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2010.06.11
[ひとりごと]

酒と神道、茶と仏教

 酒、茶、タバコ、コーヒーは、 世界の四大嗜好品といわれている。嗜好品は、毎日の食事とは別に、香味や刺激を得るためにとる飲食物なので、生存のための必需品ではない。しかし、そんなに重要なものではない、と言ってしまうのは大間違いで、嗜好品は、きわめて人間的な好みであり、楽しみ、心地よさ、癒しを与えてくれる。日常生活に潤いを与えてくれる。
 
 考えてみれば、酒、茶、タバコ、コーヒーは、栄養価が高いわけでも、お腹の足しになるわけでもないし、また、はじめて口にしたとき、美味しいと感じられるかは疑問のある妙な代物だと思う。
 どんな経緯で、人は、嗜好品を嗜(たしな)むようになったのか? 大昔、人間がそれらを習慣的に用いるようになったのは、宗教的な行事との絡みがあった。それが、割と最近、といっても、この200〜300年、近代社会になるとともに、嗜好品として位置づけられるようになっていった。事実、日本の歴史をふり返ると、酒と神道、茶と仏教といった組み合わせが浮かび上がってくる。
 
 酒は、御神酒のように神道と相性がいい。御神酒あがらぬ神はない、とも言ったりしている。直会(なおらい)と言って、神事の後には、神に供えた新酒、神饌(食べ物)を一緒に口にする酒宴を行う。
 一方、仏教では、酒は「不許葷酒入山門」(葷酒(くんしゅ)山門(さんもん)に入(い)るを許(ゆる)さず)と寺への持ち込みが憚られた。仏門に入ると守らなければならない五戒の五番目は、酒を飲むべからずだった。まあ、五番目というのは、順位としては末席で、案外、ルーズだったという歴史もあるようですが。
 
 酒と茶の精神的な効果を比較するとき、こんな言葉を思い出す。インドには神に酔うという表現があるが、仏に酔うとは言わない。仏は覚めるのだから。
 神に酔うとはどういうことか? これについては、インドのヒンドゥー教も日本の神道も、それほど変わらないのではないか。要は、神道が形になる以前の時代、人間は、現代人のようにはっきりとした個人の意識ではなかった。個人の自我と、その人が属している部族、氏族の集団我のような共同意識が陶然とした世界に生きていた。酒の酩酊は、太古に生きていた人々の意識と共通するものがあった。神人合一と呼ぶこともできる。
 
 そして、近代以前は、酒を飲める機会は、神に酒を供える特別な日だけと決まっていた。飲み方も、一人で飲むとか、居酒屋で一杯ということはなく、つながりのある村人どうしが一緒に飲んでいた。要は、同じ土地に住んでいる共同意識の絆を強めるために酒の酩酊が必要だったのだ。
 
 人が酩酊に惹かれる根源は、遠い昔の、神人合一の意識を追体験することにある。これは、人間の本性とも言える志向性で、 生存のための食べ物をほ乳類としての人間の動物的な要素とすれば、人間だけが持つ要素のように思える。
 
 茶は、8〜9世紀に中国から日本に伝わったが、本格的に根付いたのは、仏教文化の一部として広まっていったことにある。茶は仏教と相性がいい。
 とくに禅宗のひとつの流れ臨済宗と茶は、関係が深かった。この宗派には、公案と言って、修行者に、悟りがつかめたかどうか、ナゾナゾみたいな試験を出したりする、そんな修行法がある。童話になってる一休さんのとんち話も、要は、こりかたまった発想をひっくり返す、公案の発想が生きている。
 有名なとんち話がある。店の前の橋を一休さんが渡ろうとすると、「このはし(橋)わたるべからず」と書いてある。ところが一休さんは、「このはし(端)わたるべからず」と解釈して、橋の真ん中を堂々と渡ってしまった。
 
 茶に含まれるカフェインは修行をする僧侶の眠気覚ましでもあった。ということは、お茶を飲んで、覚めた意識で、延々、ナゾナゾを解いていた、そんな想像もでき、かなり奇妙なノリだったのかもしれない。
 このあたり、今から700年ほど前、コーヒーが最初に普及したアラブ圏では、夜の祈祷や戒律を守るために睡眠時間が少ないときにイスラム教の寺院の中で飲まれたのと共通している面がある。
 茶の精神的効果は、覚めることにある。覚醒作用と言ってもいい。わたしは、禅の目的は、この世から覚めることだと思っているが、そのあたりに茶との相性の良さの秘密があるように感じている。
 
 その後、生まれた茶道は禅宗の影響を受けてきた。数奇者の現れた時代、利休のころの茶道のことである。公案禅も茶道も、ヨガに似ているな、と思った。もちろん、いろいろな体のポーズをとるハタ・ヨガではない。インドの伝統的な区分けで、智恵によって解脱に至る道、ジュニヤーナ・ヨガのことであって、日本の精神的な伝統をそんな目で見直していくのは、けっこう面白い。