REGULAR CONCERT #24 曲目解説 |
「謝肉祭(カーニバル)」とは、カトリック教国で、四旬節(キリスト教における、復活祭前の40日間の修養期間。イエス・キリストが荒野で断食、修行した 40日間、つまり四旬にちなんだもの)の前に行われるお祭りを指す。肉食との告別を前に、人々は伝統の仮面をかぶり、歌い、踊り、羽目を外すのだ。 アントニン・ドヴォルザーク(1841-1904)は1891年、当時の音楽界を牽引していたリストやスメタナの交響詩に触発され、ボヘミアの森にある自然豊かな村ヴィソカーで、この≪謝肉祭≫を作曲した。 当初、この曲は3つの演奏会用序曲『自然と人生と愛』の一つ(第1曲≪自然の中で≫、第2曲≪謝肉祭≫、第3曲≪オセロ≫)として作曲されたが、「3つの 序曲は個々に自立した作品で、単独演奏が可能である」という彼の考えもあり、最終的にそれぞれ異なった作品番号を付された形で出版され、今日に至ってい る。これら3つの序曲は、それぞれ「自然」「人生」「愛」を象徴しているが、すべての曲に同一のテーマ(≪自然の中で≫において主要テーマとして用いられ ている)が現れ統一が図られており、先に述べた序曲集としての構想を垣間見ることができる。 曲は、冒頭から活気ある主題が何の前触れもな く煌びやかにはじまり、聴く者を一気にお祭りの雰囲気に引き込んでいく。お祭り騒ぎがひと段落すると、木管楽器によるゆったりとした中間部へ。序曲≪自然 の中で≫のテーマが使用されており、夢見るような美しい曲調は、朝もやの中に広がるヴィソカーの田園風景を彷彿とさせる。その後、再びお祭りの喧騒に戻 り、いろいろなエピソードを挟みつつ盛り上がりをみせ、熱狂のうちに閉じられる。 ドヴォルザークは≪謝肉祭≫を作曲した翌年、彼にとって
の「新世界」であるアメリカへと旅立ち、クラシック音楽の中でも最高傑作の一つである≪新世界交響曲≫を作曲する。これらの活躍により彼の国際的な名声は
確固たるものとなり、チェコ音楽の魅力を広く世界に示すこととなった。≪謝肉祭≫もまた、彼の故郷への愛が溢れた傑作であることは間違いない。 (文責:11期Oboe 三原 聖矢) |
ベラ・バルトーク(1881-1945)は、自国ハンガリー(彼の出生地ナジセントミクローシュは現在ルーマニア領)の民謡に基づくピアノ曲を数 多く残しているが、それらの中のいくつかをのちに管弦楽版に編曲し、民族色豊かな音楽の素晴らしさをさらに親しみやすいものとしている。その代表格といえ るのが、1915年にピアノ曲として発表、1917年に編曲された≪ルーマニア民族舞曲≫である。 バルトークは作曲家、ピアニストとしてだけでなく、民族音楽の研究家としても精力的に活動した。殊に第一次世界大戦の頃、当時はハンガリー領土で あったトランシルヴァニア(現在ルーマニア領)山地帯に代々伝わる民謡の採取や研究に没頭した。採取にあたっては「蓄音機」を携えて、歌や楽器で演奏され る音楽を録音することもあったそうである。≪ルーマニア民族舞曲≫は、これらの民謡の旋律や大地に生きる人々の姿を題材に作曲されたのである。 この作品は複数の曲から成っており、次のような構成および編成で、全曲続けて演奏されることが多い。何れの曲も旋律そのものは平易で親しみやすい ものだが、それぞれの民族音楽的な要素をより効果的に感じさせるよう巧みにアレンジされており、小編成オーケストラの重要なレパートリーの一つとして定着 している。 ◆第1曲 棒を持った踊
り ──── ◆第2曲 飾り帯をつけ
た踊り ──── ◆第3曲 足踏み踊り ──── ◆第4曲 角笛の踊り ──── ◆第5曲 ルーマニアの
