大麻について

山崎一夫

　五感の性能（以下、感性と呼びます）は人により違うでしょう。そのことには、おそらく大抵の人は同意してくれるだろうと考えています。
　まわりの人たちを見ていれば、自分と感性が違うなと思うことがあるだろうからです。とはいえ、具体的にその人の感性を他人のそれと取り替えることはできませんからね。ところが大麻を吸うと自身の内部で感性の違いを実感することが可能となります。それが大麻の力です。
　
　大麻によって得た感性を外部に向けるときれいに見える。きれいに聞こえるといったところですが、今まで知らなかったものを知ることで、精神は興奮するでしょう。おもしろい、あるいはハッピーになるといった精神状態になる人が多いようですが、感性は常に外部にのみ向かうと限るものではありません。
　
　別に大麻を使用しなくても人の感性は少しずつ変わっていくでしょう。昔、ずいぶん感動したものでも、今は少し違って見えたり、昔、まるで分からなかったものが今はよく聞こえたりすることがみなさまにもあるのではないかと思っています。
　けれども大抵のみなさまは、特にそれを不思議とは思われないでしょう。それは何年も何年もかけての変化ゆえに、その意識に受け入れ態勢ができているからでしょうか。
　ところが大麻を使うと瞬間に感性が変わります。そこには激しい落差があります。当の使用者の知らなかったものです。はじめは外部の刺激を楽しむことに夢中になれても、いずれ落ち着くと感性は内部へ、使用者の意識にも向かいます。戸惑いがあると思われますが、受け入れていく人と、受け入れられない人に別れます。
　私には大麻を吸う友人がたくさんいます。その中に、髪を長く伸ばしていた友人がいました。ある時、彼の髪が短くなっていました。そのとき彼は私にこう言いました。
「おれ、何で髪伸ばしているんだろうと考えちゃったんですよ。そうしたらカッコつけで伸ばしていると思えて、それは嫌だと切ったんだ」
　感性が自身の意識に向かうことで、自分というものの再検討がはじまります。自分のものの見方、考え方を再検討する。それは自分の意思に拠って新たな自分を生きることにつながります。私の友人たちはみなそうです。しかしながら人によっては自分を見つめ再検討することに拒否反応を示す人がいます。

　自分を見つめることに拒否反応を示す人がいることについては、大麻云々を別にしてもみなんさまにまわりの人を見渡してもらえれば、そういう人いるよと同意をもらえるかもしれないと思っておりますが、ちょっと待って下さい。もうひとつ考え合わせてほしいことがあります。みなさまです。
　みなさまご自身は自分を見つめることがおありでしょうか？　あると答えられる方に少々嫌味っぽいのですが、都合のいいように自分を見てはいないでしょうか？
　自分の感性にない、自分の発想にない視点から自分を見ることはできませんからね。言うならば是非はともかく、あなたの感性はあなたの意識と馴れあっているんです。ところが大麻を使うと、その馴れあいが成立しなくなります。故にそれが自身の意識に向かうと、あなたの予想を超えることになります。足下がひっくり返ることになりかねません。自分を知るのは恐怖が伴います。

　それが他の誰かより自分の問題点を指摘されたのなら、その指摘してきた他を攻撃し、それに専念することで自分の問題点を考えることから逃げられるんですが、大麻によって得た感性や新たな視点が自分の意識に向かってきたなら攻撃に専念することで自分を防御できません。相手がいませんから。
　
　それでも自分を見つめること、自分の問題点から目を背けたいなら、自分自身から逃げるよりしか手がないでしょう。大麻を吸い続けることは難しいでしょうか。精神に作用する薬は大麻だけではありません。考えないように、我を忘れていくようにしていく方向の薬もあるんです。自分から逃げたい人にとっては都合のいい薬です。とは言っても都合のいい薬を使っても忘れていられるのは薬の効いている間だけでしょう。薬の効き目が切れたら元の木阿弥でしょうね。
　ことによると以前よりももっつと強い恐怖感がやって来るかもしれません。どうするんだろう？
都合のいい薬を使い続けるのかな？

　一般に大麻は弱い麻薬として紹介されるようですが、それは間違ってます。精神に最も強い影響を与えるのは大麻です。それに較べれば覚せい剤やヘロインもたいしたことありません。人生観を変えるまでには至りませんからね。なのに何故、大麻は弱い麻薬と見られるのかと考えるに、依存性の問題でしょうか。大麻はその性質上、使用者の依存を拒否します。一方、覚せい剤やヘロインを常用する人たちは強い依存性が見られるようですが、どうしてそうなるのか考えていただけたなら幸いです。

（原文は手書きノートに記されているものを活字化した。一部の言い回しや表現を直している）