砲弾の解説

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運動エネルギー弾(kinetic energy round)
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AP(徹甲弾)(Armour Piercing)
砲弾型をした鋼の塊、装甲を貫通後残っている運動エネルギーで内部を跳ねまわって破壊する
(破壊された装甲も戦車内に手投弾の破片の様に飛び散る)
WW2初期のイギリス戦車は戦車砲用の弾はこれしか装備していなかったため。
敵の対戦車砲に対抗するためには接近して機関銃を使うしか方法がありませんでした。
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AP−HE(徹甲榴弾)(Armour Piercing High Explosive)
APより貫通力は劣るが貫通後の破壊力は大きい
弾底の遅延信管で装甲貫通後に爆発する。
艦艇用の徹甲弾はこのタイプ
戦車砲では、日本軍の37mm、47mm両対戦車砲がこの砲弾です。
(小口径では爆発力が劣り多少不満が出たようです。)
(これは37mm、40mmなど小口径砲全体に言えることで
一発で敵を倒すことはなかなかできませんでした。
完全に葬るまでに通常3発ぐらい必要でした(例、英国40mm砲))
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APC−HE(被帽徹甲榴弾)(Armor Piercing Capped High Explosive)
先端に軟鉄のキャップを付け命中時の衝撃で砲弾が砕け散る
のや傾斜装甲の場合滑ってしまうのを粘りついて防いだ。
米国の解説では、「表面硬化された装甲の表面を被帽の焼き入れ表面で粉砕し
被帽の軟らかい後部で衝撃応力を分散し弾頭が破砕されるのをふせぐ」だそうです。
(AP−HEに被帽を着けた)
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APBC(仮帽付き徹甲弾)(Armor Piercing shot Ballistically Capped)
APは、斜めに装甲板に当たった場合の跳弾率を下げるために
弾頭部分の曲線が大きくなっていて、空気抵抗が大きかった。
APBCは、弾頭部分に中空の仮帽を付けて尖らせ空気抵抗を減らした。
(注、第二次大戦中の砲は、通常APと表記されていてもAPBCの場合が多い)
(注の注、日本の戦車砲弾には、BC(仮帽付き)もC(被帽)も無い)
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APCBC−HE(仮帽付き被帽徹甲榴弾)(Armor Piercing Capped and Ballistically Capped)
APC−HEに中空の仮帽を付けて尖らせ空気抵抗を減らしたもの。
(第二次大戦中の表記は、通常APCBCと省略されている。)
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APCRとAPDSを合わせて大戦中に使われた運動エネルギー弾は大体この7種類ですが、
ソ連の砲弾はちょっと変わっているので追加しておきます。
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(裁頭仮帽付き徹甲弾)「AP、APBCと通常表記されている...」
空気抵抗を減らす中空キャップの付いた弾頭の平らな徹甲弾
浸炭鋼板などに有効な圧貫現象を起し易い弾頭でした。
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注、圧貫現象を誘発する形状は逆に標的の装甲が厚くなる
(「弾頭直径」<「標的装甲」)と急速に能力が落ちる...
均質鋼板に対する性能も落ちる...
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例、ソ連45mm対戦車砲、旧軍の実験から(ノモンハンで捕獲)
25mm浸炭鋼板だと、不貫限界速度は、300m/s
50mm浸炭鋼板だと、不貫限界速度は、640m/s
50mm均質鋼板だと、不貫限界速度は、720m/s
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25mm程度の薄い浸炭鋼板に対しては非常に有効で日本の戦車の装甲は
一番貫通しやすいタイプにあたる...

注、不貫限界速度、V50とは50m/sぐらい違う...




