性の誕生 2002.2.28up


窒素、炭素、水素、酸素のような無機物が有機化合物になる実験はもう半世紀も前から行なわれていたんですね」

「密閉したガラス容器内にガスを入れ、放電を繰り返すと有機化合物ができる」

「将棋のように閉じた世界での実験と同じですか?」

「同じ。コンピューターがまだ人間に敵わない点はこの放電効果」

「放電効果?」

「人間で言えばインスピレーション。羽生終盤術はこの序盤からのインスピレーションが関与しなければ子供だまし。だからマジックと呼ばれる。本物の羽生黒魔術はもっと用意周到。将棋の創世記とも言うべき序盤でインスピレーションがなければ、中盤の生命誕生さえない」

「では続きを」

「4つの塩基全てがこの放電効果で作られる。だが、生命の始まりともいうべきRNAのような複雑な分子になぜなったのかがわからない。ブラックスモーカーという海底の煙突付近で有機化合物の生成の仕組みが確認されているが、それがなぜ複雑な構造に相転化するか不明。RNAに含まれるリン酸の起源さえも不明」

「だから、最初の生命は隕石で宇宙から飛来したという説も未だに有力となっているのでしたね」

「そこで古風な創世記をつくってみよう」

「はい」


最初にU字形の雲があった

一方は閉じているが、一方は開いている

雲に稲妻が走った

稲妻は太陽を生んだ

そして46億年前に地球は誕生

滾ぎるマグマ

地上を覆う大気

原始の大気に4人の女神がいた

「いきなり女神ですか?」

「一酸化炭素、水、ホルムアルデヒド、シアン化水素のこと」

「ちょっと色気ないですね」

「飛角銀桂でどうだ?」

「色気あります!」

そして雨

2億年も降り続けた雨

「ここで物語は始まる」

「お願いします」

手がある3つの玉がありました

ウラシル、リボース、リンです

玉たちは手を取り合い遊んでいるうちに

つながってヌクレオスになりました

3つの玉だったヌクレオスはひとりぼっち

そこで放浪の旅にでかけましたがどこにも友達はいません

今日も誰にも会えません

一億年の孤独

ある日いつものように漂っていると

暗い穴に魅力的な石がありました

ヌクレオスは石に引き寄せられ穴に入ると

自分の体がリナという蛇に姿を変えていました

「また変身ですか?」

「黄鉄鉱のプラスエネルギーでヌクレチドのマイナスイオンが動いてRNAに変化した」

「それが最初の生命ですかね?」

「リナには進化のダイナミックな動きがある。ここまで出来るとあとは必然的進化の生成。生命になるのはこれからだ。生命の三大条件が必要」

「生命の三大条件?」

1/自分の肉体を外界と隔てるタンパク質などの皮をもつこと

2/自己複製すること

3/エネルギー変換を行うこと

「将棋に例えると?」

1/玉の固さ

2/駒の損得

3/駒の働き

「そして手番を握ってリナちゃんがいよいよ生命体に変身するときですね」

たまたま穴の中に脂の玉が入ってきたので

リナはそこに入り込んでみました

すると脂に包まれたリナ

大きな玉になって海を泳ぎ回ることができました

海は玉だらけです

でもリナには外界がみえないので

自分だけがそこにいるものだと思いました

やがて玉の中にいるのがむずがゆくなり

ついに身動きがとれなくなってしまいました

身をもがいているうちに

リナの体はバラバラになってしまいました

ところが体は再びくっついてしまったのです

しかもリナはふたつ出来てしまいました

「自己複製ですね」

最初のリナは、あとから生まれたリナダイナという名前をつけました

「ダイナ?」

「DNAのことだ」

ある日リナダイナに命じ

アミーノという材料をつないで

タンパクという首飾りをつくらせました

ダイナがせっせと首飾りを作っている間にリナはお昼寝ばかり

もともとダイナリナとウリふたつです

リナが起きたときに

ダイナは自分がリナだと言い張りました

ダイナはやがてリナをどれいにしました

そして逆にリナに命じて首飾りを沢山つくらせました

「かなり複雑な話ですね」

RNAが最初にできたんだが、DNAができたあとに機能が逆転している。DNAの遺伝子情報はマスターとなって、それを元にRNAが逆転写酵素でコピーをつくるようになった」

