マスメシア2 招魂の儀式-同一化現象 2002.02.11up


「最近物忘れが多いようじゃね」

「漢字も忘れまして」

「過去の自分は覚えとる?」

「どうも過去の自分との会話も成立しないような気が」

「仮面ライダー知っとる?」

「勉強不足なもので」

「仮面ライダーはヘンシーンと言って強くなる」

「思い出しました。屋敷が夢中です」

「勝負好きはみーんな好きらしー。しかし彼は変身前の自分と変身後の自分で会話をすることがない」

「どうしてですかね」

「変身後は昆虫。人間と昆虫では会話ができん」

「はあ。それで私がセミと」

「セミならまだええがな。ワシは脱殻と言っとるの」

「静かでいいじゃないですか」

「ウルトラマンは知っとる?」

「ハヤタ隊員はペンシルを天にかざすとウルトラマンになるそうですが」

「なんであんなものリバイバルしとるの?」

「勝ち負けがはっきりしてますから。怪獣退治でスカっとするのでは?」

「それだけだと思っとるの?」

「ノスタルジーとか?」

「そりゃ勝浦レベルじゃがな」

「わかりません。ヒント下さい」

「ハヤタ隊員はゴージャスな一本を天にかざすとウルトラマンになる」

「毛がない一本ですね」

「その一本を天にかざす」

「神様とオマンコしようということですね。それでウルトラマンコスモスになったと?」

「勝利の女神が股を開くと勝てる?」

「勝利の女神ですか。最後は運ですかね」

「勝利の女神とはフォルトゥーナのこと。ローマ時代に国家の背後にいた勝利の女神のアレゴリーをそう呼んだ。フォルトゥーナを幸運の女神と混同したのは後代」

「私が流行らせた女神とはなんだったんでしょうね」

「混同された幸福の女神のつもりで使っとったんじゃない?勝利の女神は残虐じゃよ。惜福などとは程遠い。まあ流行ったものはいつか騙して衣替えせんとね。どーせなら、女神そのまんまで、勝利の女神の正体は天照大神だったとでも言う?」

「アマテラスがですか?」

「アマテラスはサンスクリット語で民衆の広場、すなわちアマチュアのテラスという意味。オマンダラ様の中に今もデンと構えておるじゃろ」

「日本人の心のルーツはやはりインドと?」

「そりゃ日本人はカレーとラーメンが好きと言ってんのと同じ」

「インド人と中国人もびっくりですね」

「実は日本人の心のルーツなんてインドにも中国にもない。文字曼陀羅にあるのはデパートのレストランのメニュー。聖徳太子、八幡大菩薩、伝教大師、八大竜王、日蓮大菩薩、鬼子母神、ダイバーダッタ、ガンダム、セーラームーンとなんでもアリ。この文字曼陀羅の中枢はなんだか知っとる?」

「運命の神様じゃなかったと?」

「ナム・サダルマ・プンダリーカ・スートラじゃ」

「最近英語はだめなんですが」

「これもサンスクリット。中国語に転写して南無妙法蓮華経となった。それを日本人は音韻もリズムもでたらめに、なんみょーほーれんげーきょーなどとアホ丸だしで唱えてきた。ところがそのラーメンがうまくて中国を越えてしまっとる」

「カレーはどうですかね」

「まだインドにかなわん。香料が違う。日本人が英語をカタカナ読みするぐらい違う」

「でも日本人には日本のカレーの方がうまいですよ」

「そーゆーの国内では換骨奪胎と言う。サラリーマンから主婦に至るまで、カレーとラーメンなしでは日本人は生き甲斐を2割見失う。世界の霊峰に登頂した日本人は、必ず頂上アタック前にカレーとラーメンを作って食っとる。パリに行くOLも必ずラーメン食って帰る」

「外国では換骨奪胎と思ってくれるんですかね」

「ラーメンは換骨奪胎として認知。カレーはまだ。萬古亭のカレーは凄まじいが、一日10食しかつくれんのでは換骨奪胎とは言えん」

「すべての道はローマに通じるですかね」

「カレーがインドを凌ぐというのは我田引水。激辛流で護摩化しとるだけ」

「なにが根本的な原因ですか?」

「香料が欧州を席巻したように、イ ンド語族は欧州メジャー言語の根本。日本は醤油と味噌。醤油はすでに中国産を超えると欧米で認知されて久しいがまだ広く普及したとは言えん。味噌に至ってはその味が欧米人にわからん」

