フランスの野草


 99年夏、フランス滞在中に撮った野草のギャラリーである。ただ、この渡仏は野草の写真を撮るのが本来の目的ではなかったため、野草撮影には必需品の三脚とマクロレンズは携帯できず、30-100mmズームと300mm望遠との併用ですべて手持ちで撮影したので、描写には自ずと限界があった(自分の腕の拙さはこの際棚に上げている)
 植物の同定には日本ヴォーグ社刊「完璧版 野草の写真図鑑 オールカラー英国と北西ヨーロッパのワイルドフラワー500(「完璧版」 というところがすごい^^;)を使った。しかし、この本がフランスの野草すべてをカバーしていようはずもなく、結局図鑑に載っていないものもいくつかあったし、同定に今ひとつ自信が持てないものもあった。もし、お気づきの方があれば是非お知らせいただきたい。


コモン・ホークウィード(Common Hawkweed)[キク科ヤナギタンポポ属]
Hieracium vulgatum

パリの街角の植え込みや、ちょっと土がある場所には、
この手の黄色いキク科の雑草がよく見られた。
日本で言うとノゲシが生えるような環境である。
図鑑で一番特徴が似ているものを同定の判断としたが、
コウゾリナやヤブタビラコの仲間にも似ているので、
もしかしたら間違っているかも知れない。

99.7.15 エッフェル塔を望むシャイヨ宮にて


アザミの仲間[キク科アザミ属]
Cirsium sp.

日本のアザミの種類の多さは世界一といわれるが、
こちらでも何種類かのアザミに出会った。
図鑑を調べてみたが、
この写真の特徴と一致するアザミは見つからなかった。

99.7.15 ジャヴェル駅近くの線路脇にて


デイジー(Daisy)[キク科ヒナギク属]
Bellis perennis

和名ヒナギク。
園芸種としてかなりの品種が改良されているが、
自生種は背もほとんど伸びず、
舌状花
(白い花びらの部分)も一重で素朴な感じがする。
パリの公園の芝生を歩いていると、
必ずどこかでこのデイジーが迎えてくれるだろう。

99.7.15 シャン・ド・マルス公園にて


クリーピング・ベルフラワー(Creeping Bellflower)[キキョウ科ホタルブクロ属]
Campanula rapunculoides

1m近くにもなる茎に鈴なりに花を付けていた。
ホタルブクロの仲間だが、花の感じは
むしろツリガネニンジンの仲間のソバナに似ている。
華やかなので庭にもよく植えられるらしく、
この株もどこかの庭から逃げ出したものかも知れない。

99.7.11 オステルリッツ駅近くの植物園にて


オオバコの一種[オオバコ科オオバコ属]
Plantago sp.

最初見たときはユリ科のシライトソウか何かかと思った。
よく見ると白く見えるのは長く突き出た雄しべの葯であった。
オオバコの仲間といえば、
ひたすら人の踏みつけに耐えながら生えている地味な草という印象があるが、
もし日本にもこんな華やかなオオバコがあれば、
オオバコももうちょっと注目を集めただろうに。

99.7.14 ベルサイユ宮殿にて


コモン・トードフラックス(Common Toadflax)[ゴマノハグサ科ウンラン属]
Linaria vulgaris

和名ホソバウンラン。
日本にも園芸種として持ち込まれたものが逃げ出したものが
線路沿いなどで野生化しているらしいが、
私は日本ではまだ見たことがない。
長く垂れ下がった距が特徴的。

99.7.15 ジャヴェル駅近くの線路脇にて


グレート・マレイン(Great Mullein)[ゴマノハグサ科モウズイカ属]
Verbascum thapsus

和名ビロードモウズイカ。
葉に生えた大量の毛がビロードのような感触であることによる。
日本にも帰化していて、高速道路の沿線や、
やはり機関区のような荒れ地でよく見かける。
人の背より高くなることもあり、
どこに生えても存在感のある草である。

99.7.12 ランス駅の機関区にて


ヒヨドリジョウゴの仲間[ナス科ナス属]
Solanum sp.