T曳火弾
ほとんどの運動エネルギー弾は、着弾位置が解りにくいため底に曳火薬を付けて光らせ
弾道が見えるようにしてある。
AP−T、APCBC−HE−Tなどと書くが省略する場合が多い
(榴弾は、着弾点で大きな爆発を起し目立つので曳火は使わない)
(37mm砲などの小口径の榴弾の場合は爆発が小さく見失う恐れが)
(あるのでT(曳火)付きが多い)
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以下の二つは、第二次大戦中期から後期に現れた新型砲弾です。
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APCR(剛性核(硬芯)徹甲弾)(Armor Piercing Composite Rigid)
アメリカでは、(HVAP)(Hyper-Velocity Armour Piercing Shot)
同じ質量の砲弾で貫通力を上げるには砲弾の直径を小さくすれば面積当たりのエネルギーが増えます。
この原理を使って砲弾の中にタングステンカーバイトのように極めて比重が高く、
硬い物質からできたコアを内蔵し、
(この時外殻は軽い合金を使い初速を増やしエネルギーをコア部分に集中させる。)
装甲命中時に重いコア部分が飛び出して装甲を貫通する。
(しかし、砲弾が軽いため空気抵抗で急速に威力が減少するという欠点があった。)
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APDS(装弾筒付き徹甲弾)(Armor Piercing Discarding Sabot)
APCRのコアの部分だけが分離して飛ぶ砲弾です。(砲口を飛び出すと空気抵抗の差から分離する。)
分離する装弾筒部分が飛び散るので砲口周辺は歩兵にとっては危険領域になる。

イギリスで開発された6ポンド砲用が最初です。
その後17ポンド砲用なども開発されていくのですが。
17ポンド用は、DDAY(ノルマンディー上陸作戦)には間に合わず
パンター相手には苦戦したようです。

訂正、17ポンド砲用で遅れたのは被帽キャップ付き砲弾でした...
ドイツ軍の表面硬化装甲板に対抗するために被帽キャップ付きの砲弾を
(着弾条件によってはAP弾は、貫通できずに砲弾が砕け散ってしまう)
57mm、75mm用はすぐ開発され実戦投入されたのですが、17ポンド用の
開発が何故か遅れてって話でした...

大戦後期の、APCR、APDSなど強力な砲弾になってくると発射時の爆風や煙が多くなり...
通常の着弾を見て修正していくという着弾の観測が難しくなりました。

これは現代兵器です。
APFSDS(装弾筒付き翼安定徹甲弾) (Armour Piercing FIn-Stabilised Discarding Sabot)
Sabot=サボット砲身の中でガス圧を受ける装弾筒部分
1970年代に実用化、砲弾の形状を細長くして貫通力を増そうとした長砲弾
(砲弾直径が同じ場合長い砲弾の方が重量が増え貫通力が増す)
(比重を上げても同じく貫通力が増す)
砲弾は直径と長さの比が1:6以上細長くすると回転軸がぶれて不安定になる。
(最悪の場合飛翔中に転倒し弾道が狂ってしまう...)
そこで、飛翔中の安定をスピンではなく砲身のライフルをやめ砲弾にフィン
(安定翼)を付けて長い砲弾(貫通体)を安定させている。
(注、製造時の誤差を是正するためスロースピンが羽によりかかる)
現在では、直径と長さの比が1:22〜1:30(注、ちょっと資料が古い) になっている。
(欠点は風に流されやすいことで、命中精度も若干下がる)
(あまりに細長くしてしまったので貫通後の威力が多少落ちます)
(つまり、貫通穴が小さく車内に飛翔散乱する破片が少なくなり、)
(威力が在り過ぎると後の装甲まで貫通してどこかへ行ってしまう危険がある)
(そのため、教本では燃料タンクや砲弾貯蔵庫を狙うよう書いてある)

タングステンカーバイト(WC)、ダイヤモンドの次に堅い
タングステン原子番号74、Tungsten(Wolfram)183.85±3
(参考、プラチナ78、金79、鉄26)
大地の構成要素には多く含まれているが、重いため採掘可能な場所に
あまり出てこない、アルミのように産地に偏りがあり、ロシアと中国に偏在...
工業機械用が主で砲弾用は、現在でもすべての戦車に装備させるとすると
一台に付き5発ぐらいしか揃わない貴重品...
(現在は80%中国産...
) 訂正、現在は3番目の堅さです_(._.)_...
(現代戦車用は固さより質量重視に変わっています)
2001.2.08...

