オリジナルTRPGルールを作る

初版

第二版

序文

本書は「Airly Trigone」というオンラインマガジンで連載していたものを大幅に修正したものである。

本書は「きちんと機能するTRPGのルールはどうやって構築するのか」を目的として、そのために何を考えるべきかをまとめたものである。TRPGのシステム全体の作成を対象とはしていない。なのでデータの作成や世界設定の作成については説明しない。ここで述べたシステム、ルール、データ、世界設定の定義は次のとおりである。

ルール
TRPGのシステムの中で成否の判断、パラメータの増減、進行管理などの処理を定義した部分
データ
ルールを運用するために必要なパラメータ群
世界設定
そのTRPGシステムのイメージや雰囲気を伝えるための設定集
システム
ルール、データ、世界設定をまとめたもの

第一章:コンセプト

コンセプトとは何か

前述の定義でシステムを3つの部分に分けたがこれらはともに関連し合っている。世界設定はルールにもデータにも影響を与えているし、その逆もそれぞれ真である。汎用のシステムであっても同様だ。サプリメントが追加する世界設定やルール、データが基本システムのルールやデータを無視することはできない。ルールとデータ、世界設定が連携するなら全体的に共通な考え方というものが存在するはずだ。この、「システム全体で共通な考え」というものこそがそのシステムの「コンセプト」である。

システムのコンセプトとはそのシステムで実現したいこと、すなわちシステムの目標である。しっかりとしたシステムを組むためには明確なコンセプトが必要である。自分が何を求めているのかが曖昧なのに理想通りの(理想に近い)ものを作ることなど不可能だ。

コンセプトとTRPGシステム

最初に言葉を定義した時ルールとデータと世界設定を分けた。そしてコンセプトはこれらを貫くものであると書いた。これらがどういう関係になるかを直感的に分かりやすくするために図示してみる。

全体でシステム
    データ    
  ルール 世界設定  
  コンセプト  

この図はこう言い換えても良いかもしれない。コンセプトを実際に扱えるようにするためのものがルール、コンセプトのイメージを具体的に伝えるのが世界設定、これらに基づいてキャラクターなどを形作るために必要なものがデータだと。

コンセプトで考えるべきこと

コンセプトとして考えるべきことは「自分はそのシステムで何をしたい、何をするのか」ということである。同時に「何をしない、してはいけないのか」も決めなくてはならない。「何をするのか」を決めることには異論はないと思うが、「何をしないのか」を決め無くてはならないというのはよく分からないかもしれない。だが、これは重要なことだ。「やらないこと」を決めておかないと思いついたことを全てやりたくなる。そうすると、最初のイメージからどんどん離れ、何をしたいのかが散漫なシステムになってしまう。重要でない機能のために本当にやりたかったことができないとか曖昧になってしまっては失敗だ。

やりたいことは人によって違からコンセプトも様々だ。しかし、できる限り具体的でなくてはならない。でなければ、次の実際に使う(デザインされる)方法(具体的なルール)に進めなくなる。例えば、ゲームデザインのコンセプトでよく聞くものに次のような言葉がある。

「このシステムは、自由なキャラクター作成、リアリティーにあふれる戦闘ルール、柔軟な行為判定を目的として制作した」

はっきり言ってこんなものをベースにシステムは構築できない。この様な抽象的な言葉はコンセプトではない。もっと具体的にする必要がある。少なくともルールを作るために考えておくべき事柄と思うことを一通りあげて見ると次の様になる。

大体の世界設定のイメージ。特にルールやデータなどと関わり合いの深そうな部分について。

ルールのトータルのサイズ。

判定方法の大体のイメージ。

  • 乱数の使用・不使用と何を使うか(ダイスやカード、乱数を使わないのもあり得る)
  • ベースとなるパラメータ(能力値、技能、など)とその使い方(乱数を足す、比較する、など)。
  • キャラクター間の差(戦士と盗賊の命中力の差、など)。

キャラクターの強さ。

  • 超人的、一般人よりは優秀、など
  • 成長性(成長したら最初よりずっと強くなる、作成時からあまり変わらない)。

キャラクター作成の大体のイメージ。

  • ランダム
  • ポイントバイ
  • テンプレート

戦闘ルール。

  • 行動管理のイメージ(単純なターン制、もっと複雑な何か)。
  • 死にやすさ
  • 開始から終了までにかかる現実の時間の想定

その他そのシステム独自のルール。クトゥルフの正気度、深淵の夢歩き、の様な。

セッションの傾向。

  • キャラクターに何をさせたいのか。
  • キャラクターにどういう行動を取って欲しいのか。

「The Lunatic」の場合

少し具体的な例をあげてみよう。手前味噌になるが私の自作ルールである「The Lunatic」の場合は次のようなものだった。

世界設定とキャラクター

  • ファンタジーではあるが現実世界に近いイメージ。魔法という要素を組み込んでファンタジー化する。
  • キャラクターには人間(と同等レベルの力しか持たないもの)しか扱わない。

キャラクターの構築

  • キャラクター作成は自分の好きなようにキャラクターを作れるようにポイント割り振り制にする。極端に高い能力値や低い能力値は使えないようにする。
  • 万能型キャラクターが(特に戦闘で)無能にならない様にする。
  • 全ての数値は連続したものとして扱えるようにする(ソードワールドやD&Dの様に区切りをつけない)。
  • キャラクターは最初からそれなりに強く、極端に成長しない。
  • キャラクターの成長は楽しいのでセッション毎に成長に関する処理はできるようにする。

判定方法

  • 行為判定は下方内上方ロール
  • 行為判定には基本的に技能、能力値を使用する。
  • 行為判定は乱数を用いる。結果に安定感を持たせるため複数個のダイスを使用し、数値の分布を正規分布に沿わせる。ただし、極端に多いのは面倒なため採用しない。また、ある程度逆転のチャンスがある様にしたい。
  • 決定的成功、決定的失敗などの特殊な処理は通常のダイスの目からは切り離す。
  • 受動側は常に対応できる様にする。

戦闘

  • 戦闘では、一撃でキャラクターが死ぬ可能性を持たせる。しかし、ある程度の時間は戦闘を続けられるようにする。
  • 攻撃は不特定回数の連続攻撃を標準とする。
  • 反撃などの割込行動を実現する。
  • キャラクターは死にやすいが実際には滅多に死なないようにする。

その他

  • 魔法は基本的に魔法使いにとっての剣であると考える。盗賊などのキャラクターを無用の長物にする様なものは設定しない。魔法使いの系統はいくつか用意しする。
  • 魔法も武器戦闘と同じ様に1回の行動機会に複数回使えたり、魔法に対して魔法で対応できる様に考える。
  • 魔法を使えないキャラクターのために特殊行動を魔法の様にデータ化し、外挿ルールとして処理できる様にする。

(注:これはver7.Xのものでそれ以前のものとは少し異なる)

「The Lunatic」はかなり大きなシステムなのでかなりの量になった。これでも具体的にルールには遠い。しかし、どのようなルールを作ってゆくのかという方向性は見えてきていると思う。

第二章:ルールの構築

ルールの基本的な構造

ここから具体的なルール構築の話になるが、その前にTRPGのルールの構造を考えておこうと思う。

ルールはすべての部分を同時に書くことはできないから部分ごとに作ってゆくことになる。それぞれのルールには関連性がある。だから、ルールはより重要な(基礎的な)部分から作り、応用的な部分は基本的な部分をベースにして作ることになる。逆に応用的な部分からのフィードバックを基礎的反映することもある。

ルールがどのような重層構造をとるかを簡単に図示す。下図で上下に積み重なっているものは下にあるルールに強い影響を受けることを示す。ただし、「その他ルール」の配置は正確ではない。「その他ルール」は行為判定を下敷きにしない場合もあるし、「戦闘」や「ダメージ」を下敷きにする場合もある。

キャラクター作成
    ルールを持つデータ  
  戦闘   その他  
ダメージ     ルール  
  行為判定

この図で用いた各部分がどのようなもので、他の部分とどう関連するかを簡単に説明する。

行為判定

行為判定はゲーム中の行動の成否を判定するルールであり、最も重要な処理系と言える。私の知る限り、(そして知らないものも含めておそらく)「行為判定」のルールを持たないTRPGのシステム、ルールというものは存在しない。

多くの場合、戦闘も魔法の使用も行為判定を下敷きにする。そのシステム独自のルールも行為判定を下敷きにすることは多い。行為判定のルールと無関係な部分というのは滅多になく、全体の基礎として重要なルールになる。

ダメージ処理

ダメージ処理と書いたが戦闘に関わるヒット・ポイントの様なルールだけを指すのではない。例えば、マジック・ポイントもそうだし、クトゥルフの呼び声の正気度(これは行為判定パラメータでもあるが)などもこの範疇だ。

ダメージ処理系のルールはパラメータの増減を取り扱い、キャラクターの状態を管理する。ダメージ処理系のルールは状態を表すパラメータだけではなく、状態を変更する要素とセットで考えなければならない。例えばヒット・ポイントは攻撃の命中率(つまり行為判定の成功率)も考慮する必要がある(なので図中で行為判定の上に乗っている部分がある)。これについては後で詳しくやるのでここまでにしておく。

戦闘ルール

戦闘ルールと書いたがダメージ処理と同じく戦闘だけを指してはいない。もっと一般化するなら、行動管理と位置管理が必要で、厳密なルール適用が必要な処理系、となる。戦闘処理はこの様な処理の典型だ。キャラクターの生死が関わっているので誰がどこに居て、いつ、どの様な行動を取れて、それをどう処理するのかが決まっていないと喧嘩になる。

行動の解決は行為判定とダメージ処理に従えば解決できる。だから、戦闘ルールで新たに考えるべきことは行動管理と位置管理の仕組みになる。

行動管理とは参加者が行動する単位(いわゆるターンとかラウンドというもの)を決めて、その単位時間に誰がどの順番で行動するかを決定することである。ルールによっては単位時間内に一人2回以上行動したり、割込行動ができたりもするからこれらを考慮した上できちんと設計しなければならない。

位置管理ではキャラクターがどこに居て、どれだけ移動できるのか、何か移動を妨害するものがあるのかを決める。

これは本質的ではないが、戦闘は数値バランスへの要求が高い。数値バランスの基礎となるのは行為判定(の成功率と失敗率)とダメージ処理だが、実際に具体的な値を考慮してバランスを調整するのは戦闘ルールになることが多い。

ルールを持つデータ

例えば「魔法」、「超能力」、「必殺技」などのルールを指している。ほとんどの場合、魔法や超能力といったものはその不可思議さを出すためそれぞれのデータがその結果を導き出すためにそれぞれの処理を行うためのルールを持っている。例えば【眠り】の呪文で眠ってしまった場合どうなるのかは一般的な戦闘ルールの範疇に収めるのは難しいからこの扱いは戦闘ルールに外挿されるルールと言える。

これらのデータが外挿するルールで何をするかは自由だが、その効果は時間や範囲に関して限定てされている必要がある。この限定するための仕組みは「ルールを持つデータ」を運用するためのルールとして定義されているべきである。

キャラクター作成のルール

キャラクター作成のルールの目的はキャラクターという巨大なパラメータの集合体を作り出すという点にある。行為判定やダメージ処理といったルールを継承して作るものではなく、独自にパラメータを作るためのルールを構築することになる。しかしこれらのパラメータは行為判定やダメージ処理などのルールを機能させるためのものなので、それらのルールが想定する範囲の数値を生み出す様にしなければならない。その点において重大な関連性がある。

キャラクターの成長ルールもキャラクター作成の一部、もしくは強い関連性を持ったルールとして考える必要がある。

その他のルール

そのほかのルールとは「そのシステムらしさを出すためのルール」である。だがここに何が来るのかはそのルールで何をしたいのかに大きく依存するため一概にどのようなものが入るかはわからない。たとえば、「クトゥルフの呼び声」の正気度のルールや「天羅万象」の業システム、等がこの部分に当たる。

この部分のルールは独自性が高いので行為判定やダメージ処理のルールを基盤としないこともあり得る。例えば、「天羅万象」の気合ポイントの獲得がそうだ。とはいえ、何らかの判定を行う場合は行為判定のルールに基づくし、パラメータ増減はダメージルールに基づくことが多い。例えば、「クトゥルフの呼び声」の正気度はこの両方に基づいている。

この項目については一般論として書けることが無いので章立てして説明しない。

ルールを構築するための基本的な手順

行為判定や戦闘等の個別のルール構築についての話にはいる前に全体を通していえる基本的な考え方について書いておく。

ルールを運用するときの手順はこうだ。

行動を決定 → 判定 → 結果

しかし、ルールを構築する際は逆向きに考える。

結果 -> 判定 -> 行動の決定

逆順に考えるのはルールがデザイナーの予想通りに動く様にするためだ。上記の順番だと結果の範囲に収まる様に判定のルールとパラメータを定めているのだから予想の範疇に落ち着くのは当然だ。

ルールの運用通りの順番で作ってゆくと想定範囲をはみ出す結果になりやすくなる。その都度調整すればいいと思うかもしれないが効率が悪い。特に能力値の様な広範囲に影響するパラメータを判定方法や想定する結果より先に決めてしまうと両方をうまく収められなくなることが起こりやすい。それを無理やり調整しようとして修正値などを付け加え始めるとルールが無用に複雑化する。これは良くない。

