2002.8.2竜王戦準々決勝
横歩取り33桂型

森内VS真田
泡踊VSソナタ形式
マシュダ談話2002.8.6



「横歩取りで真田さん33桂やりましたね」
「同日の準々決勝では最も注目される戦形。森内相手によう踏み込む」
「33角では先手の研究にはまると思っただけでは?」
「真田は勇士。ワシはこれが見たかった」
「後手34地点転回のひねり飛車に対して、名人は29手め66角ですが」
「真田が居玉で角桂飛の先攻体勢なんで玉を固めるにはこれしかない」
「右金は49から58には動かせませんね」
「58金と締まった途端に24飛車」
「先手は攻めもないですけど。名人はアクロバティックな佐藤新棋聖と違う?」
「真田がズンズン形を決めるんで淡々と受けるように見えるが隙が一切ない」
「29手めに名人は66角ですが」
「森内は87歩をすでに打っとるから一歩得した横歩取りの主張を通すには、迎撃で先攻するなら38金。受けるならこの66角、ニュートラルなら端歩をいじる。66角は真田への敬意」
「55角は?」
「55角ー46角の交換をここで挑むと先手一歩得のプラス値がおちるのでやらん」
「32手め62玉に対してなんと77玉としましたが」
「ダルマ流大股囲い。66角からの予定。その前に端を弄ったのは敵玉が動いた手と対にするため。先攻できん時は敵玉が動いた時に自玉を動かすのがセオリー。真田が32手めに53銀とすればできん」
「そこで真田さんムッチーときて33手め22角と戻りましたが?」
「手損じゃね。歩損の上に手損。これで真田の62玉は一時的に緩手に逆行転化」
「なぜ真田さんはこんなことを?」
「先手にこんなずうずうしい玉の囲い方があるはずないとまず読み始める。ここからが真田の真骨頂。これを咎めるには敵玉にダイレクトに角筋を通すしかない。すると歩が交換できる筋があり手損も解消できると結論。持ち歩がひとつ増えるならとそこで読みを打ち切り決行。ところが62玉が逆行転化手になっておったとは気がつかなかった」
「名人それで堂々と入城を?」
「堂々もなにも当然の一手」
「そこで真田さんはようやく53銀とでましたが」
「一手遅かった。森内の大股囲い成功」
「46手め84銀の局面です」
「これが22角とした時からの構想だったとすれば画期的な銀の繰り変え法」
「しかし手順前後はあったはずと?」
「いや手順前後ではなく攻防のバランス感覚の不一致。真田は剣の切れ味に耽溺しすぎ。大股囲いを素直に許した罪は大きい。素直に見れば後手の玉形が悪すぎる上に主砲の22角が埋没。そこで84銀では森内にことどとく狙いを見ぬかれる。あくまでも角筋攻めで6筋の歩を突くという狙いをね。この狙いでは84銀と62玉のバランスが悪い」
「2筋攻めの備えで名人は相変わらず右金が動かせませんが」
「ほっときゃえーの。後手も対の金が遊んどるから」
「それで余裕で78銀と囲いを完成させたと?」
「先手はこれしか手がないのに森内は大満足じゃろうね。88まで囲えばもう勝った気でおるかもしれん」
「先手は何もしていませんが」
「ところが大戦果。序盤での一歩得が残り敵の玉型は不安定。これが無手勝流」
「名人の貫禄でしょうか」
「何もせんのが貫禄では名人位が泣く。貫禄はこれから示す」
「そこで問題の48手め73桂です」
「真田の首尾一貫。森内の大股囲いを咎めに行ったはずのあの主砲22角をさらに援護射撃する零戦」
「捨て身戦法?」
「心が躍る手。真田はようここまでやるね。序盤からズンズンなにか期待させる」
「事実は名人の大股囲いに乗せられたと?」
「あの22角には先手も再度77角とした為手損ではない。銀も繰り変え名人に手を渡すべき交渉局面。それを73桂とは凄まじい。エンタープライズ相手に玉砕の魂胆」
「名人はあの茶髪にアイスピック突き刺したいとか」
「一歩損でゆっくりした展開では抑え込まれる。22角で行くしかないと決断し、真田は激しい攻めあいを選択。ここまで名人相手に大作戦繰り広げたからにはあとに引けんという気概を買うべきじゃね」
「56歩に64歩の交換」
「森内は首尾一貫の事前受け。真田は角筋狙いオンリーユー」
「いきなり85桂跳ねから77の叩きは?」
「先に森内の66歩をなんとか動かさないとまるでだめ。後手は玉頭が弱すぎて桂馬を渡せん」
「57銀に72銀」
「この交換で森内優勢直前」
「後手玉を守る手は自然ですが?」
「要の銀の動きは対の手として読む。57銀の攻防手に対して72銀はただの守り。従ってこの交換は森内得」
「かわりに65歩があった?」
「あったとしても藤井システムのような裏付けがなくては風船爆弾。この時点で真田の22角からの構想は破綻しとるね。62玉が尾を引く。やはり新機軸には居玉が最善ということがよくある」
「藤井システムのような居玉のひねり飛車?」
「真田の銀繰り替え戦法は面白いが、ひねり飛車の自陣整備計画最終段階に、こうした要銀の差がでては真田すでに指しにくい」
「46銀に71玉」
「これで森内無手勝流の作戦勝ち確定」
「68角に13角で56手めです」
「35銀から飛車を殺されるので必然手。ここで後手の主砲が動いたのであの77桂がオキャン娘となる」
「75歩の桂頭苛めに予定の83銀ですが」
「すでに処置無し。この銀あげを強いられた為後手は角交換ができん」
「36歩に24飛。36同飛とは取れないと?」
「35歩で蓋されて飛車が死ぬだけ。森内ふたつ歩をもっとるからね。横歩取りで一歩得しとるからこんな手が成立」
「なにもしないと35銀で飛車が死にますので24飛とかわしましたが」
「でたね。森内の泡踊り」
「37銀と再び引いて68の角が飛車当たり」
「泡踊り一発で決まり。これで大差」
「66手め44角と打った局面ですが」
「これで真田は戦後焼け跡へタイムスリップ。最初の角筋トンネル工事に戻る。飛車角の交換で角を22ではなく44に新たに投入して貫通計画続行」
「うまくいきますか?」
「前知事が中断した都市計画を新知事が嫌々ながら継続してもだめ。すでに後手玉は差し押さえ。後手には詰みに必要な金を取る手段が皆無」
「泡踊りに負けましたか」
「勝敗は関係ない。真田の22角からの第一展開部と44角の第二展開部の繰り換えがこの将棋の醍醐味。真田流ソナタ形式と泡踊り無手勝流の対決じゃったね。真田の将棋は魅力ある」
「泡踊りの単調リズムに破壊されましたか」

99手にて森内勝ち
「これで森内藤井中田と先手だけが勝ち星あげた日ですが?」
「森内の無手勝流は先手としての手堅い指し方が顕著。後手は角の主題に戻るまでに一工夫があれば行ける戦法」