2002.06.25 第73期棋聖位決定五番勝負 第二局
郷田棋聖連勝 銀の悲劇
対局者:郷田真隆棋聖(後手) 佐藤康光王将(先手)
対局会場:兵庫県洲本市の「ホテルニューアワジ」
持ち時間は各4時間の一日指し切り制
立会人:内藤國雄九段(正)、三浦弘行八段(副)

2002.06.25 実況 マシュダ一家




09:05 
「内藤國雄九段の立ち会いです。先手佐藤康光王将が少考で7六歩でした」
「内藤はこの前のNHK杯で阿部相手にようサカタ飛車やりおったね」
「阿部ちゃん負けちゃいましたけど」
「ありゃワザトじゃろ。あんな有名な先手負けの定跡手順を阿部が見逃すワーケない。横歩取らずに飛車下がる前に内藤がカラ咳一発かましたんで、ビビっちゃったんかね」
「プロ棋士もビビると定跡ド忘れするんですかね」
「終盤はメチャクチャやっとったがな。内藤はサービス旺盛でええけど、阿部はイカンね」
「エンターテインメントということで」
「若手があんな根性ではサッカーどこかアマにも到底かなわんはず」
「郷田棋聖のコメントではW杯に対抗して盛り上げようと」
「棋聖戦はマルで盛りさがっとるね」
「名人戦の影響かと」
「ハブは順位戦でいきなり谷川に負けるし、森マン根性復活せんと」

09:28 
「角換わりになりましたけど」
「なんで康光は先手で矢倉を指さんのかワカル?」
「根性?」
「将棋を楽しんでおるから」
「勝負より未知への期待と?」
「自分の将棋があとどのくらい残せるかということ」

11:18 
「19手目66歩ですが」
「早くも変化球。金を保留するなら丸山なら96歩が先」
「郷田棋聖の棒銀に控室は「おー」だそうですが」
「控え室だけサッカー並みでは自マンにならんな。棒銀もどきの挑発。郷田は自分より頭が固い男には腰が柔軟」
「棒銀やるわけないと?」
「谷川で結論でとるからやらん。康光相手なら有効な挑発」

12:40
「23手目68飛です」
「66歩からの継続手」
「一手一手に工夫が感じられるとの内藤九段のコメントです。これから激しくなるのが当たり前やなとのことですが」
「先入観というものは恐ろしー。この局面はもっと単純に考えたほうが理解しやすい。角換り将棋と考えるから難解になるだけのこと」
「というと?」
「これは先手の四間飛車で角が交換された形のヴァリアンテと考えると楽」
「谷川定跡のようにはならないと?」
「郷田が谷川のような将棋を指すはずない。康光はあの66歩でその郷田の心理を読み損ねたかもしれんね」
「対局前、郷田棋聖がキャンデーを希望し、両者のお盆に用意したら佐藤王将は「いりません」とのことでしたが」
「子供のように水飴はしゃぶらんという気概の発露。郷田はアメなめながらシメタと思ったはず」
「25手目38金です」
「これで先手が硬直。後手は柔軟に玉を固め、先手は選択肢が狭くなる」
「28手目42金直までの消費時間は▲1時間4分、▽1時間25分です」
「午前中ですでに後手作戦勝ち」
「そこまで言いきれます?」
「言いきれる。角換りの将棋と考えると難解になるだけ」
「四間飛車の戦形で考えると簡単ということでしたね」
「そっ。先手陣の最大の特徴は居玉の四間飛車。これは?」
「藤井システムですね。ただし角がすでに交換されてますけど」
「それは双方の共通概念。あくまで玉をめぐる陣形で考察する。すると藤井システムで弱点になる形が露出する」
「それは?」
「26歩。なんと第3手めに指した手が弱点に逆行転化。この歩が突いてあるために27角の打ち込みが生じ38金を強いられる。38金で飛車が硬直し6筋の歩交換狙いが不幸感を招く」
「もっとわかりやすく」
「26歩をも連動させた飛車の活用で手数が後手に確実に読まれるということ。こりゃ先手大変なことになっとるね。行かなきゃ先日手にされる」

