昨年森内が康光棋聖は羽生より強かったと棋戦戦後に述べた感想には実感がある。それは羽生が今日一番感じているかもしれない。
康光の構想には当家も驚くばかり。すべて実況&分析の裏をかかれた。
即ち仮想番を奪うこと。66手目には感嘆符をつけないといけない。 こんなことが世の中本当にあるのかと。
51飛では羽生も負けを覚悟したはず。当家もあまりのことに口をアングリ。投了も有り得た。直後の大ポカは77歩。85馬で一挙に仮想番を消されすべての才能は水泡に帰す。やはり決め手は44桂。
康光が故意に持将棋にしなかったことはむしろ好ましい。初戦のインパクトが余りに強烈なのでむしろ負けた方が記憶に残る。まさかのトリックから魔が差した瞬間までリアルに共有できたことが嬉しい。千両役者は康光。ここまで驚いたのは天馬効果以来。

日時：2005.06.11
棋戦：棋聖戦第1局
戦形：手損角換り腰掛け銀　奪還仮想番
先手：羽生善治四冠
後手：佐藤康光棋聖
▲７六歩 ▽３四歩 ▲２六歩 ▽３二金 ▲７八金 ▽８四歩
▲２五歩 ▽８八角成 ▲同　銀 ▽２二銀 ▲３八銀 ▽３三銀
▲４六歩 ▽７二銀 ▲４七銀 ▽６四歩 ▲６八玉 ▽６三銀
▲７七銀 ▽９四歩 ▲９六歩 ▽４二玉 ▲１六歩 ▽１四歩
▲５八金 ▽７四歩 ▲３六歩 ▽５二金 ▲５六銀 ▽５四銀
▲７九玉 ▽３一玉 ▲３七桂 ▽４四歩 ▲６六歩 ▽４三金右
▲４八飛 ▽７三桂 ▲８八玉 ▽２二玉 ▲４五歩 ▽８五桂
▲８六銀 ▽６五歩 ▲４四歩 ▽同　銀 ▲７三角 ▽８一飛
▲４五歩 ▽３三銀 ▲６五歩 ▽９五歩 ▲同　歩 ▽７五歩
▲同　銀 ▽７一飛 ▲８四角成 ▽８一飛 ▲７三馬 ▽７一飛
▲６四馬 ▽３五歩 ▲同　歩 ▽３六歩 ▲４四歩 ▽３七歩成
▲４三歩成 ▽４八と ▲３二と ▽同　玉 ▲５三馬 ▽５一飛
▲５二金 ▽同　飛 ▲同　馬 ▽７七歩 ▲８五馬 ▽７八歩成
▲９七玉 ▽９三桂 ▲８二飛 ▽４二金 ▲７四馬 ▽８五金
▲同　馬 ▽同　桂 ▲８六玉 ▽５八と ▲５三金 ▽４三金打
▲５四金 ▽同　金 ▲４三歩 ▽６八角 ▲８五玉 ▽５二角
▲７四桂 ▽４三角 ▲４四歩 ▽同　金 ▲４五歩 ▽５四金
▲４四桂 ▽２二玉 ▲３四歩 ▽８四歩 ▲同　銀 ▽８八飛
▲８六金 ▽５二歩 ▲３三歩成 ▽同　玉 ▲６三銀 ▽５七角成
▲５二桂成 ▽同　金 ▲５四銀成 ▽２五角 ▲２六歩 ▽投了
119手で先手の勝ち

終局=19時02分

羽生が示談金でカタをつけようと潔くないので康光もヘソクリからバンと出す。金などいらないと。
羽生はまたも考えている。考えているというより預貯金を数えている。
持将棋にしたら今日はもう見ない。

82飛と最初の42金は仕方ない。
次に74馬はブーハらしくない。歩が沢山あるので大駒一枚なくても持将棋成立と数えている証拠。

その場合52馬+84金という受けがある。88手目再度の42金打では85金がない。角打では龍が追えない。

74手目ついに同飛。随分ジラせていた模様。同馬は仕方ない。後手玉は詰めろでないのであとは後手から王手+詰めろで押せ押せの予定であった。
康光はナニを思ったのか76手目77歩。序盤からココに打ちたくて仕方なかったと後日告白するかもしれない。
よくある。別れ際までの思いがツノって最後の瞬間手が滑ってしまう。

