A級順位戦2002.2.7 摩修陀談2002.2.11
横歩取り
森内俊之VS森下卓
近未来将棋
「横歩取りから19/38金-21/58玉の進行です」
「うわ!森下やりおった!84飛車ジャイ!」
「26/54歩です!中原流ですか?」
「いや金が61のまんま。まだわからん」
「30/54飛車!」
「うーん!」
「34/73桂までです」
「この34手めまでの局面に森下の底無しの恐ろしさを感じる」
「森下先生は今後30年間最も強くなるのは自分だと言ったそうですが?」
「それには根拠がある。将棋は序盤が今後最も重要になるからね。森下は終盤さえ間違えなかったらタイトル幾つも奪取してた」
「コンピューターなら絶対間違わない終盤ですね」
「そこなんじゃよね。森下は人間にしか創造できない序盤から開拓を始めた棋士。羽生は終盤から逆行した棋士」
「どちらが未来の棋界に残りやすいタイプかということですね。確かに森下先生の将棋は難解ですが」
「終盤さえ間違わなければ羽生を倒して名人にもなれた最高実力者。羽生は森下の矢倉に屈したおかげで鬼のようになって森下を研究し7冠達成の強靭さを得た」
「森内八段は?」
「森内は勝負師。この34手めまでの局面が対象的じゃね」
「見たことないような戦形ですが」
「これは森下が造っている将棋。中原流同様とても他の棋士が真似できるような布陣とは思えん。2筋8筋の歩がなく、55歩で全てのバランスを取っておる。森内は一歩得でも87歩を打たされ、自陣整備を強いられただけの布陣」
「後手の方が面白いと?」
「難解極まる戦形だから面白い。しかも玉頭に狙いを定めた飛車桂歩が合理的。まだ61金なんで飛車廻りを許しても戦える」
「どういう感覚なんでしょうか?」
「森内陣はしっとり濡れた春の息吹。森下陣は最も難解な人工パズル」
「名残惜しいですが、局面動かします。35/37銀」
「芽がでてきたね」
「36/53銀」
「うーん。銀の引力か。53地点の悪魔の音程ではないね。春の息吹に唆された半獣身」
「37/46銀」
「森内はすくすく延びる芽。これは森下、新芽に誘惑されたね」
「38/44銀」
「ここで見合う銀の引力。森内のプラス銀に森下のマイナス銀。しかしここでショートし固まる。森下の銀は不自由そうでも、森内の飛車の横効き消えた分としてバランスは同じ」
「39/66歩」
「76歩を守る必然手」
「42/56同飛」
「森下当然の飛車先交換。これで互いに手持ちの歩はみっつ」
「43/69玉です!」
「ええぞ森内!」
「怖いことしますねー」
「次に55歩と蓋して飛車殺すぞという脅し。ここで森内の57地点に悪魔の音程が生じる」
「44/52飛車」
「54飛もあるね。これで57空白地点には68銀と46銀のコンビネーションで結合音が生じる」
「蓋しなくていいんですか?」
「せっかく二枚の銀で57に発生する音を消すアホおらん」
「45/16歩です」
「気持ちいい端歩。端が一番凝り固まっておったからね。これで狙いの15角出も消えた。肩もんでもらっとる気持ちじゃろーね」
「46/42角」
「これは凄い!」
「55銀はなかったと?」
「34歩突きがあるからね。先に逃げつつ64角の稲妻落とし狙い」
「47/48金」
「銀交換した時消える53地点の和音補強の為の必然手」
「48/24歩!」
「いやーこれは森下にしか指せん!」
「凄い受けですね」
「先に24歩と打たれると銀交換後23にぶち込まれるからね。これはしかもそれだけの意味じゃない。この歩によって53地点が三重和音となり森内陣の響きが濁る。これでバランスは森下の方がいいはず」
「49/77角」
「必然手ではない」
「50/23銀」
「これは森下チャンス逃したね。今53地点が三重和音のうちに8筋に攻撃の重心を移せたはず」
「51/22歩!」
「森内一瞬の隙を突く一歩犠牲の一手稼ぎ」
「52/37桂馬」
「これでバランス戻った」
「54/31玉」
「これは数手前の迷いから生じた疑問手。先に寄りたかった玉の後悔。その過去の引力でせっかくの手番を台なしに!」
「55/95角!」
「森内目ざとい。これで金を上がらせて飛車回りを消す」
「57/45桂馬!森内先生勝負ですか?」
「いや、ただ跳んだだけ。4筋に歩が効かんからタイミング次第で銀に食われる危険もある」
「58/54飛」
「次に55銀でぶつける手。今の桂跳ねで44に銀がかわせないからね」
「59/55歩」
「ここに歩を打つのでは森内つらい」
「60/52飛」
「51飛で8筋転回狙うべき。またチャンスを逸した。51角と逃げ場所を確保したかったのかね。それはしかし受け筋で別の展開」
「61/29飛車」
「森内はただ跳んだだけの桂馬が負担で手がなかったのに、これでバランス戻った」
「62/58歩」
「ここなんじゃよねー。本当は51飛車とやりたいんとちゃうかと。しかしそれでは丸々一手損じゃから、ここで一手稼ぐしかないとの判断と読む」
「64/32金-65/58金」
「これでバランスは同じで後手は序盤での一歩損だけが残った」
「でも森内陣は5筋3筋に位を張って、囲いも断然よさそうですが」
「攻めの手がない。角交換すればむしろ隙が多い」
「66/14歩」
「入玉の準備じゃね」
「67/67金」
「森内も手がない。角交換すると38に傷残すけど」
「68/86歩とついに行きました!」
「67金は森内の誘い?」
「70/85歩と最後の一歩を打ちました!」
「取れば同桂」
「71/57銀上げです!」
「森内もおかしいね。5筋なんか押さえても意味ない」
「75/88歩までです」
「こりゃあの67金は森内の見落しじゃね。この88歩ははっきりつらい受け。森内攻めるとこなくて玉が裸になっただけ」
「森下先生優勢と?」
「56銀と61金の交換は森下得で必勝体勢。恐ろしい。一瞬で形勢が傾いた」
「どう攻め込むんですか?」
「82飛車-45銀-87桂打の攻め筋。森内受ける術ない。しかも森内に手はない」
「76/33桂馬です!」
「うわ!バカタレ!」
「同桂同銀!」
「なにやってんジャイ!大逆転じゃがなー!」
「81/34桂馬!」
以下一瞬にして森下必勝の将棋をオジャンにする。 101手にて森内勝ち。歩と桂馬の交換だけで終局。
「いかがでしたか?」
「森下将棋の奥深さに身震いする。難解。実に難解。しかも二度も緩手を指して、まるで崩れない強靭さ」
「あっと言う間に逆転ですが」
「別に気にならんね。最高レベルの将棋に大満足。近未来の将棋を感じる」
摩修陀談2002.2.11