「1.ルールの基本的な構造」はこの考え方に基づいた構造でもある。だから(1)〜(6)の順序でルールを考えた方が良い。もっともそれぞれに関連があるので一つが完成してから次に移れるということはないし、後から作ったルールによって元のルールを変更することもある。それでもより基礎的な部分から構築して行くのが無駄がなくミス、特にルール間の矛盾を作り出しにくい。

第三章:行為判定

行為判定の設計を始める前にコンセプトを見直してほしい。行為判定のためにこれらを考えるべきと述べたのは、これらで行為判定の関数が定まるからだ。

「乱数の使用・不使用…」はどの程度の偶然性を持たせるかを考えるということだ。逆に言えばどの程度安定した結果が予測できるかということにもなる。これだけでは決まらないが偶然性が高いほどヒロイック、低いほど現実的になりがちだ。

「ベースとなるパラメータ(…)とその使い方(…)」は要するに「上方ロール(目標値 ≦ 乱数 + 基本値、で判定を行うルール)」か「下方ロール(乱数 ≦(基本値 = 目標値)、で判定を行うルール)」か、その他か、を決めることだ。

上の2つは判定方法を考えるためだが「キャラクター間の差(…)」は判定結果のバランスを考えるための項目だ。実際に構築した判定方法とも関わるが、逆転のしやすさというか弱いキャラクターが強いキャラクターに勝てる可能性が高いか低いかを考慮しておくべきということである。

あとは次の様なことを考える。

これで判定時のパラメータの目安ができる。

これらをまとめて考えるとだいたい行為判定の基礎的な部分はまとまる。例えば、こういう感じになる。

乱数にはD10を使う。

判定は能力値+技能に対する下方判定。

技能をもつ判定は50%成功が中央値。能力値だけの判定は30%が中央値。

判定の最小成功率は10%、最大は90%。

以上から能力値で補助的に技能で修正される。例えば〔敏捷度:1〜5〕で《隠密:x》技能があると〔敏捷度〕にxを加えて扱う。能力値は1〜5の値を取り、技能は0〜4を取ることになる。

ここからは細かい各論的なことをいくつか書いておく。

上方ロールと下方ロール

上方ロールは「目標値 ≦ 乱数 + 基本値」、下方ロールは「乱数 ≦(基本値 = 目標値)」で成功というルールだ。多くのシステムではこのどちらかを採用している。一般的に上方ロールは派手(ヒロイック)で下方ロールは地味(現実的)になりやすいと言われている(確か山北篤氏が何かの本に書いていた)が、ちょっと性格の違いなどについて説明しておこう。

目標値に対して判定を行う場合は上方ロールであろうと下方ロールであろうと差はない。しかし、2者以上の判定の結果を比較する対抗判定になると少し話が変わってくる。

2者が競い合った場合、上方ロールのパターンは次の通り。

A > B

A = B

A < B

下方ロールの場合は次の通り。

Aが成功、Bも成功

Aが成功、Bが失敗

Aが失敗、Bが成功

Aが失敗、Bも失敗

対抗ロールでは先に行動したもの(能動側)を不利とすることが多く、後から行動する方(受動側)を有利にすることが多い。能動側A、受動側Bとすると成否は次の様になる。

上方ロールの場合

A > BならばAの勝ち。

A ≦ BならばBの勝ち。

下方ロールの場合

Aが成功、Bも成功ならばBの勝ち

Aが成功、Bが失敗ならばAの勝ち

Aが失敗、Bが成功ならばBの勝ち

Aが失敗、Bも失敗ならばBの勝ち

上方、下方いずれもA、B共に同じ基準値でD10で判定とした場合、上方ロールはA勝ち(45%)、B勝ち(55%)に対して下方ロールはA勝ち(25%)、B勝ち(75%)になってしまう。要するに下方判定の方が受動側の勝ちになりやすい。

今度は基準値の差の影響を考えてみる。

上方ロールでAがBよりも基準値が1大きかった場合、A勝ち(55%)、B勝ち(45%)になる。

下方判定でAが基準値6、Bが基準値5とするとA勝ち(30%)、B勝ち(70%)になる。

上方ロールではA勝ちが10%上昇したのに下方ロールでは5%しか上昇していない。つまり、基準値の差の影響は上方ロールの方が大きい。確かに上方ロールは派手(ヒロイック)なイメージに、下方ロールは地味(現実的)なイメージになりやすいと言える気がする。

それぞれの利点と欠点を私の主観で書いておこう。

【上方ロール】

バランスが取りやすい。対抗判定でも重要なのは相対差だけなのでパラメータの調整が楽。

単独の判定の時、目標値をオープンにしなくて良い。

キャラクターの成長に制約がない。

判定基準値の差が結構厳しい。はっきり言って2D6上方ロールだと対抗判定で2点差は相当きつい差になる。戦闘みたいになんども判定してパラメータを削り合う状況だと弱い方の勝ち目はほとんどないという状況になりやすい。

【下方ロール】

対抗判定で受動側が勝ちやすいため弱いキャラクターが長生きしやすい。

判定時に必要なのが比較だけなので楽。

判定基準値が高すぎると対抗判定が延々と終わらなくなる。例えば戦闘で受動側の防御基準値が99%あったら攻撃が成功しない。達人の戦いを再現できていると見る向きもあるだろうけど、ゲーム的にはうんざりする。

特別なルールを設けない限り100%成功する様になったらそれ以上成長する意味がないのでキャラクターがどんどん強くなる様なシステムに採用しづらい。

行動の難易度を設ける必要が出てくると上方ロールより面倒になる。つまり、「差が幾つで成功?」とやらなくてはならないのが頻発すると上方ロールにした方がマシになる。

その他の判定方法

上方ロールと下方ロールはよく使われるがそれ以外の方法もある。ざっと紹介だけしておく。

天羅万象の様に複数個のサイコロを振りそのうちいくつが成功したかを見るものやWorld of darkness、シャドウランのように上方ロールとして複数個のダイスを振りそのいくつが成功したかを見るもの。これらの特徴は成功しやすさと成功度合いの高さが別軸になっていることだ。例えば成功しやすいけれど振れるダイスの数が少ないキャラクターというのは確実だけど大技を持っていない、とかいう感じになるんだろう。フィギュアスケートとか体操競技をイメージすると良いかもしれない。

下方内上方ロール。私の「The Lunatic」、確か「Pendragon(未訳と思う)」がそうだ。これは基本が下方ロールで目標値がある場合、幾つ以上なら成功とやる方法。下方ロールの難易度を扱いにくい問題を解決している。「目標値 ≦ ダイス ≦ 基準値」と比較対象を2つ持っているのがポイントで、私の「The Lunatic」は「ダイス ≦ 目標値 ≦ 基準値」なら完全な成功でもないが失敗でもないという中間的な結果に当てはめている。これは結構便利だけれどデザイン上難しいパターンになることもある。

カードを使う。「トーキョー NOVA」くらいしか知らないけど、もちろんカードを使う方法もある。「深淵」とか「TORG」は独自のカードを使うけど、これらの判定はダイスを使った仕組みがメインでカードは補助だからカードでの判定とは言えない。ただ、いずれの場合も手札をストックできるという要素がある点が大きい。トランプを使う場合、スートと数値という2つのパラメータを持つこと、絵札を数値以外の要素として捉えるならさらにパラメータが1つ増える、というのも特徴だ。

乱数を使わない。市販のルールでは知らないけど、私の書いたもう一つのルールである「Diceless RPG」がそう。一時的に成功率を上げる(下げる)方法を構築しないと使いづらいと思うけれど、考慮してみる価値はあると思う。現実世界に即したホラー物なんかで乱数が重要な戦闘を極力排したシステムを作る場合なんかだと結構イケると思う。

乱数と判定基準値の関係

判定時の定数としてのパラメータ、乱数ともにどの程度の大きさの数値を扱うのかは行為判定で結構重要な要素だ。例えば、技能の数値が0〜100で乱数の範囲も1〜100の時と技能が1〜5で乱数が1〜10では違いがあるということだ。

乱数の幅

乱数の幅が大きくなるときめ細かい差を表現できるが、無駄も多くなる。

例えば、D100で判定する場合とD6で判定する場合を考えてみるとよい。D100なら1%刻みで判定を操作できるがD6は16.6%刻みでしか操作できない。これは能力値などの判定基準値にも影響する。D6での判定なのに基準値は1〜100などは意味がない。下方判定はもちろん、上方判定でも相対値で7以上には意味がないからだ。逆にD100なら基準値が1〜100は十分意味がある。つまり、D6での判定よりD100の判定の方がきめ細かい差が表現できると言える。

しかし、D100の判定だとほとんどの場合はダイスの10の位だけ判断すれば結果がわかる。なのに毎回2桁の計算というのは無駄だ。またD100の判定でも修正値は5%とか10%刻みくらいで考えることが多い。あまりに無駄な計算が多いならD20に変えるとかした方が良い。

乱数の幅と固定値の関係

これは上方ロールの場合だが判定基準値が取り得る差と乱数の関係にも意味がある。例えば、D10を用いる判定で基準値の差が0〜9の時を考えてみよう。この表は1回の判定で判定基準値の低いほうが高い方に勝つ確率を示している。

0〜9の場合
基本値の差 確率(引き分けあり)
045%
136%
228%
321%
415%
510%
66%
73%
81%
90%
平均15.5%

当たり前だが判定基準値の差が小さいほど弱い方に勝ち目がある。

ここで言いたいことは、上方判定の場合理論上判定基準値には上限がないが上限を設けることには大きな意味があるということだ。この例の場合で判定基準値の差が9以上になることを認めた場合、初心者は達人に絶対に敵わないことになる。しかし、判定基準値の差を8以下に設定するなら初心者が達人に勝てないまでも一矢報いることくらいはできる可能性があるということになる。つまり、システムのコンセプトによってはリミットを設ける必要があるということだ。

失敗率の確保

下方ロールの場合、前述の様な相対差は関係がない。しかし下方ロールでもパラメータに関して気を配るべきことがある。下方ロールの場合、特に対抗判定の受動側の判定基準値に関して失敗率をある程度確保する必要があると思っている。なぜかというと下方ロールの欠点として挙げた「対抗判定がいつまでも終わらない」ことを避けるためだ。例えば、武器攻撃に対する受動判定を行う技能《防御》があったとするとこの上限は70〜75%程度に抑えた方が良い。リアリティの面では当たりすぎかもしれないがゲーム的にはこの程度失敗してもらわないと戦闘が長引いてかなわない。

具体的なシステムでどうしているかを例示してみる。BRP(ルーンクエストとかクトゥルフ)は上限がない。代わりに1ターンに取れる防御の回数に制限がある。GURPSは武器技能の半分(《フェンシング》など特例で2/3)として低くなる様に対策をしている。が、個人的にはシンプルに上限幾つとした方が良いと思う。

ちなみに私の「The Lunatic」は次の様にしている。判定はD12+D10の下方内上方ロールだが、D12の11と12は特殊処理(自動的成功、失敗やクリティカル)用だ。受動判定ではD12=11,12は常に失敗としているから1/6は必ず失敗する。失敗率は16.7%だから先に書いた値より小さいが、下方内上方ロールなので部分的な防御成功というのがあるからそれを勘案するとうまい感じになる。

判定時のダイス

判定時にどんなダイスを何個振るかというのも考えて見なくてはいけない。例えば1〜20くらいの乱数が欲しいという時、多少の違いはあるけれど候補になるのはD20、2D10、3D6あたりだろう。このどれを選ぶかで結構イメージが変わる。

ダイスは複数振ると真ん中の値が出やすくなって極端な値が出にくくなる。D20だと1〜20まで同じ確率(0.05)で出るけれど、2D10だと2や20は1/100(0.01)、11は1/10(0.1)だ。3D6だと3や18は1/216(0.0046)で10と11は27/216(0.125)だ。

つまり、D20を採用した場合は3D6より逆転しやすく、逆に3D6はD20を採用した時より想定通りの結果になりやすいということだ。だから、自分のシステムのコンセプトが派手な感じだったら3D6よりD20を採用した方がうまく行きやすいだろう。

ただ、判定時にダイスを何個振るかは考えた方が良いけれど、非常に重要というほどではないと思う。派手か落ち着いた感じかというコンセプトには他の部分、特に魔法(や特殊能力)のルールの方が大きく影響する。それに誰でも用意できるD6だけを使うというのも立派なコンセプトで乱数のばらつき具合よりもそちらの方が優先度が高いということは十分あり得る。

計算と実験

行為判定のルールを考えたら実際どうなるかは計算でシミュレートしてみる必要がある。実際にサイコロを10回や20回、頑張って100回振っても本当に期待通りに動くかはわからない。ちょっと違うか。だいたいうまくいくかどうかはそれで良いけど、確実にうまく行くかは計算して見ないとダメだ。

とは言っても単独の判定なら全然難しくない。ダイスの確率分布表さえ作ってしまえばほとんど終わりで、上方ロールなら目標値と判定基準値の差がいくらなら何パーセントとわかるし、下方ロールなら判定基準値が分かれば良い。

