まだ考え方がまとまってませんが。だから、読みにくいですが、ご勘弁を。
冬季は交通が途絶する孤島で、なんで Norway と ロシアはわざわざ石炭採掘などしているのでしょう。
石炭埋蔵量が莫大だから? 石炭が国のエネルギー政策にとって重要だから? うーん、違うような気がするな …
石炭の品質もさほど良いとは感じられません。
しかも、生産性の低い採炭方式を採用し、生産量は石炭採掘末期の日本にも遠く及びません。
石炭採掘が儲かるからとも考えられません (石炭価格は石油を元に算出されているし、ノルウェーもロシアも大産油国)。ではなぜ…

Svalbard の石炭品位

Svalbard の石炭品位については実際のところどうなのでしょう。
教科書の記述では、Svalbard では 低品位の褐炭ということになってます。これは、石炭形成期と関係あると考えられます。
Longyearbyen の品位については、情報がありませんが、現在採炭中の Svea では品位が高く、炭層も厚いので経済的にも有利と宣伝されています。
news.bbc.co.uk/1/hi/sci/tech/2285483.stm に依ると、Svea の石炭は 7,700kcal/kg, 高エネルギー量低硫黄分ということになってます。通常 (6,000 kcal/kg) より良いと宣伝しているようですが、日本だってそれより良い値のものはいくらでもあって、特に勝れているとは思われません。

Longyearbyen の石炭採掘

SNSK は世界的に見れば小さな会社で、日本で以前に石炭採掘していた会社と比べてもかなり小規模です。比較すると…
 Longyearbyen (SNSK)大牟田 (三池)
炭層厚み80cm (Gruve 3) 程度, 160cm (Gruve 7)
Svea では最大 5m
厚いところは4m 以上
炭層位置山の中腹にあり、水平大部分は海面下 (三川鉱 350m, 四山鉱 600m くらい)、地上から海面下に向かって緩傾斜。
採炭方式残柱法 (Room & Pillar)
石炭採掘後には残しておいた石炭の柱が天井を支える方式。柱として残す部分が多く、採掘できるのは、一般的には、全体の半分以下。
長壁式 (実収率高いこの方式に、試行錯誤の末に行き着いた)
採炭機械コンティニュアスマイナ
Gruve 3 では、人力採炭あり。見学コースになっている
コンティニュアスマイナ, ホーベル + (鉄柱 or カッペ → 自走枠)
→ ドラムカッター
年間採炭量 ('90)
古いが、比較できる年代ということで
12万3千t (Gruve 3)
15万6千t (Gruve 7)
214万t
発熱量 (kcal/kg)7,700 (Svea での値)8,150
元素分析値 (%)  C 84.5, H 6.1, N 1.2, S 1.1, O 7.1
S はやや多い (他の産地では 0.7% 以下が多い)
炭鉱内労働者数Gruve 7 では 20人
うち 12人でコンティニュアスマイナ運転。
 
グループ労働者数230人1,793人 ('92 の三池)
街の人口1,300人くらい 
労働者あたり生産量4.1t/人・シフト
欧州炭鉱は 1.8 〜 2.3 の由
 
坑夫の年齢19歳以上のみ採用
退職は 65歳 (60からも可)
 
坑内の鉄道機関車の種類は架空線式だけ?
人車も水平式だけ?
機関車は架空線式の他、蓄電池など、使用場所によって分かれている (筑豊ではもっと多種類)。
人車も斜めの坑道ではケーブルカーのように斜め。
残柱法は、大牟田 (三池) でも明治時代に採用されていた。炭層の中に、碁盤の目状に坑道を掘進して石炭を採掘し、安全のために矩形状の炭柱を残す方式である。地盤沈下・坑道破壊のおそれがない場合は、さらに残炭柱を採炭設備を交替しながら採掘していく。
残柱法採炭は緩傾斜の炭層において用いられ、採炭現場では、コンティニュアスマイナ, シャトルカーの組み合わせが主力機械とされる。
長壁式 炭層の中に 100 〜 200m 隔てて並行する入気坑道と排気坑道を 1,000 〜 1,500mの長さまで堀進する。坑道の入口および奥部に 2本の坑道を連絡する坑道を設け、これらの坑道によって囲まれた長方形の炭層パネルを 1単位として採掘を行う (火力原子力発電 1988, 39, 525)


