2002.07.04 第73期棋聖戦 第三局

角不換り腰掛け銀対居飛車穴熊
46歩はゴーダ味

対局者:郷田真隆棋聖(先手)
    佐藤康光王将(後手)
対局会場:神奈川県箱根町「箱根ホテル小涌園」
持ち時間は各4時間の一日指し切り制
立会人:関根茂九段(正) 島朗八段(副

実況 マシュダ一家




09:05 
「立ち会いは関根九段です。郷田棋聖は初手7六歩」
「こりゃ康光、穴熊やるね」
「?」
「関根立ち会いで初手が76歩ならやりたい。内藤立ち会いで初手が26歩ならやらん」
09:08 
「3/78金ですね。矢倉になるかどうかは「まだ流動的」と島八段のコメントが」
「相矢倉にはならんよ」
「角換りか横歩取りと?」
「どっちも負け筋。こりゃカド番なんで後手は居飛車穴熊をやりたい」
09:32
「6/44歩には7/25歩ですが。正体不明の戦型?」
「いーや。実に明解な戦形。先手郷田が3手目に78金とした手と25歩はこれ以上ないほど局面を硬化させる。3手目に68銀なら流動的。飛車先突かなければさらに可塑性が持続」
「うすいだけではなかったと?」
「 先入観の権化は学者タヌキと同じ」
09:58
「10/52金には11/46歩です」
「郷田はホント頑固じゃねー」
「あくまで46歩に固執ですね」
「初手以外は総ての手がガチガチ。氷の世界。小涌園のプールでかき氷か」
「何味ですかね。イチゴ味かメロン味?」
「ゴーダ味。名前からして固い」
「コーヒー風呂でゴーダ味のかき氷でしょーか。14/62銀には15/69玉」
「これで後手はいともたやすく穴熊に組める。72銀の柔軟性に対して69玉は異質」
「というと?」
「後手は守備一貫。先手は攻撃性と守備がひねくれとるね」
10:00
「16/54歩に17/58金です」
「これで後手は穴熊確定」
「陽動振り飛車もないと?」
「46歩なら最初からない。46歩は角の使い道を限定し、25歩は飛車を固定。後手は序盤で追随し受けに撤すれば後手の利が生きる」
「53銀には19/36歩ですが」
「後手も角が一方通行となりこの歩が突ける。桂はね空間確保が先手の最大の利点」
10:43
「20/85歩に約40分の長考でした」
「先手にだけ歩交換の権利を与えるわけにはいかんからね。38飛-36歩以下34の受けで飛車が下がる時に先手は3手消費。この3手で74歩-64銀-75歩が成立。77角のママでは先手それで崩壊」
「なるほど。ここで77角は必然ですね」
「これで79角からの4手角に対して77角からの3手角として手得を計る。康光はそれをゴーダ味に許したワケ」
「いいんですかね」
「穴熊に組むからえーの」
10:56
「確かに後手74歩やりましたね。37角で飛車狙われませんか?」
「それでは37への桂はねと歩交換先攻権利を放棄するのでやらん。69玉のママではどーせ戦えん」
「それでじっと77銀ですか」
「後手も安心して22玉」
「やはり先手79玉でした」
「先手の主張は3手角。それを許した康光は32金で穴熊準備」
11:34
「31/66歩ですが」
「待望の3手角が実現したんで無理はせんとゆーことじゃね」
「ここで16歩は?」
「あるね。後手は14歩とは付き合えんから」
「でも付き合わないと15角で角交換の強要されませんか?」
「そりゃゴーカン。4手もかけた角を一手角と交換するのはタコ。あくまで穴熊へ対抗する有効手としての端歩。後手は14歩とは突けん」
12:10 
「32/51一角です。消費時間は▲57分、▽1時間25分」
「これで後手も3手角で対等」
「互いに元の玉の位置に角が居ますね」
「底角じゃね」
「左右に均等に攻防に効く放射角?」
「上面にしか効かんからまーだ半人前」
12:45
「ここでの指し手は先手難しそうですね」
「いーや簡単。飛車先突いてすでに飛車は最高度の緊張カマしてるんで、次は半人前の角に攻撃性を加えるのが第一義」
「銀は?」
「この将棋を一見難解にしているのは確かに双方の右銀の位置。すべてゴーダ味の46歩から始まっとる」
「64銀はないと?」
「31銀のママでは後手の玉頭が碓井涼子でムリ。康光の53銀と51角の対抗形はゴーダ味への最強守備。56銀の腰掛け銀からの4筋攻めを牽制。ところがここで42銀は角筋が止まり先手に25歩と突かれるので問題外」
「ということは?」
「そっ。この銀は22銀となる。つまり穴熊」
「最初からそれっきゃなかったんですね」
「ゴーダ味は後手にアナ熊を許すと考えるのが自然」
「そう考えるとシンプルな局面ですか」
「そこで33手目は3種類。
1=16歩。 後手の意見を先に聞く
2=56銀。何も考えずにネル
3=26角。俺はゴーダだ」