対抗判定になるとちょっと面倒くさいが、表計算ソフトがあれば十分できる。縦軸に能動側の基準値、横軸に受動側の基準値をとって表を作れば良い。

単純な上方ロール、下方ロールでない場合はかなり面倒くさくなるかもしれない。その場合、コンピュータでシミュレーションするという手もある(プログラミングができる必要があるけど)。私の「The Lunatic」では対抗判定のシミュレーションを作って能動側のパラメータと受動側のパラメータのパターンごとに10万回判定させて、決定的成功、能動側成功、半成功、受動側成功、能動側失敗の確率を計算している。

さて、こうやって計算すれば(計算が間違っていなければ)実際に運用した時に期待はずれになることはまず無い。しかし、実際やって見たらちょっと感じが違うということはある。例えば攻撃-防御の結果攻撃成功になるのは40%と設計したけれど実際やって見たらもう少し当たらない方が良いとか。

これはデザイン時に引いたラインは、言ってみればこんなものだろう、という適当な値に過ぎないからだ。それ自体に明確な根拠があるわけでは無いので実はもう少し成功した方が良いなどということは十分にあり得る。

こういうの感覚的なものだから実際にダイスを振って見ないとわからない。だから、実験というのは必要だ。じゃあ、実験で変更するなら計算は不要かというとそんなことはない。計算してあるから少し値を変更した時にどうなるかがわかるわけだ。

カードを使う

判定にカードを使うというのは当然考えられる。独自のカードについては言いようがないのでここではトランプの話になるが、ダイスに比べると成功率の見積もりが圧倒的に難しい。一応少しだけやってみよう。

「トーキョー NOVA」と同じくスートが合致する札を使えるとしよう。絵札は考慮せず単純に1〜13でジョーカーは使わない。山札から初めて手札を4枚得た状態(捨て札が0枚)として、使用可能なスートが1つの場合、少なくとも手札を出せる確率は「1 - 39/52*38/51*37/50*36/49」だ。約70%ある。面倒臭いので具体的な式は示さないがカードの期待値は約5で良いだろう。良いだろうというのは手札のうち使えるものを無作為に出すことにしているからで、最良のものを出すとか条件を変えると正しくなくなるからだ。他のプレイヤーがいたり、すでに札の一部が捨てられている場合のことをどう考慮するかだが、これらが不明(他人の手札は不明だし、実際にプレイしていない状況では捨て札も不明とするしかない)である限り全部山札にあるのと同じ扱いで良いはずだ(ちょっと自信がない)。

しかし、カードはダイスとは違い判定のたびに得られる値は無作為ではない。例えば、ラスボスとの戦闘に備えて有効な札を1枚は握っておこうと考えるのは十分あり得る。だから、上の計算はダイスの時ほどあてにならない。特にセッションの途中段階での想定が必要なら。

カードの場合は全てのカードから無作為に手札を得た状態で有効なカードを使った時の期待値を一応求めておいて、それを基準として何回かテストプレイを行い、プレイヤーの動向から調整するというトライ&エラーでやるのが早いのかもしれない。

別の手段としてはすでにある別のゲームを流用するという手もある。例えば「パラダイスフリート」では大富豪を流用していた。この手の良いところは、今まで長い間プレイされてきたゲームはバランスが実証されているとみなして良いところだ。ただし、TRPGではプレイヤーとマスターという非対称な関係になることは考慮しなければならない。

第四章:ダメージ処理

今度はダメージ処理の話だ。行為判定は長かったがこちらはそれほどでもないはず。前にも書いたけれど、一般的なHP(ヒットポイント)とダメージの話だけではない。増減でキャラクターの状態を表すパラメータ全般の話だ。

まずはヒット・ポイント

とはいえ、この手のパラメータの代表はヒット・ポイント(以下HP)なのでこれをベースに話をする。

このヒット・ポイントというやつはだいたい次のような感じだ。何点かのHPがありそれが0(もしくは他の数値)に達した時点でキャラクターは死亡する。私はこの方法があんまり好きじゃない。なぜかというとキャラクターの健康状態(けがの状況)をうまく表現できているとは言い難いからだ。でも「The Lunatic」でもこの手法を採用している。他のシステムでも単純なHPを使っているシステムは多い。

細かい話をする前にちょっと考えてみる。

実際の戦闘を想像してみる。多分、武器を使った殺し合いだと良いのをもらったらいきなり行動不能だろう。即死かそれに近い状態になる可能性も高そうだ。それほどの打撃でない場合、例えば腕とかを多少切りつけられたとかの場合、HP的な被害ではないと思う。つまり生死に関わるダメージとしてはかなり小さいけれど、行動への影響が大きいのではないだろうか。そう考えるとHPという手法はあまりリアルではない。

リアリティを重視した場合の手法をちょっと考えてみよう。上の想像に従うなら、ダメージが10以上なら即死、8以上なら行動不能(不具)、7以下は程度によって部位(手とか足とか)に傷害で判定-2とか移動力-1とか次回行動できないとか、という感じだろうか。これはこれでアリかもしれないが、2点ほどよろしくない。まず、即死や行動不能(不具)がヤバい。ダメージがよかったらいきなりキャラクター破棄になるのは困る。そして面倒臭い。攻撃を受ける度に管理する修正が増える。プレイヤーはまだ良いけど、マスターみたいに何体もNPCやモンスターを管理しているならたまらない。

この方法とHPを比べてみよう。HPはずっとシンプルだ。単に値の増減があるだけだ。その割にキャラクターが危ない状況にあるのかはうまく伝えてくれる。例えば、いきなりHPの半分も失うようならかなり危険だとわかる。時々1点2点失うような状況は余裕だと判断できる。リアリティ(怪我したら行動に影響するだろう)に関してはうまく無いけれど、面倒な管理がなくてむしろ良いと言える。

結局、HPのような単純な仕組みでプレイヤーにキャラクターの危機を伝えることはできるし、何よりも扱いが簡便なのだ。そして応用しやすい。例えばマジック・ポイントのようなものなら魔法の使用切れが近いぞと、正気度ならキャラクターがどれほど精神的に追い詰められているかを端的に表せる。

HPのような仕組みには不満な点はあるかもしれないが目的(キャラクターが何らかの危機的状況に近いか遠いかを管理する)に対して十分有用かつ簡便な方法だということに納得したところで細かい話に入ろう。

システムにとって最適なHPの値というものはどうやって決定するのか。当然だが勘では無い。まずは次の要素を考える。

  • 平均ダメージは何点で何回くらいの攻撃が命中したら死ぬのか。
  • 最短では何回の攻撃で死ぬのか。

前に書いた通り結果から逆算するわけだ。

まず、「平均ダメージは何点で何回くらいの攻撃が命中したら死ぬのか」からHPは何点にするかが決まる。例えば平均5点のダメージで4回だったらHPは20点前後にする。そしてHPと攻撃のダメージはセットで考える。それを「最短では何回の攻撃で死ぬのか」から求める。例えば最短2回の攻撃で死ぬなら最大10点にすれば良い。ということはダメージはD10ということになる。

一気にHPも攻撃のダメージ(武器や呪文)の基準ができた。後はこれを中心として多少の幅を持たせればバリエーションができる。例えばHPは15〜25の範囲に収まるように、ダメージはD6〜D12の範囲(D6はやや小さいのでダガーとか予備的な武器で主流はD8〜D12、D12は両手武器)でと決められる。

回復と戦闘回数

先ほどHPの計算をした。実は想定が甘い。どういうことかというと1回の戦闘のことしか考えていないし、その間の回復も想定していない。

複数戦闘機会(というかHPを減じる状況)があるとして、もし、常に完全回復するなら先ほどの計算通りで問題ない。そうでないならば、1回の戦闘の結果HPがどのくらい減り、そして何回の戦闘をするのかを想定する必要がある。そして、各戦闘間の回復量を決め、HPを修正する。

例えば、1シナリオ3回の戦闘を平均として、戦闘に勝った場合HPの減少は10〜15点(平均13点)とする。先ほどの計算でHPは20点だったから1回の戦闘を終えるとHPは5〜10点になってしまうので、10点程度の回復がないと辛い。2回目の戦闘を終えて同様の回復した状況だとHPは10〜15になる。この後3回目の戦闘だがこれはボス戦だ。HP的には最初の計算の20では耐えられないだろうから10点ほど増やしてみる。そうすると1回目の戦闘の後HPは15〜20残ることになる。これは回復が不要か5点程度で良い。2回目の戦闘後のHPは5〜15程度なので10点程度回復できれば良いということになる。

回復手段(休憩か魔法かポーションなどのアイテムか)は別途検討する必要があるが、HPを30点程度にしておけばうまくゆきそうだと計算できる。

ただし、気をつけておきたいのは想定が多いためきちんと計算通りにならないかもしれないということだ。ただ、HPという仕組み自体が一種のバッファリング(緩衝)システムなので少々の誤差は吸収してくれる。なので行為判定の時のような厳密な計算よりも計算はある程度にとどめておいて、トライアンドエラーでやったほうが良いことが多いと思う。

HPシステムの他への応用

マジックポイントや正気度のようなHPと同じような扱いをするパラメータへの応用だが、考え方は同じである。ただし、扱いの差異によって多少検討すべき事項が変わる。マジックポイントについて考えてみよう。

マジックポイントを減少させるのはダメージではなく、ほとんどの場合、魔法を使用した時の消費だ。だからそれを基準に何回くらい呪文を使えるべきかで計算する。キャラクターが強くなってより高度な呪文を使えるようになった場合のことも考えるべきだが、こちらは成長ルールの範疇なので今回は割愛する(ちなみにSW1.0は呪文の消費精神力÷レベルとしているがこれは上手い。呪文が高度になると見かけ上の消費精神力は増えるが実際の消費は変化しないのでキャラクターの精神力は基本的に増やさなくて良い)。そして、典型的なマジックポイントの場合、1日の休息を取るまで回復しないというのが多い。そして、0になった時に気絶することがあっても死ぬことはない。これを勘案すると、回復がないという観点ではでHPよりやや多めであったほうが良いが、死ぬことはないという観点ではやや少なめでも良い。両方を反映すると増減なしで良いだろう。

こういう感じでHPと同じように消耗から逆算すれば良い。

応用的なHPシステム

これまでは単純なHPシステムを考えてきたが、少し変わった方法を紹介だけしておこう。

ダメージブロックシステム

「央華封神」のシステムだ。昔、「The Lunatic」でも採用していた。「央華封神」では次のようなチェックリストを使う。

□□□□□□□
□□□□□□□
□□□□□□□

ダメージを受けた時にはどれか1行のチェックボックスを埋める。1行全部が埋まったら死亡だ。

このシステムの良いところは一撃必殺と細かいダメージに対して長期間戦えるという要求を満たせるところで、武器戦闘では結構リアリティがある。その点が気に入って「The Lunatic」でも採用していた。ただ、全身に被害を受けるようなダメージ(例えば【火球】の呪文を食らった時など)を扱いづらい。全身にダメージを受けるような場合は全行に割り振って良いとかすることで対応できるけれど、キャラクターによって行数に差がある場合にうまく行かない場合があって採用をやめたと思う。

多段階化したHP

「天羅万象」が採用している。HPを軽傷、重症、致命傷みたいに分けるというシステムだ。「天羅万象」ではダメージを受ける側がどこにダメージを受けるか選べて、それによってボーナスが入る仕組みだった。そのほかの使い方として、例えば成功度合いによっては重症からとかすることでこれも一撃必殺的なことを再現しやすい。この方法も昔「The Lunatic」で採用していたことがある。ちょっと違う方法だが現行(version 7.8)の「The Lunatic」のシステムもこの変形と言えるかもしれない。こちらは余力というパラメータがあってこれを1点使うとダメージをD6減らせるという仕組みだ。乱数を使っているからいつも同じダメージを吸収できる訳ではないが、理屈の上では軽傷と重症2段階のHPを持っているのと同じような意味になる。もっとも余力はダメージ軽減以外にも使えるので違う部分も多いが。

ダメージ処理にHPシステム以外を使う

HP以外のパラメータに対するダメージというものも当然考えられる。最初に考えた技能の数値が何点か下がってしまうと言った類のものである。面倒で不都合があるとしたが、もちろん検討には値する。ただし、HPシステムに比べてはかなり難しい。HP独立なパラメータなのに対し、技能などの増減への影響を計算するのはかなり難度が高い。計算できないわけではないので一応理屈だけ書いておこうと思う。

私が最初に検討してみた方法の場合、死亡率の増加を評価することになる。つまり攻撃を受けたことで攻撃成功率が下がるなら、相手の死亡率が下がる。簡単に確率だけ出して計算してみると、攻撃成功率が50%から40%に下がったとする。相手を行動不能以上にするのはD10で8以上だったから30%なので攻撃成功率が10%下がった影響は相手を倒す確率を3%下げたということになる。防御率が下がった場合はこの逆で3%自分が死ぬ確率が上がった訳だ。つまり、HPの代わりに死亡率の増減を評価することになる。

