自己抑制機能と自己修復機能 2002.2.24UP
「言葉は生きているね?」
「はい、人を生かすも殺すも言葉です」
「今は5人に1人がガンで死ぬ時代。では言葉のガンとはなんだ?」
「忌み言葉ですか?」
「曖昧だね。言葉のガンとは発癌言語でできる良性腫瘍言語と悪性腫瘍言語」
「どういう意味でしょう?」
「先頃事件があった第26期棋聖戦七番勝負の第5局を例にとってみよう」
「2月21日の洞爺湖温泉/万世閣での王立誠棋聖と柳時熏七段決戦ですね」
「王立誠棋聖が負けていた碁が悪性腫瘍言語で逆転勝ちした」
「どちらが悪かったんですかね」
「柳時熏七段はポケットに手をいれながら対局室に入室するほどの確信犯。それが棋士のキャラ。キャラであるうちは良性腫瘍言語と呼ぶ。従って柳時熏七段の挑発的な態度は有効。柳時熏七段は待ったを思わせる手付を王立誠棋聖に見せた。この肉づき手も良性腫瘍言語と呼ぶ。王立誠棋聖は待った疑惑に関してそこでは何もいわなかった」
「そして問題の局面ですね」
「そう。勝負があったので二人は暗黙の了解で手続き的なダメつめを開始する。これはテレビカメラがその様子を全て捉えた。誰がみても終局の暗黙の了解は成立している手つき。そしてハプニングが発生する」
「柳時熏七段がアタリをつがなかったんですね」
「そこで王立誠棋聖は突然手を止め立会人を呼んだ」
「対局がまだ続いていることを確認する為でしたね」
「規定に従い終局の合意はなかったとの裁定が一時間の協議で下され、対局は続くことになった。王立誠棋聖は立会人に指しても良いですねと促し、すぐに6子を取り上げ大逆転。柳時熏七段は秒読みの最中、断腸の思いで立会人に待った疑惑について訊ねるが、対局はすでに続行している。そして最後の秒を読まれ柳時熏七段は投了」
「残酷な場面でした」
「なぜ残酷だと思う?」
「内容で勝っていたのに、囲碁の能力以外で負けたのですから」
「柳時熏七段はアタリをつがなかったために負けた。棋譜だけ見ればポカ」
「柳時熏七段はすでに終局していたからと信じていたのですね」
「終局の合意は言葉の問題。合意を言ったか言わなかったかは水掛け論。そこで俺ならこう考える。王立誠棋聖が立会人を呼んだ時、彼の良性腫瘍言語は悪性腫瘍言語になったとね。だから彼はそれを立会人にあえて弁明した。最初の待った疑惑は良性腫瘍言語。次にアタリをつがないという行為が悪性腫瘍言語を誘発した。悪性になれば誰でも医者を呼ぶ。王立誠棋聖は囲碁というメカニカルな勝負より自己保存機能をまず優先したということ。王立誠棋聖は自己抑制機能の健全な作用で立会人を呼んだだけ」
「自己抑制機能?」
「自分が間違った思考回路を増やさないように抑制する機能」
「間違った思考回路とは?」
「発癌言語が巣くった思考。これが良性腫瘍言語のうちはまだいい。自己抑制機能によって自己認識機能は守られている。彼らが嘘をつくのは自己認識機能を守る為。過ちを認めると自己が破壊される。そこで自己抑制機能で知らぬ存ぜぬを貫く」
「政治家や企業が組織を守るために嘘を貫くのと同じですね」
「誰でも自分が自分であること、つまりアイデンティティーを守るために嘘を方便とする機能がある」
「同一化現象?」
「それを守るのが自己抑制機能」
「もしそれを拒んで嘘をつくのを拒否したらどうなりますかね?」
「自己抑制機能が破壊されると、ヒステリー症状となり、さらに悪性腫瘍言語が転換して発狂するまでに至る」
「発狂するんですか?」
「ごく一部の人間がそこまでに至る。誰でも人は発癌言語が巣くった思考を持っているが、危険な状態になるまでに自己修復機能で発狂するまでに至らない」
「自己修復機能?」
「自己保存機能の転写を正しいものに修復する機能。だが一万語に一語の割合で、発癌言語がもとの意味でないまま引き継がれてしまう。これが集積して悪性言語が別の体系をつくると、発狂してしまう。発狂直前に俺は嘘をつきたくないと自己を貫くと自殺する。日本特有の切腹はその死に社会が名誉を与える文化」
「悪性言語が別の体系で極悪人には成り得ませんか?」
「成り得る。通常は肥大化した悪性言語によって自己認識機能が完全に破壊されてしまうから人間ではなくなる。ところがU認識機能によって、この体系がもっと肥大化すると、なんと第二の自己認識機能が発生する」
「別の自己認識機能が新しく発生するんですか?」