ポルカ ──── ◆第6曲 急速な踊り ──── ◆第7曲 急速な踊り ──── (文責:06期Violin 西田 達彦) |
音楽史上初の「リサイタル」をロンドンで開き、ヨーロッパ各地で華麗な超絶技巧により聴衆を魅了したヴィルトゥオーソ・ ピアニスト、フランツ・リスト(1811-1886)は、ピアノのために数多くの名曲を残したが、ワイマール宮廷楽長として指揮も執り、管弦楽曲を作曲し て、標題音楽としての交響詩のジャンルを確立したことでも知られている。19世紀の演奏家は作曲や編曲もこなしていたのである。≪ハンガリー狂詩曲≫は、 19曲がピアノのために作曲され、その中の6曲が、リスト監修の下、弟子ドップラーにより管弦楽曲に編曲された。第2番は特に有名で、ピアノ独奏でも演奏 され、管弦楽版はアニメ「トムとジェリー」にも使われているが、嬰ハ短調の原曲が、管弦楽版ではドップラーによりニ短調に移調され、さらに今日ではハ短調 のカール・ミュラー・ベルクハウス版が定番になっていることはあまり知られていない。本日もこの改良版を演奏する。 ≪ハンガリー狂詩曲第2番≫は、ハンガリーのジプシー、ロマの音楽である「ヴェルブンコシュ」(「チャールダーシュ」の古い形)の形式で作曲さ れ、クラリネットの華麗な三つのカデンツァ(独奏楽器が伴奏を伴わずに自由に即興的演奏をする部分のこと)をつなぎとする重々しく悲劇的な前半「ラッサ ン」と、猪突猛進の快活な「フリシュカ」から構成されている。指揮により多彩にテンポが変化するロマの荒々しく情熱的な旋律は、ヴァイオリン最低音弦G線 の音色を模した悲劇的なメロディや、途中に出てくる奇妙な装飾音等とともに、いわゆる西洋古典音楽らしからぬ雰囲気を醸し出し、ロマ楽師のタンバリンや打 弦楽器ツィンバロンの音が聞こえてきそうだ。民族音楽を研究したハンガリー作曲家バルトークなどからは、ハンガリー民族音楽とロマの音楽は違うという批判 も受けたようだが、ドイツ系の家庭に育ってハンガリー語は話せなかったものの、ハンガリー人を生涯自認していたリストが、祖国への熱い思いを込めた作品で ある。 (文責:83期Clarinet 大島 久雄) |
実家は肉屋 兼 宿屋。親のすすめで肉屋の修行を積みながら、好きな音楽をs続けて気付けばプロに。それなりに辛いこともあるけれど、周囲の助けでトントン拍子に出世。心 底夢中になれる趣味(鉄道と鳩)もあり、家族仲も良好。波乱万丈の人生を送る作曲家が多い中、比較的幸せな人生を送ったドヴォルザークですが、不惑を過ぎた頃、音楽的に大きな転換期を迎えます。 彼が交響曲第7番を書いたのは、自国周辺でスラヴ民族の誇りを取り戻そうとする機運が高まっていた頃。800年以上の長 きに渡るドイツの影響下から逃れようとする潮流の中、音楽活動の場を海外に広げる時期にあった彼も、自身のルーツであるスラヴ魂を刺激されます。 第7番の特徴は、仲の良いブラームスにも通じる正統派の構成とシリアスな雰囲気。しかし、そのドイツ的とも言える骨組みの中を駆け巡るのは熱いスラヴの血 なのです。かつてスメタナが≪我が祖国≫で歌った支配への抵抗精神と郷土愛を、ドヴォルザークはこの曲に注ぎこみます。そして自身の足元を再確認すると、 「世界の中のチェコ人」として新たな世界への道を歩み始めるのです。 ◆第一楽章 Allegro maestoso ニ短調 8分の6拍子 ◆第二楽章 Poco Adagio ヘ長調 4分の4拍子 ◆第三楽章 Scherzo: Vivace ニ短調 8分の6拍子 ◆第四楽章 Filale: Allegro ニ短調 2分の3拍子 (文責:06期Viola 大庭 美穂) |