あるいは「ウォーハンマー」とか「ロールマスター」みたいにHPと併用の場合はHPに換算できる。

例えばD10を1個使う下方ロール(ダイスの目が基本値以下で成功という判定)で攻撃の技能が8、防御の技能が5、ダメージの平均値が5、HPの初期値が10のキャラクターが2人戦っている場合を考みる。このキャラクターの一方(Aとする)がすべての技能に-1の修正を与えられた場合、Aが相手(Bとする)に攻撃を命中させる確率は、5%減少する。また、Bの攻撃に対して防御に成功する可能性は8%減少する。すると、1回の攻撃でAがダメージを受ける可能性は0.08*5=0.4増える。また、相手に与えるダメージの価値を自分が受けるダメージと等価とするならば0.05*5=0.25点損失を出したことになる。そして、初期状態であれば戦闘開始から終了までを平均すると0.8*(1-0.5)*5=2点のダメージを1回の攻撃で与えていることになるから平均して戦闘は10/2=5ラウンド続くことになる。従って、大体(0.4+0.25)*5=3.25点のHPを失ったことに等しい。

ただし、本物のHPに対するダメージとは異なり相手に同様の被害を与えれば回復したことになるとか、攻撃命中率の減少による戦闘時間の変化を考慮に入れる必要があるとか本気で考えるとかなり面倒だ。

また、戦闘終了後もこの技能の減少を回復できないならもっと大きな被害といえるし、知覚能力や罠解除などの技能に影響を受けた場合の損失といったら計算による予測など不可能になってしまう。

一応、HP以外へのダメージ処理についても書いてはみたが、個人的にはHPをはじめとするキャラクターの状態を表すパラメータは判定などに用いるパラメータ(技能とか)連携しない方が良いと思う。相互作用があるとバランスが取りにくくプレイアビリティも下がりやすい。リアルかもしれないがそれ以上にデメリットが多いと思う。採用するならそのシステム独自の工夫が必要だろう。

第五章:戦闘ルール

戦闘ルールと書いたがやはり戦闘に限った話ではない。行動単位や行動順、位置情報をきちんと管理した上で厳密なルール適用を行うためのルールを指す。大体、戦闘がこの条件に当てはまる。ほとんどのルールブックで戦闘は応用的な処理系として書かれているが、ルールを作成する上ではそうじゃない。戦闘ルールこそが本来キャラクターの行動を処理するためのルールで、それ以外の行動は戦闘ルールの一部を省略したものだ。

ダメージ処理補足

ダメージ軽減を考慮する

ダメージ処理の章ではダメージの軽減を考えなかった。なぜならキャラクターが最終的に受けるダメージがいくらかが重要でその途中の計算は関係ないからだ。しかし、戦闘ルールの構築まで進むとダメージ軽減のことまで考えなければならない。平たくいうと武器のダメージと鎧のダメージ軽減を考える必要があるということ。

武器のダメージ計算でよくあるのは次のような感じだろう。魔法でも単純にダメージを与えるだけなら変わらない。武器が魔法になって鎧が何かに変わるか軽減自体がなくなるかだ。

(ダメージ)=(武器によるダメージ:乱数)−(鎧による軽減量:定数)

上の式のダメージは前章でHPの計算に使ったダメージ、キャラクターが最終的に受けるダメージだ。この時、ダメージの平均値から乱数に何を使うかまで考えた。例えば、平均5点のダメージならD10を基本としてD8〜D12くらいの幅を持たせれば良いという具合に。

ダメージ量としてはこれを維持したいのだから、鎧のダメージ軽減を決めてそれを最終ダメージに足せば武器のダメージを決められる。式を変形するとこう。

(武器によるダメージ)=(ダメージ)+(鎧による軽減量)

実際には鎧にもバリエーションがあるので全部を想定した最終ダメージ通りにはできないことは多い。例えば鎧にクロースアーマー:1からプレートメイル:5まで5段階あって、2点軽減を標準と想定した場合、4〜5点軽減は軽減しすぎとなる場合だ。これはなんとか調整する必要がある。この時よく使われる手はダメージ軽減が大きい場合、防御の成功率を下げるという方法がある。防御の成功率を下げると1回の攻撃あたりのダメージ期待値が上がる。そうすると見た目上の違いはあっても、実質は固い鎧を着てもそうでなくても最終的なダメージは変わらないという風にできる(防御の成功率を下げたことで増加するダメージに従って鎧のダメージ軽減量は見直す必要がある)。

戦闘にかかる時間

もう一つ、戦闘にかかる時間を考慮してHPか攻撃や防御の成功率を見直す必要もある。ここで言う戦闘にかかる時間とは1回の戦闘の想定が何ターン(ラウンド、他適当な単位)かと言うことだ。ダメージ処理の時には攻撃の命中率(防御成功率を加味した最終的な命中率)を考慮していないから実際に戦闘に何ターンかかるかは不明だ。

ダメージ処理の例では4回攻撃を受けたら死ぬと言うことでHP20とした。1回の攻撃命中率(くどいが防御成功率を加味した最終的な命中率)が50%なら平均8ターン(1ターンに1回攻撃を受ける想定で)かかることになる。もし、命中率が25%の想定だと16ターンほどかかってしまうが、これは長すぎるとするならHPを減らすか命中率を下げる(攻撃の成功率をあげるか防御の成功率を下げる)ことで調整する必要がある。

HPを調整する方が簡単でこの例の場合HPを10にする。ただし、攻撃が当たるかどうかは確率なので不運なら2ターン連続でダメージを受けてやられる、実際の戦闘だと2人の敵に攻撃されることもあるから1ターンという可能性もある。これはバッファが小さすぎると思うならHPを15にして命中率を37.5%くらいにすると両方を組み合わせて調整することも検討する。

行動管理

戦闘はキャラクターの死亡に直結するシビアな行動だ。だから誰がいつ行動できるのか、何回行動できるのかというのは重大な問題になる。これを規定するのが行動管理のルールだ。行動管理のルールはだいたい次の要素から構成される。

  1. 戦闘の単位時間
  2. 行動順
  3. キャラクターの行動量
    • メインの行動
    • 受動行動の回数
    • 即席行動

戦闘の単位時間

平たくいうとターンとかラウンドとかシステムによって用語は違うけれど、キャラクターが一回り行動するまでの時間のことだ(*)。これは定義するものだから戦闘に参加しているキャラクター全員が行動し終えるまでと決めてしまうまでにすぎない。

(*)単位時間を使わずに行動コストだけで管理するような方法も考えられる。例えば攻撃は3、呪文は4、移動は1マスすごとに1とかにして、全体を0からカウントアップしてゆき、自分が行動できる値になったら行動するというようなやり方(ストライクランク制)もある。が、本書では考えない。実際、ストライクランク制を採用しているルール(「ルーンクエスト」や「永い後日談のネクロニカ」)でも単位時間は導入している。

行動順

戦闘では大体先に行動できる方が有利なので行動順をどうするかは重要だ。これもやり方を決めれば良いという問題ではある。いくつかやり方を紹介する。

席順

マスターから時計回りとかにする方法。簡単でわかりやすく手間もかからないがキャラクターの特性を反映できない(〔敏捷度〕順に座るとかすればできるけど)。

キャラクターの敏捷度順など

キャラクターの〔敏捷度〕とか〔反応〕とかの適当なパラメータの優れている順番とする方法。キャラクターの特性に従うのでなんとなくリアリティがある気がする。マスターが大変になることも。

ダイス

ランダムに決定する。有利不利がダイス目で変化するのが面白い部分だと思う。さらに、戦闘で1回だけ決める、単位時間が更新されるたびに決め直す(毎ターン振る)、マスター側とプレイヤー側でまとめて、個別に、とバリエーションがある。私の「The Lunatic」はこれを採用している。

乱数と固定値の組み合わせ

キャラクターの〔敏捷度〕とか〔反応〕とかの適当なパラメータ+ダイスという方法。ある程度キャラクターの特性を反映した上、ランダム性を入れて戦術的に難しくした方法。

行動順などない

知っている範囲では「T&T」だけ。この方法は「T&T」のダメージ総量の比較という戦闘システムだからできる方法と思う。

行動コスト

上の(*)で書いた方法。短時間内に複数回の行動を表現できるが面倒臭い。マスターをやっていてモンスターを5、6匹も管理していると面倒くさくて仕方ないので個人的には嫌い。

フェーズに分ける

古いルールに多くて最近は見かけない方法だと思うが、呪文フェーズ、射撃フェーズ、移動フェーズ、近接フェーズのように行動の種類でタイミングを分け、その中で更に行動順を決めて処理する方法もある。「クトゥルフの呼び声」の戦闘ルールはこれだ。

このバリエーションとして宣言フェーズと行動フェーズに分けると言う方法もある。これは頭の良いものが後から宣言し素早いものから先に行動すると言う風になる。少しリアルな感じがする。

その他

「TORG」はドラマデッキという独自のカードを使う。

行動量

行動量はキャラクターが戦闘単位時間内にどれだけのことができるかということだ。さらに、メインの行動と受動行動、即席行動に分けて考えられる。用語を定義しているので説明しておく。

メインの行動というのはキャラクターが攻撃するとか呪文を使うとかの行動だ。1戦闘単位時間内に各キャラクター1回ずつ行動できるという時のその一回の行動がこれになる。システムによってはさらに分割されたりする。

受動行動は攻撃された時の防御とか他者の行動によって受動的にやらされる行動のことを指している。

即席行動はなんらかの条件が成立したら行動順に関係なく行える行動だ。「Magic; the Gathering(MtG)」のインスタントタイミングで使える呪文のようなものを想定してもらえれば良い。これはシステムによっては存在しないが、最近のシステムだとできることが多いので取り上げる。

メイン行動と受動行動の回数

この段の主題は受動行動を何回できるかという話だ。戦闘では常に1対1で戦うわけではなく、2人以上から攻撃対象になることは一般的だ。この時、受動行動を自由に取れるのかそうでないのかは重大な問題になってくる。とりあえずよくあるパターンを紹介する。

合計は1

この方法は1ラウンドにメイン行動と受動行動のどちらかを1回しかできない。あまり見ない方法だと思う。

合計はN、メイン行動は最大1

Nは0以上の整数だ。「GURPS」が基本的にこの方法でN=2だから攻撃が1回、防御が1回できる。BRPもこのタイプと言える。

合計がN

Nは0以上の整数だ。メイン行動と受動行動の合計がNになるように任意に組み合わせることができる。この方法はカードを用いるルールに多いと思う。「トーキョーNOVA」はほとんどこの方法だし、「深淵」も基本的にこの方法である。

メイン行動は1、受動行動は無制限。

多分この方法が一番多いだろう。「ソードワールド」などがこの方法に当たる。「ロールマスター」のように常に防御に値を相手の攻撃から引いたりする場合や「D&D」のように固定値の場合もこの方法と同じである。

これらの違いは1対複数の戦闘のシビアさの評価ではあるのだが、いろんなシステムを見てみると下方ロールのシステムが受動行動の回数制限に厳しい傾向があるように思える。デザイナーに聞いたわけではないので私の考察だが、下方ロールのシステムは受動行動の成功率が高くなりすぎる=攻撃が全然当たらず長引く可能性が高い。これを緩衝する目的もあるように思える。

ただし、基本は「合計はN、メイン行動は最大1」や「合計がN」を用いていても4と部分的に組み合わせて無防備に攻撃を受けることが内容にしているシステムは多い。「GURPS」は回避が回数無制限だし、「トーキョー NOVA」は山からカードを直接引けることにしている。「深淵」は攻撃を命中させるための閾値を設定している。

メイン行動の細分化

メインの行動は1戦闘単位時間内に1回という単純な方法ではなくメインの行動を細分化してキャラクターの行動順でいくつかの行動を行えるようにしているシステムは多い。例えば「アリアンロッド」はムーブ、マイナー、メジャー、フリーに分けられている(リアクションは本書の受動行動)し、「D&D 4th」も標準、移動、マイナーに分けられている。私の「The Lunatic」も主行動と補助行動に分けている。「ルーンクエスト」などのストライクランク制もメイン行動の細分化の一つだ。

確かに、メインの行動で移動と攻撃の両方ができないのかというとできる方が良さそうだ。この時、移動したら命中率にペナルティとやるよりも、移動アクションみたいなのを用意しておいてそれを消費するとした方が簡便で良いと思う。それに「アリアンロッド」のスキル使用時の用にタイミング制御をわかりやすくするという目的にも使える。

こういった仕組みを導入する場合に考えるべきことは、それぞれどのような行動を対象として、どれを何回、どの順番でできるかということだ。これは戦闘時にキャラクターにどういう風に動いて欲しいかということに基づく。デザイナーの考え方次第なので一般的なことは言えないからそれぞれでいろんなシステムを見てもらいたい。

即席行動

これはなんらかのトリガーに対して即座に行える行動だ。「MtG」のインスタントタイミングで使える呪文のようなものを想定してもらえれば良い。昔のシステムには無かったが、最近のシステムでは「D&D 4th」のパワーや「アリアンロッド」のスキルなどの形でできるようになっているものが多い。私の「The Lunatic」も特技や呪文として行える。これらの行動で何ができるのかはデータ次第なので説明できない。説明するのはタイミング制御と使用制限の話だ。