残存の疑問

最新の Norway 式 と 旧時代の Russia 式

Svea (Norway の会社の炭坑) では、160cm の炭層で、石炭品位も高く、最新の機械を導入していると報じられています。 Longyearbyen から 60km の距離を労働者を輸送しなければならない不利はあるにしても (両町間に道路はないから、ヘリか航空機で)、当分の間経済的に成り立つと考えられているようです。
これに対し、Longyearbyen では、第7炭坑では、機械は Longyearbyen の中では最も新しいとはいえ、導入後かなりの期間が経っていると考えられます。埋蔵量が少なくなって来、近い将来発電所への石炭供給さえ確保できなくなる可能性があるので (一説には 2010 年に掘り尽くす)、もはや大規模な投資は行われていません。
Barentsburg (Russia の会社の炭坑) では、旧式の装備での採掘が続けられており、苦しい経営が続くことが心配されます。新しい市場を蘭に開拓でき、Murmansk へ送ることは '05 夏現在もう行われていない由。とはいうものの、こちらも可採量が減って来、その割には将来像がはっきり描けずに苦しんでいるみたい。Grumantbyen を再開発しようとの計画では 道路建設計画で Norway と揉めているようです。
Svea - Longyearbyen 間に道路が建設されない理由は、経済的に引き合わないからというのが SNSK の公式見解だが、この道路を建設したら、Russia の会社の Barentsburg - Grumantbyen の道路建設を認めなければならないのが嫌なのが本音との見方もあるようです。

Longyearbyen の石炭火力発電所

Longyearbyen の発電所の形式についてはわずかな資料しか見つけることは出来ませんでしたが、いろいろ想像を付けることは、それなりに楽しい作業です。

発電所諸元 (確定情報)

完成26th June, '83
建設費190百万 NOK
床面積2,000m2
運営Svalbard Samfunnsdrift (SSD)
ボイラー数2基
蒸気発生量 (2基のボイラーで)40t/h
消費石炭量 (時間当たり)4t/ボイラー/h (最大負荷時)
消費石炭量 (年間平均)2万5千t/y (Gruve 7 生産量 6万t/y のうち)
消費石炭種類 (あおやま 注)Gruve 7 から採掘された 1種類
現在の大気汚染防止規則では、石炭中の硫黄含有量と煙突 (高さ 90m) から排出される煤塵の量についての規制しか行っていません。発電所はこの 2つの規制値を十分下回って運転しています。
しかし、将来適用されるもっと厳しい規制値 (*) に対しては、SO2, NO2, 煤塵の放出量が 基準を上回っていることが分かっています。
発電所は現在、将来の基準値がどのようになるかということと行うべき諸測定を待っています。
(* : Norway のガイドラインと EU 指令) (あおやま 注 : Norway は EU に加盟していません)

