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2008.03.22
 

南インドのコーラム(砂絵模様)

(写真1)コーラムを描く女性は、何も道具を使わずに指先で粉を撒いて図形を完成させる

(写真2)コーラム。まだ夜明け前

(写真3)花をシンボルにしたコーラム。夜明け前の路上

(写真4)童子のようなかわいい色使いのコーラム

(写真5)チャイの露店の店先に描かれたコーラム

 今年(2008年)1月、南インドに行った。タミル・ナードゥ州にアルナーチャラというシバ信仰で有名な山がある。山といっても高さ700メートルぐらいで、大地からぽつんとせり出した岩の塊のような小山だ。聖者ラマナ・マハリシ(1879〜1950)が終生、この山の麓で過ごしたことでも知られる。
 アルナーチャラの麓にある町、ティルヴァンナーマライに滞在し、真夜中、山の周りを歩いた。ギリプラダクシナと言って時計回りに一周14キロを歩く。
 
 明け方、まだ暗い路上に不思議な模様が描かれているが気になった。家の軒先に描かれている。土の地面や舗装された道路にきれいな図形が描かれている。マンダラ? ヤントラにもどこか似ている。
 何日目かのこと。たぶん、その家の奥さんだと思うが、女性が指先を地面に近づけ、スーッと白いラインを引いている。よく見ると、指の間から白い粉を撒いている。ラインは白一色のものが多いが、中には鮮やかな色で飾られているものもある。大きさはさまざま。家ごとに図柄が決まっているようだ。
 後日、調べるとその図形は、家の入口に米の粉で描く砂絵模様でコーラム(Kolams)と言うらしい。タミル・ナードゥをはじめとして南インドの風習で、一日のはじまりの早朝、女の人の仕事になっている。
 コーラムはタミル語では、遊ぶ、形作る、美といった意味だという。宗教的というか呪術的な風習のように感じたが、人々にとっては、ごく当たり前の日課になっている。はじめて目にする者にとっては、複雑な図形に見えても、ごく自然に自動的な動きで描かれていく。
  
 図形には象徴的な意味があるのだが、それよりも言葉の世界以前を感じた。全体性のバランスに秀で、そして規則的で濃密な世界が示されている。この人たちの現在の経済社会レベルは低かったとしても、精神性の高さを感じる。
 コーラムは早朝、夜明け前から明るくなってすぐに描かれ、人々が活動しはじめると、足で踏まれかすれ消えてしまう。眼が醒めてすぐ、一日のはじまりの時間に描かれるのは興味深い。コーラムは夢見の意識とつながっていて、眠りの中では意識の形成力として働きかけているのかもしれない。庶民の日常の中で、こんな複雑で抽象的な心的な世界を見据えていることに、インドの人々の精神性をかいま見たような気がした。
 
 ギリプラダクシナの最後の日、途中、小さな村にあるチャイの露店で一休みした。1月、寒くも暑くもない気候だが、明け方、空気は少し冷ややか。この露店はまだ暗いうちから店を開けていた。闇の中にオレンジ色のガス灯が揺らめいている。
 店先で奥さんがコーラムを描いている。大きくて、鮮やかに着色されていて見事なものだ(写真4)。  チャイを飲んで、10ルピーをテーブルに置いた。手振りで、お釣りは取ってくださいと右手を上げて店を出る。ふと、コーラムを描いてる姿を写真に撮りたいと思った。チャイ屋のおじさんに、撮ってもいいですかと、シャッターを押す手振りをして許可を求めた。おじさんは、伏し目がちに右手を上げてokの仕草をした(写真5)。
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