即席行動は「MtG」のインスタントタイミングで使える呪文のようなものと書いた。しかし、私の意見では「MtG」のインスタントの応酬のような処理はTRPGには向かない。「MtG」ではカードを使うがTRPGの場合は魔法にしろ特技のようなものにしろ情報だけをやり取りする。加えて「MtG」は基本的に1対1だがTRPGは複数人が参加するし、マスターに至っては1人で複数のキャラクターを管理している。そして「MtG」は最大でも手札の枚数までという制限があるが、TRPGの呪文の場合だと(「D&D」のような事前準備でない限り)マジックポイントの許す限り対応できてしまう。要するに「MtG」でいうところのスタックの管理が複雑化しすぎる。これは「The Lunatic」の過去のバージョンで実際にルール化してやってみた経験からだ。その時、自分がマスターだったがえこれだけで疲れてしまったし、インスタントの応酬に参加できないプレイヤーを飽きさせることになってしまった。

そうならないためにはなんらかの制限が必要になる。私の「The Lunatic」場合、即席行動は受動行動や即席行動を対象にできない。即席行動を対象にできないのでインスタントの応酬はできないが、目的はなんらかの行動をトリガとしてアクションできることでその応酬をすることじゃないならこれで良い(代わりに「MtG」の【対抗呪文】のような使うだけで対象行動を無効というものもない)。それから1つのトリガに2人以上が反応した時の処理も重要だ。「The Lunatic」では順番を決めて解決し、先の即席行動で後の即席行動が無意味になったら単にやらなかったことにしている。

デザインする人によって考え方は色々あるだろうが、即席行動を導入する場合タイミング制御や使用制限についてよく考える必要がある。そうしないと、処理が混乱したり不必要に冗長になったりする。

位置管理

戦闘で位置管理をどれだけ厳密にやるかはシステムのコンセプトによる。TRPGの戦闘では誰がどこにいるかが非常に重要になることもあるが、適当に殴れる相手を殴り合っていることにできれば良いということも多い。なので、たまにしか重要にならない位置管理を排するか単純化してプレイアビリティをあげるというのも立派な判断だ。

よくある方法は次のようになると思う。

位置管理しない

位置管理をせず戦闘に参加しているキャラクターなら誰でも攻撃できるという方法。システムに位置管理のルールが明確に記載されていなくてもセッション独自に位置管理していることもおおく、あんまりないかもしれない(「T&T」くらいか?)。

極めて簡便なのはメリットだが、範囲攻撃(呪文とか)の扱いが不明確になるのと魔法使いなどを近接戦から遠ざけることができないのが良くない。

前衛・後衛

いわゆる「Wizardry方式」。自陣後衛、自陣前衛、敵前衛、敵後衛のように別れていて、隣接する陣地には移動したり近接攻撃したりできるが、離れた陣地にはそれができない。呪文などの遠隔攻撃は陣地をまたいで使える。「永い後日譚のネクロニカ」みたいに陣地がもっと多いのもこのバリエーション。

エンゲージ

次のタクティカルコンバットと位置を管理しないの組み合わせのような方法。「アリアンロッド」がそうだし「ソードワールド2.0」もこの類だろう。隣接しているというか互いに近接攻撃可能なキャラクターの集団をエンゲージとしてひとまとめに扱い、戦場には複数エンゲージがあるという方法。魔法などはエンゲージ全体を対象とするのが基本。

移動に関する細かい処理を省きながら戦場の地形などの効果はある程度反映できるのがポイント。

タクティカルコンバット

マップ(ヘックスやスクエアグリッド)とコマを用意してきちんと位置管理をする方法。「D&D 4th」とか「GURPS」の上級戦闘がそう。「The Lunatic」もこれ。

きちんと管理しているので位置関係が重要になるときにも一目瞭然で解釈の問題が起きない。手間が大きい。

位置管理で重要なのが移動と離脱のルールだ。これらについて説明する。

移動

移動が問題になるのはタクティカルコンバットの場合だろう。前衛・後衛システムだと隣に移動できるだけだし、エンゲージの場合は別のエンゲージに移動するかどうか程度の扱いが基本だと思う(地形効果があって別のエンゲージに移動するために2回移動が必要とかは考えられるが、特別なことでマスターが用意する特殊ルールだろう)。なのでここではタクティカルコンバットについて考える。

移動力と地形効果

移動力はキャラクターが何マス移動できるかだ。これはデザイナーが妥当な数値を設定すれば良い。

地形効果は移動しにくい場所などで移動力を余分に使うということになるのが普通だ。この類で意外とややこしいことになるのが高低差だ。高い(低い)場所に移動するのは余分に移動力が必要で良いのだが、特に低い場所は跳び越えられるのではないかとかを考えると面倒なことになる。

それからスクエアグリッドの場合は斜め移動も地形効果の一種として扱う可能性がある。そして、角の扱い。通過できない角があるとき斜め移動を許すかどうかとかも考えなければいけない。

キャラクターの向き

キャラクターの向きというのも気になる要素だ。つまり、後ろから攻撃されたりすることを考慮するのかということ。1対1の場合は黙って後ろから攻撃されるというのは(不意打ちでもない限り)考え難いからキャラクターは自動的に向きを変えるとするのが妥当だろう。しかし、集団に囲まれたらどうだろう。攻撃される方に自動的に方向を変えられるというのはやりすぎな気もする。集団に囲まれた時は防御にペナルティとかを考える必要もあるだろう。

1マスより大きいキャラクター

意外と困るのがこれだ。特にヘックスの場合に困る。

とりあえず、大きなキャラクター(ドラゴンとかの大型モンスター)が占めるマスをどうするかという問題がある。モンスターの形に添わせるというのはできる(例えば馬なら2マスとか。「GURPS完全版」のルールブックを見ると象と馬例がある)。問題はこいつらの方向転換だ。特に周りを敵が囲んでいる場合、向きたい方向のマスが埋まっているというのはあり得るし、その場合にどうするかという問題がある。ちなみに「GURPS」はこの件に関してきちんとしたルールを定義していない。

大きなキャラクターの向きの問題を解決する単純な方法はヘックスなら6角形、スクエアグリッドなら正方形の領域を占めてしまうことだ。「D&D」はこうしている。ただし、ヘックスの場合はちょっと困ったことになる。一回り大きくすると半径が3倍になってしまうのだ。これはちょっと大雑把すぎると思う。ちなみにこれが「The Lunatic version 7.8.0」からスクエアグリッドにした理由の1つだったりする。

離脱

離脱はキャラクターが隣接する敵から離れる(逃げる)時の移動制約のことだ。前衛・後衛システムだと前衛から後衛に移動する時、エンゲージシステムの場合はエンゲージから離れるときに発生する。敵を後衛のところに行かせないとか、敵を逃がさないというのは戦術上需要な要素なのでどんな位置管理をしていても考えてみる必要はある。もちろん検討した結果、制約を設けないというのは立派な判断だ。

よくあるのは次のような感じだろうか。

なんらかのコストを消費する

「アリアンロッド」はこのタイプだ。マイナーアクションを取れない=消費すると考えられる。単にコストを支払うだけなので手間がかからないのが良い。

なんらかの判定が必要

「Elric!」では《回避》、「The Lunatic」では《逃走》技能の対抗判定が必要になる。この方法の良いところは逃げられるか逃げられないかが不確定なところだ。実際、逃げようとしたけれどできないというのはよくある状況だろう。

機会攻撃

「D&D」がそうだし、「Elric!」も《回避》できないときはこれになる。離脱するときに敵から1回攻撃されるというルール。

カードを使うシステムの場合

カードを使いシステムの場合、他にも考えるべきことがある。私はカードを使うシステムを考えたことはあるが完成まで持って行ったことがないので内容的には不十分と思うが一応書いておく。

手札の補充

カードを使うシステムを考えている人なら当然考慮しているだろうが手札をいつ何枚補充できるかをきちんと決めておくのは重要だ。特にダイスを併用せずカードだけを使う場合はシビアである。ダイスを併用する場合、最低限の行動はダイスだけで行える(例えば「深淵」や「TORG」)がカードだけのシステムは何もできないと言う状況になってしまう。

それからプレイヤーとマスターの非対称性も考慮する必要がある。マスターは複数のキャラクターをコントロールしているのでプレイヤーと同じ札数だと困ってしまう。キャラクターごとに手札や場札をコントロールするのは面倒臭い。なら、コントロールしているキャラクター数に応じて札数を増やすとなるのだが…。

何の解決方法も提示しないが昔の経験を書いておく。「トーキョー NOVA 1st.」での話だ(だいぶん昔の話なので怪しいかもしれない)。このシステムではマスター(システムの用語ではRL:ルーラー)はコントロールしているキャラクターの数-1枚手札が増え、補充はコントロールしているキャラクターの数だけできた。で、どう言うことが起こったかと言うと、マスターは雑魚はカス札を使うか山引き、ボスに有効な札を集中させると言う行動に出た。これは無茶苦茶きつくてプレイヤー側はカス札を消費できない(攻撃を喰らったら死ぬ)し、有効な札は防御にしか使えないからジリ貧になるし、マスターがAを貯めたりして回ってこないとか言うひどい状況になったことがある。

TRPGはマスターとプレイヤーが非対称になるからカードのように独立事象でないものを扱う場合はそれを念頭に置かないとこういう事故を起こすということだ。

それから臨時の手札補充にも気を使う必要がある。「MtG」が証明するように手札補充は強力だ。一部のクラスだけが手札補充能力を持っている場合、バランスを保てなくなる可能性は高いと見る。臨時の手札補充を組み込む場合、全員に対して機会平等にしておくべきかもしれない。

札へのダメージ

カードを使うシステムの場合、ダメージの一種として札を捨てさせることもあり得る。この場合、カード1枚の価値を十分検討する必要がある。特にカードの補充タイミングが制限されている場合(普通はそうだろう)、手札や場札の減少はキャラクターへの影響が大きい。

なぜかと言うとカードを使うシステムでは手札の枚数が行動回数に影響することが多いからだ。ルール的に何も対策していないなら札数がアンバランスになった時、何もできずに攻撃されるだけという可能性がある。札数のアンバランスを無くせと言っている訳ではない。アンバランスになった時に一方的な状況が続かないようにルールを考えておく必要があるということだ。

1対多の状況

これも手札のアンバランスの問題だ。1対2になった時札数で見ると単純に考えると2倍の差が着いてしまう。もちろん、マスターとプレイヤーの場合は最初から非対称なのでルールで考慮されるだろう。しかし状況によってはプレイヤーキャラクター同士の対立もあり得る。

手札の数だけ行動できるようなルールだった場合、1人の側に勝ち目は無い。この状況は考慮しておくべきだろう。

スピード感

緻密な戦闘を志向すると手順や処理が増えがちになる。これはプレイアビリティを下げると言う問題もあるが、リアリティも下げる。手順や処理毎に考える暇やダイスロールが入るとなんとなく一呼吸置いて次のことをやっているように感じる。特に近接戦闘は瞬間的な行動の連続のはずなのにそのイメージが削がれてしまう。既存のルールで上手いと思ったものを1つ挙げるなら「央華封神」だ。このルールではダメージ決定時のダイス目が1だったらもう一回ダメージを追加で振れる。連続攻撃の一面をうまく表現していると思う。

この点に関して処理の手順を少なくするとかダイスロールの回数や計算を減らすと言うのは重要だが、もちろん限界はある。その場合、見かけ上の(と言う表現が適当かは微妙だが)処理を早くする方法を考えると良い。ちょっと例を挙げて説明する。行動を宣言、移動、行動に分けているとする。この手順をキャラクターA〜Cの3人で回す場合を考える。

パターン1
A宣言 → B宣言 → C宣言
B移動 → C移動 → A移動
B行動 → C行動 → A行動
パターン2
A宣言 → A移動 → A行動
B宣言 → B移動 → B行動
C宣言 → C移動 → C行動

「パターン1」と「パターン2」でやっている手順の数に差はないが、各プレイヤーが感じるスピード感は「パターン2」の方が上だろう。「パターン1」は何かする毎に他のプレイヤーに手番を渡さなければならないためモッサリした感じになってしまう。

実際の戦闘中の動き再現性という点では「パターン1」の方が上だと思う。戦場にいるキャラクターの同時行動をある程度表現しているし、頭の良いキャラクターが後から行動を決められることや素早いキャラクターから行動解決できるのもリアルに思える。しかし、実際にプレイしてみると「パターン2」の方がリアルに感じる可能性が高い。何かする毎に待たされるのでキャラクターの動きの連続性をイメージしずらくし、結果的にリアリティを削いでいる可能性が高い。

「パターン1」より「パターン2」が優れていると言う主張をしたいわけではない。コンセプトによっては「パターン1」の様な実装が優れていることも十分あり得る。重要なのはスピード(感)と言うのは戦闘のリアリティにも影響するので緻密でリアルな戦闘を志向する場合でも十分に留意すべきと言うことだ。

オプションルール

特定の状況や行動に対する特殊な処理のことだ。戦闘処理の本筋には関係ないが、戦闘ではたまにしか起こらないが基本ルールの範疇ではどうするかわからない、うまく扱えないという状況が重要になることがある。そのためオプションルールを用意しているシステムは多いのでこれについても言及しておく。

