RINGS
12・23WORLD MEGA-BATTLE TOURNAMENT '97 SEMI-FINAL 前田日明インタビュウ
「勝った負けたって言ってもリングスの中じゃないですか」
  田村戦を終えて、前田日明・有終の美学を語る

Q 故障の方はいかがでしたか?

前田「故障自体は、まあ前試合でヒザを痛めたとか何とかって言ってるんですけど、年がら年中どこか故障してるんでね、それを理由には出来ないっすよ。だからもうそれはそれで俺は20年もやってるんで、それはそれで負けないやり方って自分なりにあるんですよね。それをあえて突破して来たって言うんで。あいつ今日驚いたのはね・・・まんまとはめられたね、俺(笑)。何の気なしに出したハイがコーンって擦ってね、あれえっと思ったんだけどくらくらっと来て、追い込んでって、あのあとたたみに行って、たためなくて、ちょっと休めるかなと思ったんですけどね、俺ね。ちょっと気を抜いて・・・気ィ抜いたところをぱっと獲られちゃったね(笑)。大したモンですよ。20年選手を騙すんですからね。・・・・あと田村に望むことは100キロとは言わないっすから、あと10キロほしいですね、10キロでいいですよ。10キロで。あと10キロあれば、蹴りにしてもパワーにしても、彼の体重にしてみればワンレベルもツーレベルも上のパワー持ってるんですからね。パワーとスピードを。彼だったら、あのー違うね、今までの選手になかった、日本に無かったような選手になれると思うんで。ちょっとね、今日の計量見て2キロ増えてるって言うんで、ちょっと、あー、このままずっと10キロぐらい増やしてくれたらなあって思うんですけどネ。」

Q、これで武道館の優勝戦は消えてしまったんですが。

前田「俺の美学はね、”厳冬の冬に人知れず純白の花を咲かす白梅のような美しさ”を目指しますから。ちょっとこれ普通の人にはわからないっすよ。まあね、前田が引退して10年か20年ぐらいたってからね、おっ、あいつ渋い奴だなって、わかりますよ」

Q、余り悔しさが見えて来ないんですけれども

前田「勝った負けたって言ってもリングスの中じゃないですか、ね。それも明日引退控えてる様なやつに、俺みたいに引退控えてるやつ同士でやって負けたらまあ、なんちゅうんか、家まで乗り込んでやろうかと思うけど(笑)まあ、これから伸びていく若い選手なんで、で、あいつ正々堂々と真正面からやってきたんで。あいつがこないだの長井みたいな方法で俺の左膝集中してやってきたら5分ぐらいで、5分かからないで勝負付いてたと思いますよ。敢えてそれをやらないで正面突破を挑んできて、ぎりぎりのところで競って競って競ってやってきて、最後何か、ぐううって体寄ってかわしてるんだけど、ぐううって競ってきて、パッと気ぃ抜かして、ふっと取ったんですよね。俺もロープ近くにあるし安心しててなんかね、さっきちょっと言ったけどいいハイが当たってから、まあちょっと休めるだろうと気ぃ抜いてたらね、出し抜かれましたね。なんかね凄いですよ。」

Q 三位決定戦は?

前田「三位決定戦はなんとかして勝ちたいですね(笑)。ハンが足痛めてるっていうんで、俺はハンの足を徹底的に狙って、その前に自分の足を狙われんようにして。両方ともそこをだましあいして、同時にさっとロシア語でしゃべってね、「さてどちらでしょう?」(笑)。迷わしといて、ハンの足を攻めますよ。」

Q 来年は真っ白からのスタートとなりますが、来年の見通しはどうなりますか?

前田「来年の見通しっすか? いろいろと面白くなるんじゃないですかね。んでー、さっき各ネットワーク支部長とも話したんですけどね、なんていうかね、ブラジルというのは一箇の良い、貴重な経験である、と。自分たちの競技とかいろんなものをレベルアップさせるんであればね。今までそれぞれのネットワークだけで対応してて、ネットワークだけで技術や対策を練ってやってたんだけど、もっと全リングス的にね、せっかくレベルの高い連中が多いんだから。全リングス的っていうか、自分たちのやっている競技を練り上げるためにも、考えてやったらいろんな意味で面白いことが出きるんじゃないかなって、さっき話しました。ちらっとね」

