SEINAN GAKUIN OB ORCHESTRA
REGULAR CONCERT #27
曲目解説

 

歌劇「泥棒かささぎ」序曲
ロッシーニ 作 曲   (演奏時間:約9分)

 

 ジョアキーノ・ロッシーニ(1792−1868)は、イタリア最大のオペラ作曲家のひとりであり、19世紀初期の欧州音楽界で圧倒的な人気を博し た。18歳でオペラ作曲家としてデビューした後、19年間に39作ものオペラを作曲した。美食家としても有名であり、料理の名前を付けたピアノ曲も作曲し ている。彼の好みで作られた「ロッシーニ風」と呼ばれる料理は現在も名高い。オペラ界で大成功を収めた彼の人生は、クラシック音楽界では貧困生活にあえい だり、なかなか評価が得られなかったり、早世したりといった名作曲家が多い中でも例外的なものであった。晩年に健康を崩すことはあったものの享年76歳 と、当時としては大往生を遂げた。
 
 ロッシーニの21作目のオペラ『泥棒かささぎ』は1817年に作曲、同年イタリアのミラノ・スカラ 座にて初演された。オペラの舞台は19世紀初頭フランスのある裕福な屋敷。屋敷の召使として働く少女ニネッタは主人の息子ジャンネットと恋仲にあった。あ る日、屋敷の台所から高価な銀のスプーンが無くなってしまう。二人の仲を良く思わない女主人はニネッタに罪を着せ、横恋慕の悪代官の企図も相まってニネッ タは死刑となる(当時召使の窃盗には極刑が下されていた)。いよいよ刑が執行されようというとき、銀のスプーンを盗んだ犯人は鳥のかささぎであることが判 明する(かささぎという鳥はカラスの一種で光る金属類などを好んで集める習性がある)。ニネッタは無罪となり、改心した女主人にも祝福され、晴れてジャン ネットと結ばれた。この物語は一見、他愛も無いハッピーエンドストーリーにも見えるが、農民・庶民と彼らに不当な圧力をかける権力者との軋轢という、当時 の社会情勢を反映した内容となっている。最後には絶対的な権力者や国王などにより救われハッピーエンドとなる「救出オペラ」に分類されるが、この物語では その存在を「かささぎ」とすることで作品にユーモアを与えている。
 
 序曲はニネッタが処刑台に向かう場面を暗示するかのような小太鼓の ソロに始まり、闊達な行進曲風のフレーズが展開される。再び緊張感のある小太鼓が現れた後、弦楽器とフルートが短調のメランコリックなメロディーで軽快に つなぎ、徐々に明るく派手に盛り上がっていく。この主題はオペラ本編では、悪代官がニネッタに服従を迫る場面で演奏される。そして鳥のさえずりの様なかろ やかな長調によるフレーズがオーボエに始まり、他の楽器に受け継がれながら息長くクレッシェンドして大音量になっていく。この浮き立つような高揚を「ロッ シーニクレッシェンド」と呼び、元気さ華やかさを保ったままフィナーレへと結ばれる。


(文責:14期Violin 金子 香織)

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バレエ組曲「眠れる森の美女」
チャイコフスキー 作曲   (演奏時間:約23分)

 

 オーロラ姫の誕生を祝い、6人の妖精を招いて盛大な洗礼の式典が開かれる。妖精はそれぞれ姫に授け物をするが、最も位の高いリラの精が授け者をし ようとしたところに邪悪な妖精カラボスが現れる。自分が招かれなかったことを逆恨みするカラボスは、姫が20歳(改訂版では16歳)になった日に自分の指 を指して死んでしまう、という呪いをかける。そこでリラは自分からの授け物として「呪いを解くことはできないが、彼女は眠るだけで死にはしない」という魔 法をかけ、100年の眠りののちに王子の口づけによって目覚める、と宣言する。果たして姫の20歳の誕生日、カラボスの謀によって姫は指を刺して倒れた。 カラボスが勝ち誇って去ったあとにリラが現れて、姫が死んでおらず眠っただけだと周囲に伝え、さらに城にいた全員を一緒に眠らせる。それから100年後、 運命の人・デジレ王子がリラに導かれて姫のもとにたどり着き、その口づけによって姫を目覚めさせる。城の全員が目覚めたとき、王子は姫と結婚し、妖精たち に祝福される──

