フィヨルドでの犬橇

[Dogs] (大きい写真は 25kbytes) 橇に繋がれた犬。この写真は橇を牽いて帰ってきたところなので、犬たちも疲れたのかおとなしくしています。

ものものしい準備

1045。まず、ホテル北側の倉庫で、アザラシの分厚い毛皮が上下つながったコートを借ります。靴も、私のキャンピングシューズではまるで駄目で、Sorel (caribou のやつ) を貸してくれます。フィヨルド上はかなり寒いから、このくらい着ていかないと駄目なのだ、と倉庫内で聞いてもちっとも現実味が湧かないけれど、後で身に沁みて感じることになりました。こうしてものものしく準備を整えてから車に乗り込み、空港の南西の海岸近くに向かいます。 高い網で囲まれた中に 10頭ほどの犬が繋がれていて、飼い主が来たからか、銘々に吠えています。
私たち客の方は、橇と犬の準備が出来るの間道具がしまってある向かい側の小屋の中で hot chocolate でも飲みながら待ってくれと。でも、小屋の中も寒いし、手持ち無沙汰だし、なにより、帰ってくるまでトイレに行けないから、飲み物は止めておくことにし、外をぶらぶらします (それだって何にもないことは同じですが)。
James さんは、囲いに立てかけてあった橇を近くの広場に下ろし、橇の上に毛皮を敷き、犬と橇を結ぶ紐をセットし、続いて犬を囲いから 1頭ずつ連れて来ます。ききわけのいい犬とそうでない犬がいるのはどこでも同じだけれど、どうも、後者の犬の方が多いような感じです。犬としては橇を牽くという本能は持ち合わせているみたいですが、躾というか訓練というかが悪いようにも見受けられました。繋がれてもなかなかじっとしていません。そんなわけで 犬を繋ぐにも時間がかかりましたが、ようやく 8頭揃って出発です。 ホテルでの集合時刻から 1時間半が経っていました。準備に時間がかかること。

犬橇で fjord へ出る

[The author on the sled] (大きい写真は 21kbytes) 橇の上の筆者。4人乗りのところに 1人なので、寝転がっているように見えてしまいますけど。
1215 出発、脇の小道から、すぐに fjord に下りて、ひたすら沖に向かって進んでいきます。 凍った海面が広がっているところに左右から山が落ち込んでいる風景が続きます。手前の山が段々近づいてきて、ちょうど真横に見え、後ろへと遠ざかり…。でも、また、似たような山々が前方から次々と現われてくるので、景色は珍しさが増すようなことはなく、変わり映えがしません。つまんないなー、と振り返れば、湾最奥の集落の建物がずいぶん遠くに小さくなっていました。
風邪は陸→海の追い風になっているので、防備のしっかりした背中で受けることになって、それほど寒くはありませんが、実際の気温よりも体感温度の方が低いことは確かなようです。
ときどき氷がぶつかりあって出来た、皺、というか、小さな盛り上がりがあって、それを乗り越えるときはがっくーん、と来ます、それ以外は平坦なところを行くので、乗り心地はまずまずです。前年に Alaska は Chena Hot Springs Resort の山の中で狭い登山道をがくがく揺さぶられ続けたのに比べれば、ずっとましです。そういえば、Alaska での犬橇では狭い道を進むためか、犬は 2列縦隊 (4頭/列) で、に繋がれていたのに、ここでは障害物のない平原をゆく前提なのか、橇の前方の点を中心に横一列に 8頭が広がっています。橇の形は、Alaska も、ここも同じですが。
1245、出発してから約 30分、犬の休憩時間です。いいこ、いいこ、撫でてあげるのに、犬の反応は全然ありません。そうやってかわいがられる習慣がないのかしら。もっとも、どこかのガイドブックに橇を牽く犬に手を出してはいけない、と書いてあったような気もしますが。
同乗の N夫人が写真を撮ってくれようとしましたが、James さんが「『さっさと乗れ』と伝えてくれ」と言うので、記念撮影はなし、です。

出発後 50分、James さんがどの辺りで引き返すか、と訊いてきました。同乗している N さん夫婦に意向を伺うと、「もういい」とのことです。旦那の方は「帰りもこれで戻るのか、誰かが車で迎えに来ているわけではないのか」と意外、というか、情けなさそうな顔をします。
橇で「ひゃっほー」状態なのは私だけのようで、引き返すことにしました。
James さんが「Please help me.」と言います。なんぢゃろか、と思っていると、橇の向きを変えて戻らなくてはならない、犬の向きを徐々に変えるのは大回りになるから、180゜一斉回頭しようというわけです。そのために、橇の後端を扇の要のように支点として、犬が扇の周を回るようにしたいわけです。「合図したら、今座っている位置から、橇の後端に移って、下部の板を踏んでくれ。そう、その調子だ。」と予行演習をしてから、いざ本番。
James さんが側面から犬を追っている間、私が踏んでいる点はちゃんと軸になって、橇はぐるりと向きを変えることができて、まずまずの首尾でした。
[Dogs drawing the sled] (大きい写真は 12kbytes)
あとは、今来た"氷の平面"をひたすら戻るだけです。どうも、皆が通る「道」があるらしく、その橇の痕に乗って。
James さんは橇の最前の位置で居眠りしています。眠いのを走って吹き飛ばす、と言っていましたが、睡魔の方が強かったみたいです。御者が寝ていても、犬はちゃんと橇を前には引っ張っていってくれますが、そのうち、左端の 1頭は大きく遅れ、橇の真横くらいまで来てしまいました。その位置では橇を牽く役には立っていないわけで、「隙あらば息を抜くぞ」という精神なのでしょうか。同乗の Nさん夫婦は頭を覆っているフードを顔の前で合わせて、必死に風を避け、一刻も早く帰り着いてくれと念じているようでした。復路は冷たい向かい風を正面から受けることになり、まともに正面を見続けてはいられません。
また、左右の山がひとつずつ、横から後ろになっていくだけの風景ですが、それでも段々と湾奥の建物群が大きく見えてきて、空港設備が見え、ついには犬小屋も見えてくると、ようやく、帰ってきたか、とほっとします。