Q 前田さん自体はどうなんですか? 来年

前田「俺自体ですか? ああ、やっと終われるんか、って感じですね。やっと、終わらしてくれるって言うか。その前にちょっと、ブラジルの、あのー俺と同い年の、同級生のおにいちゃんとやって、それで終わらして。それはそれで面白いですよね。でも、悔しいね。あいつなんかもう莫大な金額じゃないですか。オレ達ははっきり言うと、一試合500万だってやったことないですよ。10倍以上じゃないですか。10倍、20倍・・・(つぶやくように)俺達は毎日、やれ選手育成だ、興業管理だ、営業だ、資金繰りだ、なんだかんだやってて、でしょ。向こうは好きな道場経営で、で試合でたまに来て、なんかちょっとなさけないですね。ちょっと、試合のときは頑張りますよ。ちょっとちがうでしょ。」

Q ヒクソン戦は実現の可能性は?

前田「いやー、やんないとダメでしょ。(決然と言い切る)ただ、なんかこう、日本にアルティメット系の団体が、KRSも含めてなんぼか出来て、彼の元に日参して莫大なお金を積みはじめてるんだよね。はっきり言って、なんか、ちょっと金額聞いてみんな引いちゃうんじゃないかと思うってね。彼らはなんか勘違いしてるんですよね、いくらでも出してくれるもんだと。日本じゃはっきり言って「所詮、格闘技」じゃないですか。はっきり言って。K−1のトップ選手でもヒクソンぐらいはもらってないでしょ。彼の半分以下ですよ。3分の1とか4分の1ぐらいでしょ、もらってる人でも。彼はちょっと勘違いしてるんですよ。実現不可能な金額を言われたら、あとはもうヤーさん絡みの団体がもってくしか無いですね。もし万が一そうなって、「前田出てこい」とかいわれてもそういうところだったら俺もちょっとできないですね。とりあえず今はWOWOWとかそういうところが主催でやれるようにがんばってくれるって言ってくれているんでね。」

Q 9月実現ということでお話を伺っているんですけれど、今の話しを伺うと中だるみという所ですか?

前田「(強い口調で)中だるみっていうんじゃなくて、なんかねー妨害が熾烈になってきてるんでね。で、ヒクソン自身がちょっとお金に目がくらみかかってるんですよね。ホントに武士道とかを説くんであったら、ホントに金じゃないって所があるんであれば、そういうところをみせて欲しいですよね。実際、武士道っていうのは金なんか一銭も関係ないですよ。俺らUWFの時、あんな必死にやってて、ギャラ幾らでやってたかって言えば彼の何十だか何百分の1ですよ。それも会社に金がないっていうんで半分入れたりしてましたからね。それも真剣な意味で、自分たちのやっていることを注目してもらおうというなら金じゃないんだという事だからね。みんなそれぞれ、俺にしても高田にしても片親でね、親の面倒みたりとかいろいろやって、金の要るんで、どうしようもないとかありましたからね。高田とか俺とか、ホント、自分の親に回す金は借金してでも回しましたからね。そういうもんなんですよね、UWFというのは。みんなちょっと勘違いしてる所があるんですよね。そうやりながらやってきたんですよ、アレは。だから俺は一番最初の時、俺は「選ばれし者の恍惚と不安」って言ったんですよ。ホントに金でもない、何でもないって連中がね、心意気だけでいろんなところを敵に回して、今でこそインディだなんだってあるけど、あんとき全日本、新日本だけでしたからね。それで外人のルート全部押さえてるんですよ。選手達にそんなに金もないし、微々たる金だけでやってたんですよ。だからあの頃のメンバーに対しては「選ばれし者」と言いたいし、言えるんですよ。後になって、いろんな連中があの言葉はおかしいとかなんとか言ってるけど、それは何も知らない大馬鹿野郎が言うことですよ。はっきり言えるのは、あのときのメンバーとおんなじような状況になって、何人の人間が団体に残れたか?賭けてもいいですよ、あのメンバー以外にないですよ。UWFというのはそういうもんなんです。田村がU−FILE CAMPって何時までもやる気持ちはわからんでもないんですよ。だから、俺は何にも言わないですよ。U−FILE CAMPだってリングスだってなんだっていいんです。なんか残してくれたら、いいですよ。いいだしっぺは俺なんですから。何が残っても、俺ですよ。ちゃんと、こう安全策を作ってます(笑)。」

Q 引退前にもう一回田村さんとやりたいという気持ちはありますか?

