修斗ヘビー級のエース、エンセン井上がビザの関係で欠場するというトラブルに見舞われた今大会だが、ふたを開けてみれば、当日券売場に長蛇の列ができて僅かな売れ残りチケット(たった20枚!)があっという間に売り切れ、しかもその10分後にはダフ屋のチケットもなくなってしまうという大盛況となった。むろん、会場内の人いきれは凄く、関係者の声も明るい。
修斗は、既に、「後楽園ホール級」を越えた動員力を手に入れている。大会場への進出、メジャー化へのステップは目前に迫りつつある。
今大会の目玉は、何と言っても、「あの」カーロス・ニュートンが所属するカナダのサムライ・クラブの参戦。ニュートンを筆頭に、サルボサ、ジョルソンと合計三選手がエントリーした。
サムライ・クラブは、カナダにある柔道と柔術のジムで、1500名の練習生がいる大きな組織である。ここで教えている柔術は、ブラジリアン柔術ではなく、「講道館からの流れのもっと広い意味での柔術」だという。カナダで行われている柔術の大会は、打撃なし、寝技制限なし、ポイント制なしというルールのもの。ただし練習では打撃を行っており、大会で打撃をしないのは、「打撃をする場合にはボクシング用のグローブを着用せねばならない」というカナダ政府の規制があるため。ブラジリアン柔術との差異は、がちがちに防御に入ることなく、流れるように技をかけていくことにあるそうだ。
入場式(ルミナは不参加)に続き、エンセン井上の欠場の挨拶。興行ビザが間に合わず、今回は観光ビザでの来日だという。「ヴィザとらなきゃいけない外人だけど、血は日本人だから。日本のために戦うから」と宣言した後、先頃報道されたパンアメリカン柔術に関するトラブルについて説明。「エンセンの大和魂決して空回りしていないね。父親が危なかったから。そういうことあったら、エンセンもイーゲンも絶対ファミリー守るね。大和魂は空回りしてない。これだけは訂正しておいて欲しいね」。
「ヘウソンについては、イーゲンは仲悪いけど、エンセンはそうじゃない。前はいい先生だったしね。ただ、かっとすると、言い合いになるよ。それはその場でそうなるだけ」。
続いて5月13日に大会が行われることが発表され、エンセン井上と、フランク・シャムロックの参戦が報告された。また、休憩時間前には、4月26日におこなわれるシュート・ボクシングとのダブル興行「シュートダブルクロス」について、シーザー武志と村濱選手(弟)の挨拶があり、特別先行前売り券の販売が引き続いて行われた。
第1試合(ウエルター級2回戦) ○伊藤武則(総合格闘技津田沼道場)VS小谷宏明(STG八景)×判定3対0
伊藤選手は「帰りプロ」。一旦アマチュアに戻ってから、97年度全日本アマチュア選手権ウェルター級優勝、第三回アマチュア・リングス70kg級優勝などの実績を上げ、昨年プロに復帰。対する小谷はこれがプロ・デビュー戦。97年度のアマ選手権でミドル級で準優勝している。
試合はスタンドでの打ち合いから。伊藤のパンチの正確さが幾分上回り、何度か的確に顔面にヒットさせる。一方、小谷はタックルに積極的にいくが、伊藤がうまくポジションをとり、あるいはがぶって逆に上にのって攻めさせない。このため、試合は、小谷が下になる時間が長くなった。
上に乗られても、下から積極的に打撃をうっていく小谷。何発かいいパンチをいれて伊藤が鼻血を出す場面もあった。だが、やはり上のポジションをとっている伊藤の方が有利。単発だが、いいパンチを上からうち降ろしていき、優勢のまま試合を終える。
第2試合 ×小島弘之(STG横浜)VS村濱天晴(WILDPHENIX)○1R2分31秒 TKO
村濱選手は、シュートボクシングのエース、村濱の実兄。97年度アマチュア選手権ミドル級三位の実績を引っさげてのプロ・デビューである。対戦相手となる小島選手はデビュー二年目の若手だ。
試合は意外な展開となった。開始直後、村濱がダッシュし、まるで「飛び膝蹴り」をやるような形で小島に飛びつき、首をとって引き込む。そのままガードにいってネックロックに極めることには失敗したが、ポジション争いの末、上を取り返し、相手のガードを抜けてすかさず立ち上がる。
そして、スタンディングに戻った直後、村濱のパンチが小島の顔面を直撃。
小島はダウンしたまま動かない。村濱はうつむけに倒れた小島にさらにのし掛かってパンチをぶち込もうとするが、レフェリーがここでストップを宣告。小島選手はこの期も立ち上がる事が出来ず、タンカで運び出されていった。
村濱、衝撃のKOデビューとなった。
第3試合(ライト級2回戦) ○大石真丈(K'z FACTORY)VS藤田善弘(口田東体協)×1R2分40秒 レフェリーストップ
