが、組織としてのCFNの非常なネックになってしまっています。端的に言って、一口に事務、と言ってもその仕事は非常に繁雑かつ多岐に渡っており、大人数を擁する団体しかその役割を果たせない、というのが現実です。また、それらをこなすことが苦では無い、事務能力に長けた人物がそのような団体に存在するかどうかもネックになります。特に大会を主催する、というようなことになると、会場の押え、パンフレットの作製、各団体への連絡、ルールの調整、、、等、なかなか一個人ではこなしきれないものです。

 3−2.技術伝承の問題

  この問題が、いわば大学で総合格闘技を行ううえでの最も大きな問題であり、他の問題の源となっている、といっても過言ではありません。一口に言って、総合格闘技の技術は多すぎるのです。大学という組織の性質上、原則的には4年間で顔触れが入れ替わってしまいます。就職活動などもあるので、実質的に練習が出来るのは3年間。先にも述べました様に新入生は総合格闘技に関しては素人、という人々の入部しか望めませんので、この間に総合格闘技の技術を一通り網羅する、というのはかなり熱心な者で無いと出来ません。そして、大学で総合格闘技をやろうとする者の多くは「それほど熱心では無い」のです。本当に熱心な者は、ほとんどが外部の格闘技団体に所属してしまいます。残る熱心な者は本当にわずかです。

 さらに、部員が熱心であったとしても、現在の状況ではまだ数多くの問題が残っています。まず、総合格闘技には『教科書』といえるマニュアルは存在しません。総合格闘技の学習者の殆どは雑誌やセミナー、ビデオの研究を続けているのが現状です。大体、総合格闘技の技術自体が年々進化を続けており、不断の研究無くしては時代の流れに取り残されてしまうのが現状です。これを打破すべく、私は在学中にマニュアルを作製しましたが、移り変わる技術を追って年々改訂を重ね続けねばならず、いまだに完成には至っておりません。(そもそも完成、ということがありうるのかどうかが怪しいのですが。)

 結局、マニュアルがあったとしても3年間ではその内容を一通り押さえるのがやっとであり、それぞれの技を充分に反復練習して自分の物にするには時間が足りないのです。勿論、3年程経てば一応の力が付き、試合に出られるようにはなります。しかし、他人に指導するということを考えた場合、これは全く別物です。かつて総合格闘技論議でしばしば言われたように、打・投・極全てに精通するのは『3年では』殆ど不可能に等しいのです。試合に出られるようになっても、選手一人一人はやはりそれぞれ偏りがあります。試合の上ではこれは全く問題が無いのですが、指導者、という観点からすると、全てを指導することは出来ないのですから、未熟のそしりを免れえません。例えばこれが一般のジムや道場であれば、何年もやっている先輩は例え寝技が専門で無かったとしても、一応の技術は教えることが出来る位の経験は積んでいます。しかし、3年では、、、お判り頂ける事と思います。

 3−3.一般の理解

  大学、という組織上、最大の問題となるのが一般の人々に理解してもらうことです。ともすれば私達は『プロレスみたいなものでしょ?』とイロモノ扱いされてしまいがちです。プロレスファンの方は、「プロレスはイロモノなのか」と憤られるかもしれませんが、あくまで大学の中での話に限って言えば、プロレス扱いされることは同時に活動を制限されることに繋がるのです。すなわち、プロレス・サークルと見なされることは文芸や音楽系サークルと同列に扱われることになり、ただでさえ込み合っている運動施設の使用(大学内の道場やジム)に際してのイニシアチブを失うことに繋がります。「俺たち体育会が使うのだから、『遊び』の奴らはどいてろ」というわけです。やむなく空いている日陰のスペースでミット蹴りなどを行なっていると「何、あの人達。こわーい。怪しい、、、。」ということになります。