個人的にはオプションルールの類が好きではない。面倒くさくなるし、バランスが取りずらいことが多いからである。一つ例を挙げると「部位狙い」のルールは大体のシステムでうまく機能しない。デザインの目的としては一発逆転が必要なときにリスクをとって実行するためのものだと思うが、命中率がやたらと高いキャラクターは常に部位狙いをした方が効率的とかになってしまう。いつも頭を狙って攻撃するのは勝手だが、それが相手にわかったら普通は攻撃など当たらないと思うのだがこれが有効な手段になったりする。

特殊ルールが面倒でバランスが取りづらいかと言うと、基本的な戦闘ルールの範疇で扱うことになるため、判定基準値のペナルティとパラメータの増減(ダメージの上昇など)を扱うことになるからだ。基準値のペナルティを無意味にするくらい基準値を高くすることができるならメリットしかないのと同じで、こうなるとバランスが簡単に崩壊する。一つ実例を挙げてみる(手元にデータもないし昔の話なので細かい数値は違うかもしれない)。「GURPS」だがフェンシング技能32で常に鎧の隙間から目を狙うと言うキャラクターを見たことがある。ちなみに作成したばかりのキャラクターだ(マイナスCPを稼ぐためすごく虚弱だったので呪文を食らって死んだ)。「GURPS」は普通に判断したら技能値17以上にはほとんど意味がないからデザイン上の想定外だろうと思う。だが、本当に想定外だったとしたらデザイナーのミスだ。こう言うことをするプレイヤーを「和マンチ」と呼ぶ向きもあるだろうが、私はそう思わない。特にこの場合はルールのきわどい解釈を利用しているわけではなく、ルール通りにやった結果だ。だからデザイナーのミスだ。

特殊な行動を再現したい場合、次章「ルールを持つデータ」の範疇になるが、特技とかスキル(アリアンロッドで言う)のようなもので実装した方が良い。一番の理由はコストと制約を設けやすい(フォーマットに組み込まれている)からだ。もう一つ良いところはそれを取得できるキャラクターを制限できることだ。例えば、部位狙いだったらいかにもそれをやりそうな盗賊とか暗殺者だけに取らせることができる。

オプションルールでも同じだけの記述をすれば良いだろうと言われればそうだ。しかし、特技などの特殊ルールを扱う仕組みがあるならそちらに組み込んだ方がスッキリするし、扱いやすい。だったらそうすべきだろう。

オプションルールは作るな、と言うような論調になってしまったが、それでも必要になる場合はある。その場合、まずは特技のような仕組みに組み込めないかを検討し、それが適切でないならバランス崩壊しないかに十分気を配って実装する必要があると言うことを気に留めておいて欲しい。

第六章:ルールを持つデータ

魔法や必殺技、超能力などに関するルールについてだ。「D&D 4th」のパワー、「アリアンロッド」のスキル、「トーキョー NOVA」のスタイル技能や神業、などがそうだ。そしてほとんどのファンタジー系のシステムでは魔法が相当する。(注:これらのデータが全て「ルールを持つデータ」とは限らない)

これらは個別にはデータだが、それはそれぞれのデータに個別のルールが存在し、使用した時の効果として一時的にそのルールが外挿されるという特徴がある。プログラマ以外には分からない説明になるが、データの一つとして関数を含むようなデータというイメージだ。

具体例を出すと【眠り】という呪文は「ルールを持つデータ」に相当する(可能性が高い)。敵をどうやって(どういう判定で)眠らせるか、眠った時どうなるかはルールの他の場所には書いてないはずだ(眠った状態は状態異常にあるかもしれないが)。

システムによってはデータ項目として定義されている場合もあるし、説明に個別に記述があるだけかもしれないが、「ルールを持つデータ」は少なくとも次のような情報を持つ必要があると考える。

名前

言わずもがな。名前がついていないとそれを特定して使うことができない。

トリガ

何に起因して、どういう時に使用できるかの定義だ。「戦闘ルール」で書いた即席行動を持たないシステムの呪文などは自分の行動順でしか使えないので明示的に記述がないかもしれない。トリガはシステムで規定されたタイミングでしか使用できないようになっている場合もある(「アリアンロッド」のスキルは多くの場合、メジャー、マイナー、パッシブなどと規定されている)し、割と自由に決まっている場合もある(「D&D 4th」のパワーの「トリガ」は文章で説明される)。

効果の対象

どこ/誰に効果があるのかの定義だ。

効果時間

いつまで効果があるのかの定義だ。瞬間の場合もあるし、いつからいつまでという規定がある場合もあるし、キャラクターが存在する限りという場合もある(「アリアンロッド」のスキルでパッシブのものはそうだ)。

コスト

これは必須ではないと思う。しかし、多くの場合は必要になる。要するに効果を得るために消費しなければならないものだ。呪文の場合はマジックポイントのようなパラメータを一定量消費するが、このようなパラメータだけとは限らない。「D&D 4th」のパワーの「1日毎」や「遭遇毎」というのもコストだ。アリアンロッド」のスキルのメジャー、マイナーというのはトリガでもありコストでもある(つまり、メジャーアクションのタイミングで使用でき(トリガ)、メジャーアクションを消費する(コスト)ということ)。

効果の説明

これが「ルールを持つデータ」のルールを説明する部分になる。ルールなので文章で説明される。

「ルールを持つデータ」に必要な項目を挙げたが、これはこういうデータを揃えるべきと言いたかっただけではない。上の項目のうち「効果の説明」はルールだがその他の項目は単なるパラメータだ。単なるパラメータにはそれをどう使うかを規定したルールが必要だ。ちょっとややこしい言い方をしたが呪文には「呪文の使い方」のルールがあるし、「特技」には特技の使い方のルールがある。普通のことだ。

呪文とか特技とかの「ルールを持つデータ」にはそれを運用するためのルールがあるというのが重要なポイントだ。例えば呪文の使い方のルールの場合、基本的には「戦闘ルール」に基づいて構成されるだろう。ということは「呪文の使い方のルール」に基づいて運用される「呪文データ(ルールを持つデータ)」は「戦闘ルール」に従うことになる。ということは一定程度の運用性というかバランスは保証されることになるだろう、ということだ。もっとも、「効果の説明」で定義する個別データは自由なのでそこでバランス崩壊するようなルールを作ってしまうことはあり得るが、それでもなんの枠組みもない中でやるよりはマシなはずだ。

ちょっとややこしくなった感があるのでまとめ直す。「ルールを持つデータ」にはそれを運用するルールが必要で、そのルールをこれまでやってきた基礎的なルールに基づいてしっかりと作ろう。そうすれば、一定程度運用性とかバランスは保てるはずだ。

プログラミングを知らない人にはわからない説明になるので注釈にしたが、「オプションルール」と「ルールを持つデータ」の違いはスコープの違いと考えている。私は「オプションルール」はグローバル空間にあるが、「ルールを持つデータ」はそれを運用するルールのローカルスコープに閉じ込められているというイメージを持っている。

もちろんTRPGではスコープを完全には強制できない。完全には強制できないが、上で説明したような制約を設けることである程度制御できるし、効果を決めるときにもスコープを意識しておくのは有効だと思う。

第七章:キャラクター作成のルール

ルール作成の話としては最後になる。おそらくルールの量としてはシステム中最大になるだろうし、プレイヤーもマスターも大きな関心を示す部分だ。

キャラクター作成ルールの基本的な考え方

情緒的なことを排除すると、キャラクターとはプレイヤーがキャラクターを通して行う行動のためのパラメータの集合だ、と言える。だからキャラクター作成のルールというのはこれらの必要なパラメータ、具体的には能力値、技能、HP、……、を適当な数値にするためのルールを作るということになる。

さて、ここで「行為判定」や「ダメージ処理」、「戦闘ルール」などを見直してほしい。これらを運用するために必要な数値がいくつからいくつくらいかはこれらのルールを考えた時にすでに決まっている。例えば、行為判定では「〔敏捷度:1〜5〕で《隠密:x》技能があると〔敏捷度〕にxを加えて扱う。能力値は1〜5の値を取り、技能は0〜4を取る」と書いた。能力値は1〜5、技能は0〜4になるようにすれば良いとすでに決まっている。ヒット・ポイントは色々やったが戦闘ルールのところで15点くらいにすれば良いとなっているし、武器のダメージもD8〜D12くらいにすれば良いと決めた。例はこれだけだがルールを作るために必要な項目をそれぞれ考えてきたならそれらに必要なものとどのくらいの値が必要かも同様に決まっているはずだ。

キャラクター作成のルールで作る数値には行為判定などのルールを考えた時のような理屈はない。あるのはルールを考えた時に見積もった適正な数値の範囲だ。だからそれに合うように数値をでっち上げるか計算式をでっち上げれば良い。できればそれらしい根拠があるように見えれば素晴らしい。

パラメータ構築の代表的手法

パラメータをでっち上げる方法について書いてゆこう。

いつものようによくある手法をあげる。

ランダム作成方式

能力値などをダイスで決める方法だ。考えても仕方ないので手っ取り早く作れるというのは利点だが、極端にダメなキャラクターになったり、必要な役割に向いたキャラクターができなかったり、極端に有能なキャラクターのプレイヤーが他のプレイヤーのやっかみを買ったりすることがあるので、昔は主流だったが現在では廃れた感じがある。

ポイントバイ方式

一定のキャラクター作成ポイントのようなものを消費して能力値や技能などを"買う"という方式だ。一応理屈の上では平等にキャラクターを作れることになっているし、プレイヤー間で調整できれば役割の不足なども起きない。が、実はうまくバランスの取れたキャラクター作成ルールを作るのは結構難しくて、デザイン時にかなり努力しないと一点集中型のキャラクターが有利に、万能型が不利になりやすい。

テンプレート方式

キャラクターのパラメータセットをシステムが用意しておく方法。完全なテンプレートを用意する場合もあれば、部分的なテンプレートをいくつか選ぶという方法もある。多分、現在の主流だ。ポイントバイ方式と同様に平等にキャラクターを作れるし、プレイヤー間で調整できれば役割の不足なども起きない。特に完全型のテンプレートだと一点集中型と万能型のバランスも取りやすい。

方式を3つあげたが実際のキャラクター作成はこの組み合わせだ。例えば、「クトゥルフの呼び声」は能力値はランダム作成方式、職業の選択はテンプレート方式だがそのあとの技能割り振りはポイントバイ方式になっている。「アリアンロッド」は部分テンプレート方式でクラスを2つ選んだ後、能力値に1点分のポイントバイ方式、スキルの選択はポイントバイ方式だ。「D&D 4th」は能力値はテンプレートが基本(ポイントバイ方式にもできる)でクラス選択はテンプレート、そのあとのパワー選択はポイントバイ方式だ。「GURPS」は基本ルールだと完全なポイントバイ方式で珍しいパターンだが、サプリメントによってはテンプレートで取得できる技能なんかを制限している。

キャラクター構築のルールを作る場合は同じように適当に方式を組み合わせてやれば良い。

テンプレート方式の比重が重い場合とかランダム作成では問題になりづらいが、ポイントバイ方式の場合は気をつけることがある。それは極端な割り振りが問題ないかどうかをきちんと検証することだ。主な理由は次の通りだ。

一つは極端なキャラクターがセッションを崩壊させるような有利さを得る場合があるためだ。TRPGはほとんどの場合、戦闘能力は他の能力よりもずっと有用性が高い。そのため、戦闘能力の特定部分に特化し、その分野では他のキャラクターを蹂躙できるほど強いだけのキャラクターというのが成立する可能性がある。本来はこのようなキャラクターは無意味であるようにルール全体で対策すべきだが、一番の防波堤はキャラクター作成ルールでそのようなキャラクターを作れないようにすることだ。

もう一つは万能型のキャラクターが無能化しないように気を配ること。特に戦闘のような何度も判定を繰り返して結果を判定基準値の差が非常に大きな差になる可能性がある。例えば、《戦闘》、《盗賊》、《社会》の3つの技能(いずれもD100下方ロール)があったとする。単純化のため《戦闘》は攻撃も防御もこれで行うとする。この場合、《戦闘:90》、《盗賊:0》、《社会:0》のキャラクターに比べ《戦闘:30》、《盗賊:30》、《社会:30》のキャラクターは全然無能だ。《戦闘:90》、《盗賊:0》、《社会:0》のキャラクターと釣り合う万能型だと《戦闘:60》、《盗賊:60》、《社会:60》くらいになるようにする必要がある。

これは上の2つに比べると欠点にはなりづらいが、極端に無能なキャラクターを故意に作れないようにしておく必要もある。欠点になりづらいのは普通プレイヤーが全く活躍できないようなキャラクターを作ることは無いと期待できるからだが、そもそも真面目にセッションに参加する気がないとかセッションを崩壊させるつもりのプレイヤーがいた場合、無能なキャラクターを作れるというのは問題になり得る。このようなプレイヤーに対しての対策としてはあまり意味がないかもしれないが、やらないよりは良いだろう。

パラメータ設計時の注意点

これまでの内容でパラメータがどんな値を取るべきかという話はしたが、具体的にどんなパラメータを用意するのかは述べてこなかった。例えば能力値だと筋力、敏捷力、判断力、知力、etc、とかいう話だ。ここでも何を用意するかという話はしないのだが、具体的にパラメータを用意するときに気をつけるべきことを書いておきたい。