植物園を散策していると、柵の外の低木にぶら下がっている赤い実が目に入った。
ひと目でヒヨドリジョウゴの仲間だと分かったが、
ヒヨドリジョウゴのほぼ正円の果実に対して、
こちらはやや縦長の楕円形をしている。
右上の葉はこの草のからみつかれている木の方の葉である。

99.7.11 オステルリッツ駅近くの植物園にて


セルフヒール(Self-heal)[シソ科ウツボグサ属]
Prunella vulgaris

和名セイヨウウツボグサ。
日本のウツボグサと比べるとかなり小型で、足首ほどの高さしかない。
それはまさに日本におけるヒメオドリコソウの雰囲気にそっくりだった。
ただ、学名を見れば分かるように、こちらの方が基本種で、
日本のウツボグサの方が変種という扱いになっている。
まあ、植物の分類はどうしても西洋を中心に考えられるので
仕方がないわけだが。

99.7.12 ランスのフジタ礼拝堂前庭にて


バイパース・ビューグラス(Viper's Bugloss)[ムラサキ科シャゼンムラサキ属]
Echium vulgare

和名シベナガムラサキ。雄しべが長いことによる。
日本にもこの仲間のいくつかが園芸種として持ち込まれているらしいが、
私は園芸種には全く疎いので、
もちろんこの手の花を見るのはこれが初めてである。
こんな名前も科名も想像が付かない花と対面したときは、
何だか新種でも発見したような新鮮な感動がある。

99.7.12 ランス駅の機関区にて


グレート・バインドウィード(Great Bindweed)[ヒルガオ科ヒルガオ属]
Calystegia silvatica

ヒルガオの仲間である。
写真ではあまり分からないが、花弁にはうっすらとピンクの筋が入っている。
しかし、こちらのコヒルガオの写真と比べても、
この仲間はどこでも同じような生態を示していて、
やはりどこかに共通の遺伝子を持っているのだろう。

99.7.11 オステルリッツ駅近くの植物園にて


スカーレット・ピンパーネル(Scarlet Pimpernel)[サクラソウ科ルリハコベ属]
Anagallis arvensis

和名ルリハコベ。
青紫色で美しいルリハコベは、日本では暖かい地方の南岸にしか自生せず、
私はまだ実物を見たことがないが、
この花を見たときにその姿形からルリハコベの仲間だとすぐに気付いた。
帰って図鑑を調べてみると、
このオレンジ色のものもルリハコベそのものなのだそうである。
結局、ルリハコベとは遠い異国の地での初対面となってしまった。
なお、小笠原諸島のルリハコベはこの色のタイプらしい。

99.7.12 ランスのフジタ礼拝堂前庭にて


ワイルド・キャロット(Wild Carrot)[セリ科ニンジン属]
Daucus carota

和名ノラニンジン。
ニンジンの野生化したものといわれ、英名もそのまんまである。
フランスに来てまず最初に感じたのは、
セリ科の花の多いことだった。
空港から市街へ向かう高速道路の沿線にも
セリ科の白い花が延々と咲き連なっていた。
こちらではありふれた雑草なのだろう。

99.7.14 ベルサイユ宮殿にて


セリ科の一種[セリ科?属]

日本のセリ科植物で黄色い花を付けるものはミシマサイコ属のものだけで、
葉が単葉
(1枚の葉からなる)の独特のグループである。
しかし、写真では分かりにくいが
この草の葉は明らかに複葉なのでミシマサイコの仲間ではない。
中華の肉料理の香り付けに使われる茴香
(ういきょう)も、
黄色い花を付け葉が細かく切れ込むので、
そちらに近縁のグループなのだろう。
このグループは強烈な香りを発するものが多い。

99.7.15 ジャヴェル駅近くの線路脇にて


アカバナの一種[アカバナ科アカバナ属]
Epilobium sp

アカバナの仲間には似たものが多く、
同定の難しい種類の1つだが、
このアカバナの花はかなり大柄で、
日本にも帰化しているユウゲショウのような華やかさがあった。
根本に見える黄色の花はオトギリソウの仲間。

99.7.12 ランス駅の機関区にて


パープル・ルースストライフ(Purple Loosestrife)[ミソハギ科ミソハギ属]
Lythrum salicaria

日本にも自生しているエゾミソハギである。
しかし、最初に見たときは花付きの良さから、
別の種類かと思ったほどだ。
自由の女神のある白鳥の散歩道のセーヌ川河岸に
延々と咲いていた。