1400 帰着。Jesper さんが待ってくれていて、道具をしまってある方の小屋で hot chocolate を飲むことが出来ました。N さんは「もう犬橇はたくさんだ」とこぼしています。2時間前はこの小屋で「犬橇、犬橇」と楽しそうに繰り返していましたが。よっぽど寒さに閉口したんでしょうか。
外をぶらぶらしていると、James さんが犬を檻に戻すのを手伝わないか、と言うので、喜んで手を貸すことにしました。当然のことですが、小型の割には引きが強い犬たちです。橇から離した犬を檻まで引っ張っていくのに力が要ります。ついで、檻の地面から伸びている紐の金具に犬の首輪の金具をはめろ、と言うのですが、犬は力強く動き回ろうとするので、これがまた楽でない。James さんが 4頭繋ぐ間に私は 2頭がやっとでした。
1420 一同、バンに乗って小屋を出発、hotel に戻って、倉庫で借りていた靴とコートを返却。

帰ってきてから。餌の時間

1500 のバスで、空港南へと向かいました。Hotel Umimmak, プール等を外から眺めた後、丘の上にある米軍基地時代の museum へ向かいました。丘は大した高さでもなかったのに、道でないところの薄く積もった雪を踏みつつ、上っていったので、頂上に着いたら汗をかいていました。
[At the front of the museum](大きい写真は 16kbytes)。Museum 正面の温度計の前で。針は -12゜F (-24℃) を示しています。
この museum は米空軍基地の歴史や Inuit の文化についての展示があるということになっていて、私は軍事一般にも興味はある方なので、出来れば見学したかったのですが、「冬季は 5人以上のグループがあるときだけ開館」らしく、私が行ったときは閉まっていました。
(袴田さんの museum 訪問記)
しかたがないので、上記の写真など撮っていると、背後にバンがやってきて、警笛を鳴らしました。写真を撮り終わって近づいてみると、James さんで、「これから犬に餌をやりに行くんだが一緒に行かないか?」とのお誘いで、連れて行ってもらうことにしました。
さっきの犬小屋に戻りました。小屋はなんといっても、天然の冷凍庫でもあるわけで、中には、凍った状態のアザラシの子供やCaribou の頭が転がっていました。どれも犬の餌ですが、今日の御馳走はアザラシです。
[small seal frozen for the meal of the dogs] (大きい写真は 20kbytes)。
まず鋸で、アザラシ (子供ですね、これは) の一部を切り出します。心なしか、恨めしそうな顔をしているように見えました。ついで、鑿と金槌で肉片をサイコロ状に切り分けていきます。わたしもやらせてもらいましたけど、ドライアイスの塊を切り分けるのに似ています、凍ったものをうまく切るには、鑿を入れる方向というものがあるので手の感覚が大事、というところが。
作業中にも、別檻で 1匹だけでいる小型の犬に James さんは肉片の端切れを投げてやっています。「(この犬は) 僕の girl friend なんだょ」と James さんは紹介してくれました。彼女に、まずお肉の特配、のようです。
さて、適当な数の肉片が出来たので、奥の方の、橇を牽く犬が繋がれている大きな檻の方へ入って行きました。まず、犬の周囲に dog food を投げてやります、輪投げの要領で。Dog food は親指の先大の黒い塊で、「高蛋白低脂肪なんだ、とうもろこしなんか使ってないぞ、米を使ってるんだ」と、James さんの自慢のもののようです。しかし、犬の方は、みんな、dog food には見向きもしないで、じっとしています。
その後にアザラシの肉を投げてやると、こちらにはすぐに飛びついて、口の中で凍った肉をがりがり噛み砕いています。美味しいから肉から食べるのでしょうが、凍った肉を苦労して食べるのが、そんなに dog food よりもいいんでしょうかね。肉を飲み込み終わった各犬は、ようやく dog food に取りかかりました。
私たちが乗った橇の方は、敷いていた毛皮を片付け、橇をひっくり返して檻の柵に立てかけ、紐で固縛して、後始末完了です。
帰りもバンで 送ってもらいました。車中、James さん「昨夜、小屋まで行ってオーロラ見たんだろ、鯨が出たょな。美味しかったか? そうか、美味しかったか。日本では鯨は高いんだろ? そのままにしておくと、腐ってしまうから、新聞紙でくるむといいょ。そうすると日本まで持って帰れるょ、うん。」と教えてもらっているうちに車は空港東を回って、butikken まで戻ってきました。礼を言って下りましたけど、どうも face mask を車中に置き忘れてしまったみたいです。

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Last Modified : Nov. 14, 1999