モンスターは使いづらい

大体のTRPGにはモンスターのデータがある。特にファンタジー系のシステムでは重要視される。でも、あんまり役に立たない、というか使いづらいと思うことが多い。それはなぜかを真面目に考えてみた記録。『The Lunatic』をデザインする上で考えたことなので基本的にファンタジーTRPGの場合として読んでほしい。

2016.11.18 初版

シナリオを考える上であまり使えない

たまに『The Lunatic』のシナリオを考えないと、と思うことがある。そんな時にモンスターのデータなんかを見直してみるけれど、イマイチシナリオのネタにはならない。まぁ、ダンジョンとか荒野の踏破みたいなシナリオなら良い。というか、こういうシナリオの場合、モンスターはただの障害だから適正なバランスのモンスターならなんでも良い。

でも、シティアドベンチャー、例えば何者かが陰謀を画策していて……とか、何か事件が起こったから……、みたいなシナリオだとはっきり言ってモンスターは全然役に立たない。特に舞台が街中とか人間が暮らしている場所だとサッパリだ。結局、人間のNPCが必要になる。面倒臭い。

もうちょっとなんとかならんのか、と思って他のシステムを見直してみたけれどあんまりうまくいっていない。例えばこの辺(SW、SW2.0、アリアンロッド、RQ、深淵、ブレイド・オブ・アルカナ、真ウィザードリィTRPG、アドバンスト・ウィザードリィ、ファンタズム・アドベンチャー、T&T、エルリック!、ガープス・ルナル)は大体ダメ。D&D(4版)とウォーハンマーには少しヒントになる部分がある(後述)。

つまるところ、ファンタジー系のTRPGでは用意されているモンスターっていうのは、前述したシティーアドベンチャーのようなシナリオを考える上で役に立たない感じだ。

なんで?

モンスターが役にたつシステム

モンスターが役にたつシステムはないのかと思って考えてみた。

ホラー系のTRPG(クトゥルフの呼び声、ゴーストハンター、ダークコンスピラシー)は大体シティアドベンチャーみたいなシナリオでもモンスターを使える。あと、ファンタジーだとD&D(4版)とウォーハンマーも若干。

こいつらのモンスターが使える理由はなんでだ?

まず、ホラー系だ。と言っても『クトゥルフの呼び声』の話なんだけど。『クトゥルフの呼び声』のモンスターのほとんどは「ちょっとなぁ」という感じだ。大体が強すぎる。でも、この辺(深き者ども、グール、ミ=ゴ、偉大なる種族、ヘビ人間)は使いやすい。ビヤーキーとかムーンビーストあたりもよく出てくるけどこいつらはシナリオの中心にはいなくて誰かが呼び出したりしていることが多いからちょっと違う。

次はD&D(4版)だけど、人間型の種族はなんらか使えそうな部分がある。あと、知性のあるアンデッドとデヴィル。

ウォーハンマーはスケイブンが使える。

この辺が使いやすい理由はなんだろう?

共通点

こういう時は共通点を考えてみるというのが常套手段だ。ということで考えてみた。

人間並みかそれ以上の知性がある

全部に共通するのはモンスターが人間並みかそれ以上の知性を持っているということ。

これは当然で知性のないモンスターは陰謀を計画したり、秘密裏に事件を起こしたりしない。知性のないモンスターが原因不明の事件を引き起こすこともあるだろうけど、事件の目的とか理由がないから調査を主眼としたシナリオの構築には向かない。モンスターに知性があればなんらかの目的と計画を持って事件を起こすから、それを調査するということでシナリオにできる。

人間社会にいてもおかしくない

これは全てのモンスターの共通点ではない。深き者どもとかD&D(4版)のレベルが高めの人間型モンスターが当てはまる。深き者どもの場合は人間が変質することがあるから、それが進行するまでは人間社会にいてもおかしくない。D&D(4版)の場合は世界設定が大きく影響するけど、場所によっては人間以外の種族が大量に住んでいたりする。逆に言うとモンスターの中には都市にモンスターが住んでいてもおかしくないし、相対的に目立たないという部分がある。

こういうモンスターは人間社会の中で何か画策することができる。

人間社会のすぐ近くに潜んでいる

『クトゥルフの呼び声』のグールとかヘビ人間、ウォーハンマーのスケイブンみたいなモンスターがこのタイプだ。ミ=ゴとか偉大なる種族もそういうことができる。

こいつら人間社会のすぐそばに潜んでいてもおかしくない。というか潜んでいる。で、人間を殺したりさらったり、何かを盗んだりという事件を起こすわけだ。モンスターの本拠地は人間社会の中にはないことが多いけど事件は人間社会で起こるし、調査のメインの舞台は街中になるからやはりシティアドベンチャーにできる。