99.7.15 白鳥の散歩道にて


コモン・マロウ(Common Mallow)[アオイ科ゼニアオイ属]
Malva sylvestris

和名ゼニアオイ。
日本のゼニアオイは直立するが、
こちらのゼニアオイは地面を這うものも多いらしい。
たしかに花の形はおなじみのゼニアオイだが、
こうしてみると別の植物のように見える。

99.7.15 白鳥の散歩道にて


ヒマラヤン・バルサム(Himalayan Balsam)[ツリフネソウ科ツリフネソウ属]
Impatiens glandulifera

花の特徴からツリフネソウの仲間だとはすぐ分かったが、何ともでかい。
最初キョウチクトウかと思ったくらいである。
大きくなると3m近くにもなるという。
この写真もちょっと高い位置から見上げるように撮ったものだ。
名前からも分かるように、ヒマラヤが原産で、
ヨーロッパにも広く帰化しているのだそうだ。

99.7.11 オステルリッツ駅近くの植物園にて


ダブズ・フット・クレーンズビル(Dove's Foot Crane's-bill)
[フウロソウ科フウロソウ属]
Geranium molle

植物園を散策していて、
休憩のためにちょっと腰を下ろした石垣の横に生えていた。
はじめ花弁の形からピンク色のハコベかと思ったが、
葉っぱを見てすぐにフウロソウの仲間だと判明。
図鑑で一番特徴が似ているものを同定の判断としたが、
こちらには小型のフウロソウが何種類もあるらしく、
もしかしたら違う種類かも知れない。

99.7.11 オステルリッツ駅近くの植物園にて


ワイルド・ミニョネット(Wild Mignonette)[モクセイソウ科モクセイソウ属]
Reseda lutea

地味な花だが、日本では見慣れない花だったのですぐに目を引いた。
後で調べてみたら、モクセイソウ科という
日本には自生しない植物であることがわかった。
細かく縮れたように切れ込んだ五角形の葉が特徴的。

99.7.15 ジャヴェル駅近くの線路脇にて


ヒナゲシの仲間[ケシ科ケシ属]
Papaver sp.

一見ヒナゲシのように見えるが、
花びらは大柄でしかもしわくちゃ、
茎は小さな棘で武装している。
線路脇の草地に点々と咲いていた。
ヒナゲシの仲間のほとんどは地中海に面した南ヨーロッパが原産で、
もともと畑の雑草だったという。

99.7.17 ヴァンヴ近くの線路脇にて


パーフォレイト・セント=ジョンズワート(Perforate St.Jhon's-wort)
[オトギリソウ科オトギリソウ属]
Hypericum perforatum

和名セイヨウオトギリソウ。
日本に帰化しているコゴメバオトギリソウは
これの亜種にあたる。
ただ、図鑑によればよく枝分かれすると書かれていることから、
あるいは違う種なのかも知れない。
たんに栄養状態が悪かったせいなのかも知れないが。

99.7.12 ランス駅の機関区にて


ソープワート(Soapwort)[ナデシコ科サボンソウ属]
Saponaria officinalis

和名サボンソウ。
「サボン」とはシャボンが訛ったもので、
この草が石鹸の成分であるサポニンを含むことによる。
英名のソープワートも同じ意味である。
日本でもハーブとして庭に植えている人もいるが、
ここのサボンソウももしかしたら
どこかの花壇から逃げ出したのかも知れない。

99.7.12 ランス駅の機関区にて


グラウンドセル(Groundsel)[キク科キオン属]
Senecio vulgaris
シェパーズパース(Shepherd's-purse)[アブラナ科ナズナ属]
Capsella bursa-pastoris
ヘンビット・デッドネットル(Henbit Dead-nettle)[シソ科オドリコソウ属]
Lamium amplexicaule

ちょっとゴチャゴチャした写真で分かりにくいかも知れないが、
ここに写っているのはノボロギク
(黄花)、ナズナ(白い花)ホトケノザ(赤い花)である。
この3者が並んでいる光景って、日本の春の光景となんら変わらないではないか!
ただ、春の遅いこちらでは、この光景が7月に見られるという違いはあるけれども。

99.7.13 デファンスの舗道の植え込みにて


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