 同時に、他の格闘技・武道系からの反発があります。総合格闘技をやっておられる方は理解出来ることと思いますが、実際に総合格闘技を「やって」いる人々は他の格闘技に対して非常な敬意を持っている場合が殆どです。学習の過程でパンチに磨きをかけるべくボクシングを研究したり、着(ぎ)の利用法を柔道から学ぼうとしたりするのは総合格闘技を志す者にとって当然なのですから、これは必然でしょう。しかし、それらの非・総合格闘技をやっている人々の多く(全て、とは言いません)は、総合格闘技を練習する人々に対して非常な敵愾心を燃やします。プロレスの異種格闘技戦などで、自分のやっている格闘技がコケにされていると感じていたところへ、上記の様に私達のやっているものがプロレスとして理解されたため、という場合もあります。あるいは技術的な面から起こる誤解もあります。例えばボクシング部の横で練習していると:「何やってんだ、あいつら....ジャブをヘッドスリップしてローキック、か。俺たちボクサーはローキックで簡単に仕留められると思ってやがるな」とあらぬ怒りを抱かれることもあります。はたまた「お前らのやっているのは所詮、粗暴なケンカの真似事なんだよ。俺たちのやっている武道より下等なんだ。」と武道家(?)の方に突然お叱りを受ける場合もあります。最も多いのが現実的な練習場所の問題です。多くの場合、投げ・関節を自由に行なえる柔道場やレスリング場は柔道、合気道、レスリング部の練習でスケジュールが一杯なので、私達が割り込む余地は少なく、そこを何とかお願いして借りる訳ですが、練習していると「マットが傷む」「汚れる」と注意を受ける訳です。別にハイヒールを履いていたり、ボディペイントしていた訳でも無いのですが。

 これらの反発が起こる下地は理解できますが、実際にこのような対応を受けると、私達は怒りよりはむしろ悲しい気持ちになります。実際には、先にも述べたとおり、総合格闘技をやっている者ほど打撃あるいは投げなど個々の技を完成させることの難しさを知っているのですから、非・総合格闘技の練習者が総合格闘技の練習者に対して屈折したコンプレックスを抱くいわれは全く無いのですが...。

 3−4.ルール上の問題

  大学生の出来る安全なアマチュア格闘技ルール、ということを考えた場合、ルールの大本に関しては既に結論が出ています。すなわち、『極真ルール(手による顔面攻撃禁止)+投げ・関節・絞め技』というラインです。顔面打撃が含まれないことに関しては異論もあることでしょう。勿論、多くの大学サークルで「顔面」の技術は練習されていますが、各大学の技術レベルが完全に一致することは望むべくも無いことからして、安全の為にも顔面打撃は解禁できません。また、このルールであれば競技人口の多い格闘技である柔道・レスリングや極真空手から総合格闘技に転向する人々にとって非常に「とっつきやすい」ものになります。(これらの格闘技から総合を始める人口が意外に多いのです。)

 その上で、安全の為にもポイントルールを導入する必然性があります。以前は旗判定による決着制度を試みたこともあるのですが、審判基準などの様々な問題により定着しませんでした。CFNでの実験を踏まえて作られた現在のアマチュア・リングスルールは、投げに対してのみポイントを与えていますが、これにはまだまだ問題があることと思います。すなわち、顔面への打撃が禁止されているうえ、スネサポーターを着用することから打撃技が効きにくくなっていますし、グラウンドに関しても優劣を判定するポイントがありません。(一応エスケープは減点ですが、CFNでもアマチュア・リングスでもエスケープをしてポイントを失うよりは、耐えうる限り耐えて脱出、あるいはブレイクを待つ、という様に戦う選手が殆どなので、有名無実化しています。)

 このような前提を踏まえ、『第1回CFN体重別トーナメント』で採用されたルールを参考までに次に示します:

試合時間

 本戦3分マ(※:打撃によるKO,関節による一本の無い場合)マ延長2分マ※マポイント集計、判定

試合形式

 顔面への手・膝以外の打撃技許可,投げ・関節可。5カウントKOとし、5カウント以内のダウンは2回でKOと見なした。(ポイント判定の際には、5カウント以内のダウンは5pt)

試合の服装

上半身Tシャツ、ファウルカップ,ヒザサポーター着用。グラウンドでの膠着はブレイク

審判:レフェリー1名、ジャッジ3名

 禁止事項:手・膝による顔面攻撃,グラウンドでの打撃,ヒールホールド,首を捻る関節技,頭部から落ちる投げ技,(以下略、常識的なもの)