どこかからやってくる

『クトゥルフの呼び声』のミ=ゴ、D&D(4版)のデヴィルなんかがそう。理由なんてなしに人間社会とかその近くにやってきて、何かを画策して事件を起こすことができる。なんでこいつらはここにいるのか、とかの理由付けが必要ない。モンスターの方には理由があるのかもしれないけど、シナリオを考える上でその理由を考える必要はない。どこかからたまたまやって来たら人間の街があったので、ちょうど良いってことで事件を計画する、ということでおかしくない。

個体として人間よりやや強いけど勢力(数)が少ない

スケイブン(強くないし多い)、デヴィル(人間よりずっと強い)とか当てはまらないのもいるけど、こういうタイプは多い。このバランスは便利だ。数が少ないから目立たないようにできるし、逆に目立ってしまうと人間側が人員を大量動員してしまう。だから、秘密裏に行動することになる。でも、個体としては人間よりも優位にあるから短時間に目立たず実行できるなら戦闘という手段も取りやすい。秘密裏に動いていたけれどたまたま目撃者を殺してしまったことが事件のきっかけになる、とかいうパターンにしやすい。

このくらいのバランスが良い点はもう一つある。TRPGには戦闘級のシミュレーションという側面がある。PCのパーティは大体4〜6人くらいだ。モンスター側もこのくらいの人数のPCで対応できるくらいの勢力であって欲しい。例えば『クトゥルフの呼び声』のモンスターの良いところはちょうどこれくらいの勢力なところがある。逆に数を蓄えて戦争になってしまうようなモンスターはちょっと使いづらい。

人間の協力者を作れる

一つ前の「個体として人間よりやや強いけど勢力(数)が少ない」と関連する部分があるけれど、『クトゥルフの呼び声』とかD&D(4版)のモンスター(特にデヴィル)は人間の協力者がいるというパターンが作りやすい。そうすると動くのは人間の協力者ということになって、シティアドベンチャー的なシナリオにしやすい。人間の協力者はNPCにしなければならない部分があるけれど、多くは雑魚だからモンスターデータに用意されている人間のデータで足りる部分が多いのが助かる。

この観点でもう一つ重要なのがこういったモンスターは必ずしも人間と敵対的なわけではないという点だ。別に人間に友好的である必要はない(例にあげたモンスターでもそういうのはいない)けれど、人間が自分たちに隷属(それなりの待遇で)するなら良しとか、協力できる人間とは協力するし敵対するなら排除するといった場合による対応ができる必要がある。不倶戴天とか人間は奴隷みたいな対応しかしないモンスターだと人間の協力者というのは考えにくくなる。

単独でないか単独であることを好まない

前の2つにも関係するけれど、単独で何かしようというモンスターは少ない。D&D(4版)のデヴィルなんかは単独でもやれるけど人間を篭絡して手下にする傾向がある。もう一つ重要なのはモンスター同士でも手を組むことがあるということ。『クトゥルフの呼び声』のモンスターはあんまりそういう感じがないけれど、D&D(4版)のモンスターはそういうのが多い。この傾向があると、シナリオの事件とか調査中に起きることにバリエーションを作りやすい。

これだけまとめてみたらシティアドベンチャーのようなシナリオに使えるモンスターの特性が大分見えてくる。整理してみると次のようになるだろうか。

項目 概要
知性 人間並みかそれ以上の知性を備える。
行動目的 人間を支配しようだとか、特定の人間を殺害しようだとか、何かを奪おうだとか、いうことを目的とし得る。
住処 街の中に住むことができる。
街のすぐ近くに棲みつく。
どこからともなく街の中や街の近くに出現できる。
強さ PCよりも若干強いくらいが良い。
ただし、他の条件によっては弱かったりずっと強かったりすることも可。
単独では行動しない。
仲間のモンスターと行動するか人間の手下を使える。
別種のモンスターとも協調できるとなお良い。
戦争になるほどの数を揃えられない。

こういう特性を持つモンスターならシティーアドベンチャーでも使える。

一般的なファンタジーのモンスターは?