「それが悪魔や鬼と古来呼び称されてきたものの正体。破壊されて断片化したかつての自己認識機能が、悪性言語によって別のものに組み替えられてしまう」
「ガンの成長と同じプロセス?」
「同じ。だが決定的な違いがある」
「悪性腫瘍と悪性言語の決定的な違い?」
「悪性言語は殺人言語となって他人を殺すようになる」
「それが忌み言葉と?」
「そう。将棋で言えば大悪魔手。棋理という理性とは相反する符号」
「どうして発癌言語が殺人言語に進化してしまったのですか?」
「民衆が忌み言葉を口にするようになり、その言葉に栄養を与えたから。そうなるように殺人言語は最初はさわやかな言葉を装う」
「最後に勝てば官軍と?」
「そう。子供でも員数に含めてね。それで第二の自己認識機能は正常な状態を装える」
「今はどういうものが忌み言葉なんでしょう?」
「本当の意味での忌み言葉は神を罵る言葉。故人の魂を利用して自己弁護する程度なら、同類相哀れむで済む。彼らは同じ眷属だったとね。自分を生かすための方便となるだけ」
「卑近な例では?」
「低レベルの罵声言葉を借りに忌み言葉として考えてみよう。最近テレビではコノヤローとかバカヤローという言葉が頻繁にでてくるようになった」
「切れるってやつですね」
「ところがこういう罵声言葉が市民権を得ると、それを使うのに躊躇がなくなり、まるで合いの手のように使用されるようになってしまう。ヤバイという言葉もそう。これは繋ぎ言語に転化している。こうした言葉に見えない血管がつながって栄養が与えられると、だんだん肥大化し、やがて本来の意味が機能しなくなり一旦麻痺状態となる」
「自己抑制機能がきかなくなってしまうんですね」
「自己抑制機能は自己認識機能の合一性を保持するための監査役。人体だとガン細胞の種類は100種類ほど発見されているが、これはもともと細胞に内蔵されていたもの。正常細胞が転写に失敗して変異すると癌細胞になる。ところが癌細胞自体にも自己抑制機能があることがわかった。癌細胞は独裁政権で、他の癌細胞の分裂を阻止している」
「最初の癌細胞が他の癌細胞にバカヤローって言ってるんですね」
「実際は同類がさわやかに談合し密かに行なっている。そうすることによって自分達の領域に他の癌細胞を進入させない。ところが、手術でその第一の癌細胞が除去されると、第一の癌細胞の自己抑制機能までも失い、近くに潜んでいた第二の癌細胞が一挙に増殖してしまう。だから悪性腫瘍の手術をすると、他のところに急速に癌が発生してしまうことが多い」
「まるでやくざの抗争ですね」
「銀行も同じ。小さな銀行つぶして大きな銀行だけが残る手法が露出した。罵声言語も実はそう。バカヤローと言うことによって、相手を威嚇する。プロの世界にアマが口だしするなと縄張りを強調してね。ところがこのような威嚇には整合性がない。あるのは既得権の大きな縄張りだけ」
「もし威嚇に整合性があったとしたらどうなります」
「もっと大きなバカヤローが別の所に発生して、今度は手に追えなくなってしまう」
「良性バカヤローが、悪性バカヤローになってしまうんですね」
「良性バカヤローはそのままだったら、栄養を補給されずに分裂を停止し、人体社会では無視されるだけだった。柳時熏七段の待った疑惑と同じ程度にね。しかし悪性バカヤローとなるとヤバイ」
「ヤバイという言葉も悪性言語だったんですよね」
「ところが今では学校の先生どころか将棋界の名人でもNHKで使う。これを悪性言語の逆行転化と呼ぶ」
「肉体の一部になって肥大化したと?」
「逆行転化の場合は肥大化ではなく、同一化と呼ぶ。問題はそういう言葉が早々に除去すべきガンであるかの見極め。見極めができる名医が一般では知者と呼ばれる」
「その言葉が肥大化して社会が崩壊するきっかけとなれば、ガンだったということですね」
「崩壊するまでわからない者は愚者と呼ばれてきた」
「でもどうやったら見極めができるのですか?」
「人間は言葉をいくつもの組み合わせで作る」
「ガンだとその元が100種類あるということですが」
「正常細胞の1.5倍の質量をもつガン細胞には、本来必要な組織以外のものが含まれている。ちぎれた染色体までゴッタ煮」
「ちぎれた染色体?」
「ウンコの形をしてる」
「気味悪そうですね。言葉では容易に見分けがつきにくそうですが」
「サンプルが豊富なら簡単。実はインターネットでさえ匿名性など存在しない。その言葉には指紋以上のものがあるから誰が誰かわかる。表層のD&I調査だけでなくてね」
2002.2.24UP