タニーとハブたんの幻想対談
第3回「気品と真理」
2003.05.29


タニー「名人戦第2局では森内名人が玉を逃げて勝ちでしたが」
ハブたん「マシュダ一家さんもそう指すものと思っていたことを真っ先に実況していましたね」
タニー「でも名人が同角と取ったことに最大限の敬意も表していました」
ハブたん「そこが田中寅彦さん達と違う所なんでしょう。マシュダ一家さんは名人戦に対しては相当な敬意を払っていますね。控え室より正確っていうのは困りものですが(笑う)」
タニー「あの時は田中九段をさんざんコキおろして、第3局ではタブーをおかしちゃったわけです。よほど頭にきていたかと(爆笑)。でも実況をするのは自由ですよね」
ハブたん「だから関係者はマシュダ一家封じをやってきたわけです」
タニー「米長先生なんか必死でしたものね」
ハブたん「それは自分の実況よりハイレベルでは取り巻きにすがるよりないでしょうけれど(苦笑)。でも楽しそうですね。マシュダ一家さんもそうですが、もともと何もないところから始めているわけです。特にマシュダ一家さんの実況を読むとあそこまで将棋って楽しめるものだったのかって毎回驚きます(笑う)」
タニー「でもマシュダ一家実況が始まると米長先生は途端に自分の実況を控え目にしちゃうんですよね(笑い)」
ハブたん「マシュダ一家が優秀であることを認めた証しでむしろ潔いんじゃないですかね。そういう態度も立派ですね。周囲はいろいろ言いますけどやはり将棋の米長かと」
タニー「王座戦の頃までは森内名人を解説に迎えて対抗するんだって突っ張っていましたけれど、もうかなわないと思ったんでしょうか(笑い)」
ハブたん「米長先生って面と向かって敵わないとなると外堀を包囲して自分が正しいことを裏筋からジワジワ認めさせようとするお方です。王座戦の時は典型でしたね。自分を褒める人にはとことん尽くしますけど少しでも批判する人には冷酷です。裏表が激しいお方なんですが真ん中には米印ブランドしか認めさせないんですね。それだけは変わりません。マシュダ一家さんはそれさえもどうでもいいってカンジですね。人間の過去などたいしたことは無いんだって最初から見切っている凄みというか。だから永世棋聖ほどになるとマシュダ一家実況にはむしろ心の底で賛同しているはずなんです。あれがある必然で天から降ってきた言葉と感じている数少ない棋士の一人でしょうね。引用することさえおこがましいような血で書いた言葉と知っているんですよ」
タニー「うーん。突然ですけれどハブさんはタイトル戦でもラーメンよく食べられますよね」
ハブたん「それはまた突然の質問で(笑い)。ええ、佐藤さんも好きですね」
タニー「音を立ててラーメンをすするのは自分にはおいしいけれど、周囲にはどうなんでしょう?」
ハブたん「食事は個人的なことですから周囲の耳は気にしなくてよいのでは?(苦笑)」
タニー「大御所ってわざと大きな音をたてているような気がするんですよね」
ハブたん「必要以上に?」
タニー「そうですね。意地汚いところをわざと見せつけているような」
ハブたん「意地汚いとはこれはまた(大笑い)。骨までしゃぶり尽くすとか?(笑い)」
タニー「骨まで愛してって言う歌が流行ったことがありましたが」
ハブたん「知りませんでした」
タニー「骨までしゃぶってって言う歌詞なんですが」
ハブたん「サワリを歌っていただけます?」
タニー「永世棋聖だとすぐに歌うんでしょうが(笑い)」
ハブたん「谷川浩司は歌えないと(爆笑)」
タニー「羽生善治では死んでも歌えないでしょう。殺すと脅されたら私は歌うかもしれませんが」
ハブたん「私は一人でカラオケボックスでなら歌うかもしれませんけど(笑い)」
タニー「前川清さんの<そして神戸>って言う彼の最大の持ち歌がありましたけれど阪神大震災以後は禁止になりましたでしょ」
ハブたん「そういえば聞きませんね」
タニー「神戸、泣いてどうなるのって言う出だしがいきなりあのドス声で歌われたらマズイでしょうねえ」
ハブたん「(笑い)でもカラオケだったら歌えますでしょ?」
タニー「隔離室ではなんでもアリと(笑い)。それを見せることは下品か真理の追及かということなんでしょうかね」
ハブたん「気品と関係ありますかね?」
タニー「上品って言うとなんか着飾った化粧の臭いがしますけれど、気品っていうのは天からの授かり物ではないかと。勝負師にとっては二の次だと思いますけれど(苦笑)」
ハブたん「私はマシュダ一家さんの言葉はたとえ荒々しい時でも絶えず品性を保っていると感じるんです。仮に中原誠の将棋をマシュダ一家風にアレンジするとそれこそ口には出せないような言葉まですべて理路整然と陳列されてしまうような(笑い)」
タニー「それはよくわかります。気品の在り方が常識にとらわれていませんね。加藤一二三先生もそうです。何をやってもある種の信念がありそれが独自の気品を生み出していますよね。独自ですから誰にもマネができないんですけれど。マネしたらそれこそ意地汚いって思われちゃうでしょうね(笑い)」
ハブたん「意地汚いって思われる対象自体は気品とは関係ないとマシュダ一家さんは言っていますね。カップルがデート先でラーメンすすりあうのはファッションで、隣で労働者が最後の一滴まですするのが意地汚いって思うのもヘンでしょうし」
タニー「マシュダ一家を読むとそういうことも感じますね。あれほど言いたい放題書いて独特な気品があり、しかも将棋というフレームにこだわらない。だから逆に見えなかった将棋の面白い面が浮き彫りにされていますよね。次から次へと玉手箱のように凄いアイデアが飛び出てくる。それこそこちらが不眠症になるくらいに(笑い)。でも世間はマイナーな部分だけを誇張したがりますね。あれほど洗練された言葉の連続性の上に突然タコとか書かれると世間はそれだけで下品と感じるものなんですね」
ハブたん「谷川浩司が私などより愛される理由はきっとそこでしょうか(爆笑)」
タニー「私の気品は大衆的なんです(笑い)」
ハブたん「大衆的であることが将棋の宿命かもしれません」
タニー「マシュダ一家さんは商業将棋と言ってますけれど」
ハブたん「凄い表現ですね(苦笑)」
タニー「確か4つに分けていましたね」
ハブたん「ええ。芸術将棋-商業将棋-教育将棋でしたか」
タニー「あとひとつはなんでしたっけ?」
ハブたん「なんでしたっけ?」
タニー「求道将棋とか?」
ハブたん「棋道を確立しろとは言っていますね」
タニー「将棋道と言わないところがいいですね」
(続く)