前田「いや、ちょっとヒクソン戦が決るような事があったら、ちょっと試合数絞ってね。あとはもう引退興業やって、そのあとちょっと・・・なんで引退興業先にやるかって言うと、ヒクソン戦でやってる事と自分らがこれやってることとは別の事になってるんでね、言い出しっぺがこういろいろふらふらやってると回りにとって余計な迷惑になるんでね。発端はやっぱり高田っていう自分の仲間がね、こう負けたって言うんじゃ無くて、なんかね、勝ったやつに対しても負けたやつに対してもちゃんと評価して論評出さないといけないんだけど、ただの中傷なんですよね。勝ったやつに対しても中傷、負けたやつに対しても中傷。そんな・・自分は、昔高田なんかには俺、借りがありますからね。あいつはユニバーサル・プロレスの時に、将来を捨てて俺の所に来てくれたんですよ。そういう借りがあるんで、そういう人はやっぱり大事にしたいから、だからそれはもう個人的なことなんで。・・・やりますよ。」

Q 新弟子の頃と比べて田村選手は、今日はどのように映りましたか?

前田「ウチに来た当時は、ああいう柔道スタイルのああいうのはぜんぜん見向きもしなかったし、やり方も知らなかったけど。今日やってみて、いつのまにかシコシコシコシコなんかやってるんだなー、そういう感じですね。このごろちょっと、やってて思ったのは、U−FILE CAMPって道場も大変なんだけど、ああいうところに閉じこもってしまうとやっぱりねえ、スパーリングの量が減ってしまうんですよね。そうなってくると、ちょっと、自分が知らず知らずのウチに瞬間瞬間でぱっと無意識の対応って出来なくなってくるから、ワンテンポ、半テンポとか、4分の1テンポとか遅くなっちゃってね、そういうのがだんだん重なってくるとだだだってレベルが下がってくるから、一段落したらリングスジャパンの前田道場に出稽古してね、みんなとスパーリングこなしたりしてね。リングス全体でそういういろんな技術交流とかしたらね。そんなところですね。」

Q 引退興業は高田選手と?

前田「全然何にも決ってないです。前にも言ったとおりです。そういうことをね、勝手に書かないでくださいよ。何かね、彼にもキングダムの中での微妙な立場があって、微妙なアレでというか、いろんな部分で大変な立場だと思うんですよね。ただ自分が言えることは、彼がね、もし何か、ちょっと力貸してくださいって言ったら、そのときは前向きに考えよっかなと。それはもう出来ることと出来ないこととありますけどね。まあなんか、と、思ってるところでね。あんまり、なんか、ちょっとひとこと誰かが言ったり書いたりするたびに、中でわさわさわさって「キングダムの何時やるんや」って事で、端でみててもいい気しないし。なんかこう、こっちがいい気しないし、端からみててあーっと余計に大変だなと見えちゃうんでね。あんまりそういうことは言いたくないです」

Q キングダムというと、このあいだUFCに桜庭選手が出たんですが

前田「あーっ、大したもんですね、桜庭ね。大したモンです。ウチのHPに書きましたよ。「大した奴、桜庭」って。俺の偽名で、俺の変身名で(笑)夜桜銀次、かっこいいでしょ」

Q 見られました?試合は

前田「見ました、見ました、見ました(勢い込んで)大したモンです」

Q 今日はザザ選手が勝ちましたが

前田「そうっすね。まあ、最初二十分やって、時間いっぱいやってドローだって言われてたんだけど、向こうの方から、外人の方から強硬にドロー無しにしてくれって言ってきたんで、ちょっと今日は自爆してましたけどね(笑)彼(モラエス)も今行ったら気持ちのいい人間で、やっぱり格闘技やってる人間は本来そういう人間ですよ。でもちょっとね、良くも悪くも真っ白なんですよ。回りから黒い色でも灰色でも、明るい色でもね、塗ろうと思ったらどんな色でも付いちゃうんですよ。マスコミの人たちももうちょっとね、自分たちのいる世界を大事にして欲しいですね。なんかね。どうにでもなっちゃうんですよ。んで、この五年とか十年、まあこの二年三年は過渡期でね。この二三年の在り方で、日本のマット界が存続するか、無くなるかどっちかですよね。それはあのー二三年前にも言いましたけど、敢えて言わしてもらいました。ほんとにそうなりますよ。あのーイギリスみたいになっちゃいますよ。イギリスはなんかスカイTVっていうのが入って、アメリカのそういう優良な各プロスポーツ、メジャースポーツ、野球・レスリング・ボクシング全部入ってきたんで、プロスポーツ全部消滅しちゃったんですよ。日本もまた遠からずそうなるでしょう。でも、まあこのままうまく育っていけば、逆に輸出する立場になるでしょうね、日本が。そうなって欲しいね」

Q スミス選手もUFCに出てたんですけど

前田「スミスは元々ウチに上がる前にあの向こうでチャンピオンになってて・・・チャンピオンになるって言うか、出るって承服してたんでね。そういう選手だって知っててウチは契約したんで、それについてはしょうがない。一応、向こう(UFCJ)もまあ挑戦的な物言いだったけど、一応一言断ってくれたんで」

Q 今後スミス選手は?