参考資料

その他の資料

発電所出力5MW
年間発電量40GWh (この街に供給するにはこれで十分)
うち発電所運転のために 6GWh 使用
年間発熱量 (街の暖房システムに供給)40GWh
ボイラ 2基で発生させた蒸気のうち (平均) 24% は発電所のタービンへ (上記発電量を得る)
24% は汲み上げた海水と熱交換し、それで得られた蒸気を街の暖房システム配管に供給。
せっかく作った質の良い蒸気なのに、残り約半分は海に捨ててしまうようです。
非常用ディーゼル発電設備タービン破壊時に備えて 4基あり。6MW。
わずかに軽油漏れ有。環境問題になっている
なんだか冗長なシステムのような気がしますが、普通の地域と異なり、街へのエネルギー供給源がこの発電所しかなく、またこの街が絶海の孤島にあって、しかも冬季には大規模な輸送 (補給) を行うことは出来ない、という点を考えてのことなのでしょう。それに触れた資料はないけれど。
ボイラをストーカ焚と推測し、街の大きさ, 石炭専焼ボイラの蒸気発生量等から考えたら発電所出力は 2MW 程度と推測していましたが、それに比してかなり大きな出力のようですが、冗長性と関連するのかもしれません。
なお、暖房システム配管の他、上下水道のパイプはすべて地上に配管がある (トレッスルに載せられている) のが Longyearbyen の特徴です。建設や修理や容易なのと、地面が永久凍土のためです。
また、街内での暖房のための熱交換器は 4箇所に設置されています (Nybyen, school, town centre, wharf area)。
上記冗長性の問題と、次の発電所方式がなかなか決められないことと関係あるように思われます。
Longyearbyen の Gruve 7 では、上述のように残存石炭が少なくなっているため、街では、石炭火力発電所に代わる発電設備が模索されている状況にあります。代替発電として、風力, ゴミ焼却などが有力な選択とされていますが、不安定な風頼みだけにはできなかったり、熱を供給する必要があったり、炉への投資と排気ガス規制があったりで、なかなか進んでいないようです。
ちねみに、Barentsburg では、稼働中の石炭火力発電所はあまりに旧式のため、代替瓦斯発電所の建設が Jan., '06 に発表されています。その瓦斯は本土から航送するようです。冬季はどうするのでしょ。そこまでしても石炭より安いのか?

残存の疑問


以下は、特記なければ、あおやま 推定ですが、間違い等御指摘いただけると幸いです。

ボイラーの石炭燃焼方式推定

これを、'83 建設当時でも日本ではほとんど新設されていなかった「ストーカ焚」と推測します (後述するように、大はずれの可能性もあります)。
「ストーカボイラ」の特徴 (利点) は とされており、Longyearbyen の発電所としてはうってつけと考えられるからです。
ここでは載せませんが、素人の あおやま が見ても容易に仕組みを理解できるくらい簡単なボイラー。最近の日本ではゴミ焼却に用いられつつあるようです (都市ゴミを燃料とする発電所には用いられていない)。
代替発電所を考える上で、燃料としてゴミとの混焼も候補として考えられたが、技術上問題があるので沙汰闇になった、との情報も、ストーカ焚だから、なのでは。
その代わりの欠点として以下の点が挙げられますが、Longyearnyen の発電所ボイラならば大した問題とは思われません。 ストーカボイラではSO2 除去率が原料炭の硫黄分に依ることから、現在の大気汚染防止規則に硫黄含有量しか規定してなかったりして。

日本技術との比較

人口 3千人程度の住宅地区と炭坑に電力と蒸気を供給すればよい というのは、日本でいう小事業所の自家発電クラスでしょう。
月刊誌「火力原子力発電」には新設発電所の諸元一覧表が隔月に掲載されています。
手元にある一番古いのは、Longyearbyen の発電所が建設されてから 4年後の '87 のものですが、 それによると、当時日本で新設された自家発電所で、石炭専焼ボイラのものはだいたい自然循環型流動床方式になっています。
それどころか、その当時でも、役目を終えて廃棄になる発電所のボイラさえ、ストーカはほとんど見あたりません。
だから、いくらなんでも Longyearbyen でも '83 にストーカボイラなど建設しなかった、と考えるのは自然です (だから、あおやま の推定は間違っている可能性も高い)。
ストーカ焚は、日本では '50年代後半の産業用ボイラの主役で、'87 当時でもなお相当数が稼働していましたが、もう新設ニーズは少なかったようです。古い技術というイメージの他、ボイラ効率, 低 NOx 化技術の点で他燃焼方式に劣っているためと思われる、と参考文献で大目氏は述べています。

