ALTERED DIMENSIN
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2007.07.30
[ひとりごと]

変なモノ……大麻的とは?

これが何だか分からないモノ
 はじめて見たとき、それが何だか分からなかった。テーブルの上にあるのは、こんなモノ。
 
 単3電池を一回り小さくしたぐらいの大きさの、そっくり同じ形をした2個の物体。
 それぞれ、長細いラグビーボール、あるいは葉巻形UFOのような形。
 磁性があるようで、2個の物体はくっついている。
 手の平にのせると重みがある金属の塊。
 表面は滑らかで光沢のある黒真珠のような色。
 シンプルな構造で動く部分はない。
  
 これは何だろうか? 機械の部品、工具、オモチャ、人形、栓抜き、アクセサリー、調理器具、弾丸、香水ケース、ライター、発信器、食器、化粧品、釣り道具、ペン、ライト、ピルケース、楽器、お守り、釣りの重り、電池、防犯用品……うーん、何だか分からない?
 まず、何に使うのものか用途が分からない。食べるものではないと思うが、道具なのか、部品なのか、見て観賞するものか、何かの容器なのか。テレビ、雑誌、新聞、ネット、店頭、どこかでこれについて情報があるだろうか。自分の知る範囲では手がかりがない。
 世の中にあるものは、はじめて見るものでも、だいたいどんな用途に使うものか見当がつくが、どうもよく分からない。
 
インドのおみやげ
 これは、南インドのバンガロールで旅行業をしているAさんがお土産に持ってきてくれたものだ。Aさんはバックパッカーで世界を旅しているうちにインドで会社を立ち上げた女性。バンガロールはいまハイテク産業の街として脚光を浴びている。「オルタード・ディメンション」の読者で、サブカルチャーに詳しいBさんが、こんな凄い女性がいるんですよ、と紹介していただきお付き合いが続いている。お二人のことは、項を改め話したい。
 6月のある晩、お二人を夕食にお招きしたのこと。これ、なんだかか分かりますか、とAさんがバックから小袋を取り出した。袋の中に、これが入っていた。
 
 こうやってね、とAさんが手に持って、すっと上に放ると、空中で、ビィィィィという音がした。
 落ちてくるとき手でキヤッチする。
 エーッ、何それ? 

野外でこれを放り上げた直後。2個は離れている
空に見えるのはUFO? 空中で2個がくつついた状態

 アブラゼミの声のようなバネの振動音のような音。空中にある僅かな瞬間だけ鳴っている。楽器というにはあまりにシンプル。
 自分でもやってみた。人差し指と中指の間に1個、中指と薬指の間にもう1個挟んで、そのまま上に軽く投げる。フォークボールを投げるときのような感じとでも言うのだろうか。すると、手から放れたときは離ればなれの2個が空中で磁力によって引っ張られくつつく。接触面が互いに湾曲しているのでぴったりと固着せずに振動している。そのときビィィィィと音を出す。
 家の中なので放る高さはせいぜい1mぐらいか、落ちてきたとき、手でキャッチする。宙にあるのは1秒にも満たない。音がするのはその瞬間だけ。これが全てで、これ以外の遊び方はないようだ。単純といえば単純。

21世紀になって最も驚くべき発明?
 一体、誰がこれを考えたのか? インドの人? 最初からビィィィィという音を出そうとして考え出したものなのか? 余った部品や返品なんかを使ってみたのか? それに、これを製品化した人、会社は、売れると思っていたのだろうか? 何か全体的にナゾなのだ。
 Aさんは、これをいろんな人に見せたが、スゴイ、スゴイと騒いでくれる人と、どこが面白いのか分からないっていう人に別れるんですよねと話す。確かにね。自分は最近、こんなスゴイものを見たことがない。想像の範囲を超えてるというのが、何よりスゴイ。お世辞ではなく、本当にびっくりした。
 南インド、マイソールの路上で、おみやげとして売られていたのだという。マイソールは香のサンダルウド(白檀)の産地として有名な街だ。インドの観光地、公園や駅のまわりに、よくいる物売り、行商人のおじさんが売っていた。これの名前を尋ねたが、売っている当人も知らなかったらしい。中国製だという。じゃあ、インド人ではなく中国人の発明?
 Aさんは、直観的に何かひっかかり、おじさんが売っていた全部、何十セットを買ってきた。日本でこれを見た人がどんな反応を示すか探りたくて持ってきたという。
 
 それから半月ぐらいして、AさんやBさんの知り合いが旅行中、別府の温泉街のお土産屋さんでこれが売られていたのを偶然見たという話しが耳に入ってきた。
 さらに1ヶ月後、今度は、新宿の生保ビルで鉱物の展示会の一角でこれを見つけた。水晶や翡翠、琥珀、化石、隕石などが所狭しと並んでいる会場の片隅、ショーケースの脇に小さなボール紙の箱が無造作に置かれていた。展示品ではなく、棚の部品が入っているような感じ。
 ふと見ると、その中に〈ビィィィィ〉が入っているではないか。業者の人に聞くと、展示しているのではなく、荷物の中に紛れて、一緒に並べてしまったらしい。これって何ですか?と聞いてもあまり話したがらない。分かったのは、中国製で、800円で売っているというぐらい。
 
