2002.7.16 C2順位戦
橋本崇典VS平藤眞吾
急戦中飛車-36角のABA形式
鳥の巣の自己修復機能
マシュダ談話 2002.7.29up



「これがNHK杯での橋本タカノリです」
「えーカンジじゃね」
「頭に鳥でも飼っているんでしょうか」
「あれは洗髪の時効力を発揮する」
「というと?」
「こんがらがる頭が指の運動を刺激するんじゃね」
「養成ギブスでしたか」
「深浦もやられたとは」
「木村解説も凌いだ指し口でした。感想戦でも二人を圧倒しています」
「深浦はえーが木村はおかしー」
「見事な解説でしたが?」
「木村は講座の内容でも深浦をはるかに凌ぐ密度。将棋界には貴重なタレント。それにしても最近実戦内容がひどい」
「ネタのばらしすぎ?」
「講座のご褒美でウキウキしすぎ」
「先日の竜王戦決勝トーナメントで松尾さんに負けた後、また先崎さんが誘惑したとか」
「それではブタネタにされるだけ」
「朝帰りのプラットホームで木村さんは線路にも誘惑されたとか」
「敗戦の傷心は嘲笑のネタ。しゃべる方も喜んでいる証し」
「どっちもどっちと」
「どーでもえーが、木村の不調は原因がはっきりしとる」
「やはり頭ですか?」
「中身ね。自己修復機能の欠損。技術ではなく心の病。だから一生懸命やっても結果が出ないのは当然。木村の場合は書かれたものへの盲信が原因。講座やるとテクストを数カ月前に書いてそれを自分で信じ込まんと講師は勤まらんのよ。それで柔軟性、臨機応変という自己修復機能が著しく損なわれる。実戦で木村があんな重大なミスするはずない。しかも感想戦で負け惜しみの恥ずかしいこと平然としゃべっておるのはモー病気」「それを事細かに書く記者は?」「禿タカじゃね。エッカーマンの手法ならえーがあれでは芸能リポーター。病人の尻の穴までよー見せたがる。棋譜で読むのが本筋」
「どうぞ」
「サンプルは最近絶好調の橋本の棋譜でいこっ」
「今月16日の順位戦で、橋本平藤戦の急戦中飛車です。後手平藤さんの注文でゴキゲン中飛車からの展開となりました。この三日前に行なわれた王位戦第1局羽生谷川戦と24手目まで同じです」
「そこで問題の25手目か」
「22歩で先手よしと言われた順でしたが、羽生さんはあえて23角打を選択」
「えーねー」
「終局後羽生さんはあそこは22歩打でしたかと言ってますから、読みではなく意地だったと?」
「真に受けてはいかん。既知の定跡型に誘導された場合、相手の読み筋をまず外すのが第一義」
「自分の読み筋が先決ではないと?」
「羽生の頭は鳥の巣。どこまで読んでもわからん局面が中盤であるとする。その場合羽生は自分の読みを打ち切り、相手がやりそうな手順を第一に想定。羽生はあそこで22歩を打てば谷川が確実に53香と打つと読む。そこで21歩成が当然の一手と言うのが既知の結論。羽生は自分で新手を出すのは実戦で無理と判断して相手にそれを求めた」
「鈴木大介七段が二ヶ月ほど前に新説を書いています。そこで後手は攻めあい勝ちと」

「羽生にはそれが面白くない。いずれも信用するのは危険と感じるのが鳥の巣の自己修復機能」

「橋本四段は25手目22歩に再び手を戻しました」
「それで平藤は世間で後手勝ちと信じておる53香打」
「自分で選んだ戦形ですから自信があるはずですが」
「橋本はそこで21歩成ではなく36角と打った」
「いかがです?」
「えーねー。表向きは4月に久保相手にかました青野手順と酷似。こっちの角はノリが軽いから、ワシは羽生の馬作り選択がいまだに王道と思っとるけど」
「ではなにがいいと?」

「これこそが鳥の巣の自己修復機能」
「あくまで63地点狙いと?」
「これは54地点狙いを含む二段構えの角。しかもA-B-A形式。最後にAに狙いが戻るのがミソ。最初のAの狙いでは54角と切れば同香-63香成で先手勝ち」
「そこで72銀と後手は当然のごとく受けました」
「先手は21歩成」
「これも必然手と?」
「他に手がない」
「そこで後手から55銀の突撃でしたが」
「なんで後手は42銀としなかったと思う?」
「55銀で勝ちと書いてありましたから確認していたはずです」
「36角はどーすんの?」
「先に72銀と受けたので63地点はもう大丈夫とAB変化を確認したはずです」
「ここで後手に欠損していたのが鳥の巣の自己修復機能。あの角は再び54地点狙いに戻る。後手から53香車を切った時が読みの中心。そこで盲点が生じる」
「というと?」
「72銀と受けた必然手が悪手に逆行転化する詰み手順を平藤は単純に読み落とした。もともと36角の敵の自己修復機能に72銀がやらせの必然手だったと危険を察していれば、反復Aに至る裏の狙いを見抜けたはず。表の既存青野36角打ちと勘違いした」
「橋本四段はそこまでダブルで想定していたと?」
「いや。この程度の変化なら橋本は想定ではなく全部読む。指の回転がえーのよ。こういう若者に実戦で読みの量で張り合っては負け。特にこんな軽いノリの将棋は結論がコロコロ替って当然。根本的な思考法を考えた方が楽。ここでなぜ後手の鳥の巣の自己修復機能に穴があいたか考えてごらん」
「先入観?」
「いーや。思考順序を間違えただけ。 谷川は二度に渡る玉の早逃げで勝利を確実にしたが、72銀は危険と自己保存機能が知悉しとるから銀は終始不動。読みには必ず抜け穴があるが、それはむしろ自然。先天的に穴があるべきものが自己保存機能」
「人間は誰にでも穴がありますか?」
「穴がなきゃそもそもヒトは生まれてこん。最後も墓穴に行く」
「穴から始まり穴に終わると?」
「その穴の大きさが問題。あまり開きすぎるとカンジ悪いんで自己修復機能が働く」
「その自己修復機能に穴あけちゃったんですね」
「そっ。自己修復機能と自己保存機能を取り違えた」
「それがなぜ鳥の巣と?」
「鳥の巣は実は穴だらけ。ところが穴が大きいと雛が落ちる」
47手で橋本勝ち。