これもまた新人のデビュー戦である。97年度のアマ選手権ライト級を制した藤田のデビューの相手を務めるのは、既にデビュー5年目になるベテランの大石。試合展開も、両者のキャリアの差を感じさせるものになった。
試合開始早々、組み合った状態で大石選手が脇を差し、そのまま投げて上にのる。藤田もハーフガードに入り、密着しようとするが、すかさず大石が右腕をアームロックにとってしまう。
藤田、粘りに粘るも、足がぬけ、サイドから頭の上に回られてしまい、万事急須。レフェリーが試合をストップした。
第4試合(ウエルター級2回戦)×ルタ☆ユージ(藤田裕司改め)(STG大宮)VS宇野薫(和術慧舟会)○
判定3対0
慧舟会軽量級のエース、宇野の登場である。対するは、地味目だが粘りのある選手だったはずの藤田。しかし、期するところがあったのか、いきなりルタとリングネームを改め、髪をま緑に染めての登場だ。
開始早々「おおっ」と叫ぶなど気合い十分のルタ。積極的にキック、パンチを繰り出す。しかし、大振りが目立ち、そこを宇野にうまくタックルに入られる。宇野のタックルは、タイミングがよく、確実に相手を倒していく。
ガードに入るルタ。そこから腕十字を狙っていくが、宇野もそれは見通しており、極められそうになりながらも、逆に体勢を入れ替えて、距離をとり、上から顔面にパンチをうち降ろす。何とか我慢してスタンドに戻り、打撃に活路を求めようとするルタだが、宇野もパンチとローをうまく打ち、ルタに当てさせない。そして打撃に合わせてタックルにいく。
宇野のインサイドガードからのいいパンチが何発か入り、次第にルタの左目が腫れ上がる。2ラウンド後半ともなると、もはや試合開始時の勢いはなく、追い詰められた表情に。
そのままタイプアップで、宇野の文句なしの判定勝利。
試合中、セコンドについた奇人大先生が、真顔で「ルタ、ルタ、そこは押さえ込んでいけ!」とか指示を送るのが妙におかしかった。
4月26日、横浜アリーナのダブルクロスに関して発表と挨拶。シーザー武志と村濱武洋(弟)が挨拶にリングに上がり挨拶。スーツ姿の村濱が、律義に革靴を脱いで靴下姿でリングに上がったのが印象に残った。
ここで休憩。
第5試合(ライト級3回戦) ○池田久雄(STG大宮)VSオマー・サルボサ(カナダ・柔術・サムライクラブ)× 1R4分23秒 レフェリーストップサムライクラブと修斗との対決の第一段。先陣を切るのは、ライト級2位の池田。池田はこのところ好調ぶりが認められ、初の国際戦。入場式では選手を代表で挨拶も行っており、「一本勝ちで勝ちたい」と力強く勝利を約束している。サムライクラブの先鋒は三分刈りのオマー。ちょっと目には、どんぐり眼の、日本人にしかみえない好青年。
開始早々、オマーがコーナーに押し込んでテイクダウン。そのまま上になって、サイドに回っていくが、池田選手が体を横にして抑えこみにはいらせない。これに対して、サイドからマウント狙いに切り替えるオマー。そこに足をこじいれ、同体に持ち込む池田。そのままオマーの左足首を取り、アキレス腱固めにもっていく。逃げようと体勢を変えたオマーだが、かえってがっちりと膝を絞られるポジションにもっていかれ、レフェリー・ストップに。
対抗戦第一戦は日本の勝ちとなった。
第6試合(84キロ契約3回戦) ×川口健次(STG横浜)VS須田匡昇(CLUB J)○ 3R1分8秒 腕ひしぎ十字固めかつて修斗のエースの一人だった川口。96年のデビュー以来、トーナメント・オブ・Jなど、他団体の大会を含めて躍進を続ける次期エース候補の須田。この新旧対決は、1ラウンド開始早々から、世代交代を匂わせる雰囲気で進み始めた。
差し合いからのテイクダウンで先手をとる須田。川口は下から脇を差して密着していき、1Rはそれを須田がはずし、グラウンド打撃の間合いに持っていく展開に。しかし、成功し切らないうちにゴング。
2Rは激しいパンチのうちあいから始まり、須田のいいパンチが入った直後、今度は川口の強引な右フックが須田の顔面を捉え、須田、ダウン。いっきに逆転かと思われたが、立ちあがった須田は、またもや組み付いて、今度は投げではなく、足をいっきに取りに行く。うまくテイクダウンしてそのまま足首固めに。完全に決まったかと思われたが、川口はロープ際で耐え、上体をおこして逆に側頭部にパンチの嵐。須田、それに対し、下から三角にいくがはずされ、完全に川口に上を譲る。ハーフガードをパスし、マウントになって絶対有利と思われた川口だが、須田の下からの密着をとくことができず、ラウンド終了。この時点で川口はかなり疲労を表に見せはじめている。ダウンを喫してからも、止ること無く攻め募る須田の逆襲に、逆に気おされているかのようにも見える。
そして勝敗は3ラウンド早々についた。
