3月1日(金)
 出発当日の朝、人身事故と車両故障というダブルアクシデントによる電車の大幅な遅れのために黒川氏が集合時刻に間に合わず、当初乗る予定だったスカイライナーに乗り遅れるというハプニングがあったが、どうにか電車を乗り継いで成田空港にたどり着く。
 空港の銀行で日本円をユーロに換金する。おりしも今日3月1日は、ユーロ加盟国が通貨を全面的にユーロに切り替える日でもある。今日からはもうドイツマルクは使えない。換金されて渡されたのはインクの匂いが漂ってきそうなピン札のユーロ紙幣。明るい感じのデザインである。
 さて出国手続きを済ませ、軽い食事を摂り、いよいよ出発である。最初にヨーロッパを訪れた時には、約半日の長時間飛行がイヤに長く感じられたものだが、さすがに3回目ともなると慣れもあってか、そんなに苦にもならなくなった。もともと地理が好きな私は、座席に備え付けのディスプレイに映し出される現在の飛行位置の地図と、飛行機に取り付けられたカメラからの俯瞰映像を交互に眺めているのが結構楽しくて飽きない。
 そうそう、その地図には要所要所に主要都市名が書かれているのだが、スカンジナビア半島の付け根の部分に書かれている「セントピータースバーグ」って何だ!? ここはいつからフロリダになったんだ? と、よくよく考えてみるとなぁ〜んだ、これってサンクトペテルスブルグのことじゃないか。しかし、なんで日本で慣用的に使われている表記じゃなく、わざわざ英語読みで書かれているんだろう? これって、ドイツの都市ハンブルクのことを「ハンバーグ」と記しているようなもんだぞ。まあ、この町、つい最近まではレニングラードと呼ばれていた町だからなぁ。結局、帝政ロシア時代の元の名前に戻ったわけだが、そんなソ連崩壊の混乱の余波がこんな所にも発露しているのかも知れない(そうなのかぁ?)
 必要以外のことに金を遣わない主義(要するにしみったれ)の私は、自他共に認めるエコノミー人間なのだが、せっかちで停滞することが大嫌いな私はじっとしているということも苦手で、カネは放出しないくせに無駄なエネルギーは放出しているという、非常にバランスの取れた性格を持っている(どこが?)水をよく飲むので結構トイレに立つことが多いことも幸いしてか、とりあえずエコノミー症候群にはなることはなさそうだ、多分。

 ヨーロッパに何回か来て、空港のターミナルなどで最初に感じるのはキャンディーのような甘ったるい匂いだ。しかもかなり強烈。おそらく女性の付ける香水が混然となった匂いなんだと思うが、この匂いを嗅ぐと「ああヨーロッパに来たんだな」という気分になる。欧米人が日本の空港に着くと「醤油臭い」と感じるというが、それと似たようなものなのかもしれない。しかし待てよ、普段醤油なんて使ったこともない欧米人が、どうして「醤油臭い」なんて分かるんだ? 別に空港で大量の醤油を売っているわけでもないし、ましてや醤油の香りの香水を付けて歩く日本人なんていようはずもないのに、普段強烈な匂いを自ら発していて嗅覚が鈍ってしまった欧米人に、そんな繊細な匂いを嗅ぎ当てられるなんて考えられないんだけどなぁ……と、相変わらずどうでもいい事を掘り下げている私。

 さて、空港駅から我々の宿泊するホテルのあるフランクフルト中央駅までは電車で行かなければならない。駅のフロアに設置されている券売機でチケットを購入しようと思ったのだが、何だかボタンがいっぱいあって一体どうしたものか。ガイドブックにチケットの買い方が書かれていたのを思い出し、それを取り出してああでもない、こうでもないとやっていると、「あなた達どこまで行くの?」といきなり日本語で話しかけてくるおばさんが。「えーと、フランクフルト駅まで行きたいんですが……。」「あなた達4人? じゃあこうしてこうして……」とあっという間に操作して4人分を買ってくれた。「ラッキー!」と思いつつ、いささか忸怩たる思いも。


券売機の使い方に戸惑っている我々。
Photo by Sakamoto

 電車に乗ると、外はしっかり夜のとばりに包まれていた。空港からフランクフルト中央駅まではわずかな距離。フランクフルト中央駅はターミナル駅なので、そこには長短距離のさまざまな列車が停留している。我々のホテルは駅舎の前の道を隔てたすぐ目の前にあった。フロントに向かうと、我々が日本人だとすぐ分かったのか、「コンバンワ」と声をかけてきた。おお、日本語OKなのか、ラッキーと思いきや、そのフロントは片言の挨拶しかできないらしい。なぁ〜んだ。チェックインを済ませ、いったん荷物を部屋に置いて外に食事に出かけることに。しかし、フランクフルト中央駅周辺には、これといったレストランは見あたらない。あえて例えるなら東京駅の丸の内口を出て食い物屋を探すようなものだ。結局駅まで戻って駅構内の一画にあるテーブル席付きのショットバー風の店に入ってビールと簡単なつまみを頼む。とりあえずドイツへの無事到着を祝って乾杯! かくして1週間のドイツ旅行が始まったのである。(つづく)