Icecap への 四駆車 ツアー

[Land Cruiser on the frozen river] (大きい写真は 21kbytes)。
正午、ホテルの北側に待っていた Land Cruiser に乗って出発。
ここ Kangerlussuaq は元米空軍の基地の町だというのに、走っているのは日本車ばかり。それも Land Cruiser のような車かワゴンがほとんどです。アメリカ車はほとんど見かけませんでした。Lonely Planet には「人々は夏には Mercedes で隣人を訪問する」って書いてあったけれど、その会社の車はゴミ収集のトレーラーで 1台見ただけでした。
運転手兼ガイドは James さんで、ここが米空軍基地だった当時、Texas から来た散髪屋さんだそうです。後で、実際に散髪屋さんとして活躍しているのも見かけました。
車はすぐに谷底に広がる"雪原"に下りました。"雪原"、といっても、凍った川に雪が薄く積もったもので、氷の厚さは 40 〜 70cm だそうです。氷が押し合いへし合いするようで、ときどき割れ目や皺があります。そこを 4速, 60km/h くらいで突っ切っていきます。たちまち、窓が曇って氷となって付着します。それをこそぐり落とすためのへらも積んであって、窓をごりごりひっかくのですが、しょっちゅうやらなければならないので、窓をわずかに開けることにします。
左右になだらかな丘が続いています。
James さん「昨日はこのあたりに musk ox がいたんだけどね」
今日は白一面にときどき茶や黒の斑点状に地肌が見えている丘が視界を占領していて、生き物の気配がありません。

"雪原" には轍が何本もあるのですが、James さんは他人がまだ通っていないところを行くのが好きだそうで、途中から、まだ轍のないところへとハンドルを切って行きました。どん、ど〜ん、と轍の上を追って走っていたときよりも上下動が激しくなりました。氷の"皺"を跨ぐときは、前方を注視していて「来るな」と身構えていると、どど〜ん、と期待を裏切らない特別大きなのが来ます。私は「やっほー」ですが、同乗の 50過ぎの夫婦は渋面でした。
そのうち、左右の丘が遠のき、白い平面が広がりました。そうすると、空も広く感じられます。いいお天気です。「太陽の恵み」という言葉がしみじみ感じられるような。実際、Greenland 滞在 4日のうちに、昼間が 1時間くらいは長くなった計算です。
1300 左右からの「丘」が白い平面の行く手を阻むのが見えてきました。「丘」は氷河で、氷河がここでぶつかっているようです。目指す Icecap に着きました。

[A large cave of the Icecap] (大きい写真は 20kbytes)。
そのぶつかったところで、氷の洞穴がぽっかりと口を開けていました。入口の床では、天井から落下した氷がまた凍って、スケートリンクのような平らな面を作っていました。
James さんから「絶対中に入っちゃいかん」と注意がありました。いつ氷が崩れるかわからず、崩れたらあの世行き確実だからでしょう。私が触れているくらいの大きさの塊でも直撃を受けたらただでは済みそうにありません。
氷はすこし泥をかぶった上に薄く雪が積もっていて、遠くから見れば、灰色の岩に見えますが、雪と泥は簡単に払い除けることができて、透明度の高い、少し青みがかった氷が姿を現わします。
雪上の足跡が目立ちますが、これは踏むとキュキュと面白い音がするので、キュキュキュキュと踊るように足を踏みならしていたせいです。そういう「踊り」は滑稽に見えるわけですが、横では James さんが、「僕の故郷の Texas ではニワトリはこう啼くょ」と、両手を広げ、股を開いて、雪を踏みならしながら、奇声を上げました。ま、それに追従する私も私ですが。

[Masses of ice fallen down from the glacier] (大きい写真は 22kbytes)。
氷の洞穴横の氷塊を前に話し込んでいる James さん (右) と Jesper さん(左)。氷塊はもちろん、背後氷河が崩れてできたものですが、こんな大きな塊がごろん、と崩れてくる様子をなかなか想像できません。James さんが着ているのは、アザラシの分厚い皮でできた服。さすがに温かそうです。「温かいけどね、とっても高価 (日本円で ¥20万円くらい) だから、現地の人はあまり着ないょ」