 言わずと知れたピョートル・チャイコフスキー(1840-1893)作曲のバレエで、「白鳥の湖」「くるみ割り人形」 と合わせて彼の『三大バレエ』と呼ばれる名作である。サンクトペテルブルクの帝室劇場(現在のマリインスキー劇場)の総裁フセヴォロシスキーの依頼で、童 話作家シャルル・ペローの『眠れる森の美女』を題材に創作された。
<1. 序奏とリラの精> 冒頭の激しい部分は邪悪な妖精カラボスを、場面変わってイングリッシュ・ホルンが奏でる旋律は善の象徴であるリラの精を表している。
<2. パ・ダクシオン> 第1幕、オーロラ姫の20歳の誕生祝いの席で、4人の求婚者から贈られたバラの花を手に姫が踊る場面。
<3. 長靴を履いた猫と白い猫> 第3幕、姫と王子の婚礼には、シンデレラや赤ずきんなど古今東西の童話のキャラクターが次々に登場して、まさに何でもアリ。白い猫のモチーフとなっているのは、どうやらペロー以外の作品に登場する猫のようである。音楽は猫の仕草を描写していて面白い。
<4. パノラマ> 第2幕、デジレ王子がリラの精に導かれて姫のもとへ向かう場面。船に乗って静かに進んでいくシーンが思い浮かべられる。
<5. ワルツ> 第1幕、姫の誕生を祝い、村の娘たちが踊るワルツ。チャイコフスキーの三大バレエにはそれぞれ印象的なワルツがあり、この曲もまた彼の真骨頂というべき作品である。

(文責:86期Contrabass 中島 博之)

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交響曲第3番 ヘ長調
ブラームス 作 曲   (演奏時間:約35分)

 

 “自由に”――この言葉からは「楽しい」、「幸せ」、「喜びに満ち溢れた」、そういう状態が連想されることだろう。“自由に、しかし”と続くならば、その後にくる言葉は正反対の印象を受ける言葉を置くのが普通だろう。
ならば“Frei, aber, froh!(自由に、しかし、楽しく)”という言葉は、それに込められた意味とは、一体何であるのか――……。
 
  ブラームスはドイツ古典音楽の伝統に立ち、19世紀後半のロマン主義を代表する作曲家である。交響曲第3番は50歳の時(1883年)に完成されたもの で、彼としては珍しく速くできあがった曲であり、また新鮮で奔放な楽想が自由に使われている曲でもある。ブラームスの4つの交響曲の中で最も男性的にたく ましく、最も壮大で、最も重々しいと言われている。
 
第1楽章 Allegro con brio
 いきいきとした楽章で、熱情と抒情味にとんでいる。ヘ長調で書かれているが、短調の色彩も濃く、特有のさびしさをたたえている。
  呈示部は管による強烈な上昇和音に始まるが、これは旋律的にみると、「ヘ−変イ−ヘ(F−As−F)」という上昇の形で、全曲の基本動機となっている。こ れはブラームスが好んで口にしていた表題“Frei, aber, froh!”の3つの単語の最初の文字からきているという。
 基本動機が発展 しながら奏でられ、おだやかであたたかい挿句によってイ長調へと変わり、激しい力の勝利のうちに呈示部が終わる。展開部が鋭く猛烈に始まると、突如暗くさ びしい短調になり、また、嵐のあとに月が出たように長調にもなり、またすぐに強烈な基本動機が続き、再現部が始まる。再現部には長い結尾がつくが、嵐のよ うに激しかった主題はすっかり弱まって、さびしく消えていく。
 
第2楽章 Andante
 第1楽章とはまったく違った簡素なもので、心の平和を率直に表出する。
 クラリネットとファゴットで奏でられるつつましい旋律ではじまり、その主題がすこしずつ変えられ、繰り返されていく。豊かに奏でられる結尾は、一度盛り上がるが、すぐに静かになり、主題の変化でおだやかに終わる。
 
第3楽章 Poco Allegretto
  チェロのロマン的な美しい旋律ではじまる。甘くて美しく、過去の思い出のようでもあり、夢の憧憬のようでもある、そんな旋律が繰り返されるが、そこには3 連音による不安な動悸も感じられる。その後、曲は明るく柔和な変イ長調で祈りと諦めの旋律が奏でられるが、最後は冒頭の旋律が繰り返され、短いが美しい結 尾で終わる。
 
第4楽章 Allegro
 第2楽章で過去をかえりみ、第3楽章で憧れ、第4楽章では英雄的に闘う。
  弱くせわしい不気味な旋律と悪い運命の予告のような響きの後、強烈な全合奏の強奏になる。運命との激しい闘争は、チェロとホルンによる明るい旋律により勝 利の喜びに終わったことが分かる。しかし、調は動揺してイ短調からト長調を経て、変ロ長調にすすむ。そして再現部になり、同じように闘争が行われるが、闘 いの終わりが静かに、そして不気味に告げられると速度がゆるみ、同時に明るいヘ長調になる。
 結尾は、明るく、大きく、嵐の後の輝かしい虹のように奏でられる。その後、第1楽章の主題が夢のように儚く、思い出のように淡く出て、静かに消えていって曲が終わる。
 
  ブラームスの友人、ヴァイオリニストのヨアヒムは“Frei, aber, einsam(自由に、しかし、孤独に)”という言葉をモットーとしていた。それに対してブラームスは“Frei, aber, froh!(自由に、しかし、楽しく)”を好んで口にしていたという。「自由」を「楽しさ」の対極に位置づける言葉……そこにはブラームスの感じていた孤 独やさびしさが表れているのではないだろうか。
 それをふまえた上で、言い聞かせるように繰り返される主題を聴いていただければ幸いである。

(文責:11期Horn 稲村 麻未)


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