「首飾りですね」

ダイナリナがせっせと首飾りをつくることに満足していた。それでダイナワールドができてしまった。こうなるとひとつの自営業ダイナ社長は、リナ社員に命じてアミノ酸からタンパク質を作らせる。リナはRNAポリメラーゼという酵素を使う。リボゾームタンパク質という工場でダイナのコピーがどんどんつくられる。ところがどれも売れ残り商品。やがて材料のアミノ酸も尽きてしまう。栄養となる化学物質のかわりに今度は太陽の光をエネルギーにする葉緑体が生まれる」

「光合成ですね」

「そこでダイナ社長は安心して昼寝をするための社長室をつくる。原核生物はこうして真核生物となった。はたからみれば、ダイナは社長室という核に収納されて隔離。おかげで、ミトコンドリアという全く違う遺伝情報をもつ生命体が会社に寄生した。こうした小さな会社が合弁して互いの遺伝子を融合。その方向はふたつ。

1/グループ企業の顔をもつ多細胞

2/ひとつの組織で効率よく仕事しようとする単細胞

だがエネルギーが不足して賃金が支払えなくなるほどの不況が訪れると、環境にあわせていずれも変身をせまられる。ところがグループでもインディペンデントでも遺伝子情報交換はあいかわらずの旧式のリナちゃん方式。秘書のリナちゃんはとじこもったダイナ社長の言うことをせっせとばかみたいに丸写しするだけ

「どこにでもありそうな話しですね」

「そこでダイナ社長は会社が傾いたことにようやく気がつく。ついにリナちゃんを解雇し、会社の隅で昼寝していたミトちゃんを急遽ピンチヒッターに抜擢する」

「将棋盤の隅で昼寝していた香車を使うようなもんですか」

「ダイナ社長はミトちゃんから全く新しいインスピレーションを得て、会社組織そのものをあっと言う間に変革してしまった」

「藤井システムみたいですね。生命と会社組織は似てますか?」

「同じ。どっちも生命の仕組みの中で向上性を持っている。将棋も人間が指せば生命の仕組みと同じ」

「ではまた本題へ」

「いままでの会社が男とすれば今度は女。ところが周囲の会社はいまだに男。そこで別の会社とオマンコしてしまった。するとなんといまままでより、周辺のエネルギーを取り込む効率が格段とよくなり、社員にもたんまりボーナスが支払えるようになった。こうして男と女の性質をもつ分業体勢でオマンコしているうちに体がどんどんでっかくなって、有性生殖を行なう生物となった

「男と女が進化には必要だったんですね」

「お互いに性質が違う個体だと、エネルギーを効率よく吸収する方法がそれぞれ違う。その方法を記録した遺伝子をお互いが交換することで、次の世代がより生き延びやすくなる。最初の真核生物は、剥き出しのペニスとヴァギナが同じ袋に収まったような形をしている」

「人間の男女が互いの剥き出しのオマンコとチンチンくっつけたり、しゃぶりたがるのは、そうした過去があるからですか?」

「しゃぶるのは消毒効果。それも遺伝子がもっている知恵。なんせ人間が登場するまでいろいろあった。あとは狂言で締めくくろう」


海ができたころ

ウラシル=核酸塩基、リボース=糖、リン酸、ヌクレオチドがあった

35億年前に細菌出現

32億年も海は沈黙

6億年前に地球は凍りつき

1億年も全てが氷河に覆われた

やがて氷は溶けて浮かぶ大陸

恐竜出現

2億5千年前に地表で爆発する火山

塵やガスで覆われた空

6500万年前に巨大隕石が衝突

500万年前に猿人たちが登場

そこから人類の祖先さがし

俺はもううんざり

1987年のネイチャー

人類祖先は15万年前のアフリカにいたミトコンドリア・イヴと発表

みんなびっくり

ところが2001年には別の説

6万年前の人骨が今度はアジアにルーツをもつらしい

人類祖先の上塗りごっこ

その大元になるのは昔ながらの残骸探し

偽物の石器や骨、遺物を埋めた考古学者?

シュリーマンでさえそうだった

なんとか原人の発見?

1987年にはミトコンドリアの遺伝子解析を行なって結論

今ではヒトゲノム解析で全然違った答え

今度は日の当たらなかった生物学者の出番

人の病気というマイナスの世界でしか実績を積めなかった人々が表舞台に?

なに言い出すかほんとわかんないって?

断定口調が怪しい?

一万年の誤差も適当にし

一日の成果発表のズレに一喜一憂している人種がオマエ

「また門前にウンコされましたよ」

「ほっとけ。あの犬は来世でお前になる有り難い犬」


2002.2.28up