SEINAN GAKUIN OB ORCHESTRA
REGULAR CONCERT #13

曲目解説

 

 

 

歌劇『ルスランとリュドミラ』序曲
グリンカ作曲

 

 19世紀初頭当時、西欧において音楽は既に芸術作品の域に達し、華やかな展開をみせていました。一方、ロシアでは音楽といえばロシア正教の典礼曲や民謡、吟遊歌手の語りの旋律といった段階でした。M.I.グリンカ(1804〜57)は西欧諸国の歴訪により様々な音楽的刺激を受け、それをロシアに根ざした音楽と融合させた名曲を生み出しました。グリンカが「ロシア音楽の祖」と評される所以です。彼の音楽に衝撃を受けて音楽家を志したチャイコフスキーも「もし、私たちが音楽の殿堂の中にグリンカの場所を探すとしたら〜彼の力強い創作の才能にふさわしく〜音楽のもっとも偉大な代表者たちと同じ列になるだろう」と評しています。今年はグリンカ生誕200年にあたります。
 この曲は彼の作品の中で最も親しまれている作品のひとつです。物語は古代ロシアのキエフ公国時代、ルスランとキエフ大公の娘リュドミラとの結婚の祝宴の最中に、悪魔が花嫁をさらってしまいます。そこでキエフ大公は娘を助け出した者を新たに花婿として迎えることにしましたが、結局ルスランが苦心の末リュドミラを救い出し、再び結ばれるというものです。
 軽快で華麗な旋律が特徴で、グリンカ自身も「全速力で疾走する」ように演奏することを要求しています。

(文責:02期Violin 芥川 晴嗣)

 

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バレエ組曲『火の鳥』 1919年版
ストラヴィンスキー作曲

 

 グリンカの登場以後、チャイコフスキーらにより芸術作品へと発展したロシア音楽は、20世紀に入るとI・ストラヴィンスキー(1882〜1971)により西欧音楽から自立して前衛芸術の域に達します。
 この作品は、20世紀初頭に西欧で好評を博したロシア・バレエ団の主宰者ディアギレフの依頼により作曲されたもので、その後作曲された『ペトルーシュカ』『春の祭典』と続く三大バレエ音楽の第一作です。この作品により、それまで無名だった若きストラヴィンスキーは一躍脚光を浴びることとなりました。
 物語はロシア民話を脚色したもので、魔王カスチェイによって囚われた13人の乙女を、イワン王子が火の鳥の助けを得て解放し、そのうちの一人ツァレヴナ姫と結ばれるというものです。
 魔法の国の夜を暗示するような低弦の不気味な音型から始まる「序奏」(1)、軽やかな「火の鳥の踊り」(2)「火の鳥のバリエーション」(3)、ロマンティックな「王女たちのロンド」(4)とそれを無慈悲に打ち破る「カスチェイ王の魔の踊り」(5)、踊り疲れた魔物に火の鳥が歌って聞かせるファンタスティックな「子守唄」(6)、囚われた乙女たちを救い出したのち、人々の喜びと火の鳥の華麗な舞いの中でのイワン王子とツァレヴナ姫の荘厳な結婚式を描いた「終曲」(7)
 もともとバレエ音楽として作曲されましたが、のちに演奏会用として3つの組曲を創っています。今回演奏するのは1919年に発表された2番目の組曲です。

(文責:02期Violin 芥川 晴嗣)

 

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交響曲第6番 ロ短調 作品74『悲愴』(
チャイコフスキー作曲

 

 「今度の交響曲にはプログラムがあるが、それは誰も知ることができないものであって、想像できる人には想像させよう。このプログラムはまったく主観的なものだ。私は旅行中に頭の中でこれを作曲しながら幾度となく泣いた」  ―――1893年2月 チャイコフスキーが甥ダヴィドに宛てた手紙より    この作品はロシアの作曲家チャイコフスキーの最後の交響曲として知られています。というのも、チャイコフスキーはこの曲の初演(1893年10月28日)からわずか9日後(1893年11月6日)に亡くなったのです。  以下、初演前後からその死までの様子です。 [1893年9月] 曲を完成させる。 [10月19日] 「今ほど、幸福で健康な感じがしている時はかつてなかった」―――友人カシキンとの会話より [10月28日] チャイコフスキー自身の指揮により初演。演奏は上手くいったが、喝采が長引いたためチャイコフスキーはもう一度舞台へ出てあいさつをしなければならなかった。 [10月29日] チャイコフスキーは聴衆がこの曲を理解していると思えなかったため、曲名をつけることにした。そこで弟モデストに相談すると、はじめモデストは「悲劇的(tragic)」を提案したが、チャイコフスキーはこれに反対した。その後モデストは「悲愴(pathetique)」を思いつき提案すると、チャイコフスキーはこれをすぐ楽譜に書き込んだ。 [11月1日] 料理店で会食をしながら生水を飲む。友人はコレラが流行していたためこれを止めたが、チャイコフスキーは平気で飲む。 [11月2日] 具合が悪くなり寝込む。 [11月6日] 午前3時に死亡する。  死亡についてはコレラに罹って死んだとされていますが、自殺説もあるようです。しかし、この作品に関する限り、そのような詮索に重大な意味があるとは思われません。むしろ、10月19日の発言が事実ならば、そちらの方が重要に思われます。なぜこのような曲を書いた後「今ほど幸福な感じがしている時はない」と思うのでしょうか。そしてこれは「私の一生で一番よい作」を書きあげた充実感とは無縁であることに注意しなければならないと思います。

第1楽章 Adagio-Allegro non troppo
遅く‐(はなはだしくなく)速く

 まず序奏では低弦の伴奏にのせてバスーンが全曲を暗示するような旋律を奏でます。主部は、序奏の旋律の発展である第1主題から始まります。やがて第1主題とは対照的に雪のような美しさを持つ第2主題が現れますが、突然の強音によりその穏やかな気分は断絶されます。その後、第2主題が再現すると、最後は金管のコラールにより静かに終わります。

第2楽章 Allegro con grazia
快活で優美に

 この楽章は交響曲においては他にあまり例がない4分の5拍子で演奏されます。優美な旋律にも関らずどこか心が晴れない感じがするのは、5拍子に体が慣れていないからでしょうか。中間部でも、ロ調短3度のD音が持続しているため常に暗い翳がつきまとっているようです。

第3楽章 Allegro molto vivace
速く 非常に活発に

 古典的な交響曲においてはフィナーレに置かれるような楽章です。細かく、せわしなく動き回るスケルツォ主題と行進曲のようなものを組み合わせた主題を持ち、主題相互の対比が薄いためか一気呵成に猛然と進んでゆきます。

第4楽章 Adagio lamentoso
(自筆譜ではAndante lamentoso)

 lamentosoは「哀悼的に」と訳されますが、lamentoは「うめき声、嗚咽」の意。第2主題と結尾部にあらわれる3連符のリズムは心臓の鼓動を連想させます。

(文責:03期Contrabass 吉川 亮太)

 

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