尼崎公害訴訟判決

  兵庫県尼崎市の認定公害病患者ら401人が自動車排出ガスによる大気汚染の法的責任の認定や排出差し止めを求めていた尼崎公害訴訟で神戸地裁は1月末、@排ガス中の浮遊粒子状物質(SPM)と健康影響の因果関係を認め、国等に50人分・計約2億1,000万円の損害賠償金の支払を命じるA国道43号線等沿道50m以内でSPM0.15mg/m3以上の排出差し止めを認める――判決を下した。今回の判決は、過去2度の判決で認めてきたNO2と健康被害との因果関係を認めなかったなど一部に疑問も残ったが、「SPMによる健康被害を損賠の対象として認定した」点と、「SPMの排出差し止めを認めた」点は、公害裁判史上初めてとなる画期的な判例となった。特に後者の排出差し止めを認めた根拠は、対象道路の全面供用禁止措置を取らなくても、ディーゼル車の単体規制強化や交通規制等乗り入れ制限などにより対応が可能と判断したことによる。東京都が「ディーゼル車NO作戦」として打ち出したディーゼル車の乗り入れ規制やDPF装置の装着義務づけ、ロードプライシングなどの導入検討が、強い影響を与えたといえそうだ。

  結局は原告、被告ともに控訴したが、今回の判決は国の環境行政および道路行政にあらためて重い宿題を課すことになった。控訴に際し環境庁は@早急に国道43号線の大型ディーゼル車の交通量削減に向けた対策の具体化を図る、ADEPのリスク評価に取り組みPMとNOxを低減する規制のあり方を見直す、B自動車NOx対策の充実強化の一環としてPM低減にも留意し車種規制の拡充や低公害車の大量普及、交通量抑制対策の具体化を図る――の3つを約束したが、従来の枠組みを超えたディーゼル車を中心とした自動車公害対策、特に規制措置を含めた交通流対策の具体化は、もはや避けて通れない課題になったといえる。事業者や国民などのユーザーにも相応の義務・負担が課されるのは必至だ。

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