第1試合 中尾受太郎(STG横浜) vs スティーブ・ネルソン(USWFミドル級王者) <選手コール>
日本でスティーブ・ネルソンの経歴といえばUWFインターへ参戦していた程度しか知られていないのだが、かつてはカール・ゴッチに師事し、全米のサンボ選手権で優勝するなど、ファイターとしてかなりの研鑽を積んでいる選手である。世界的なNHB流行の波に乗ってエクストリーム大会に参戦したのち、地元アマリロでUSWFを旗揚げし、現在は自らミドル級王者としても活躍している。USWFのファイトスタイルは顔面打撃を掌底に限り、一回のロープエスケープを認めるなど、Uスタイルに近い部分を持っているのだが、修斗には選手派遣をするなど協力関係にあり、選手としては今回が初参戦となる。
<1R>
ネルソンは試合開始早々、位置の高い胴タックルで抱きつきロープに押し込んで来る。修斗の選手である中尾は、テイクダウンの危険が既に身に染み付いており、安易に倒れ込んだりはしない。コーナーポストを背にしてきっちり踏ん張り、安定を取り戻す。抱きあった状態でボディパンチを打ちながら、差し手を奪い合う両者。一見、立ったまま膠着しているように見えるが、倒れ込んだときのポジションを有利にするために、クッションをどちらが背にしているかを争っているのだ。膝を撃ち込み、かかとを踏み付けるのも、全てグラウンドでのポジションを有利にするためのお膳立てである。当然コーナーを背にしていれば、後ろに倒れ込んでしまう事は無いから断然有利であるし、踏ん張りも利く。無理やり引き倒そうとするネルソンに比べて、中尾はこうしたつばぜり合いの場数を踏んでいるせいか、表情からも冷静に戦況を測っている感じが伺える。何度かコーナー争いで両者が入れ替わったのち、ネルソンに攻め疲れが見えた頃合いで、中尾が引き倒す。ここまでの伏線が実ってトップを奪う事には成功したが、ネルソンもまだまだ余力を残していたのか、ブリッジでひっくり返される。中尾はガードポジションに入り、両者パンチを打ち合いながら次の展開を測っているところで八分経過。ゴングが鳴って、1Rが終了する。
<休憩2分>
やはり、VTJでは通常の修斗ルールと比べて1Rの時間が長く、ブレイクが無いので、ささいなミスが命取りになる可能性が大きい。そしてその神経戦の中で、8分という時間をどう利用するかも一つのテーマになってくる。相手を疲労させながら、自分のスタミナを守り、有利にゲーム展開を図る冷静さが要求されるのだ。
このところのエンセンやUFCを席巻したベウフォートの戦いぶりに見られるような、打撃一本のハイスパートファイトは「相手に何の反撃も許さない」という点で、VTの一つの解であるといえるだろう。しかし、それは肉体的に圧倒的な優勢を誇れるヘビー級ファイターにのみ許される「”野蛮人”の解」である。一方で軽量級・中量級の多いシューターの場合、やはり柔術的な緻密なゲームが要求されてくる。いわばこちらは「”神経戦”の解」を求められる訳だ。前者を選べばより豪快な試合になり、後者を選べばより繊細な戦いになる。修斗ではブレイクと判定がある分、知能を使って後者の戦い方を選ぶ方が有利になる。しかし、VTJルールでは判定がないからとにかく勝ちに行かねばならない。”いい試合”をやって判定を拾うという手が使えないのだから、繊細さと豪快さのコントラストがより明快になるのだ。そのくせ一試合の中でも、局面は”豪快”と”繊細”でころころと入れ代わる。当然、選手の神経の消耗度も大きい。
スポーツエンターテイメントとしてのまとまり方では、VTより遥に優れている修斗が、あえてVTをやらねばならない理由がわかってくる。VTという気の張る修羅場を体験すれば、選手達の精神と肉体はより研ぎ澄まされていく。セオリーがあるようでも、結局は何一つ確かな物が無い闇のなかで、自分の中の知性と野生の限界に向かい合うこと。そんな”疲れる”試合こそが、スポーツ選手を格闘家に変えていくのかも知れない。(その意味ではVTJのルールは”きれい過ぎる”な気もするが)
そんなことを考えているうちに2分が過ぎた。
<2R>
ラウンド制の試合の場合、どうしても展開は試合の形は各ラウンドで似通ってしまう部分が出てくる。やっている選手が同じなのだから、やはり狙う部分は一つか二つなのだろう。よほどトリッキーな選手でもないかぎり、前にトライして決めきれなかった戦法を踏襲していくことになるのだろう。
ネルソンも例外ではなく、やはり1R同様、高い胴タックルから、コーナーでポジション争いとなる。しかし、こんどは慎重すぎてスタミナを消耗した反省からか、単に焦れただけかは知らないが、一気にネルソン積極的に出て、力任せにすくい倒すような豪快なテイクダウン。しかし、中尾もトップは許さず、ガードポジションへ。上になりながら、巧く攻め上れないネルソンの荒さを突いて、中尾はするりと三角締めに持ち込んでしまう。まさに教科書のような鮮やかなカウンターアタックで、中尾は昨年からの”将棋倒し症候群”のストッパーとなってみせた。
修斗勢にとって、この一勝は個人の一勝を越えた、値千金の白星となった。VTJに敢闘賞があったら、迷わず中尾選手にあげたいようなトップバッターぶりであった。
(無頼庵)
[結果一覧に戻る][次の試合]