基本的にはポイントバイ方式の時に問題になりがちで、ランダム作成方式やテンプレート方式ではあまり問題にならないと思う。ポイントバイ方式を取ろうとしている時には注意するようにすべきだ。

無意味な能力値に注意

どんなキャラクターにとっても無意味な能力値というのは普通用意しないのでそんな話ではない。特定の役割を選んだときに意味がなく、最低値でも構わないような能力値がないか注意するということだ。例えば戦士に〔知力〕が全く必要ないとか。これが成立すると想定の範囲を超えて判定基準値の高いキャラクターができたり、相対的に万能型キャラクターの無能化につながったりする。

有効な対策を1つ上げておくと、全ての能力が戦闘時の受動行動の何かに影響するようにしておくと良い。そうすると特定の攻撃に極端に弱くなるのでプレイヤーはその対策として極端に低い能力を避けるようになる。ただし3点(やや低め)も1点(極端に低い)も同じなら1点にしてしまうから値の価値はきちんと考えなければいけない。

技能を細かくしすぎない

これはBRPやGURPSのような技能が判定基準になるようなシステムを設計する際の注意点だ。能力値ベースで技能が補助的(例えば技能を持っていると判定基準値に+2されるが技能の成長はできないようなルール)だと影響は小さい。

技能ベースで行動するシステムを作っていると技能を増やしたくなるがこれには注意が必要だ。「クトゥルフの呼び声」の様な一部のホラー系システムを除くとほとんどの場合に戦闘が重要な要素を占める。その上、戦闘では何度も判定を行うのでTRPGでは戦闘に関わる能力は価値が高い。戦闘系の能力に比べると他の能力は相対的に価値が低い。例えば《鍵開け》の様な技能はファンタジー系のシステムだと比較的よく使われるだろうが戦闘系の技能に比べるとずっと使用頻度が低いし、キャラクターの生死に直結しないため価値が低いと言える。戦闘系以外の技能を更に細分化してしまうともっと価値が下がってしまう。これは戦闘以外に注力しようとするプレイヤーを減らす原因になる。

対策として2つ上げておく。

一つは戦闘以外の技能を大きな括りにまとめてしまうことだ。さらに具体的な手法だと《鍵開け》、《罠解除》、《聞き耳》、etc、を《盗賊》技能にまとめてしまうとか、逆に《盗賊》技能がベースとして値を持っていて、その中で専門化などを行うことで《鍵開け》、《罠解除》、《聞き耳》、etc、に多少の差をつけるという方法が考えられる。「ソードワールド」はクラスベースだがこの手法を取っているとも言える。

もう一つは全ての役割に戦闘能力を持たせてしまう、というか役割は戦闘手法の違いだけで分けて全員が十分な戦闘能力を持つ様にし、それ以外の技能は補助的なものとして誰でも取れるという風にする。「アアリアンロッド 2nd」や「トーキョー NOVA THE AXLERATION」はこの方法だし、「D&D」もこのタイプだ。

キャラクターのプロフィール、フレーバーの付加

この章の最初の方で「情緒的なことを排除すると、キャラクターとはプレイヤーがキャラクターを通して行う行動のためのパラメータの集合だ、と言える」などと書いたからキャラクターのプロフィールとかフレーバー、いわゆるキャラクターの設定は取るに足らないことという印象を与えたかもしれないが、そんなことはない。これらは重要な要素だ。

最低限なんらかの指針と設定項目くらいは作った方が良い。基本的にはプレイヤーの任意設定を認めるべきだと思うが、だいたいどの様な内容を決めて欲しいかの例を兼ねてランダム作成用の表があると便利だ。

これは個人的な意見でそうすべきというものではないが、私はキャラクターのプロフィールはキャラクターの現状、つまり能力や地位、所持金などに影響を与えるべきではないと考えている。何かを得られるとしてもキャラクターの能力には影響を与えない範囲にしておきたい。例を挙げると「ソードワールド 1.0」のキャラクターの出自、あれは好ましくない。特に初期技能を指定されるのが嫌いだ。出自によってもらえるのは何かの一般技能が1つずつとかだったらなんの文句もなかった。

キャラクターの成長ルール

キャラクターの成長ルールとはなんらかの条件を満たしたらキャラクターを構成するパラメータの数値が(ほとんどの場合)増加したり、キャラクターになんらかのデータ(呪文や特技のような)を新たに付加したりするためのルールのことだ。大抵のTRPGシステムにはキャラクターの成長ルールがある。(*)

(*)何かの本でプロのデザイナーが成長はTRPGの要件の一つだというようなことを書いていた記憶がある。私はキャラクターの継続性はTRPGの要件だと思うが成長がTRPGの要件の一つというのには同意できない。例えば「クトゥルフの呼び声」には成長ルールはあるけれど成長ルールを無くしてもたいして困らないと思う。ということは成長がTRPGの要件の一つというほど重要なものではないのじゃないかというのが私の意見だ。まぁ、余談に過ぎない。

成長対象と成長度合いを決める

成長ルールでは成長対象とその度合いを決めなければならない。

成長対象

成長の対象となる項目、例えば能力値とか技能値とか、を決める。呪文や特技のようなものを新たに取得するならそれも含まれる。何が成長するかを決めるということは何が成長しないかも決めることになる。

成長度合い

1回の成長で何がどれだけ成長するのかを決める。例えば任意の能力値1点とか、D100で現在値以上を出した技能はD10するとか、呪文を1つ取得するとか。

1回あたりの成長量は行為判定で考えたパラメータの最大値と作成者が想定するキャラクターの引退までのプレイ回数から決めることができる。例えば、作成時点のキャラクターの技能値が50くらいで、最大90までを想定しているなら差は40だ。この間20回くらいのセッションで毎回成長できることを想定しているら2点ずつ成長できれば良いことになる。

HPやMPのようなパラメータは受けるダメージ(MPの場合は呪文のコストがダメージに相当する)をベースに考える。例えば、1レベル上がったらダメージに+1だとして、1回の戦闘で4回くらいの打撃を受ける可能性があり、十分な回復のないまま2回の戦闘までを想定している場合、4〜8点程度HPを増加させないとレベルが上がるほど死にやすくなってしまう。

呪文や特技のようなものの取得は計算できないが、敵やNPCのレベルアップで増える分量と同数程度増えるようにしておけば相対差がつかない。HPなどと同じように連戦などを想定している場合は敵が獲得する量よりもキャラクターが獲得する量を多めにしておいた方が良い。

いつ成長するかを決める

経験値がX点に達したらそのセッション終了後から次のセッションの間にとか、セッション中に技能判定に成功した技能についてそのセッション終了後から次のセッションの間にD100を振り現在の値以上なら、とかいうことを決める。

いつ成長するかは大きく2パターンがある。

段階的

一言で行ってしまうと「D&D」の様に経験値(などのパラメータ)が一定量以上になったら成長するという方法だ。経験値はセッションの結果プレイヤーキャラクター(システムによってはプレイヤー)に与えられるパラメータでシナリオクリアの報酬として与えられる。ほとんどの場合、成長のために要求される経験値は1回のセッションで与えられる量よりも多いので数セッションに1回という感じで成長する。

段階的に成長機会を得るシステムの場合、パッケージ型(後述)の成長方式を撮るものが多い。

漸進的

「BRP(ルーンクエスト、クトゥルフの呼び声、など)」や「GURPS」の様にセッション終了時に毎回成長機会を得られる方式だ。

段階的に成長機会を得るシステムの場合、ポイントバイ型の成長がほとんどだろう。

成長の仕方

成長の仕方はキャラクターのパラメータの内、成長対象としたものが1回あたりどれだけ成長するかだ。どれだけ成長するかは成長度合いとして検討してある。成長の仕方は次の3パターンのどれかだろうが、組み合わせも考えられる。私の「The Lunatic」は現在は違うが以前、技能の成長は判定方式で特技や呪文の取得はポイントバイ方式にしていた。

パッケージ型

「HPX点、任意の能力値1つに+1、呪文か特技を1つ取得する」の様にいくつかの成長要素をまとめて与える方法だ。成長段階によって得られるものが変わるというのもあり得る。この方法の代表は「D&D」だ。

この方法の利点はルールで成長をコントロールしやすいところだ。

ポイントバイ型

経験値などを消費して成長を"買う"方法だ。成長対象と成長段階によってコストが変わるというのは一般的だ。「GURPS」はこの方法を使っている。

この方法の利点は柔軟に成長項目を選べるところだが、ルールが成長をコントロールしづらい。例えば一つの技能だけを伸ばし続けるとかいうのを抑制しづらい。

判定型

現在の技能値以上をD100で出せばD10点成長の様な方式だ。私は「BRP」以外での採用を知らない。

成長対象のパラメータの成長段階が上がると成長しにくくなる。これはポイントバイ方式もそうなっていることが多いがこちらは判定なので一つの技能だけを伸ばし続けるということができない。ただし、プレイヤーの不正(判定結果に嘘をつく)に弱いのとNPCを作る時に困ることがある。ポイントバイ型は前者に対して消費経験値を記録するなどで対策できるし、経験値X点で得られる成長は決まっているので5レベル相当のNPCというのは普通に作れるが判定型だと難しい。

第八章:するべきことはまだまだある・・・。

これまではルールを構築するための考え方、いくつかのパターンの紹介やその性質の説明をしてきた。これらはルールのロジック、基本的な規定を作るためのものに過ぎないからシステム全体を構築するための作業はまだまだたくさんある。特にデータ類を揃えるのはかなり大変な作業になる。それに、一通り完成した後にはテスト、デバッグ、ディベロップメントを行わなくてはならない。

最後に、これらのことについて思いつくことを書いておこうと思う。

作り始めたらなるべく早くリリースする

TRPGのシステムを作ると決めたら、なるべく早くリリースすべきだ。できれば目標の期限を決めてやった方が良い(私はあまり偉そうなことは言えないが)。作成期間が延びるほど未完成のまま終わる可能性が高くなる。根拠があっての数字ではないが2〜4ヶ月以内にリリースすべきだと思っている。

本人が飽きる前にリーリスせよ

一番ありがちなのが最初のリリースにたどり着く前に本人が飽きてしまうことだ。私の経験だが、友人や私の知り合いでTRPGのシステムを作り始めた人間はいたが、テストプレイができるレベルまで達したのは私だけだった。実際に作成を途中で放棄した人に理由を聞いたことはないが、「The Lunatic」でもバージョンアップ中に長期間放置したことはある(ここでいう放置したとは一通りできて落ち着いたからでは無く、作業途中で放置したということ)。その経験から挫折するポイントはいくつかあげてみる。

1つはうまく文章にできないということ。私がよく経験するのがプログラムでなら書けるのにわかりやすい文章にできないというやつだ。それからルールの矛盾を見つけてしまって手が止まる。一番多いのはデータを揃えられないだ。特に3つ目のデータを揃えられないはシステムを作っていると必ず遭遇すると思う。例えば、魔法使いのデータはできたけどバランスを取るためには戦士に後3つ、盗賊に5〜6個、特技を考えなければいけない、という感じで。

結局、そうやって手が止まった時にしばらく放置してしまうとやる気が削がれてしまう。2〜3日ほっておくと再開が億劫になるし、1週間も放置すると再開が困難になってしまうこれを何回か繰り返すとそこでシステム作成を放棄することになるのだと思う。逆にいうと、少しでも良いから毎日作業をしたていればそういうことはなくなる。継続は力だ。

他人を当てにするのは危険

データや世界設定を作るところで他人をあてにするのはやめた方がよい。リーダーを決め、メンバーには参加するからには一定の義務があることを納得してもらい、タスクとスケジュールを明確にして、進捗をきちんと管理して進められる場合はこの限りでは無い。そうで無いなら失敗する可能性が高いと思う。

大体、誰でもおもしろそうなデータや設定の幾つかは思いつける。しかし、先にも書いた通りデータ数を揃えるというのはけっこうシンドイ作業だ。自分がやっていても手が止まることがある。他人ならなおさらだ。その時、作業を任せた人にいつまでにこれだけのものを作ってくる様にしっかりと言えるだろうか。報酬を支払うわけでもないのだから無理は言えないのではないか。他人に任せて、その人の作業を待っている間に自分の手も止まり、挙げ句の果てにシステム作成自体が未完成になってしまう。

小さくリリースして早くテスト、それから拡張

システムをリリースできればテストプレイができる。そうするとプレイヤーからのフィードバックは得られるし、不足部分や修正した方が良い部分が明らかになったり、新しいアイデアが生まれたりする。これはシステムを作成する上でモチベーションを高めるのに非常に効果がある。そのためには最初のリリースはルールは基本的な部分に注力し、データ類はプレイ可能な最低限で済ませ、基本的なルールが落ち着き、データのフォーマットが定まってきたところで拡張に移るという方向で進めるのは有効だ。

