SEINAN GAKUIN OB ORCHESTRA
REGULAR CONCERT #23
曲目解説

 

悲劇的序曲
ブラームス 作 曲   (演奏時間:約14分)

 

 ヨハネス・ブラームス(1833-1897)が、ベートーヴェンを尊敬し目標としていたことは広く知られており、この≪悲劇的序曲≫は、ベートーヴェンの≪エグモント序曲≫や≪コリオラン序曲≫を目指して作曲したとされている。また、22歳(1855年)の時にシューマンの≪マンフレッド序曲≫を聴いて感銘を受けたと伝えられていて、シューマンもブラームスの若き才能を称賛していたことから、この期待に応えるべく管弦楽作品の作曲に注力したに違いない。

 ブラームスの2つの序曲≪悲劇的序曲≫と≪大学祝典序曲≫は1880年に完成されたが、≪悲劇的序曲≫は10年以上も前にスケッチが開始されており、熟考を重ねて書き上げられたといえよう。そのタイトルにも示されるように、明るく壮麗な≪大学祝典序曲≫とは対照的に、悲劇的な感情が盛り込まれた音楽で、如何にも何か具体的な人間感情を描いているかのようである。しかし、その内容は明らかにされていない。ただ、激しい感情や情熱だけでなく、(田舎の別荘の近くに住む子供たちにウィーンで仕入れてきた流行の飴玉を配って喜ばせたような)優しい一面が垣間見える楽想も曲に表れていて、ブラームスの人間性が全般にわたり感じられる魅力的な作品となっている。

 1880年12月にウィーン楽友協会の大ホールにて、ハンス・リヒター指揮ウィーン・フィルによって初演された。因みに、初演が行われた楽友協会のすぐ向かいの公園には、如何ように解釈すべきか、ブラームスの銅像が楽友協会を見上げるように建立されている。

(文責:06期Violin 西田 達彦)

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「三角帽子」第1・第2組曲
ファリャ 作 曲   (演奏時間:約22分)

 

  そのむかし、スペイン南部アンダルシア地方のとある村にたいへん美しい粉屋の女房がいた。その美しさに思わず惚れてしまった好色な代官は、何とかしてその女房を手に入れようとする。しかし、女房はあの手この手で代官を翻弄し、ついには亭主と力を合わせて追い返す。諦めきれない代官は、後日粉屋の亭主を無実の罪で逮捕し、鬼の居ぬ間に女房へ迫ろうとした。しかし、気が急いた代官は粉屋の水車小屋近くにある川へと転落してずぶ濡れになってしまい、助けてくれた女房へ懲りずに迫ってみても猟銃を突きつけられた上に逃げられてしまい、仕方なく濡れてしまった服を脱いで干し、粉屋のベッドで寝てしまう。そんな時、粉屋の亭主が脱走して帰宅した。愛しい女房の所へ向かおうとして目に飛び込んできたのは、干されている代官の服。「妻が寝取られた!」そう勘違いした粉屋の亭主は、復讐しようとその服を着、代官の妻の所へ向かう。当の代官が粉屋の亭主の服を着て外へ出たところ、脱走した粉屋の亭主を追っていた警官が勘違いして代官を捕らえようとする。それを目撃した粉屋の女房は代官を亭主であると勘違いして、代官を助けようとする。更には本物の亭主も戻ってきてその騒ぎを目撃し、女房が代官を助けようとしていることに立腹して騒ぎに加わる。最終的に騒ぎが収まった後、代官は村人や警官たちの前でその奸計を明らかにされて大恥をかき、粉屋の夫婦は和解して再び仲の良い夫婦へと戻った──。

  2幕で構成されるバレエ音楽≪三角帽子≫は、P.アラルコンが書いた短編小説「三角帽子」を元にしてマヌエル・デ・ファリャ(1876-1946)が作曲したものだ。1917年の初演では小編成オーケストラによるパントマイムで上演されたが、後に大編成オーケストラ用に改変され、1919年にバレエ音楽として完成した。今回演奏するのはそのバレエ音楽から抜粋された2つの組曲である。ちなみに題名の「三角帽子」とは、物語の中に登場する代官が冠る、権威を象徴する三つ角のある帽子のことを指す。