「どうしてですかね。あんなにうまいもの」

「あれはウンコに似ているのがまずかった。食わず嫌い 」

「カレーの類は欧米にも豊富にありますが?流通の問題では?」

「ならば醤油並に少しは普及しとる。欧米人の視覚的アレルギーは凄まじい。クジラなどの食い物に対するだけならまだマシ。彼らの最大欠陥は視覚的アレルギーが言語に対してもあること。アラビア文字や漢字を見ただけで彼らはヘドをもよおす。これが宿命的な欧米人の偏見。食わず嫌い」

「そういえば日本人はアルファベットに嫌悪を抱きませんものね」

「嫌悪を抱くどころか、横文字を喜んで使っとる。ミリオンセラーの流行歌や本の題名にはかならず英語が入っとる」

「優秀な民族ですね」

「いい加減さが理に叶った。そのおかげで脳味噌が常にかわりつつある。世代の断層も言語から生じる」

「でも味噌と醤油は子供も好きです」

「食文化で老若男女に迎合できると思っとる?」

「だめですか」

「だめ」

「ではどういう文化なら世代を超えると?」

「オマンダラ様とはそもそもなんジャ?」

「オマンコ様ですか?」

「そう。老若男女、世界に共通なのは唯一性文化。その中枢に君臨するのがオマンコ様」

「あぶなそうですね」

「それが本流。だからすべての宗教は、オマンコ様を男根神-女陰神として象徴化しておる。文字曼陀羅の中枢に君臨する南無妙法蓮華経のレンゲとはプンダリーカ、即ちオマンコ様のこと。そこにサダルマ、即ち妙法が訪れるということ」

「レンゲはオマンコだったんですか」

「そういうモノホンの表現は神に失礼なので、プンダリーカと比喩で呼ぶ」

「ずばり言えないんですか?」

「卑猥の本質はタブーの過った顕在じゃからね。雨がひどいと傘が壊れる」

「そのココロは?」

「オマンコ様そのものにはある機能が欠けておる。だから足りないという意味のMANCOになる」

「なにが足りないと?」

「アホ。だから妙法が足りん」

「アーラーヤシキとかじゃだめですかね」

「それではオカマに変身した屋敷と勘違いされる。U認識機能はオマンコ様に訪れるということ」

「心にではなく?」

「そもそもオマンコ様がなくては、魂は訪れる場所さえない」

「それは新説ですね」

「今までは、受精卵が細胞分裂を開始してから、子宮に魂が訪れると考えておった。実は精子が卵細胞に達しカルシウムイオンが卵細胞に皮膜を作る以前に、招魂の儀式は行われておる」

