タニーとハブたんの幻想対談
第5回「絶対と相対」
2003.05.31


タニー「もし我々より強いコンピューター同士が対戦したら観戦記はどうなると思われます?」
ハブたん「マシュダ一家さんなら書けそうですね」
タニー「それこそ壮大な宇宙論が展開すると?」
ハブたん「いつものようにテレビゲームでもやるような感覚でサラリと書くんじゃないですか」
タニー「そういえば全然肩に力が入っていませんでしたか(笑い)」
ハブたん「ご職業はなどと聞く方が恥ずかしくなってしまうような(笑い)」
タニー「なんかあれはノリがヴェルディのファルスタッフみたいだって言っていた方がいましてね。自分の楽しみだけのために書かれたのがファルスタッフだったそうで」
ハブたん「ケーテン時代だと言う方もいらっしゃいますね。だから当人以外には見えないはずだと。そしてそれは人生のある時期に必ず誰にもあるものだと。人間にとって絶対的なものとはむしろそういう時間の中にしかないらしいんですね」
タニー「マシュダ一家さんはNHK杯戦をよく書いていましたね」
ハブたん「毎週放映しますし」
タニー「時間が短い将棋はタイトル戦とはまた違うわけですが」
ハブたん「マシュダ一家さんはあまりこだわっていない気が。もともと序盤に関心を集中させる傾向がありますから同じように扱っているかもしれません」
タニー「時間はもともと相対的ですしね。マシュダ一家さんはライブ実況だけでなくNHK杯戦記でも独特な雰囲気がありますね」
ハブたん「あれはすでに収録が終わっているわけです。それだけにすでに形があるモノへの言葉による再構築の仕方が浮き彫りになりますね」
タニー「私が最初に驚いたのは2001年12月16日のNHK杯戦記です」
ハブたん「対畠山戦ですか?それはかなり初期からの愛読者で(笑い)」
タニー「ハブさんの73桂馬が見どころってわざわざ書いてますでしょ。ああいうこと言える人は今までいませんでしたよね。しかもそれを縦横無尽に証明している。それもさりげない日常語でどんどん正体を暴いて行く」
ハブたん「確かに圧倒されますね。比喩がわかりやすいし将棋が生きているような錯覚を覚えるよーな」
タニー「ところがそれが錯覚でないと気がつくと背筋にぞっとするものを感じるんです。73桂馬が見どころなんて誰にも言えませんよ。マシュダ一家さんは美辞麗句とかいうものを嫌っていますよね。逆に筋が見えていなければ絶対にああいう表現にはならないはずでしょう?あれはたまたまハブさんの将棋だったわけですが」
ハブたん「あれを読んで一番ショックだったのは井上さんと畠山さんだったかもしれませんが(笑い)」
タニー「まだマシュダ一家の黎明期でしたね。まだあの頃はこんな将棋の見方もあるのかなと思われていただけでしょうが、読み方がまずかったんですね。今読み直すと、いかに計算された言葉だったのかよくわかります」
ハブたん「しかもいとも簡単に書き連ねることができるんですよね。それこそチャットをやるように次から次へと魔法の言葉が飛び出てくるんです」
タニー「躊躇がないですよね。しかも理路整然としている」
ハブたん「どの文も構築美がありますね。普通にしゃべったことをそのまま書いているようなテンポなんですが、どうしてあそこまで理路整然としているのか(笑い)」
タニー「根底に確固たるものがあってそれを下敷きに構築するから揺らぎがないはずなんです。しかもそれは信念とか自信とか言うだけのものではないですね。もっと確からしいものがあるはずなんです」
ハブたん「指し手というものは連続性の上に成立するとお考えですか?」
タニー「そう思っています」
ハブたん「マシュダ一家さんはその連続性がどのようなものかを知っているんだと思います」
タニー「将棋を生命のように考えているところがもうついて行けないんですが(笑い)。でも感覚的にはわかります」
ハブたん「マシュダ一家さんはその感覚さえも拒否しているんだと思います。曖昧さを拒絶しているんですね」
タニー「根底はハブ的であると?」
ハブたん「似ているとすればあくまで連続性がどういうものであるのかと言う考え方なんです。その根底は世界観だと思うのですがそれが似ているかというと何とも(笑い)」
タニー「そこまではハブさんにもわからないと?(笑い)」
ハブたん「マシュダ一家さんの世界観はテリトリーが広大でとても私などにはついて行けないところが」
タニー「モノカキが読んだら失語症になるとまで言われたそうですが(苦笑)」
ハブたん「ある方から聞いたんですが、彼らの言葉は彫像を彫るように作られているというんですね。それほどの集中がないとでてこない言葉だと」
タニー「ええ、ええ」
ハブたん「サイト立ちあげ時にマシュダ一家の経典という小さい項目が隅にあったんですが」
タニー「あれを読んだらめまいがしますね。それこそ頭を殴られたような」
ハブたん「ランボーの有名な詩を訳したものらしいんです。原文は定型詩らしいんですが、それを定型詩のように訳していると。ところが破格をわざと入れているらしいんですね。それも厳密に計算して一字一句音韻の末端まで吟味しているらしいんです。しかもそれをわざわざ将棋界に投射させていると」
タニー「プロですね」
ハブたん「プロ以上だって聞きましたね。プロだとどこかで妥協して脱稿するらしいんですが、その妥協が一切ないらしいんです。あの訳の解説だけで本が一冊出来るだろうと(笑い)」
タニー「般若心経みたいですね。将棋も翻訳と同じですかね」
ハブたん「私はそう考えたいですね。あるべくして盤上にあるものを一旦分解してまた組み直す作業と。そしてそれは別の形で出現するのだと」
タニー「どうやら最初のテーマに戻りましたか」
ハブたん「プラレールとレゴでしたっけ?」
タニー「うかつにプラレールなんて言えませんでした(笑い)」
ハブたん「むしろよく将棋界などに目を向けてくれたものと喜ぶべきなんでしょうが」
タニー「狭い世界でしたからねえ」
ハブたん「今度は掃除機を手にした谷川浩司でも?」
タニー「それで本一冊分書かれたらどうなるんでしょう?(笑い)」