 インドのマイソールの物売り、別府温泉の土産物屋さん、新宿の鉱物展示会の3カ所に〈ビィィィィ〉があった。どうも日陰の存在というか、いまいちパッとしない扱いのようだ。何度もこれと遭遇しているのは、本当に稀な偶然だと思う。
 しかし、わたしやAさん、Bさんの間では〈ビィィィィ〉は大受けした。これはスゴイものだ。この数年間、いや21世紀になってから、最も驚く新製品ではないか。これに比べると液晶テレビやipod、Suicaカードもそれほどの驚きはない。
 
大麻的とは?
 〈ビィィィィ〉は大麻感覚だ。「大麻的」と言ってもいい。大麻の効いている変性意識のリアリティを表した物や事のことを自分でそう呼んでいる。大麻的な物や事には幾つかの共通点がある。思いつくままにあげると、こんな感じになる。
 
・変、奇妙である。
・笑いがある、可笑しい。
・平和的である。
 
 〈ビィィィィ〉は3条件そのもの。なにより変で、どこか抜けていて、世間一般人の想像の範囲を超えている。いつもだいたい同じビィィィィという音で、正直、ナンセンスでくだらないと言えば、くだらないのだが、憎めない可笑しさがある。他の人と勝敗や点数を競うゲームや、上達をめざすものでもなく、いたって平和的。
 無意味でくだらないから、つまらないものと見るか、それを可笑しいと見るかは紙一重の違いのようでいて、いや、無意味でこだらないモノやコトを可笑しいと感じるかではないか。
 ふと、全く真っさらな目で自分のまわりを見まわすと、自然界のもの以外は、みんな意味を持ったモノに囲まれて暮らしている。当たり前すぎて、そんなこと誰も口にもしない。空や地面や植物は一応、自然のモノとして、家の壁も戸も机も消しゴムもPCも、人間が作ったモノはみんな何かの用途がある。何かしらの目的のために作られたモノだ。ひとつひとつのモノには意味、価値がある。人間は周りを意味に囲まれて生活している。
 ところが〈ビィィィィ〉は、不良品や壊れているわけでもないのに目的や用途がはっきりしない意味の希薄なモノだ。こんなモノ、滅多に見つからない。そして、これを手にして眺め、何度か放っていると、何か愉快なホットした気持ちになる。こんな気持ちになるのは自分だけだろうか。
 人間は、まわりすべてを意味を持って作られた空間に囲まれていると、その密度が詰まってくると、息苦しさに窒息していまうのではないか。息苦しさといっても、それを感じているのは潜在的な意識(=魂)であって、仕事や日常に追われていると気づかなかったりする。しかし、心身の病や事故の底流には、息苦しさから脱出しようとしている魂の衝動があるのではないか。
 
 ロンドンの中心街を歩いていて、綿密に構成されデザインされた空間に長くいると、窒息するような感覚になったことを思い出す。東京の都心には、唐突に小さな祠があったり、雑草が生え、自転車や粗大ゴミが放置され、どこかの店の立て看板が勝手に置かれている。アジアの都市は多かれ少なかれこんな感じで、もっと街をきれいにしなければというのが世論の大勢。でも、無秩序なところにホッとしたものも感じないだろうか。こんな感覚があるのは自分だけだろうか。
 車のハンドルには遊びがある。運転中、ハンドルを握った手の動き通りに、厳密にそのまま車を左右させたらバランスを崩し事故を起こしてしまう。ハンドルの遊びのことを、ゆとりと説明しているがうまい言い方だと思う。
 〈ビィィィィ〉は、意味の世界に囲まれて窒息してしまいそうな魂にとって、救いの抜け穴のような存在ではないか。それも、道に迷って歩いているうち偶然、目的地に着いてしまい、後から抜け道を通ってきたことが分かる、そんな不可解な抜け道。

【付記 2007.07.31 】
 B さんからこんな最新情報がメールで届いた。埼玉県小川町で毎年「小川町七夕祭り」というイベントが開催されているそうで、今年、Bさんが遊びに行ったとき、そこらじゅうで「ビィィィィ」という音がしていたという。
 会場内を探してみたら子供向けのくじ引きの屋台で景品として、ひと箱山積みになっていたのを目にした。景品ということは、おまけというか、配ってるというか、商品=売り物ではないようだ。
 屋台の人にBさんが聞いたところでは、
Q.どこで作られているものか A.中国
Q.いつ頃から売られているものか A.去年当たりから
Q.名前は何か A.ないが、マグネットと呼んでいる
 といったことらしい。
 マイソール、別府温泉、新宿の生保ビルに続いて小川町の七夕祭り!、もしかしたら、日本、世界のそこらじゅうに〈ビィィィィ〉は、人知れず密かに浸透しているのかもしれない。