ALTERED DIMENSIN
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2000.11.23
[ひとりごと]

大麻の変性意識について(1)

ひとつのことに夢中になっている意識

 関西から来たSさんと11月のある土曜日、新宿で延々14時間話し続けた。スリムで長髪のSさんは、若く見られると言っていたが、30代はじめの会社員だ。久しぶりに秋晴れの爽やかな一日、盛り場のど真ん中にある空気の淀んだ喫茶店から高層ホテルのカフェテリア、アジア系の外人が携帯電話をかけまくっていた大久保の喫茶店と何度も店を替えて、大麻の自由化運動について話し合った。
 昼御飯を食べた後、雑談のなかでマリファナの効きをどう表現したらいいのかという話題になった。しかし、この質問に的確に答えられる人はいないんじゃないだろうか。何十年もマリファナをやっている人も、全く初めて体験する人も同じように戸惑はずだ。
 昨今、ホリスティク医学の第一人者として知られているアンドルー・ワイルは若い頃、マリファナをはじめとする向精神性ドラッグの研究に関わっていたが、30年ほど前に書いた本の中で「私の考えでは、マリファナにいちばんふさわしい言葉は、活性プラシーボ――すなわち、最小の生理作用にたいして、実際にプラシーボ効果と同じような効果を心に及ぼす物質――である」(『ナチュラル・マインド』草思社)と述べている。
 プラシーボは、薬の本当の効果を調べるために用いる本物の薬と外見上は区別のつかない偽薬のこと。高価で凄い効き目の新薬だとか、権威ある有名な医者が特別に処方してくれた薬だとか言われると偽薬でも本当に効いてしまうことがある。ワイルの言っている活性プラシーボとは、マリファナ自体には特定の効果がなく、マリファナをする人の心が拡大させて現れるといった意味だろう。奇妙な表現だが、マリファナの効果の一面を表しているように思える。
 確かなことはマリファナは人の心身に独特の作用を及ぼす(ここでは、感覚や感情、思考、記憶、意識などの総称として心とする)。特に日常では体験することのない意識になることだ。そのことを変性意識状態と言ったりもするが、それだけでは言葉の言い替えで、一体、どんな意識なのかということは相変わらず曖昧模糊としている。
 Sさんは、自分がどんな意識状態なのか大麻の効いているときも探ってきたという。20代の大部分を地方の電子部品や電気製品の工場、自動車工場などで働いてきたという彼は、幾百もの夜、寮でひとり意識の海を彷徨してきたのだろうか。彼は心理学の研究者ではないし、宗教にはまっているわけでもない、音楽好きで、カルロス・カスタネダの本に影響を受けたという市井の人だ。でもここでは、つかみ所のない微細な意識の変化をどれだけ自覚できるかが問われている。人間は生きている間、誰でも心や意識を働かせているのだから、この課題に関して肩書きは意味をなさないだろう。
 Sさんは、大麻をしながらギターの弦を張っていたときのエピソードを話してくれた。そのとき、ふと意識が他のことに向いたのが、手は機械的にペグを回し続け、プチン!という弦が切れる音で弦を張っていたのを思い出したという。そんな体験から大麻の効果は、ひとつのことに夢中になってしまうことにあるのではないかという話をしてくれた。意識を向けたところだけに焦点が当たり、他のことには無関心になってしまうというのだ。
 ひとつのことに夢中になっているというのは、子供の頃に戻るといってもいいのではないかとSさんは語った。確かに子供の頃、何かに関心が向かうと頭の中がそれだけになってしまうことがあった。例えば、遊びに夢中になってあっという間に時間が過ぎてしまった、時間が経つのを忘れてしまったという経験は誰でもあるだろう。
 先ほどのワイルはマリファナが効いているとき、会話をしていて自分が数瞬前に何を喋っていたのか忘れてしまうことに戸惑うという体験をとり上げて、それは注意(意識)が現在に集中している状態だと述べている(同じ現象をネガティブな表現で言うと、直前の記憶の障害ということになる)。それは催眠その他によるトランス、瞑想、神秘的な法悦境、あらゆるドラッグによるハイの状態でも認められるという。

[ひとりごと]