世界銀行炭素基金

  世界銀行本部は「炭素基金」(プロトタイプ・カーボン・ファンド=PCF)を設立、今年4月から運用を開始すると発表した。PCFは「京都メカニズム」、とりわけ排出権取り引きの具体化を念頭に置いて設立準備が進められてきたもの。世銀内に、政府や民間からの出資により上限1億5,000万ドル規模(当初8,500万ドル)の基金を設立。世銀は同基金から途上国・移行経済国における温暖化対策プロジェクトに投資して、温室効果ガスを削減する。この削減分は第三者機関による審査・認証を経て、出資者に金銭ではなく「温室効果ガス削減量=炭素クレジット」として返還される仕組み。世銀が投資を検討しているプロジェクトは風力・小型水力・バイオマス発電などの再生可能エネルギーを中心に、今後3年間で20プロジェクト程度としている。同基金の当初からの出資参加者は、政府関係がフィランド、オランダ、ノルウェー、スエーデンの4カ国、民間企業は9社。うち日本からは東京・中部・中国・東北・九州・四国の電力6社と三菱商事、三井物産が参加を決めている。これら電力会社や商社は2012年までに500万ドルずつを出資する予定だ。

  ところで、この排出権取り引きに対する日本の取り組みは、欧米諸国に比べかなり遅れている。政府もだが、それ以上に製造業を中心とする産業界の動きが鈍い。その背景として、同制度が実現すると各企業に実質的な排出枠が課せられる可能性があること、またその財源として環境税の導入が極めて現実的になってくることなどの危惧があるようだ。しかし、国際制度の設計作業は外交ベースで着実に進展している。環境NGOにも「同制度に力を注ぐより、まずは国内対策に全力を挙げるべき」との声が強いが、それはそれとして、わが国も国際制度を踏まえた国内制度について早急に検討し、制度化を急ぐ必要があるのでないか。そして、その際必ず国民にみえる形で議論していくことは言うまでもない。

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