◆第1組曲 ─────
<序章> ティンパニによる5度音程の連打を伴奏に、トランペットが開幕のファンファーレを奏でる。
<午後> 昼下がりの水車小屋と町の様子が描かれる。
<粉屋の女房の踊り> 覗き見ている代官に気付かず、女房はフラメンコを踊り出す。
<代官> たまらず姿を現わす代官を、ファゴットがユーモラスなソロで表現する。
<粉屋の女房> 代官に気付いた女房は、まるで誘うように代官の相手をする。
<ぶどう> ぶどうを手に、代官を焦らし翻弄する女房。しかし亭主が登場し、代官はからかわれていたことに気付いて立腹しながら立ち去る。
◆第2組曲 ─────
<隣人たちの踊り> 聖ヨハネ祭の祝宴に集まった粉屋の隣人たちが3拍子のセギディーリャを踊る。
<粉屋の踊り> ホルンからコールアングレへと続く勇ましいソロの後、人々に促された亭主がファルーカを踊り出す。
<終幕の踊り> 物語は中略されてしまうのだが、代官をこらしめた人々が彼に似せた藁人形を放り上げ、祭りの音楽(ホタ)を踊って終わる。

(文責:11期Horn 稲村 麻未)

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交響曲第1番変ロ長調 作品38≪春≫
シュー マンク 作 曲   (演奏時間:約34分)

 

 ロベルト・シューマン(1810-1856)が初めて交響曲の作曲を試みたのは1832年、22歳の頃。しかしこれは未完に終わります。時代はベートーヴェン、シューベルトという偉大な先達の後。我こそ次世代のシンフォ二ストと、彼がどれだけ意気込み、また同じくらい重圧を感じていたかは想像に難くありません。

 そののちしばらくは作曲の中心をピアノ曲と歌曲に移しますが、1839年にシューベルトのハ長調交響曲≪ザ・グレイト≫の遺稿を発見したことで、交響曲への意欲が再燃します。そしてクララとの長くつらい恋愛期間(彼女の父親でかつシューマンのピアノの師であったヴィークは、結婚に大反対しついに訴訟沙汰にまで発展…)を経てようやく結ばれた1841年気力の充実をうかがわせるように1〜2月というごく短期間で完成されたのが、第1交響曲≪春≫です。まさに春を迎えんとする同年3月31日、作曲家で指揮者としても活躍していた友人メンデルスゾーン指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団演奏で初演されました。

 ≪春≫という曲名は、A.ベドガーの詩の 〜春と悩みの昇華を重ねあわせ、春の到来を確信する〜というような内容に閃きを得たとされます。また初演時には各楽章に下記( )内の標題が付されていましたが、のちに作曲家自身により削除されました。

◆第1楽章:(春の始まり)Andante un poco maestoso − Allegro molto vivace
◆第2楽章:(夕べ・黄昏)Larghetto − atacca:
◆第3楽章:(楽しい遊び)Scherzo. Molto vivace
◆第4楽章:(春たけなわ)Finale. Allegro animato e grazioso

 第1楽章、ファンファーレ(前述≪ザ・グレイト≫の影響をうかがわせます)に始まる沸き立つような春の到来。第2楽章から休みなく続く第3楽章のスケルツォは、唐突な2つのトリオでおどけてみせて。第4楽章では、春本番を待ちわびた虫たちのように楽器の音も忙しく動き回ります。青年シューマンが気負いつつ懸命に背伸びして、はた目には気付きにくい趣向を凝らして、ときにオーケストラ奏者にとんでもない苦労を強いながら(汗)、音楽で春を表現していきます。

 彼の交響曲は作曲技法的に決して器用でないと言われますが、今日はぜひ第2楽章にご注目いただきたく思います。息の長い旋律が弦と木簡の間でただよいながら、所在無げな伴奏とともに得も言われぬ憂愁を帯びたハーモニーを醸し出します。この室内楽的な響きこそ、真に自然に内面からあふれ出た彼の音楽の本質を表しており、彼にしか描き得ない音楽となっています。

 OBオーケストラでは、2007年の第16回定期で第2交響曲を取り上げて以来のシューマンです。昨年12月には現役管弦楽団が定期演奏会でこの≪春≫を演奏しました。指揮の時任先生練習時に曰く「シューマンはオケの実力がもろに出る!」…現役諸君の若き【青春】と張り合うのはもはや望むべくもない(!?)ですが、その分年齢を重ねたOB・OGたちの【オトナな春】をお届けできたら…頑張ります。

(文責:95期Violoncello 伴 徹哉)


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