前述のまとめの観点からよくあるファンタジーTRPGのモンスターを見直してみる。

よくあるヒューマノイド

ゴブリンとかオークとか。人間社会の近くにはいるけど先の考察でまとめた内容ほど近くにはいない。集団で人間の集落を襲うことはあっても人間社会に紛れ込んで何かしようとはしない。というか、目立ちすぎて人間社会には紛れ込めない。自分らが紛れ込めないということで人間を手下にするかというとそういうことはない。大体、一番の問題は頭が足りない。だから、これらが街の外部からでも密かに何か画策する、っていうイメージがない。

ちょっと強いヒューマノイド

オーガとかトロールとか。一般的には頭が悪すぎる。ゴブリンとかオークよりも頭が悪い。システムによっては頭が良かったりはするけれどそういうのはそのシステムの独自設定だろう(例えばRQのオーガ、GURPSルナルやSW2.0のトロール)。

その上目立つ。大体がでかい。人間社会に紛れこむには無理がある。

あと、人間はエサとしか考えていないという設定が多いのも問題だ。これが理由で人間の協力者という手段も使いにくい。

危険な動物とか幻獣の類

考えるまでもなく、シティアドベンチャーの敵役に使うのは無理がある。強いもの(ドラゴンとか)には知性は十分なものがいるけど単独感が強すぎるし、何よりも目立つ。目立つなんていうものではない。その上、やたらとでかいのが多い。

適当な智良さで十分に知性があって、人間を支配したかったり、何か目的があって人間から物品を奪ったり、とかいうことを考えそうなのはちょっと思いつかない。

デーモンの類

使えそうだけど意外に使いづらいことが多い。D&Dは例外的でデーモンを信仰する教団があったりするし、デヴィル(D&Dではデーモンとは別になっている)は前述の通り使える。それ以外ではあんまりだ。

GURPSルナルの悪魔には使えそうな設定があるけどネームドモンスターはちょっと使いづらい。ネームドモンスターではない悪魔は暴れ役にすぎなかったりするのでやはりイマイチだ。

SWとかロードス島戦記、アリアンロッドのデーモンは破壊的すぎる。

デーモンの類の一番の問題は、各システムのオリジナル設定な部分が多すぎる点だ。流用しづらい。逆に言えば自分のシステムでもオリジナルのものを作れば良いわけで、そういう点ではなんとでもできると言える。

アンデッド

知性のない動く死体は障害物か戦闘のコマとしか使えない。幽霊関係は個体で見るとなかなか良い(適当なこじつけっぽい理由でどこにでも登場させられるし、知性もある)けれど、単独感が強いのが難点。ヴァンパイアとかリッチとかは知性もあるし、手下は使えるとなかなか良いんだけれど強すぎる。強すぎて高レベルのPC用のシナリオでないと使いづらいのと、あまりにも強いがゆえにコツコツ自分で陰謀を画策する理由が希薄だ。大きなキャンペーンのラスボスなら良い感じだけど、単発のセッション用にはちょっと使いづらい感じがする。

と、まぁ使いづらさを再確認したわけだ。逆に言うとここで書いたような使いづらさをシティアドベンチャーで使いやすいモンスターの特性に近づけることができればよくなるに違いない。

結局どうするのか

『The Lunatic』としては結局どうするのかということだけど。

『The Lunatic』の基本的な世界観はよくある(?)ファンタジー世界だからダンジョンとかウィルダネスの探索系のシナリオは当然あるけれど、どちらかというとシティアドベンチャーを志向している。なので幻獣とか動植物関係にはこれ以上注力してもモンスターの数を増やす以上の意味はなさそうだ。

ヒューマノイド系はちょっと設定を見直した方が良いだろう。オークとかゴブリンは場合によっては人間と協力するような感じに設定を見直した方が良いだろうし、トロールとかオーガの頭はもう少しよくした方が良い。人間に敵対的なヒューマノイド同士で協力することはあるようにもした方が良いだろう。あと、もう少し人間社会に入り込んで何かしようというタイプのヒューマノイドを増やした方が良いと思う。

アンデッド系は今の通りで大体良いと思う。できればNPCとして作らなくても使えそうなモンスターをいくらか増やしたいとは思うけど、ネタ(名前)が難しい。

異界の存在と悪疫の怪物は『The Lunatic』のオリジナル色の強い部分だ。世界の伝承などからネタを拾っている部分が多いけど、伝承由来のものは単独感の強いものが多くなりすぎて使いづらいと感じている。オリジナルのモンスターを増やしても良いから使いやすい設定のモンスターを増やすべきだろう。このカテゴリのモンスターはそこにいることの理由があまり必要ない(『クトゥルフの呼び声のモンスターのように)部分があってその辺が便利なので、その辺りをうまく使うようにしたい。

『The Lunatic』