私の「The Lunatic」を例にどういう感じかを具体的に示してみる。最初のリリースではキャラクター作成、行為判定、戦闘イベント、回復イベント、技能の説明、経験値と成長のルールくらいしか要らない。この中でもルール運用の例は書いてなくても良いし、キャラクター作成ではプロフィール作成は適当に決めてくださいで十分だし、技能の具体的な運用に関するルールの大半は無くても良い。データも基本クラスだと武人、無頼、魔術師だけでよく、専門クラスもそれぞれの基本クラス向けに1〜2種類ずつあれば良い。武器のサイズと種別でしか分類がないのでデータは現状とそう変わらないが、呪文は用意した専門クラスのものしか要らない。特技や才能は今のデータの1/5くらい、特に初期作成のキャラクターが取りそうなものだけで良い。モンスターはシナリオに登場するものだけで良い。世界設定は要らない。という感じだ。多分、現行の1/5〜1/4のサイズになる。

この程度で始めて、ルールがある程度落ち着いたところで特定状況のルールの追加なり、技能の具体的な運用に関する記述の追加なり、データを増やすなりの作業に入る。本書ではデータ構築について説明しないが、データの増減はルールにほとんど影響を与えない。だから、ルール類がある程度落ち着いてから増やすことに問題はない。ルールの追加についても基本部分ルールが固まっていれば追加ルールの影響は多くの場合限定的だ。時間をかけて頑張っていろんなものを作ったとしても最初の頃はテストプレイの度に修正することになるのだ。小さくリリースしておけば大量のデータを修正しなくてよくなるからむしろそっちの方が良い。

テストプレイ

ルールが一通りできたらテストプレイである。プレイヤーとして参加してくれる人を集め、マスターはルールをデザインした人間がやることになるだろう。完成したばかりのルールを理解しているのは作成者だけだから自分がマスターをするしかない。テストプレイの結果はどうなるだおるか? ほとんどの場合、結構うまくいくと思う。それは本書に書いてあることを守ってきちんとしたルールを作ったから? 違う。デザイナーがマスターだからだ。多少の不備があっても臨機応変な対応ができる。だから結構うまくゆくのだ。下手をしたらルールなどまともに適用していなかった可能性すらある。

それでは駄目だ。デザイナーにとってテストプレイはシステムの改善のため、バグ探しのためにやっているのだ。キャラクター作成時にプレイヤーから指摘されたことや要望があったなら検討しなければいけない。ルールの適用時に調整したことがあったらバランスの調整が必要だろう。運用を変更したルールがあったら修正する必要がある。使わなかったルールは削除した方が良いのかもしれない。はっきり言うなら自分で自分が作ったシステムの粗探しをするくらいのつもりでやるべきだ。

最初の数回のテストプレイは基本的な判定や戦闘をはじめとする基礎的な部分のチェックを重視すべきだ。また、能力値や技能などのパラメータが妥当かを見るため網羅的にそれらを使う様なシナリオを用意すべきだ。

呪文や特技のチェックは難しい。初期作成のキャラクターからでは成長しないと低レベルから使えるいくつかしか使われないし、全てをチェックできるほどのシチュエーションを用意するのは無理だろう。これは高レベルスタートのシナリオを用意したり、プレイヤーにこの呪文や特技を使うキャラクターを作成してほしいと頼む必要がある。マスターが自分で用意したNPCに使わせて見ると言うのもある(想定外の使い方のチェックはしづらいが)。

テストプレイではルールの盲点を突いたり、極端なキャラクターを作るプレイヤー(いわゆる和マンチとかデータッキーと呼ばれるプレイヤー)を忌避すべきではない。テストプレイにおいてはこう言うプレイヤーはルールの想定外やミスを見つけてくれる有用な人物だ。彼らが見つけたルールの穴やミスはとりあえずその場ではマスター権限で対応し、正式には次回までに修正すれば良いだけだ。テストプレイはルールの確認のためにやっているのであってマスター(=デザイナー)が楽しむのは二の次だと言うのを忘れてはいけない(注:他のプレイヤーは楽しむことが第一義だろうし、それで問題ないことに要注意。だから、ルールの穴などを突かれた時にはマスター権限で対応する必要がある)。

特に問題なくプレイできる様になってきたら自分以外の誰かにマスターをやってもらい、キャラクター作成などもそれぞれのプレイヤーにルールだけを渡してやってもらいたい。大体デザイナーがマスターをやっている段階ではルール自体を口頭で説明しているはずだ。質問があったらその都度答えている。だからルール自体の記述不足や説明不足に気づきにくい。他のプレイヤーがルールブックだけを見てシナリオを作れる様になったならシステムは一定レベルに達したと思って良い。

個人の自作システムの場合ではもはやテストプレイの領域を超えているかもしれないが、一緒にプレイしたことのない人だけでプレイしてもらい、その感想をもらえると理想的だ。これで問題なくプレイできる様ならかなりの完成度に達したとみなせるだろう。

ただ、これは非常に難しい。商用システムの開発なら幾らかのお礼をすると言うことでメンバーを集めることもできるかもしれない。あとがきのSpecial Thanksに名前を載せると言うことでもやってくれる人もいるかもしれない。が、こう言うのは個人で作る自作システムだと難しい。

自作システムの場合、インターネットで公開してどこかで告知する程度が精一杯なのだが、それでプレイしてくれる人などほとんどいない。作者とその友人知人とは関係ないところでプレイされたことのある個人の自作システムなど日本中で数える程しかないかもしれない。自作システムの大きなマイルストーン、目指すべき到達点の一つとした方が適当だろうか。

ルールの再検討

ルールをシステムに組み込む前に

特に細部のルールを作っているときによくある話だが、最初に思いついた方法は処理が複雑すぎることが多い。細部のルールというのは限定された状況で使うものだから前提条件や手順が多くなりがちだ。これを素直に処理しようとすると複数回の判定やパラメータ操作が必要となってしまう。

ルールを使って求めるべきなのは結果であって途中の経過ではない。だから、考えついた一番最初のルールを元に「同じ結果を求められるより単純な方法」を考える必要がある。

計算は簡単に

計算、特にセッション中にしなければならない計算は簡単にすべきだ。数個の足し算は許容できるが引き算は敬遠したいし、かけ算やわり算は可能な限り排除すべきだ(余談だが掛け算と端数切り捨て(切り上げ)の割り算なら割り算の方が許容できる)。回数は少なければ少ない程よいし、桁も小さい方がよい。小数を使うのは基本的にNGだろう(*)

特に行為判定やダメージ処理の計算はセッション中に何度もやる事になるから少しの手間の削減効果は大きい。例えば、「(基本値)+(ダイス)+(その都度変化する修正値)≧(目標値)」という判定方法は(その都度変化する修正値)を(目標値)側に移して、「(基本値)+(ダイス)≧(基本目標値)+(その都度変化する修正値)の様にすべきだ。例えば、D100で判定するのに基本的に数値を5刻みでしか使わないなら全体的に数値を1/5にしてD20にする事なども考慮した方がよい。

キャラクター作成は少々計算があっても許容できるが、これも簡単で計算が少ないに越したことはない。手間のかかるキャラクター作成はまずマスターへの負担が大きい。マスターが作るNPCの数はプレイヤー作る自分のPCの数より多いのだ。キャラクター作成のルールが少し難しい、と感じるようならポイントバイ方式からテンプレート方式に変更するとか、計算結果を表として添付しておくなどの工夫が必要だ。

(*)小数はNGと書きながら「The Lunatic」では強度というパラメータが0.5刻みだ。これは達成値比較時に同値の時に能動側勝ち(通常は受動側勝ち)にするためだが、「強度:1+」みたいな記述にするとその説明をルールでしなければならない。それよりも「強度:1.5」の方がスッキリするという判断だ。

ルールの追加

特にテストプレイをやった後とかシナリオを考えた後にルールを追加したくなることがよくある。これ自体は問題ない。いろんなシチュエーションに対応できる様にすることは基本的には良いことだ。しかし、ルールは必要最小限であるべきだ。細かいルールが多いと全体の理解が困難になる。

ルールを追加する前にはそれが既存のルールで表現できないかを検討すべきだ。既存のルールの範囲でできるならルールを増やすべきではない。ちょっと思いつかない方法なら「こういう風にも使えますよ」という例を増やすなどするのが良い。既存のルールを少し変更(というか一般化)して追加したいことを包含できるならそうすべきだ。

ルールの統合

そうはいってもルールというのはだんだん増えてくる。時々、ルール全体を見直して統合できるルールがあれば統合すべきだ。シチュエーションの差でいくつかの細かいルールがあるという場合は統合を真剣に検討する必要がある。そして、より基礎的なルールに統合できるならその様にすべきだ。

また、最初は特別な場合のルールだったのが事実上標準化してしまうこともある。そうなったらそれはより基礎的なルールに組み込んで標準としてしまうべきだ。私の「The Lunatic」の場合、連続攻撃のルールがそうだった。バージョン1の時にはオプションだったが採用しない人がいなかったのでバージョン2の時に連続攻撃を標準にした。

ルールを一般化しすぎない

上に書いたことと逆のことを言う様だが、ルールを一般化しすぎるのはよくない。いろんなところに適用できる様一般化を進めると言うのは抽象度を高めることでもある。人間は具体的なことは理解しやすいが抽象的なことは理解しにくい。やりすぎると何を言っているのかわからなくなることがある。

それから一般化のためにパラメータが多くなりすぎると言う場合もある。何かをするときにパラメータが多いと理解する上でも難しくなるし、計算も面倒になる。

この様になりそうならあえて別のルールとしておいたほうが良いこともあるのだ。この辺りは感覚的な部分が多いので実際やってみて判断するしかないが。

ルールの廃止

ほとんど使われないルールがあるなら削除すべきだ。作っている者にとっては結構やりづらいのだが、やらなければならない。先にも書いたがルールの量が増えるとルールが理解しづらくなる。重要性の低いルールのために他の部分が犠牲になるというのはダメだ。だから、これはシステムのディベロップメントにおいて必須の作業だと思ってやらなければならない。

文章の見直し

ルール自体の変更はないがそれを説明する文章の見直しと言うのもある。私の場合は曖昧さがなく正確な記述を求めるあまり文章がくどくなりがちだ。逆にわかりやすく書けるけど正確性に書けるとか曖昧さが残ると言うパターンもあると思う。こう言うのは時々見直して直してゆく必要がある。

それから、正確に書けないとか曖昧さを排除できない、やたらと複雑な文章になる、と言う場合はルール自体がうまくできていないことが多い。その場合はルール自体も見直す必要がある。

汎用システム化の罠

これはルールの整理をしているとき、特にルールを作るのが好きなタイプの人(私はその類いだ)なんかにありがちな注意点だ。

汎用システムというやつはルールのコア部分と一般的なデータを切り出して、その他の部分を追加できるようにしたものといえる。ということはどんなシステムであれ汎用システムとしての構成要素は備えているわけで、自作のシステムを汎用化していろんなシステムのベースにできるんじゃないか、と思い始めることがある。

だが、これはやらない方が良い。汎用化するために本来重視していなかった部分を強化したり、本来考えていなかった機能を追加する必要が出てくることはよくある。それ自体はルールを追加したりして対応できるだろうが、理解しづらく扱いづらいものになる可能性が高い。下手をすると部分部分で矛盾して全体として破堤することも十分あり得る。

どうしても汎用システムとして作りたいならコンセプトから見直す必要がある。

これは完全な余談だが、私は汎用システムを「基盤としての汎用システム」と「ライブラリとしての汎用システム」に分けて考えている。具体例を示すと「GURPS」は「基盤としての汎用システム」で「BRP」は「ライブラリとしての汎用システム」だ。

違いはそのシステムが提供するものだけでプレイ可能かどうかだ。「GURPS」は「GURPSベーシック」だけでもプレイ可能なだけの材料を持っている。「BRP」は違う。能力値の決定法、技能ベースで行為判定を行う方法、HPやMPなどのパラメータ算出と運用法は定義されている。しかしどのような技能があるかは各システムごとの定義だし、武器のダメージなどもそうだ。能力値なども基準となる構成はあるが若干の変更は可能なはずだ。だから「ルーンクエスト」や「クトゥルフの呼び声」はこれらをシステムごとに定義している。

「基盤としての汎用システム」を利用してシステムを作る場合、作る部分は少なくて済む。場合によっては汎用システムから使わない部分だけを指定すれば良い。しかし、自由にできる部分が少ないのでやりたいことを実現するためには冗長なルールにしなければならないことがある。

「ライブラリとしての汎用システム」の場合、行為判定ルールやダメージ処理など基本的な部分の動作保証がなされている、パラメータの必要項目が規定されているので咳け気しなくて良い、程度の作業軽減で、システムとする場合は汎用システムが提供する部分も含めて記述する必要がある。しかし独自に作成できる部分が多いので「基盤としての汎用システム」に比べると無駄のないシステムを作れる可能性が高い。

結局の所

TRPGのシステムのディベロップ作業で重視すべきことは次の2点だ。

  • 同じことができるならよりシンプルな方法を
  • 同じ方法でできるならもっと表現できることを。

これを念頭にルールを改善してゆけば確実に洗練された使いやすいものになってゆくはずである。

そして、コンセプトを逸脱しないこと。これは大前提だ。ものを作る上で全体の方向性を決めるものはコンセプトであり、コンセプトの実現こそが最重要であることを常に意識しておくべきだ。

最後に

最後に全体を要約して終わりとする。

『The Lunatic』