組み合い、双方が相手を崩そうとこらえる中、須田がうまくテイクダウンしてバックに回る。そのまま首を狙い、それが崩れる前に腕を裏からとり、すかさず伸ばして腕十字に。
今大会随一の熱戦を制したのは若い須田だった。
試合後、勝利者インタビューを受ける須田に近づき、マイクをとった川口。一瞬、言葉を探して沈黙したものの、ただ一言「・・・強いよ」と笑みを浮かべて語りかけた川口。修斗の世代交代は着実に進みつつある。
セミファイナル(ライトヘビー級3回戦) ○カーロス・ニュートン(カナダ・柔術・サムライ・クラブ)VS草柳和宏(K'z FACTORY)×1R2分14秒 腕ひしぎ十字固め
いよいよ、先のヴァーリ・トゥード・ジャパン・オープンで衝撃のデビューを飾ったニュートンの登場である。迎え打つは、川口と並ぶ修斗旧世代エースの一人、草柳。ニュートンは、実は、寝技経験わずか2年。キャリア的には草柳の敵ではないが、しかし、彼には圧倒的な運動能力という才が備わっている。
先手を取ったのは草柳。カーロスの打撃をかわし、組み付いて、そのままうまく倒して上にのる。しかし、ニュートンの対処も上手く、草柳が密着をはずして上体を起こす動きにあわせて下から脱出。スタンドに戻る。
再び牽制の打撃から草柳が組み付きにでる。だが、今度はニュートンが、草柳の腰投げをこらえきり、逆に足をかけてテイクダウン。上にのってしまう。草柳も、なんとか半身に体を起こし、ポジションをひっくり返そうとする。それに対し、草柳の足をひっぱって潰し、完全に上になろうとするニュートン。
足をひっぱりにきたニュートンの手を草柳が掴む。アームロックに捉え、キャッチがかかる。だが、極めようとする草柳の動きにのったニュートンは、そのまま体を草柳の上に流して足を抜き、取られた手首を逆にとって、腕ひしぎ十字固めに。鮮やかな一本勝ちを奪った。
これでサムライクラブと修斗の対決は一対一のイーブン。
勝敗は、エース、ルミナに賭けられることになった。
メインイベント(ウエルター級3回戦) ×佐藤ルミナ(K'z FACTORY)VSジョエル・ジョンソン(カナダ・柔術・サムライ・クラブ)○1R3分53秒 腕ひしぎ十字固め
入場式をパスしてまでコンセントレーションを高めるルミナ。登場と共に、会場は、爆発的に盛り上がる。エース降臨、である。だが、相手のジョルソンも、本格的なNHBスタイルの試合は今日がデビュー戦ながら、サムライクラブの総帥モニ・アイザック氏が「ニュートンと並ぶサムライクラブの二本柱」と押す期待の選手である。決して簡単にルミナの噛ませ犬になってくれるような相手ではない。
しかし、旬の選手として勢いに乗るルミナは、臆することを知らない。開始早々から矢継ぎ早の打撃に打って出る。組みつかれても、相手の首を押さえて、膝を顔面に叩き込もうとする。タックルをくらっても、引き込むようにして倒れ、相手がいやがって上体を起こすとすっと立ち上がる。ルミナの切れと凄みのある動きに、場内は、どよめき渡る。
打撃では、ジョルソンは、ルミナの敵ではない。ロー、ロー、そしてパンチ。明らかにローが効いていく。1分、2分と進むに連れてジョルソンの劣勢が明らかになる。確かにタックルは入るが、ルミナの素早い引き込みの前に、腕十字を防ぐのが精いっぱい。じっくり上にのって攻めていくことができず、結果、ルミナに体を抜かれてしまうのだ。いわゆる「猪木・アリ状態」からの攻めをしらないらしいジョルソンは、そのままスタンドに戻るしかない。
見えてくる勝利。
その予感に圧力が上がっていく会場。
だが、運命は違った結末を用意していた。
苦しみながらも組みつくことに成功したジョルソンが、下から腕をとろうとしたルミナの動きを切り、反対に上から腕ひしぎ十字固めにもっていったのだ。
がっちりとはいった十字固め。しかしギブアップしないルミナ。
必死にブリッジをして返そうとするが、ジョルソンの足がルミナの体を封じ込める。
悲鳴とも怒号ともつかない観客の声が沸き上がった。
遂にレフェリーが動き、テクニカル一本負けが宣言された。
エース、ルミナの敗北。その結果としてのサムライクラブの勝利。
しかし、これは修斗という競技の敗北ではない。
後楽園ホールを埋め尽くした観客の前で、ルミナは、エースとしての働きを十二分に見せてくれた。ニュートンやジョルソンへのリベンジという課題は、ルミナや須田といったこれからの修斗のエースを鍛え、そして競技としての修斗を大きく育てていくことになるだろう。
5月には、もう一人のライバル、ライオンズ・デンのフランク・シャムロックもやってくる。
メジャーへの道は始まったばかりである。
<取材>
記者:山名尚志、薮本直美、岩瀬俊
カメラ:井田英登