13:25
「33/26角でした! 俺はゴーダです!」
「負けてもえーんじゃね。愛媛に行きたいんじゃろ」
「後手はアナ熊ですかね? 飛車先が止まったんで42銀もありますけど」
「それでは永遠に後手を引く。42銀-33銀の必然手の間に先に歩の交換許すだけ。矢倉の宿命」
「しかしここで12香はもっと受け身で後手を引くのでは?」
「それが最大の先入観。42銀-33銀の二手に対して12香-11玉-22銀の三手は、先手からの歩交換に対して手抜きが出きるため事実上二手と同じ価値を持つ。つまり持ち歩を確保できる」

13:43
「予想通り34/12香でアナ熊ですね。この瞬間怖いですけど。35歩とか」
「角道止まるから45歩-73角の稲妻落としやられる。そのための51角の準備。放置されてじっと11玉でも34歩-同金で味消し。53銀が受けに効いているのに47銀が立ち後れては先手の利は消滅。三筋は桂馬が跳ねるとこなので36歩はマーダいじらん」

14:30
「それでやはり35/56銀です」
「角不換り腰掛け銀」
「これがやりたいから33手目で67金はないのですね」
「角の位置が決まれば次は銀の進展。最後は桂馬を参戦させるのが先手の利。後手の11玉-22銀の
二手でこの先攻が約束される」

14:45
「36/72飛! 11玉ではないのですね」
「やはりここで先攻されると永遠に手番が回らんか。11玉-37桂馬では先に45歩で手持ちの歩で72飛に対抗」
15:06
「後手の7筋の飛車先歩交換には76歩ではなく67銀引きですが?」
「持ち歩を主張する展開。その代わり4筋攻めが緩和し一筋から行く魂胆」
「間に合いますか?」
「間に合わん」
「その根拠は?」
「双方の左銀の問題。先手は二手使って銀を守備位置に置いたが、後手は一手で守備位置に置いた違い。どちらが固いかというと後手。後手の弱点である一筋攻めに三手かかるために先後が入れ替わるので後手が先攻できるはず」
「先手が先攻すると?」
「67銀と下がれば無理」

15:20
「44/11玉と簡単に入れましたね」
「後手作戦勝ち」
「先手もアナ熊にするとか?」
「それでは二手損で先手の意味消滅」
「47/48飛までの消費時間は▲2時間2分、▽2時間24分」
「4時間将棋では序盤での時間の使い方は決定的じゃね」

15:30
「47/48飛にはじっと48/62角でした」
「後手は歩交換を果たしアナ熊で全く不満はない。一方先手は67銀と腰抜け銀としたため58金と43金の違いが露呈。後手に最初のチャンスが譲渡された展開」
「そこで先手はじわっと49/15歩」
「後手はあとは桂香の活用。ぐいっと94歩かね」
「対局室の盤面でお散歩してるハエを佐藤王将がティッシュでつぶしたそうです」
「器用じゃねー」

16:00
「50/55歩でした!」
「こりゃ凄い」
「意味は?」
「一見銀の進出阻止。裏は56歩の突き捨て狙い。同銀なら76歩の厳しい叩き。同歩なら57歩の叩き狙い。角交換から角打ち飛車切りの筋」
「こわーですねー」

16:10
「51/76歩うけちゃいました」
「こりゃ先手歩切れで後手にチャンス与えたね」
「45歩で歩の交換できますけど」
「もー角交換できんから飛車がそれで下がって永遠に後手を引くだけ」

以下59/56歩には同歩同銀でやはり後手を引き、62/強烈な86歩から35歩を後手にくらう。同歩なら同銀。45銀の突撃なら同銀-同飛-69銀打で先手崩壊。同桂なら44歩で桂馬が死ぬ。そこで33歩と叩けないが致命的。以下歩切れに泣く先手、無理攻めに継ぐ無理攻めで自滅。

「126/76歩までで即詰みです」

「ん?77歩成やっとるね。康光遊んでおるな」

「これで4回目ですが。先日手では?」

「いーや。持ち駒も同一局面4回が先日手。こりゃ後手の歩が減少しとるから、歩の数だけ何回でもできる」

「歩は9枚残っていましたから9回までできますね」

「野球やっとんのかね」

「先日手のルール勉強会でしょーか」

134手にて後手勝ち。反復部分削除。

「では一言」
「先週の竜王戦でもゴーダ味、康光相手にやってボロ負けしたのに、マータ76歩打ってボロ負けではもー46歩はえーがな」
「棋聖戦第1局も46歩で敗勢でしたものね。それでも勝てたんですから自分の将棋を貫く気では?」
「去年の羽生四間相手の棋聖戦で86角見せてもろーたがな。康光もゴーダレモン味真似して王将とったんじゃから、たまにはアズキものっけろ」
「アキズにゴーダ味では?」