科学エネルギー弾(Chemical energy round)

HE(榴弾)(High Explosive)
ソフトスキン(戦車や装甲車などのように装甲されていない車両)
家屋や野戦陣地などの構造物、対戦車砲、歩兵などに対して使用した。

現代戦車の任務は対戦車戦闘を重視していますが、大戦中の戦車は、
対戦車戦よりも歩兵の支援や対戦車砲とやりあう方が多かったため...
大量のHE弾を搭載していました。
戦車の装甲の薄いうちは対戦車戦闘にも使われました。
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HEAT(対戦車榴弾)(CE弾)
ノイマン効果を使っています。 原理は、窪みを付けた炸薬を装甲に密着させて爆発させると 装甲に深い穴が空く...バズーカや対戦車ミサイルなども同じ原理です。 砲弾の中に逆円錐型(コーン)の空間を空けその後ろに炸薬と 起爆薬があり、砲弾の頭部に信菅。 命中すると(通常は電気信菅)砲弾の後の炸薬から燃焼し 円錐部分で爆発のエネルギーが収束し、大体8000m/s以上の 速度で噴き出す (コーン部分の金属を比重の重いタングステンなどを使うと) (ジェットの運動エネルギーが増し威力が増えます。) 利点は距離や砲弾のスピードに関係なく貫通力が一定
欠点
砲弾が高速スピンしているとガスに遠心力が働いて収束できない。 ジェットが収束するためにはある程度の距離が(コーン直径の5倍 程度)必要なのだが砲弾の形状からこれだけ間隔を開けるのが 難しい。

最近は...
コーンの角度によってはコーンの材質が丸く固まって 高速で飛び出す。最近のHEAT弾は複合装甲に対抗するため こちらの原理を応用しているようです。

HEATの威力は...
エネルギーの大半が貫通孔の形成に消費されるため(90%)車体に伝わる衝撃 は少なく当たっても気が付かない場合がある
(運動エネルギー弾の場合は衝撃派で乗員が呆然自失状態になることがある(10分〜15分))
装甲溶解片の吹きこむ範囲に乗員が居れば即死、砲弾があれば誘爆するが範囲外には 影響が無い
装甲溶解片の飛散角度は装甲の厚みによって変わり、薄い場合は100度 〜120度、厚かったり多層装甲の場合は30度程度に減少します。
(イスラエル実戦より)

注、
「大口径HEAT」対「薄い装甲」(旧APC兵員輸送車の様な)の場合は、大被害が発生する..
(弾頭が大きいければ指数的にこの被害が増える)
通常考えられていた破片による被害以外に乗員に高温高圧による致命傷が発生する...
(車内気圧が3気圧、温度上昇150度にもなる,、閃光による永久失明例も...)

「vaporific」蒸気状の?、霧のような?、という表現を日本では爆焔と訳した...
つまり...
炭田で良く起こった粉塵爆発のような微小な固体が燃え易い現象...
高圧力が熱エネルギーに変換される現象...
などなどにより、
成型弾頭の円錐コーンに使われる金属や装甲に使われている鉄、アルミニュームなどの
微小高温破片が急激な酸化現象を起こすため(燃焼する)...

(現在では、装甲の内壁に微小破片化し難く破片をトラップする材料を張り
(この現象を抑えている...)

HEST(粘着榴弾)アメリカ(HEP)
命中するとつぶれて炸薬が装甲表面にへばりつき遅延信菅で 爆発する。効果は、衝撃で装甲板の内面が隔離して飛び散り その破片が被害を与える。
イギリス軍が良く使った...
多用途、戦車のみではなくソフトスキン(トラックなど)、歩兵 トーチカなど、どんな目標にもこの砲弾一つで対応できた。

最近の戦車は対戦車砲弾ばかり積んでいて対歩兵用の榴弾はほとんど積んで いないのでこう言った多目的砲弾は有効性がある...

湾岸戦争での実戦で使用した結果T55クラスまでは撃破可能でした
(しかし、ウォーリア歩兵戦闘車を誤射したところ、)
(複合装甲を破壊することができなかった...)


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