氷の洞穴を後に、氷河の前面、というのは「丘」の麓に沿って、車は走っていきます。

[Masses of ice fallen down from the glacier] (大きい写真は 29kbytes)。
ときどき氷塊がごろごろしています。「この辺りは一昨日はなかったんだけどねぇ」と James さんが言いながら、氷塊を避けるべくハンドルを切ります。氷河が崩れるとき、氷塊は何m も、時には 20 〜 80m も飛ぶそうです。その時、大きい氷塊はどたっと氷河から剥がれ落ちて転がるだけで、氷河前面からあまり動かず、小さい氷塊は遠くまで飛んでいくので、氷壁近くには大きな塊、遠くに行くほど小さい塊、が散らばっています。小さい氷塊は雪にまみれていますが、やや大きいものは青い色が感じられるものが多かったようです。もっと巨大なもののなかには、氷塊の中に土の線が入っているものも見受けられました。氷の歴史、に思いを巡らせずにはいられません。
氷壁が前方に膨れて、亀裂が横に走っているのが明らかに認められる箇所もあります。James さんは「Don't move.」と左手で氷壁を押さえる仕草をしながら運転。「氷河が崩れる直前にでも危険を知らせる音はしないのか?」「ときどき、ね」。無警告に崩れてくることもあるようです。

[Masses of ice fallen down from the glacier] (大きい写真は 25kbytes)。
さらに進むと、面白い氷の壁に出会いました。氷河の前面から、わずかに離れて巨大な氷の壁ができているので、氷の壁の後ろに回り込むことができます。氷の壁の大きさは、壁の切れ目から筆者が顔を出し、手を振っているところからご想像下さい。筆者の足元は小さい氷塊がごろごろしていて近づき難かったのですが、顔を出すぞ、の意欲で乗り越えていきました。それにしても、どうしたらこういう形になるのかしら。
この写真を撮ってくれたのは James さんですが、撮影後、私にカメラを返してくれるときに受け渡しが上手く行かないで、カメラを落としてしまいました。なにしろ、地面は雪が薄く積もっただけの硬い氷で出来ていますから、ひとたまりもありません。レンズが変形し、鏡胴が曲がり、電源を入れても全く反応がなくなりました。帰国後修理したら、¥19,372 かかったのみならず、修理後も突然不調になることがあるという、このカメラの躓きの運命の始まりになりました。そんなわけで、この日これ以降の撮影は不能になりました。
さらに氷壁に沿って走っていくと、左側の氷河が遂に低くなり、向こうから来た別の氷河とぶつかっているところに来ました。ここで車を止め、Land Cruiser の後部ドアを開けて、車の荷台部分の床を調理台兼食卓にしてのおひるごはん。
James さんが Butikken で仕入れてきたパン, ソーセージ, クッキー, チョコレート, ポットに入れたコーヒーとお湯 (ティーバッグとココアのため) を取り出してきました。私は Jesper さんと共にウイスキーのオンザロックスに入れるための氷を捜しにごろごろ氷塊の上を氷河前面へと近づいていきました。泥の付いた氷が多いのですが、そんなに汚くない氷を見つけるのに時間はかかりませんでした。
パンを切り、ソーセージを挟んで作ったサンドイッチを頬張ると、美味しいし、ウイスキーの中では、氷が何万年前に液体から動きを奪われて、気体も一緒に閉じこめられたのが、自由を取り戻しつつある、というような月並みではあるけれど、感慨が湧いてきます。ただ、たくさん飲むとトイレに行きたくなりそうなのと、カメラが多少気になるのとで、徹頭徹尾楽しむというところまでいかなかったのが少し残念ではありましたが。
帰途、丘を登っていく細くて急な登山道に車を乗り入れてくれました。Land Cruiser にして成せる業、です。もうこれ以上進めないから、引き返そう、としていると、稜線にトナカイ (caribou) がいるのが見えました。結局、トナカイ 6頭に雁が3羽、いつも手放さない双眼鏡がちゃんと役に立ちました。移動しながら狩りで生計を立てている猟師の小屋も何軒か建っていました。
1500 頃、帰着。
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Last Modified : Oct. 10, 1999