13:26
「29手目じっと48玉でした」
「康光作戦負けを認めたよーな手じゃね」
「65歩で飛車先の歩交換はできなかったんですね」
「相手に先に歩を渡して64飛と浮いた形は玉の固さが違いすぎて先手負け。飛車交換を強要されていきなり29飛車の王手が来る」
「それでいったんは48玉ですか」
「そりゃ郷田は喜んで74歩突く。この交換で後手作戦勝ち確定」
「確かにその進行に。それでも先手65歩と突きましたが」
「郷田もっと喜んで73銀と引いて飛車先の歩交換を避ける」
「ほんとそうなっちゃってます! 棒銀ではないのですね」
「だから最初から棒銀もどき」
「これで後手作戦勝ちと?」
「明らか。これで最初の思考法に戻ると簡単」
「なるほど。先手四間飛車を強要されて玉形だけが不安定となりましたね」
「69金の形がひどい。後手は先手の変態四間飛車に対してすでに先手に不利な角交換の戦果をあげたあとの形として読むと後手有利は明解」
「そこで33手目じっと16歩ですが」
「すでに早い仕掛けが消滅。先手陣は隙だらけなので端しかない。後手は当然つきあうだけ」

14:00 
「35手目56銀行っちゃいましたけど」
「後手がじっとしてるから行くならここしかない」
「69金は動かせないと?」
「行ったり来たりの先日手ならある」
「谷川九段は、▲5六銀は積極的な指し方で、この局面でどっちがいいとは、さすがにいえませんとのことですが」
「谷川おるんかい?」
「小林九段も控え室にいるようです」
「こりゃコバケンの方が手が読めるんとちゃう?」
「といいますと?」
「立石流で早指し戦優勝した程の大家じゃから」
「四間飛車から角交換させて77銀とあがった形からのヴァリアンテとして読む方がわかりやすいということですね」
「35手めで谷川は後手の作戦勝ちを確信しとるはず」
「さすがにいえませんか」
「そりゃ後手は先日手で作戦勝ちとはいえん」
「▲5六銀は積極的な指し方なのでは?」
「そんなんマジで言ったらアマに笑われる。これは無理に動いとるだけ」
「アマに頑固に対抗するプロの意地に近い心境ですかね?」
「そっ。後手はもうなーんもせんで先手が暴れてくるトコにカウンターかます筋さえ読みゃえー」
「なるほど。36手目じっと62銀引きやりましたね。飛車先の歩の交換してみろと?」
「ここで歩を突くと桂馬まで使われ喜んで飛車交換狙われる」
「29飛車打が致命的でしたね」
「69金が浮き駒になっとるからね」

14:40 
「37手目78金でした。消費時間は▲2時間、▽2時間8分です」
「玉がどんどん薄くなる」
「佐藤王将得意のパターンでは?見たことがない局面に谷川九段、三浦八段の検討も難しそうとのことすが」
「先手から先日手打開が不可能というだけ。二人とも先日手の大家」
「でも郷田棋聖はそのタイプじゃないですよね」
「康光も違う。だからこの将棋は康光負ける。矢倉にしときゃーね」
「38手目54歩ですが」
「それでも65歩とは突けんのよ。今度は桂馬が浮き駒でやはり飛車打が致命的」
「それで飛車打にそなえてじっと39手目58玉ですか?」
「つらい手。これで手損となり先後入れ替わる。あとは後手が手番を握れる展開」
「郷田棋聖早速44銀と進出です」
「後手は素晴らしい展開。これで康光攻めあい勝てるなら手合い違い」
「すでに先手には先日手しかないと?」
「先後が入れ替わっとるからね」

16:00
「45歩と55歩で銀取り合戦です!」
「この銀は取れんよ」
「取ると?」
「先手58玉で飛車とつるんでおっては角銀歩で先手すぐに崩壊」
「それで43手目じっと67銀引きですか」
「こりゃ先手命掛けじゃね。玉がスケスケの上に手も足もでなくなっとる」
「45手目待望の69飛です」
「待望も何もまた二筋に戻して使うっきゃない。この手数をはるか前に郷田に見透かされとった」
「棒銀をじっと戻られると6筋からの逆襲は無理だったと?」
「飛車交換に耐えられる陣形ならそれもある。郷田に読まれたのは手ではなく康光の気迫の量」
「気迫に質量があると?」
「当然。ドーパミンには質量がある」
「ではここで45手までの総論を」
「これは双方の右銀をめぐる将棋。しかも先手は哀しい銀。なんでこのような悲劇的な銀となった?」
「さあ」
「角換り腰掛け銀対棒銀の先入観」
「もっと具体的に」
「後手は先日手を好むため手損はいくらでもかまわんが先手は常に有効な手を強いられる。銀は戻れるが、突いた歩は下がれん。65歩と飛車先突いたのに歩交換もできずに右銀が左に移動した形はすでに悲劇。48手目に無条件に65桂でこの歩をタダ取りされたのでは先手負け確定」

以下、55手目95歩からの先手突撃。69手目73馬より先手悪手に継ぐ悪手。84手目46桂の王手で68玉では勝ち目がない。51銀打の詰めよの形造りもできずに96手にて惨敗。

「では最後に一言」

「康光! 郷田の顔を見るな! ハブの二の舞ジャ!」