ポイント判定方法

 投げ技に関してはアマチュアリングスルールと同様、レフェリーが1〜3ポイント(pt)を適宜宣告(柔道での『有効』:1pt,『技有り』:2pt,『一本』:3pt)。

 本戦・延長終了ごとに3名のジャッジがスタンディングにおける打撃技とグラウンドにおける関節技の見地から、優勢であったと思われるどちらかの選手に対して1〜2ポイントを振り分けた。この際、例えばハイキックによるクリーンヒットや、「キャッチ」に匹敵する追い込みを見せた関節技を重視する、などの細則が予め決められていた。

 ポイント判定の際には、本部席で集計を行ない、以上の『レフェリーによる投げポイント』と『ジャッジによる打撃・関節のポイント』を合計して判定を行なった。

 大分省略しましたが、大筋はこんなところです。一見してわかるように、少々繁雑なポイント判定方法で、本部とジャッジの集計は非常に手間取りましたが、実際の試合の流れ自体は、かなり公平に反映することが可能でした。今後もこのような大会を開くとすれば、打・投・極の優劣を公平に判定する手法を維持しつつ、判定方法を簡略化することが求められることでしょう。

 以上が、現在の状況における問題点の概観です。

[4.学生総合格闘技に未来はあるのか?]

 前項まででは、身内の恥ではありますが、読者の皆さんがアマチュア総合格闘技というものを考える一助になればと、その抱える(抱えうる)問題点を列記して来ました。それらの問題を踏まえた上で、アマチュア総合格闘技の今後の発展のためにも、我々CFNの再生への道を模索してみることで、この文の纏めとしてみます。

 まず、組織としてCFNが充分な機能を果たすためには、連絡をより密に行なう必要があります。これまでは手紙や電話での連絡を基盤として、不定期にミーティングを行なって来ましたが、今後は電子メール等を利用する必要があります。以前にも試みたのですが、意外に各大学でのメール普及率が低く、断念した経緯があります。しかし、組織として機能するためにはこれは必須と思われます。メールでのやりとりが可能ならば、ルールを煮つめる際などに、より活発な意見の交換が期待されます。

 技術の継承上の問題に関しては、やはり各大学の指導者の力量、そして何より部員一人一人の熱意に期待するしかありません。

 さらに、やはり中心となる団体が存在することが不可欠です。これに関しては、一旦活動が軌道に乗るまでは、「誰か」が動かなければどうしようもありません。CFNが再生するかどうかは、今の時点では判りません。しかし、『アマチュア』という、強さを追及する上では、より純粋でありえる環境で総合格闘技を行なうことに取りつかれてしまった一個人として、私は出来る限りの努力を試みて見たいと思います。

 最後に、10月に行なわれた『第2回CFN体重別交流戦』に関して簡単に報告しておきましょう。当初は『第2回CFN体重別トーナメント』のはずであったこの大会は、準備期間の不足も手伝い、参加選手が少なかったことから『交流戦』、と名称を変更しました。軽量級と中量級のみの開催でしたが、結果は、主催者側の国際基督教大学の選手が上位をほぼ独占する形となってしまいました。

 上位選手を含め、全般を通じて目だったのは、選手の基礎体力の低さと技術の未熟さです。結局、露呈したこの問題は、練習量でしかカバー出来ません。各大学の一層の精進を期待するしか無いというのが実情です。

[おわりに]

 冗長に書き綴ってきたこの文章も、このあたりでいい加減お開きにしたいと思います。皆様からのご意見、御質問等ございましたら、どうぞお寄せください。(CFNの活動へ御協力頂ける方も歓迎いたします)また、これをお読みになった方の中で大学での総合格闘技活動を行なっておられる方がおられましたら、どうぞ連絡下さい。CFN関係の資料、大会案内を送らせて頂きます。

 また、CFNでは5月に『第3回CFN体重別大会』を開催することも計画しております。

こちらに関する情報請求、参加の問い合わせ等もお待ちしております。

 最後に、このような場を与えて下さった井田英登様に感謝し、結びとさせていただきます。

 ありがとうございました。


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