日本では、私には驚きのことに、'87 には、新設自家発電所でも石炭専焼のものが 14 (含許認可済段階) もあるのに、'90 には、製鉄所で 2箇所あるだけになり、以降、毎年 せいぜい 1 〜 2 建設されているに過ぎません。
代わって、廃熱かディーゼルが増えているように感じられ、日本の自家発電所では '87 〜 '90 に急にエネルギー革命が起き、石炭を発電所の燃料とするのには不利に変わったような印象を受けます。
但し、事業用の発電所では、これ以降も 大型の石炭専焼火力発電所が建設されています (東北電力酒田他) ので、大規模にやるなら石炭、という選択は依然として失われていないように思われます。

Svalbard の石炭形成期

石炭がいつ頃形成されたかは成書をご覧頂くとして、Svalbard の石炭が形成されたのは 2つの時代のいずれかであることが知られています。 (D. W. van Krevelen et. al., Coal Science 1957, 34)

汽力発電における石炭ボイラの燃焼方式と特徴比較

(大目誠一, 火力原子力発電 1987, 38, 1175 の表 6)
燃焼方式ストーカ焚気泡型流動床循環型流動床微粉炭焚
ボイラ容量130t/h 以下10 〜 200t/h50 〜 600t/h50 〜 3,000t/h
炭種への適応性限られる比較的大
燃焼効率90 〜 94%90 〜 96%99% +98 〜 99%
ボイラ効率
(低位基準)
80 〜 88%85 〜 90%90 〜 93%〜 93%
所内動力
(蒸発量 ton 当たり)
2.5kW12 〜 13kW12 〜 14kW6 〜9+
(2.5 〜 6kW)
脱硫装置付
運転可能負荷30 〜 100%50 〜 100%30 〜 100%35 〜 100%
SO2 除去率
(90 〜 95%)
燃料中 S分によるCA/S = 2.5CA/S = 1.5脱硫装置
NOx ppm200 〜 300150 〜 25050 〜 150100 〜 150 (国内炭)
150 〜 200 (海外炭)
CO ppm50 〜 100200 〜50050 〜 15050 〜 100
実績多数多数増えつつある多数
一般的な使い分け
(本文)
効率は若干低いがターンダウンが大きく、負荷応答性に優れており、建設費の安い小容量ボイラ向き比較的新しい技術であり、燃料に対する適応性が広く、石灰石による炉内脱硫が可能。今後の新しい機種として期待されている。石炭ボイラの中で技術的に最も確立されており、信頼性が高く、中大容量向き
ターンダウン比 = バーナ1本当たりの定格燃料流量と制御可能な最小燃料流量の比。一般に、ガスバーナは10:1、油バーナは4:1程度である。 このターンダウン比が大きいバーナほど流量(負荷)の調整範囲が広い。油バーナのターンダウン比が小さいのは、低流量になると霧化が急激に悪くなるため下限流量が制限されるからである。従って、霧化特性の良いバーナノズルを選択すれば、ターンダウン比を向上できる。

日本のもっと大きな石炭火力発電所

火力原子力発電 1990, 41, 435, ibid 1991, 42, 398
事業者
発電所
発電所出力
(MW)
タービンボイラ石炭消費量
(万t/y)
特徴
蒸気圧力
kg/cm2G
出力
(kW)
形式蒸発量
(t/h)
電源開発 (株)
松浦火力発電所 (注)
1,0002551,000,000放射再熱式超臨界圧貫流3,170224国内初の単機 1,000MW 石炭専焼火力発電所
Mar., '86 本館着工, 29th June, '90 営業運転開始
16炭種に対応
三菱化成 (株) (当時)
黒崎工場第1発電所
--14062,000循環流動床水管
単胴自然循環
250--June, '91 完成目標, 広い使用炭種, 重油, コークスガス混焼
(注) 九州電力 (株) (700MW) との共同立地。石炭消費量は計画値 380万t/y を発電所出力比 に分配して推算 (たぶん、合ってる)。
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[UP]Svalbard 旅行記

三池の教科書 坑内の一般知識を紹介している頁。これは参考になる。

bluemt@lib.bekkoame.ne.jp
Last Modified : 18th July, 2011