前田「どうなんでしょうね? まあ、リングスは上がりますよ、彼は。リングスUSA名乗らせてくれって言ってくるぐらいだから(笑)。どうなのかな。大したやつですよ、あいつも。大したやつです。普通、キックボクサーがやっても、なんかばたばたって負けが込むとそれで終わりになっちゃうもんだけど、そういうのが土性っ骨っていうんですよ。そういうのがこの頃の若い人にはないですね。見習うべきですね、土性っ骨」

Q セコンドの高阪選手が付いていましたけれど、彼がやりたいって言ってきたらどうします?

前田「高阪っすか? 高阪は将来スミスがやってる所でリングスの道場を開きたいって夢があって。いいんじゃないっすか。UFCはちょっとどうかって思うけど。それだって、この先ちょっとどうなるかわかんないっすね」

Q 彼自身が希望してるって事はないですか

前田「いや、前出させてくれってのを言ってきた事がありましたけどね。もうちょっと様子を見てみろって事で、慌てることはないだろうって。慌てる乞食はもらいが少ないんですよ。幼稚園の時習わなかったですか?(幼稚園のときは・・・(笑))気をつけなきゃいけないことは、新しいことがぱって入ってくると、わああ言えば、みんなわああってなるんです。わああって動いてったら、わああって通り過ぎててね。そういうのをねえ、アホが見るブタのケツって言うんですよ。ねえ(笑)」

Q 今日のグレーシー(ブラジリアン柔術? インタビュアの側に錯誤があったようだ)戦なんですがこの間、前田さんがモラエス選手とコーチキン選手戦の試合の時に「大体見えてきた」とおっしゃっていたんですが、今日初めてリングスネットワークの選手が判定とはいえ勝ちをおさめた訳ですが・・・

前田「(質問を遮って)ピータース選手はちょっとその鉄則を守れなかったっすよね。ザザはまあ・・・」

Q(めげずに)前田さんなりに一つ見えてきたという物は? 

前田「ああ、ありますよ、一杯。それは何かね、グルジアの連中もそうやし、ハンだ、俺だ、何だってまた、ピョードロフさんはピョードロフさんの意見があるし、誰の意見を聞いても面白いんですよね。ちょっとやってきながら、実際に試合見てって、桜庭クンの試合見てても何か見えてくる部分がありますしね。やー、面白かったですね。あの試合は。そういうのがヒントを与えてくれますよね。大した奴ですよ、桜庭。俺が女やったら一発やらせてやってもええね(笑)。そんなところですね」

 選手でありネットワークの代表であり、ブッカーでもある、前田日明のさまざまな立場からの思惑が交互に現れたインタビューであった。

 福岡大会は、話題が数多くあったせいもあり、さまざまな質問が出たが、ヒクソン戦及びブラジリアン柔術の選手の参戦予定に関して、確定した情報は出されなかった。まだ交渉中である、という状態らしい。

 マスコミは業界のことをもっと考えて欲しい、と語った前田だったが、この日彼の口から発せられた言葉から改善のヒントを拾うのは困難だろう。あまりにも「わかりにくい」のである。どの立場で言っている言葉なのか判断がつかない。

 結局、「前田日明の言葉」という括りで情報は流れる。期待、影響力の大きい前田の言葉は、受け取る人間の心情によって変化し、一人歩きしていく。そして誤解が生まれる。これはリングスのあまりにも多くを、前田一人が背負っていることの弊害だろう。

 前田の引退を前にして話題はあるものの、リングスの集客力は落ちている。

「金のかかる」ヒクソン戦を前に、既にあるリングスの足場が揺らぐことにならないか、不安に駆られているファンも多いことだろう。その不安に答えてくれるものは今のリングスにはない。この日田村が前田に勝利したが、それはランキング上の出来事に過ぎない。引退の日までは、リングスを引っ張っていくのはあくまで前田である。その前田の言葉が伝わらない様を見ているのが、ひどくつらく感じられるインタビューでもあった。

(薮本直美)