見たくはなかったがやってしまった。
羽生が亭主関白と言うのは本当かもしれない。
その場合泣く女房の前に金を出すと判明した。

こんなにオイシー攻撃的な受けがあった。歩があれば52歩の跳躍駒アタリ奇数番3で先手勝ちだが2歩は反則負け。
52金では余りに重い。泣く女房を殴る行為に近い。今度こそ後手から飛車を切られて44角が王手。ここで桂があれば44桂だが例の85仮想番は昼変化の亡霊で75銀としてしまったのでとっくになかった。
羽生最後の長考で覚悟。

もしあの75歩同銀がなければ羽生は85銀で桂を先に入手できた。
代りに後手には95香の仮想番が発生。
すると37歩成が後手にとっての仮想駒アタリ奇数番3だったことになる。
43歩成は仕方ない。羽生もマサカと思ったかもしれないがここで取るだろうと。
68手目48とで飛車を取ってまたもや金アタリ。王手が先手なので清算して羽生は53馬で飛車銀取り。ところがこれはまたしても純正駒アタリ偶数番2なので逆行ナンバーを取られてしまう。

65手め44歩は羽生にしては珍しい偶数番。同銀なら同飛の飛車切り返しに53馬の王手金取りで2枚換え必勝。同金や42金引きには45桂で37歩成がカラクジ&ジリ貧。
そこで康光はブチ切れて金取り無視の37歩成で開き直った。
現役タイトルホルダーがここまで大股開きを見せるのは当家開設以来初めて。これは殴りあいではなく泣き叫ぶ女子供の心境に近い。
やはり結婚後遺症が今頃出ている。家庭の場合それで女子供が勝ってしまう場合がある。

44=悪手。これを実行すると最後は飛車切りロードが昼のボツ変化。
45=同歩は66角、同銀は同銀で55角で負け。73角か先に1歩を取るかの選択。1歩取るなら44歩しかない。41飛変化をまず潰す。
46=同銀か同金かの選択。同銀なら81-41の飛車廻りからの中空三角理論緩和。
47=打つしかない。
48=81も定番。92には84角成で先手圧勝。65歩でなく先に95歩を突いても92は無理。
49=35歩に備えて46馬の場所確保。
51=歩切れ解消で先手優勢。
52=以下暴れる康光。82角は同角同飛73角。
55=75同銀。75歩に同銀は昼のボツ変化と同じ。違いは飛車切りのみ。
56=82角成なら飛車切りから66角。
57=飛車切り回避しつつ歩をパクって桂取りの三頭手。
58=千日手狙い。
61=歩を貰ったので軽く回避。
62=現局面。今度46馬変化は75飛車切り。控え室でも同様の読み筋だった。誰でも考えることは同じと言うことは65歩以後は面白い変化がないのかもしれない。先手は歩が沢山あるので44地点攻略+24歩からの継ぎ歩攻めの二本立て。

当家ではここは73角。同馬同飛82角なら飛車を切って66角。
86歩の催促なら64角同歩にやはり飛車切り。
35歩は昼の変化。46馬と引いた場合の変化でも先手押さえ込み成功であった。ではここから回想開始。

折衷案でひねりだした仮想偶数番2。73角に飛車を逃げても64角成で1歩食われるので先逃げ。65地点で銀交換なら55角の王手桂取りなので75歩とは事情が違うだろうと。逆行奇数番1を取る古典的最善手を棋聖は嫌った。
今度は先手に1歩獲得権利が譲渡されている。
しかも純正駒アタリ奇数番3を先手が獲得できる。
羽生が86銀としたので恩を売られたと思ったのかもしれない。

これでは棋聖が負ける。前日までに棒銀も早繰り銀も飽きているので羽生は手損角換りなら負けても腰掛け銀しか考えない。
48飛とはやっぱダメかと反省した手。ここで後手が22玉なら先手も88玉のブランコ後進で手番が今度は後手に譲渡される。それを嫌って73桂としたのだから素直に数えるしかない。後手がブランコ後進で22玉なら45歩も気合いで指すと決まっている。これは勝ってくれというラブコールなので素直に受けないといけない。
85桂とは相当贅沢な回答なので後手がキチンと仮想番試算をしてあげないといけない。「どこかで切ってください」と言うのが筋。間違っても75歩から桂を活用すると威張ってはいけない。仮にここで75歩なら同歩とはならない。偶数番2にされて後手が負け。このように素直に思考を繋げる。