「その招魂の儀式とはなんですか?」

「セミの脱殻にどうやったら魂が吹きこめるかな?」

「若い娘に拾って貰って勉強机に飾ってもらおうかなと」

「それではただの昆虫標本」

「中身は言葉で読んで貰えば、その娘が見るセミの脱殻に魂が宿るかも」

「ここからは比喩。ある村の敬虔な神父が懺悔室に来た娘にせがまれた。神父は娘を女にした。女は町に出ていった。そして大声で叫んだ。あの神父は偽善者と!」

「その娘の親の顔見てみたいですね。娘と親が悪いに決まってます」

「ところが神父は村から追放されて島送りとなり、そこで独自に布教活動を始めた」

「その神父はエライ!」

「島には何も知らない善人ばかり。神父が大司教から正式に派遣されたと勘違いしておる」

「実際は追放されて布教活動とは並の神父ではできませんね。エライ神父です」

「いーや。彼にとっての献身の布教活動とは、実は懺悔行為じゃった」

「懺悔で魂を呼び戻そうと?」

「では別なバージョン。大聖堂の大祭司が教会地下の酒場で娘にせがまれた。大祭司は娘を女にした。女は失踪し大祭司は教会を守る為に死を覚悟」

「なにも死ぬことはないでしょうに。誰かに役職譲れば済むことです」

「その大祭司も人に勧められてそのようにした。大聖堂のミサは自分では執務しないが、結婚式のミサだけは担当した。そこへ失踪した娘が戻ってきおった」

「また大声で叫ぶというパターンですか」

「その娘は実はその町に来る前はある村に住んでいた」

「村の神父を島に追いやった娘と?」

「そして、その神父は島での布教活動が評価されて大聖堂の大祭司になっておった」

「やはり努力すれば報われますね」

「ところが大聖堂はすぐに異教徒に侵略され、大祭司はこんな不健全な所にいたのでは身がもたないと悟った」

「努力が報われないのではそれも立派な悟りと言えますね」

「実際は教会の地下酒場で、大祭司は異教の王子に酒をついでおった」

「実に柔軟性がある大祭司です」

「その柳腰が重宝がられ、以降異教徒の酒場の主に収まった」

「結婚式担当の元大祭司はどうなりましたか?」

「異教徒の王子は侵略しても、大聖堂は破壊せん。民衆から教会税を徴収するためにこの大祭司は冠婚葬祭用に生かしておいてピンハネした」

「賢い王子ですね」

「ところが王子はある時に気がつく。今まで民衆に権力を誇示するために、大祭司のミサを王子自ら執り行っておったが、やがてかつての大祭司と同じ運命をたどるのではないかと」

「そうなる前に誰かに役職譲って、別のとこでピンハネすりゃいいじゃないですか」

「そのようにした。大聖堂は危険地帯と悟ってね。ところが大聖堂に背を向けた時、王子は初めて気がつく。大聖堂の正面壁を見て」

「何をみたんですか?」

「男性と女性のシンボルが壁の左右にはめ込まれておった」

「それがオマンコ様との出会いと?」

「いいや。その先を見た」

「すべてを越えるなにかですね」

「いや。越えるのではなく儀式との出会い」

「それが招魂の儀式と?」

「民衆は潜在的にそれを思い、我が身に照らして涙を流し同化しようとする。それが同一化現象」

「同一化現象といいますと?」

「最初に言い始めたのはフロイト。母ちゃんのオッパイしゃぶる赤子の志向性をそう呼んだ。日本語にない言葉なんで同一化現象と訳す。日本語なら俗に甘えと呼ぶ」

「甘えですか?」

「外国語にない言葉じゃね。日本人の特性のひとつ」

「なにか深い意味があると?」

「同一化現象の涙は死んだ子供たちの血を洗い流す儀式へ通じるもの。それが全国民のレベルで行なえるのが健全な国家。この統一感情を与えたのは、なんじゃと思う?」

「民族の血ですか?」

「もっと具体的に人格化して」

「大祭司ですか?」

「大祭司も教会の正面壁も越えたもの」

「その統一感情を与えたのは、民意を反映するマスメシア?」

「そっ。ところが、マスメシアはそこ間違えた。安全神話は崩れ去ったと煽りたて、セキュリティーを強化しろと世論を煽っておる。ホームレスの撲殺死弾劾を絶対正義のカモフラーフジュにして」

「私も蝋人形館行きましょうかね」

「三島が軍隊作れと煽って人を殺し自害したの覚えておる?」

「似たような世界にいましたから」

「あーゆーの今後とことん利用される。知的犯罪者と英雄は紙一重」

「蝋人形館行けば同じでしょ」

「そう。蝋人形館では善も悪も同じ蝋。ガンジーもカミソリジャックも同じ博物館に陳列されとる」

「犠牲者の論理とは、その博物館効果のことですか?」

「アレは蝋人形館には決して訪れない。それは生きた人間にしか訪れない。真の犠牲者の論理を遂行するのが王の最大の仕事。犠牲者への言葉は、王が最初に述べなくてはならなかった。王はしかし逃げた。子供だったんじゃね」

「私にはまだ蝋人形館に行くなと」

「魂が干からびんうちに大きな仕事あるじゃろーに」

「応援プリーズ」

「そりゃ甘え。甘えに最も近い意味をもつ言葉は実はアイデンティティーかもね」

「最近英語だめなんで」

「博物館のチケット売り場で一枚プリーズとか言っとる?」

「フリーパスあるもんで」

「去る者への餞の言葉が全てを語る。たとえ阿呆の振りしてもね」


2002.02.11up