康光葛藤中。跳躍奇数番3を取るなら後手から73角。
この跳躍奇数番3の手法は2003.08.11竜王戦準準決勝 谷川浩司VS山崎隆之の実況&分析で当家が指摘して山崎が踏襲して勝ち将棋にした。
羽生が聞きたいのもソレ。ところが先に角を打つと羽生に作図権利が生じてしまう。基本は譲渡。

昼食後43手目86銀は仮想番権利を掌握する手法として羽生なら当然。島のように銀を下がるような将棋をタイトル戦で作るようではオシマイ。
桂を跳ねると73角が先手の権利なので二重に挽回している。
康光は長考の模様。73角前に先に飛車を逃げても73角がある。
どこで銀を交換するか。
65歩だと馬作成権利まで掌握した先手から銀交換してくる。
後手は69銀からの王手権利と角打ち後続権利で対抗。
羽生は44地点しか眼中にないのでギリギリ誘って54角で迎撃できるかをまず作図。ナナメの構図が錯綜する。

42手目に後手から65歩で仕掛けさせた場合の最終盤
▲７六歩 ▽３四歩 ▲２六歩 ▽３二金 ▲７八金 ▽８四歩
▲２五歩 ▽８八角成 ▲同　銀 ▽２二銀 ▲３八銀 ▽３三銀
▲４六歩 ▽７二銀 ▲４七銀 ▽６四歩 ▲６八玉 ▽６三銀
▲７七銀 ▽９四歩 ▲９六歩 ▽４二玉 ▲１六歩 ▽１四歩
▲５八金 ▽７四歩 ▲３六歩 ▽５二金 ▲５六銀 ▽５四銀
▲７九玉 ▽３一玉 ▲３七桂 ▽４四歩 ▲６六歩 ▽４三金右
▲４八飛 ▽７三桂 ▲８八玉 ▽２二玉 ▲６八金右 ▽６五歩
▲同　歩 ▽３五歩 ▲４七銀 ▽３六歩 ▲同　銀 ▽６五銀
▲４五歩 ▽８五桂 ▲４四歩 ▽同　銀 ▲３三歩 ▽同　銀
▲４五桂 ▽４四銀 ▲３三歩 ▽同　桂 ▲７三角 ▽８一飛
▲６四角成 ▽５四金 ▲３三桂成 ▽同　金 ▲６三馬 ▽３一飛
▲３五歩 ▽７七桂成 ▲同　桂 ▽５九銀 ▲４九飛 ▽６八銀成
▲同　金 ▽６七歩 ▲７八金 ▽６六桂 ▲３四桂 ▽同　金
▲同　歩 ▽７八桂成 ▲同　玉 ▽６六桂 ▲８八玉 ▽３四飛
▲３五桂 ▽７八金 ▲９八玉 ▽８八金打 ▲９七玉 ▽７七金
▲２三桂成 ▽同　玉 ▲２四歩 ▽同　飛 ▲３五桂 ▽１三玉
▲２三金 ▽同　飛 ▲同桂成 ▽同　玉 ▲４一馬 ▽３二金
▲２四歩 ▽１二玉 ▲２三銀 ▽１三玉 ▲１四銀成 ▽同　玉
▲３二馬 ▽投了
109手で先手の勝ち

羽生は41手めで逆に45歩で自ら仕掛けた。この7thアタックは先手負けが当家の結論。

手損角換り腰掛け銀特有の7thアタックを先手に強いる。
或いは千日手を選ぶのか羽生に聞く。この場合譲渡理論が後手に優位に機能。

悪しき慣習振り駒で挑戦者羽生先手。
タイトルホルダー達も怒らないといけない。加藤一二三の肉づき手がマッタ指しならタイトル戦の初手2手指しはなんなのか？
写真用の2手指しを甘受した棋士は過去に遡ってルール違反で処分出来るのか？
ルールバカのファリサイ派が主流になると大抵その世界は硬直して崩れる。そのうち八百長振り駒まで査察が入り、オムツ使用も厳罰処分される。そこにはピュアな人間が一人もいなくなる。これをデウスエクスホンマカイナと言う。背後にはヘラヘラ笑うナマグサイ労働者しかいない。
連盟の総会映像には羽生と加藤一二三の姿が映らなかった。なぜか？
欠席したか隅に座っていたか便所にいたかは関係ない。
この二人は棋譜が存在のすべてと言うことで共通している。
羽生が故意に腰掛け銀にしたのは明解な意思表示。これが芸の頂点だと見せつける。棋聖康光が最も望む形。
この意思は連盟の硬直路線を真っ向から否定している。